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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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白い僕と黒い僕

「ユーちゃん、今日は頑張ってね。お母さんは客席から応援してるわね! 」


今日はいよいよ射撃競技大会の日だ。チャーターした馬車に石畳の道を揺られること一時間、僕と母さんは隣町のそのまた隣町にある王立の運動競技場の入口に降り立っていた。


「へーっ! 立派な建物ねぇ。」


母さんは馬車から降りるとそう言って目の前の競技場を見渡した。目の前には高さが15m、幅200m程の石造りの建築物がカンカン照りの太陽の下で大きく聳え立っている。これが観客席の外観らしく中はすり鉢状になっていてその中で競技が行われるようだ。観客が四万人程入れる施設らしく僕と母さんはこんな大きな建物はヘフナー王のお城以外にはおそらく見たことがない。珍しそうに周囲をキョロキョロと見渡している僕と母さんはまさに都会へ出てきた田舎者そのものだった。


「お母様! ユージーン君! こっちです! 」


すると競技場の正面入口付近からそう声を掛けられた。ルカ先生だ。


「あら〜先生! 暑い中わざわざ来て頂いて申し訳ありません。」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。競技場は広いですし人も多いですから案内役がいないと迷ってしまいますわ。それに私も教え子のデビュー戦ですから見届ける義務があると思いまして。今日は宜しくお願い致します。」


どうやら母さんはルカ先生を自分の案内役として呼んだようだ。挨拶が終わるとルカ先生は僕の方を見てこう言った。


「頑張ってね、ユージーン君! スタンドから応援しているから。」


ルカ先生はそう言うとニッコリと微笑んだ。青いデニムの細身のパンツに白いシャツを着たルカ先生は今日も可愛い。でも僕は先生の顔をまともに見れず俯いてしまった。昨日のミールとのことが頭をよぎったからだ。でもそんな僕の様子は気にすることもなく先生は僕の肩をポンと叩いて言葉を続けた。


「選手は裏口に回ってそこで出場手続きをするのよ。エントリー開始まであと十分しかないわ。急いで。」


先生はそう言って競技場の一角を指差した。僕は俯いたままルカ先生に会釈するとライフル銃のケースを担いだまま先生の指差した方向にトボトボと歩きだした。


「もっと胸を張って歩きなさい! 」


母さんが背後からそう叫ぶのが聞こえた。でもどこか落ち込んだ気分だった僕はそのまま力無く歩き続けた。


「……ルカ先生。」


僕は知らず知らずのうちにそう呟いていた。昨日はミールとキスが出来て正直凄く嬉しかった。ミールは可愛いし決して嫌いじゃないし。でもそのキスはミールが好きだからしたという訳ではなくキスという行為そのものに対する興味の方が大きかったからしてしまったような気がする。だからルカ先生のことが一番好きな筈の僕がルカ先生とではなくミールとキスしちゃったんだろう。すると僕の心の中にいる黒いもう一人の自分がこう言う。


「別に気にすることはねぇ! 男なんてものは女ったらしぐらいの方が格好良いんだ! それにどうせバレやしない! なんなら二股かけちまえ! 昔から言うだろ? 『英雄色を好む』ってな! 」


すると今度は僕の心の中の白いもう一人の自分がこう言う。


「お前がしたことは最低だ! 自分の性的好奇心を満たすだけの目的でミールと口づけを交わしたのだ! 好きなのはルカ先生ではなかったのか!? もう二度とミールとキスはするな! 」


僕はもう射撃が出来る心理状態ではなかった。ミールとのキスでこれだけ自分の心の中に様々な感情が芽生えるなんて思ってもいなかったのだ。僕がモテモテでとんでもないプレイボーイであるか、もしくは女の子なんかに一生縁の無い超醜男のどちらかならこんなことで悩むことはないだろうに! 僕はウブで真面目過ぎるにも拘らず女の子への興味を断てない中途半端な自分の性格を呪った。


「ユージーン・マイヤー君ね。この10番のゼッケンを付けて下さい。付け終わったら参加競技者の列に番号順に並んでね。では頑張って下さい! 」


罪悪感と性的好奇心との間に揺られながら裏口に入ると受付のブースがあった。そこにいる受付嬢のお姉さんにそう言われると僕は赤地に白く10と書かれたゼッケンを受け取った。受付ブースの横を見ると七十人ぐらいはいるだろうか? ライフル銃のケースを構えた僕と同い年ぐらいの子供達がピリピリした様子で並んでいる。僕は黙って虚ろな目をしたままその列の前から10番目に並んだ。


「構うことはねぇ! 明日もミールとブチュ〜っとキスしちまえ! ついでにルカもやっちまうか! 女の一人や二人のことで悩む必要なんてねぇ! お前はそんな小さい野郎なのか? 」

「そんな奴は男として最低だ! お前は貴族の家に生まれて今までそんな教育を受けてきたのか? ふしだらなことはやめるんだ! 」


僕が競技者の列に並んでいる間も僕の心の中の黒と白の二人の分身はそれぞれの言い分をその調子でずっと僕に叫び続けていた。


「ルカがお前のこと好きかどうかも分からねえじゃねえか! そんな女のことを気にする必要なんてねぇ! 」

「ルカ先生がお前のことをどう思っていようがそれは関係ない。お前は誰のことが好きなのだ? ルカ先生ではなかったのか!? ミールに愛情のないキスをしたことを詫びて、それからルカ先生に思いを伝えるのだ! 好きだということを! 」


あ〜! もうどうすればいいのか訳が分かんないよ! 僕は頭を抱えた。するとその時だった。


「ゼッケン10番! ライフル銃をケースから早く出しなさい! もう競技開始ですよ! 」

「えっ!? 」


僕がそう驚いた時、周囲は皆ライフル銃を手に競技場内への入場を今か今かと待っていた。まずい! 心と身体の準備が全く出来ていない! もう競技が始まるというのに!

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