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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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こら!

「ズドーン! 」

「ちっ! 」


激しい音と衝撃がライフルから伝わった直後僕は思わず舌打ちしていた。射撃競技が始まって五分、僕は三発の銃弾を発射したが最初の一発目と二発目は的に当たりもせず三発目がようやく的の端っこを砕いただけだった。


「くそっ! 」


今日の僕は集中出来ていない。ルカ先生とミールのことが頭にちらついて離れないのだ。銃を撃つ度にちょっと間合いを開けたりして落ち着こうとするがその効果は全く現れなかった。


「やった! ど真ん中だ! 十点だぜ! 」


競技者は横一線に並び五十m先の的に向けて射撃を行っているが不意にそんな声が聞こえてきた。射撃競技は立射、膝射、伏射という三通りの姿勢でそれぞれ二十発ずつ的に向かって撃ち得点を競う。的は円になっていて中心に当てると一番得点が高く十点が貰える。円の外側に行くに従って点数は低くなっていきさっきのような的の端っこだと一点しか貰えない。くそっ! 僕は焦った。


「ズドーン! 」

「くそったれ! 」


次に放った銃弾は的の四分の一を砕いただけだった。あれならいいところ四点か五点だろう。僕はイライラして思わずライフル銃を地面に叩きつけようとしてしまいかけた。こんなことでは上位入賞なんてとても無理だ。僕がそう思ったその時だった。


「こら! ユージーン! 今日は集中出来ていないわね! ちゃんとしなさい! 」


背後の客席の方からそう怒声がはっきりと聞こえた。ルカ先生の声だ! 僕はすぐに声の方を見た。するとルカ先生が鬼の形相で腕を胸の前で組み仁王立ちになっているのが見えた。観客席は一瞬静まり返った。


「深呼吸三回! 落ち着きなさい! そして的だけに集中しなさい! 」


先生はまたそう怒鳴った。母さんがその横で心配そうに僕を見つめている。僕は二人を見つめたまま次の銃弾を装填した。「ガチャッ! 」という音が響く。僕は小さな声で呟いた。


「……ルカ先生。」


昔はあれだけ嫌だった怒っている時のルカ先生の顔。それさえも今は何故か物凄く愛おしく思える。僕はこの時ようやく気がついた。僕はやはりルカ先生のことが大好きなのだ。キスをしたミールではなく僕にとっての一番好きなひとはルカ先生なのだ。


「おーい! 大勢の前で怒られて格好悪いぞ! お前! 」


観客の中の誰かがそう茶化して野次を飛ばした。場内に失笑が溢れる。母さんは恥ずかしそうにしているけれどルカ先生は全く気にする様子もなく仁王立ちのまま僕を睨み続けていた。すると僕はふと先生との練習の日々を思い出した。基本から細かく教えてくれた先生、その先生との時間は今思えば全てが楽しかったように思える。僕の為に時間と労力を割いてくれた先生、その先生がこれだけの激励を送ってくれたのだ。僕はそれに応えない訳にはいかない。僕は先生の方を見て一度頷くとまた的の方に向き直った。


「……焦った時は深呼吸三回だったな。」


僕は深呼吸をしつつ普段のルーチンを思い出してゆっくりとそれを全て再現した。今までは普段の射撃練習の時していたこのルーチンを気が焦るばかりに守っていなかったのだ。僕はゆっくりと立射の射撃態勢を取った。何となく当てれそうな気がする、やってやるぜ! 見てろ、ルカ!


「ズドーン! 」

「きたぜ! ど真ん中! 」


ようやく銃弾が的の中心を捉え僕はそう吠えた。よし、この調子だ! この感覚で焦らずに撃ち続ければ絶対に調子は戻る! 僕はまたゆっくりと次弾を装填して慎重に的に狙いを定めた。


「ズドーン! 」

「よっしゃーッ! またきた! もう外さねえぞ! この的どもめ! 」


それからの僕は身体をリラックスさせながら慎重に、それでいてテンポ良く的の中心を射抜き続けた。さっきまでの不調が嘘のようだ。どうやらルカ先生の喝が僕には一番効くらしい。その後は10点のオンパレードだった。



「あ〜、疲れた! 」


僕はそう一人で叫びながら競技場内の休憩室に入ってくると備えつけのお茶をゴクゴクと飲んでいた。競技は立射と膝射が終わり残すところは伏射だけだ。最初はミスを連発したもののその後かなり挽回している筈だが僕は自分が全体の何位にいるのかも知らなかった。そして10分間の休憩の後に競技は再開される。僕は折り畳み用の椅子に腰を掛けながら束の間の休息を取っていた。他の選手も部屋のあちこちに寝そべったり座ったりして休んでいる。


「ユージーン、よくここまで頑張ったわね。」


不意にそう背後から話し掛けられたので後ろを振り向くと休憩室の入口のところにルカ先生が立っていた。先生は少し微笑みながらハンカチで顔の汗を拭いつつ部屋に入ってきた。真夏の一歩手前ということもあってか今日は暑い。僕も汗だくだがルカ先生もそうなのだろう。いつもならちょっとドキッとしたりするのだけれどルカ先生に対する自分の気持ちをはっきりと自覚した今、僕は正面からしっかりとルカ先生の顔を見据えた。


「今日は本当に暑いわね。かなり体力を消耗してるだろうけどあと少し……頑張ってね。」


先生はそう言って僕に微笑んだ。さっきの鬼の形相とはまるで別人のその綺麗な笑顔を見ているとコントラストがおかしく思えてきて僕もルカ先生に微笑んだ。するとルカ先生は言った。


「ふふ、余裕があるわね。もっとバテてるかと思ったけど、良かった。その調子ね! 」

「ありがとうございます、でも調子が良くなったのは先生の檄のお蔭ですよ。そういえば先生、僕って今順位はどれぐらいですかね? 」


僕がそう聞くと先生は驚いた様子で僕を見て言った。


「え!? 知らないの? あなた達が射撃している右横に順位の書いたボードがあったじゃない! 」

「そんなのあったんですか? 全然知りませんでした。」


僕がそう言うとルカ先生はクスッと笑ってこう言った。


「まぁいいわ。そんなもの見なくても。取り敢えずあと少し、楽しんでやってきなさい。」


先生はそう言うと僕の肩をポンと叩いて部屋から出て行こうとした。そろそろ休憩の時間が終わる。僕も用意をしなきゃ! すると先生は急に振り向いて僕の名前を呼んだ。


「ねぇ、ユージーン。」

「は、はい? 」


「……今度御飯でも食べに行こうか? 」

「え? 」

「あなた凄く頑張ってるから。御褒美に大好きなステーキを奢ってあげるわ。だからあと少し、楽しみながら頑張りなさい。」


先生はそれだけ言うと部屋を出て行った。僕は先生が何を言ったのか一瞬分からなかったが暫く先生の言葉を反芻してようやく理解した。嬉しさがこみ上げてきて疲労が嘘のように吹き飛んだ。その時に僕の気持ちを打ち明けよう。そしてミールには実は凄く好きなひとがいることを正直に言って謝ろう。僕は腹を決めた。すると競技に集中していたお蔭で薄れていたが心の中にまだ存在し続けていたモヤモヤが一気に無くなったような気がした。

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