感謝状
「あちゃ〜、ヤバいな。こりゃ五分遅刻だよ。」
僕はそう一人言を呟きながら登校していた。昨日の巨人との戦いとその後の喧騒で疲れきった僕は寝坊してしまったのだ。昨日は頑張ったんだから母さんもワカバさんももっと早く起こしてくれたらいいのに! おまけに昨日転んじゃった時に右肘と右膝を強打していたらしく今朝の僕は走ることもままならない。僕は遅刻確定ながらも開き直ってゆっくりと歩いていた。すると学校の門のところにヤンナギ先生が立っている。何で?! 普段は登校時にそんなところで立っていることないのに! あ〜ぁ、今日は朝からボロクソに怒られちゃいそうだよ、全く。
「こらーっ! なにをチンタラ歩いとるか! 早く来い! 」
あちゃ〜、やっぱりヤンナギ先生はお怒りモードだよ、遅刻にはうるさいからな〜。僕は仕方なく早歩きをした。足をかばいながら歩く僕を見て「おや? 」と思ったのだろう。ヤンナギ先生は僕にこう聞いてきた。
「どうした? 怪我でもしてるのか? 」
「はい、ちょっと転んじゃって。」
僕がそう言いながらわざとらしく右膝を摩るとヤンナギ先生は顔色を少し変えて言った。
「そうか、なら無理をするな。だけど今日は急遽特別な式典が取り行われることになったのだ。講堂へ行くぞ。」
「は、はい。」
特別な式典て何だろう? そう思いながらも僕は校舎の横に建っている木造の講堂にヤンナギ先生と一緒に向かった。講堂は全校生徒が入ることの出来る建物で体育館を兼ねている。学校で何か行事がある場合は講堂がよく使われるのだ。僕が講堂の正面入口の扉を開けようとするとヤンナギ先生が言った。
「そこじゃない! お前は今日は演壇側から入るんだ! 」
「え!? 何故です? 」
「いいからこっちだ! 」
講堂は中に入ると正面がステージのようになっていて周囲より高くなっている。普段は生徒がそのステージを前にして集められ先生がステージ上から話をしたりするのだ。僕は何故かステージ裏の入り口から講堂の中へ入ることになった。なんでだろう?
「ユージーン・マイヤーを連れてきました! 」
「そうか! では式典を始めるぞ! 」
ステージ裏に入るとヤンナギ先生がそこにいた校長先生にそう言った。校長先生は背は高いがひょろひょろで色が白く茶色の髪を七三に分けて鼻の下にちょび髭を生やしている。やけに高価そうな紺のスーツを着た校長先生はどうもヤンナギ先生と僕を待っていたらしい。それに校長先生以外にも知らない人が二人ほどいて一人は警察官のようだ。なんだろう? 誰かが万引きでもして警察が取り調べでもするのかな? いや、ひょっとして僕が犯人と思われている? そうだったらどうしよう!? 頭の中がハテナマークだらけの僕を尻目に校長先生はステージへ上がっていくと全校生徒に話を始めた。僕はステージ裏でそれを冷や汗まみれになりながらじっと聞いていた。
「全校生徒の諸君! おはよう。本日朝からわざわざ集まってもらったのは今日どうしても皆さんに知ってもらいたいことがあるからです! 」
僕が万引をしたことをそんなに皆に知らせたいのか? ていうか万引なんかしてないし! 校長先生は何を言おうとしているんだろう? 僕はサッパリ訳が分からなくなっていた。
「昨日隣町に巨人が出現しました。怪我人が十人を超えて家屋も全壊が四軒、半壊が十軒あったそうですが亡くなった人はおらず被害はなんとかそこまでで食い止められました。」
巨人だって!? ……ということは!
「被害がそれで済んだのも本校の生徒の一人がその巨人を撃退したからであります! これからその勇気ある生徒を皆さんにご紹介しましょう! ユージーン・マイヤー君、演壇上へ! 」
ヤンナギ先生に促されてステージへ上がると大きな歓声と拍手が僕を包んだ。僕は校長先生の横に立つとどうしていいか分からず取り敢えず目の前で僕を見ている皆に軽く会釈をしてまた顔を上げた。全校生徒がクラスごとに男女一列ずつ背の順番で並んでいる。ふと僕のクラスの列に目を遣るとたまたまシゲと目が合った。シゲは笑顔で僕に向かって右の拳を突き出し親指を上に立てている。そして女の子の列を見ると目に涙を溜めつつハンカチを片手に拍手をしてくれているミールちゃんが見えた。皆僕を祝福してくれているのだ。僕は段々と喜びを実感すると顔は自然に笑顔となった。
「では我がクオーリーメン町の警察長官であるエプスタインさんと自警団代表のウィリアムズさんから感謝状が手渡されます! 」
さっきステージ裏にいた知らない人は警察長官と自警団代表の人だったのだ! 彼らを万引犯探しの警察官と私服の刑事ぐらいに想像していた自分が滑稽に思えて僕は一人で苦笑いをするしかなかった。すると警察長官のエプスタインさんが僕の前に歩み出た。エプスタインさんは警察官の制服に身を包み背が高く痩せ型で警察官とは思えないほど優しそうな顔をしている。全校生徒を右手に見ながら僕とエプスタインさんは向き合った。
「ユージーン・マイヤー君、君の勇気ある行動を讃えさせて貰うよ。これを受け取ってくれ給え。」
エプスタインさんはそう言うと僕に賞状を手渡した。それに続き自警団代表のウィリアムズさんも同じような台詞を言ってから僕に二枚目の賞状を手渡してきた。二枚の賞状には両方とも巨人を追い払った僕に対しての感謝の言葉が書いてある。今までそういう類いのものをもらったことのない僕は大いに照れたがやはり嬉しくもあった。僕は賞状を受け取るとヤンナギ先生に促されて皆の方を向きそれを両手で胸の前に控えめに掲げた。するとまた歓声と拍手が僕を包んだがシゲの方を見ると「賞状をもっと高く掲げろ! 」というようなゼスチャーをしている。僕は思い切って賞状を頭上に高々と掲げた。すると歓声と拍手は一際大きくなった。講堂に集まった生徒の後ろには新聞記者らしき人が何人かいてカメラを僕に向けてフラッシュを焚いている。まるで僕は映画スターにでもなったようだった。




