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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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父さん説得ミッション!

「ねぇ、父さん、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど。」


ある日家族で夕食を取っている時に僕が父さんにそう話し掛けると兄さんと母さんは目を丸くして僕の方を見た。そりゃそうだろう、僕が父さんに「何かをして欲しい」とお願いすることなんてここ二〜三年は間違いなく無かったのだから。でも一番驚いていたのは話し掛けられた父さん本人かもしれない。父さんは心の奥底の動揺を見透かされないようにするかのようにゆっくりと僕の方を向いた。


「何だ? 」

「これを見て欲しいんだけど。」


僕はそう言ってズボンの後ろポケットに入れていた数学のテストの解答用紙を取り出して家族の前で広げた。


「えっ! 98点!? 嘘だろ! 」


兄がいかにも信じられないという風にそう叫んだ。僕が内心ムカッとしていると母さんが兄さんを窘めた。


「駄目でしょ! そんな風に言ったら! ユーちゃんだってたまには頑張るのよ! 」


そう言いながらも母さんはちょっとニヤけていてその態度は明らかに人を小馬鹿にしている。この兄と母親はどうも人を素直に褒めることが出来ないらしい。僕は二人を無視して父さんの方をじっと見つめていた。


「よくやったじゃないか! この前もテストで結構良い点取っていたし。最近頑張っているな! 」


父さんはそう言うと急に機嫌が良くなった。父さんは母さんにブランデーの瓶を食卓に持ってくるように言った。今だ! 僕はその瞬間を見逃さずに言葉を続けた。


「父さん、実はお願いがあるんだけど。」


すると父さんはブランデーをグラスに注ぎつつ言った。


「何だ? 言ってみろ。」


グラスを口に運ぶ父さんに僕は言った。


「実はライフル銃の射撃競技をやりたいんだ。家庭教師のルカ先生が以前やっていて結構面白いらしくて。それで先生が『良かったら基本から教えてあげようか? 』って言ってくれてるんだ。」


僕がそう言うと食卓は一瞬静まりかえった。父さんは黙ってブランデーを口の中に流し込んでいたけど兄さんが横槍を入れてきた。


「こんな勉強しなくちゃいけない時に何を言ってるんだ! お前は来年受験なんだぞ! そんな遊んでいる暇は無いだろう! たまたま良い点数を取ったからって調子に乗んな! この馬鹿が! 」


その腹立たしい言い方にムカムカしつつも僕は努めて冷静に言った。


「いや、兄さんの時とはカゲミ貴族院大学の合格判定が変わっているんだ。今年からはスポーツに寄る点数が加えられてその配点も凄く大きいんだよ。これがその資料です、父さん。」


僕はそう言いながらカゲミ貴族院大学入学要綱の書類を父さんに手渡した。父さんは何も言わずにその書類を手に取ると無言で読み始めた。


「スポーツだぁ? そんな話俺は知らんぞ! 」


兄さんがまたそう叫んだけれど父さんは右手で書類を持ちブランデーのグラスを持った左手で兄さんを制した。こうなると兄さんはもう何も言えない。僕は内心「ざまぁみろ! 」と思いつつ表情を全く変えないで父さんを見つめていた。その後食卓には父さんが書類を捲る音だけが響く。そして十分くらい経った頃だろうか、父さんは僕に質問を始めた。


