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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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ゴブリンとの戦い

「ま、まずいわ! 」


ルカ先生が怯えた声でそう叫んだ。挟みうちにしようと僕らの前後に立つゴブリン達は僕とルカ先生を意地悪そうな顔で睨みつけてくる。ゴブリンは基本的に人間が嫌いなのだ。それだけを理由に彼らは人間を襲ってくる。僕はふとその怪力で無惨に殺された人の新聞記事を思い出した。恐怖で身体が震えて歯がカチカチと鳴りだす。嘘だろ!? まさか自分がこんな窮地に立たされるなんて! 現実を認めたくない僕はもう泣きそうだった。するとルカ先生が再び叫んだ。


「そ、そうだ! ライフル銃を出して! 銃ならあいつらに勝てるわ! 」

「せ、先生、さっき最後の弾丸を撃ち尽くしたところですよ。」


僕がそう言うと一瞬明るくなりかけた先生の表情がまた元の怯えた表情に戻ってしまった。普段は絶対そんな表情のルカ先生を見ることは出来ない。そのことが如何に今の自分達の置かれた状況がまずいかということを僕に感じさせた。先生は焦った様子でまた叫び始めた。


「このままではまずいわ! 助けを呼びましょう! 誰か! 誰かいませんか!? 」


ゴブリンなんかに襲われればただでは済まない。彼らは人間を殺すのが楽しいのだ。手や足を引きちぎられたなんて話もよく聞く。ルカ先生もパニックに陥っているが僕も身体の震えが止まらず心臓は激しく動いてはち切れんばかりだ。だけど何とかしなくちゃいけない。じっとしているだけではなぶり殺されるしかないのだ。僕は一歩ずつジワジワと近づいてくるゴブリンを前に取り敢えず思いついたことをルカ先生に言った。


「ル、ルカ先生。」

「な、何? 」

「ま、まともに戦っても勝ち目はありません。ぼ、僕が正面にいるゴブリンに傘で顔面に一撃を入れます。それで相手が怯んでいる間に走って逃げましょう。後ろのゴブリンは無視して正面を強行突破です。」


僕はそう言いながらライフル銃の入ったケースをルカ先生に渡すと傘を両手に持って構えた。ルカ先生は震えながら僕に言った。


「そ、それで上手くいくかしら? 」

「分かりません。でもゴブリンは力は強いけど足は遅いらしいですからね。やってみます。」


前後のゴブリンは僕らをジッと睨みつけながらゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。もうそれぞれが10m程の距離だ。こんなに近くでゴブリンを見るのは僕は初めてだった。心臓が壊れてしまうのではないかと思う程身体の中でフル回転しているのが分かる。するとルカ先生がまた口を開いた。


「な、殴るならライフル銃でやったら? 」

「いえ、ライフルだと重いので傘の方が扱いやすいです。それにそのライフル銃は先生の大切な物でしょ? ゴブリンを殴るのにそんな大切な物は使えません! 」


ゴブリンは尚も進み続け距離は5m程になった。よく見るとゴブリン達はその緑色の顔に笑みを浮かべている。こいつら、どうやって僕とルカ先生をいたぶろうか想像してニヤついていやがるんだ。そう思うと僕は段々腹が立ってきた。こんな化け物に殺されてたまるか! 僕は恐怖を怒りに変えるようにして目の前のゴブリンに向かって走りだした。


「この野郎! 」


ゴブリンは僕達が足がすくんで動けないとでも思っていたのだろう。僕が急に向かってきたので少し驚いた様子だった。僕は無我夢中で傘を刀のようにゴブリンの顔面に振り下ろそうと襲いかかった。


「ガシッ! 」


だけどそうは上手くいかなかった。ゴブリンは僕の傘を両手で受け止めたのだ。緑色のゴブリンの顔が一本の傘を挟んで僕に迫ってくる。怒りに変えた筈の恐怖がまた僕の身体にぶり返してきた。くそっ! こんなところで死ねるか! 僕はゴブリンに対して正対していた身体をやや左横向きにするとそのまま右足を直線的に繰り出しゴブリンの胴体に蹴りを入れた。所謂横蹴りとか足刀蹴りと呼ばれるもので以前ヤコーさんが筋トレの指導をしてくれた時についでに教えてくれたものだ。勿論実戦で応用するのは今回が初めてだった。


