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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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under pressure

「ドオーン! 」

「よし、ど真ん中! 」


最後の伏射が始まった。ルカ先生に御飯を誘われて舞い上がった僕はもう行け行けムードで撃つ弾はことごとく的の中心を射抜いていった。僕はそんな自分の単純さに一人苦笑いをしつつ引金を絞り続けた。


「おいおい、あいつスゲーぞ! 」


場内のどこからともなくそんな声が聞こえてきて何となく客席が騒ついている。ひょっとしたら僕のことかな? でも他にも上手い奴はいるだろうしな。先生も楽しめって言ってたし余計なことは考えず的だけに集中しようっと!


「ズバーン! 」

「おお〜! 」


僕がかなりの弾数を撃ち終わった直後だった。物凄く大きな歓声が上がった。何だろう? そういえばもう何発撃ったのかな? 僕は近くにいた競技の審判にふと尋ねた。


「すみません。あと何発残ってましたっけ? 」


その審判は色が黒くがっしりした体格の中年の男だった。その審判は顔色一つ変えずに答えた。


「次がラストだ。ちなみに君は2点差でたった今1位に躍り出たところだぞ。」

「え? 」


僕は驚くとそこで初めて観客席を見回した。皆立ち上がって拍手をしている。その拍手の対象は僕なのだ! 僕はどうしていいのか分からず思わずその場に立ち尽くした。ふと観客席のルカ先生の方を見ると先生は厳しい表情で座ったまま見ているが母さんはハンカチで目頭を拭いている。観客席で拍手をしてくれている人達や母さんは僕の姿に感動しているのだろうか? ふとそんなことを考えると僕の身体に異変が起こった。人々に讃えられるということがプレッシャーとなって突然僕に襲いかかってきたのだ。


「……まずい。」


僕は咄嗟にそう思った。出だしが悪かったから自分がトップ争いをしているなんて今までちっとも考えていなかったのだ。そこには開き直りしかなく重圧とは無縁の精神状態だった。だが自分が優勝を狙える位置にいるということを知ってしまった瞬間、僕の心は押し潰されそうになっていた。顔面蒼白でゲロを吐きそうだ。


「さぁ、早く射撃に入りたまえ! 」


トップであることを教えてくれた審判が僕にそう言った。くそっ! なんでこのタイミングでそんなこと言うんだよ! 黙っててくれりゃ最後までプレッシャー無しでやれたのに! このオッサン、わざと俺を困らす為に今言いやがったな!


「ちょっと深呼吸させて下さい。」


僕はすこしムスッとしてそう言うと三回深呼吸した。だがそれでもどこか浮ついた感じが消えない! くそったれ! そう思った時だった。


「ユージーン! 」


拍手と歓声に紛れて微かにルカ先生の声が聞こえた気がしたので僕は反射的に先生の座っている観客席辺りを見た。すると先生はさっきまでの表情とは打って変わって満面の笑みを浮かべ立ち上がって僕を見つめている。


「笑顔よ、笑顔! 今の状況を楽しみなさい! 」


先生がまたそう叫ぶのが聞こえた。先生は僕をリラックスさせようとしているのだろう。僕は目を閉じると先生の言った言葉を頭の中で反芻してみた。


「……今の状況を楽しめ、か。確かにこんなピリピリする経験はしたくてもなかなか出来ないもんな。」


僕はそう呟くと審判員をチラッと見た。


「……プレッシャーを人のせいにしてもいけないな。それにここまで頑張ったんだ。結果はどうなろうとも、僕は胸を張れる筈だ! 」


またそう呟くと僕は心を突然覆った黒い雲が薄れて眩しい太陽光線が僅かだけれども差し込んできたような気がした。僕はゆっくりとライフル銃を構える。確かにさっきまでとは違って自分の心臓の鼓動が高鳴っているのが自分でもよく分かる。こういう状況を楽しめって言うんだな、ルカ先生は。


「フゥ。」


僕は静かに深呼吸を繰り返した。焦る必要はない。自分が落ち着くまでいくらでも深呼吸をすればいいのだ。すると僕はゆっくりと落ち着きを取り戻していった。よし、これならいける気がする。


「大丈夫だ、ユージーン。」


僕はそう一人言を言った。いつも通り落ち着いてルーチンを守れば弾は勝手に的を捉えてくれるのだ。僕は荒かった呼吸を時間をかけて整えると慎重に狙いを定めゆっくりと引金を絞った。


「ズドーン! 」


銃声の後競技場全体がシーンとなった。それはおそらく一瞬のことだったのだろうけど僕にはとんでもなく長く感じられた静寂だった。僕の放った銃弾は的を射抜いたのだろうか?僕はそれが気になってその静寂を破るようにライフル銃を下ろした。


「おめでとう。10点だ。君の優勝だ。」


例の審判員がそう微笑みながら静かに言った。僕はその審判員の言葉を疑うように本当に銃弾が的の真ん中を撃ち抜いたのかを自分の目で確認しようと的を凝視していたがそれより先に観客席からどよめきが起こった。どうやら観客席に向けて僕が10点を獲得したことが示されたらしい。僕はふと観客席のルカ先生の方を見た。するとあのルカ先生が目から大粒の涙を流しているではないか! 僕はそれを見てようやく自分が勝利したことを知った。


「ルカ先生! 」


僕は心の中でそう叫んでいた。今すぐにでもルカ先生のところへ行って喜びを分かち合いたかった。でもまだ競技の終わっていない下位の選手がいる。その為僕は自分がいる射撃スペースから動くことは出来なかった。僕はルカ先生に控えめに手を振る。ルカ先生も涙をハンカチで拭いながら僕に小さく手を振ってくれた。

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