「受験に有利に働くということは良く分かった。何故射撃競技を選んだ? 」

「面白そうだし、ルカ先生曰く競技人口が少ないから頑張ればひょっとすると大会なんかで好成績を出せるかもしれないって。」


そう言うと父さんはフッと笑った。僕は言葉を続けた。


「ルカ先生に写真を見せてもらったんだけどそれが凄く格好良かったし。それにこれからは銃の時代が来るかもしれないから慣れておいても損はないと思って。」


僕はルカ先生が言っていたことをさも自分が考えたかの様に言った。すると父さんはまた質問してきた。


「家庭教師の先生の射撃の技術はどれぐらいなんだ? 人に教えれる程上手いのか? 」

「母国ではよく大会とかに出てたって言ってたよ。優勝もしたことあるって。ライフル銃はルカ先生が昔使っていたのを貸してくれるって。」

「射撃場に行って練習するのか? 」

「うん、そうだよ。隣町に射撃練習場があるんだって。」


そこまで聞くと父さんはブランデーのグラスをテーブルの上に置き俯いて黙ってしまった。でも暫くするとポツリと口を開いた。


「分かった、やってみろ。」


僕は一瞬耳を疑った。父さんがこんなにすんなりとOKを出すとは思っていなかったからだ。もっといろんなことを聞いてくると思って沢山の説明と説得の言葉を用意していた僕にとってはそれはちょっと拍子抜けにも感じられた。


「お父さん、本当にいいんですか? 」


母さんが心配そうに父さんに聞いた。


「やめといた方がいいって! こいつはドン臭いんだから! 」


兄さんは露骨に嫌そうな顔をして父さんにそう言った。どうやらこの兄は僕がやりたいことをやるのをどうしても阻止したいらしい。兄さんは昔からそういうところがあって僕が父さんに何かおねだりすると必ず反対の立場を取るという性質があった。僕は黙っていたけど暫くすると父さんはこう言った。


「受験に有利と言われれば父さんが反対する理由はなかろう。だがユージーン、気を付けるんだぞ! 銃は取り扱いを一歩間違えれば他人様を傷つけてしまうからな! それに自分の身も守らねばいかんぞ! 」

「う、うん。」


父さんの強い口調に押されながらも僕はそう返事をした。すると父さんは言葉を続けた。


「勉強も手を抜くなよ。今上り調子の成績が下がるようなことがあればすぐに辞めさせるからな。」


やった! いろいろ言われたけど取り敢えずはライフル銃を撃つことが出来るんだ!そう思うと僕は飛び上がって喜びたい気持ちを抑えながら言った。


「ありがとう! 父さん! 」


物凄い形相で睨みつけてくる兄さんを尻目に僕は大喜びだった。喜びすぎて毎晩食卓に並ぶ大嫌いなほうれん草が今日だけは美味しく感じる程だった。




次の日の夜、ルカ先生はいつも通り夜の七時半に家に来たけど僕の部屋で授業が始まったのは八時過ぎだった。どうやら母さんと何か話をしていたらしい。おそらく射撃競技の件だろう。するとルカ先生は部屋に入ってくるなり自分から話を始めた。


「ユージーン、今度の日曜日に射撃場へ行くわよ。」

「えっ!? 」


いきなりの話に僕は少し驚いてしまった。ルカ先生は自分の白いショルダーバッグからテキストやペンを取り出しながら言葉を続けた。


「あなた、御両親に射撃がしたいって話をしたんでしょう? 」

「そ、そうですけど……いきなりですか? 」

「やるって決めたのなら早い方がいいわ。」


ルカ先生があまりにクールに話すので最初は実感が沸かなかったけど僕はだんだん嬉しくなってきた。ライフル銃が撃てるんだ! 考えてみれば凄いことだぞ!


「日曜日の昼二時に射撃場の前で待ち合わせよ。場所はお母様に説明しておいたから。お母様も来るって仰っておられたわよ。」


え〜! 母さんも来るのか、嫌だな。ルカ先生と二人ならデートみたいで良かったのに。まぁでも仕方ないか、母さんも心配だろうしな。


「当日は宜しくね、ユージーン。じゃ今日の授業を始めましょうか。歴史のテキストの50ページを開いて。」


よし、取り敢えず今は気分を切り替えて勉強するか! またテストの点数が悪くなれば射撃どころじゃなくなっちゃうしな。そう思うと僕はテキストとノートを開いて授業に集中した。

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