「ウゥッ! 」


だがその横蹴りは思いのほか効いたようだった。呻くような声を発してゴブリンが傘から手を離しよろけて倒れこんだ。今だ! 僕は叫んだ。


「ルカ! 走れっ! 逃げろっ! 」


それを聞いてルカ先生は倒れたゴブリンと僕の横をすり抜けていった。良かった! これでルカ先生は助かる! あとは僕もルカ先生に続いて走り逃げるだけだ。そうすれば僕も助かる! そう思い一瞬気の緩んだ僕にルカ先生が振り返ってこう叫んだ。


「ユージーン! 後ろっ! 早く逃げて! 」


そう言われて僕が後ろを振り向くともう一匹のゴブリンが目の前に迫っていた。僕が正面のゴブリンと遣りあっている間に距離を詰めてきていたのだろう。このゴブリンは顔に明らかな怒りの表情を浮かべている。それはまるで「力に劣る人間ごときが生意気に逆らいやがって! 」とでも言っているようだった。僕が一瞬怯むとそのゴブリンは僕の脇腹にパンチを放ってきた。


「ぐぇっ! 」


そのゴブリンの太い腕から繰り出されたパンチの威力は凄まじいもので僕は一瞬息が出来なくなりその場にうずくまりかけた。だがその時だった。


「走るのよ! ユージーン! 」


ルカ先生がそう言いながら僕の身体を背後から抱きかかえた。僕は何とかうずくまるのを堪える。ルカ先生は一人で逃げるようなことはせず、それどころか逆に僕を助けようとしてくれているのだ。


「走らなきゃ殺されるわ! 走るのよ! ユージーン! 」


目の前には僕を殴ったゴブリンが怒りの形相で僕達を睨んでいる。倒れていたもう一匹のゴブリンも立ち上がろうとしていた。僕は最後の力を振り絞って持っていた傘を槍のようにゴブリンに投げつけるとそのまま背後に走り出した。脇腹がジンジンと痛むがそんなこと言っていられない、今走らないと僕は本当に殺される! その恐怖とルカ先生の僕を励ます声が僕の足を何とか動かした。


「止まったら駄目! 捕まってしまうわ! 走り続けるのよ! 」


脇腹が痛くて何度も足を止めかける僕の手をその度にルカ先生が引っ張った。ゴブリン達の気配を背後に感じる限りこの足の動きは止めてはならないのだ! 僕はその後暫くの間脇腹を押さえ息を切らせながらも何とか走り続けた。





「君達、大丈夫か? 」


その後十分ぐらい走り続けただろうか? 僕とルカ先生は気が付くと青い制服を着たお巡りさんに呼び止められた。周囲を見回すといつの間にか僕ら二人は大きな街の通りに出ている。背後を見るともうゴブリンは追ってきていなかった。通りには沢山の人が歩いている。さすがにここまでは奴らも追ってはこないだろう。僕らは夢中で走り続けていたので服装は乱れ全身汗びっしょりになっている。僕の脇腹には緑のネバネバした液体がべっとりと付いていた。おそらくゴブリンの体液だろう。でも僕らはそんなお互いの格好を気にもせず喜びを爆発させた。


「助かったわ! ユージーン! 」

「ルカ! 」


僕とルカ先生は人目を憚らず強く抱きしめあった。周囲の通行人や声を掛けてきたお巡りさんが怪訝そうに僕らのことをジロジロ見つめるがそんなことはどうでもいいと思える程の喜びが僕らを支配していた。死の恐怖が遠ざかった喜びに勝るものはないのだ。僕らは生きている! そのことをルカ先生の身体を抱きしめながら実感していると僕の目からはいつの間にか涙がこぼれていた。ルカ先生も僕の胸の中で激しく泣きじゃくっている。僕は強くルカ先生を抱きしめた。

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