ドッキドキの放課後!
「よし、今日の授業はこれまで! 」
ヤンナギ先生がそう言うと皆一斉に教科書やノートを鞄にしまいだす。今日もやっと終わったよ、やれやれ。そう思いながら僕も皆と同じように帰る準備をそそくさと済ますと席を立ちシゲのところへ向かった。シゲは僕の斜め前の席に座っている。
「シゲ、一緒に帰ろうぜ。」
「ユージーン、ごめんな。今日はちょっと勉強してから帰りたいんだ。」
僕らはよく一緒に学校から帰るのだけれど今日はシゲは自習室に残りたいらしい。シゲは家に帰ると親の手伝いをさせられるからそれが嫌で何かと理由をつけて学校に残って予習や復習をしたりしている。普段はちょくちょくそれに付き合ったりするけど今日は何となく疲れていたから僕は今日は一人で帰ることにした。
「そっか、じゃあ今日は帰るわ。」
「済まないな。ところでユージーン、明日頑張れよ。」
「あぁ、明日の射撃大会ね。何とか頑張ってみるよ、ありがとう。」
そう、明日の日曜日は王族のプリンセス・シンシアの名前を冠したシンシア杯という射撃大会があるのだ。でも僕は緊張とかは全くしておらず逆に最近めきめきと上達した僕の射撃技術を皆に早くお披露目したいな! ぐらいにしか思っていないのだ。僕は笑ってシゲにこう続けた。
「明日は楽しんでくるよ。じゃあな、また来週! 」
僕はそう言うと教室を出て廊下を歩き校舎を出ようとした。すると校舎から外への出口のところに大勢の生徒が集まっている。何だろう? 何かあったのかな? すると僕は不意に背後から声を掛けられた。
「ユージーン君! 」
「あっ! ミールちゃん! 」
出口のところに大勢いる生徒達の後ろで状況を静観していたらしいミールちゃんが僕に気が付いて声を掛けてくれたのだ。彼女は赤いチェックのフレアスカートに白いポロシャツを着て笑顔で立っている。この前の巨人の一件以来僕と彼女はすごく仲が良くなった。僕達は教室なんかでもたまに話をするようになったし彼女は僕の唯一の女の子の友達なのだ。僕は彼女に聞いた。
「どうしたの? 何かあったの? 」
「急に雨が降ってきたの、しかも大雨が。それで皆傘が無くて困っているのよ。」
「え! 雨!? 」
チラッと外を見ると確かに激しく雨が降っている。嘘だろ! 朝はあんなに晴れていたのに!
「あ〜ぁ、参ったなぁ。」
「傘無いの? 」
「うん。」
僕はそう言って頭を垂れた。まぁいいか、走って帰れば。でもかなり濡れるだろうな。僕がそう考えているとミールちゃんが僕に耳打ちしてきた。女の子に耳元でヒソヒソ話されるなんて僕は生まれて初めての経験だ。僕はちょっとドキッとしながらミールちゃんの言うことに耳を傾けた。
「実はあたし傘あるの。一緒に帰らない? 」
えっ!? それって相合傘ってことだよね!? 僕は一瞬で顔が真っ赤になった。なんて返事をしていいのか分からないよぅ! 僕がもじもじしているとミールちゃんは笑いながら僕にこう言った。
「何照れてんのよ! さぁ、行きましょう! 」
彼女はそう言うと皆に気付かれないように僕の手を引っ張って学校の裏口へ回った。僕の顔は更に赤くなって心臓はバクバクだ。僕は黙ってミールちゃんについていった。だがその時だった。
「ミールちゃん! 良かったら俺の馬車に乗らない? 送って行くぜ! 」
ふと前を見るとコイチがそうニヤニヤしながら声を掛けてきた。だけどミールちゃんの後ろに僕がいることが分かると露骨に嫌な顔をした。おそらく彼女が一人で歩いていると思って声を掛けたのだろう。
「お前、何してんだよ? 貧乏人は早く濡れて帰れよ。」
相変わらずコイチはムカつく野郎だ。僕を睨みながらそう吐き捨てるように言ってくる。でもミールちゃんは馬車に乗った方が濡れなくて済むのだ。彼女にはその方がいい。そう思うと腹立たしいことこの上なかったが僕はやや俯きつつミールちゃんに言った。
「ミールちゃん。いいよ、俺走って帰るからさ。」
すると僕の前に立つミールちゃんは振り向きもせず少し怒ったような声を出してコイチにこう言った。
「コイチ君、ありがとう。でも今日はいいわ。ごめんね。」
そして彼女は僕の手を引っ張ったままコイチの前を素通りした。僕はチラッとコイチの顔を見たがその表情は血管がはち切れんばかりの真っ赤な鬼の形相だった。「ざまぁみやがれ! 」と思いつつミールちゃんの優しさに感謝してコイチから目を逸らすとそのまま僕はミールちゃんに続いてコイチの前を横切った。
「何だよ! もう馬車に乗せてやらないからな! 」
背後でコイチがそう叫んでいる。コイチとミールちゃんは親戚らしいからこんな喧嘩していいのかな? と僕がちょっと心配そうな顔をしているとミールちゃんが振り返って僕に笑顔でこう言った。
「あたし、コイチ君てあんまり好きじゃないのよね。いっつも偉そうだし。」
それを聞いて僕は思わず笑顔になった。やっぱりあいつは嫌われているんだ! 親戚のミールちゃんがそう思っている位だからおそらくクラスの大半もそう思っているのだろう。僕はすこし強くミールちゃんの手を握り返すとそのまま学校の裏口へ急いだ。




