涙の告白
「ミール! 」
僕は思わずそう叫んでいた。傍聴席の中で一人立ち左手を挙げているクラスメイトのミールが目に入ったからだ。彼女は白いブラウスに水色のフレアスカートを履いていて緑のベレー帽を右手に抱えている。だがその小綺麗な服装とは対照的に彼女は俯いて下を見つめ悲しげな表情のまま立ち尽くしていた。彼女は僕が屋敷の離れに忍び込んだことを庇おうとしているのだ!
「シンシア様、私の名はミール・ルイーズ・マッカートニーといいます。そこに座るマッケンジー・ジェイムズ・マッカートニーの娘です。」
ミールが小さいながらもはっきりとした口調でそうシンシアに言った。また傍聴席がざわざわとし始める。だがシンシアが聴衆に落ち着くように目配せをすると傍聴席はまたあっという間に静かになった。それを受けてシンシアは続けた。
「ミール・ルイーズ・マッカートニー、あなたがユージーン・ハロルド・マイヤーにこの剣を渡したというのですか? 」
「……はい、そうです。」
ミールは瞳に涙を溜めながらもまたはっきりとそう言った。だがその言葉が終わるか終わらないかのうちにマッケンジーが叫んでいた。
「ミール! 」
「お父様、もうやめましょう。これ以上悪事を重ねないで下さい。いくら子供の私でも分かります、お父様のしていることが良くないことだということは。」
ミールは溜めた涙を零しながらそう父親に訴えた。どうやら彼女は僕を庇おうとしているだけではなく自分の父親の秘密もこの法廷で告白しようとしているらしい。おそらく正義感の強い彼女には父親の行為が許せないのだ。それは例え父親への愛情が大きくとも許容出来るものではないのだろう。だがそれを察した父親は哀願した。
「ミール、お願いだ! やめてくれ! 」
「お父様、今回ばかりは私はお父様の言うことを聞けません。だってもうお父様のやつれていく姿、見ていられません! もうやめて下さい、そして私達家族と共に罪を償って下さい。」
泣きながらも父親の申し出をきっぱりと断ったミールの姿は凛としていた。シンシアは少し口調を優しく変えてミールに質問を続けた。
「ではミール・ルイーズ・マッカートニー、あなたがこの剣をユージーン・ハロルド・マイヤーに渡したのですね? 詳しく話して下さい。」
「………はい。」
彼女の頬を何度も涙が伝う。彼女は一度深呼吸をした後ゆっくりと話を始めた。
「……シンシア様、私は数年前から気が付いていました、私の父の悪事を。父は普段は穏やかな貴族を装っていますが時折日が暮れるとひっそりと家を出て真夜中や明け方に家に帰っていました。手ぶらな時もあれば両手に一杯荷物を抱えている時もありました。荷物がある時は必ずそれを屋敷の離れにこっそりと持って行くのです。父は家族の誰にもそのことが気づかれてはいないと思っていたようですが私だけは気づいていました。」
ミールはハンカチで涙を拭いながらもそう話し始めた。
「私はその荷物が何だろうとずっと気になっていましたが子供心にそれは親には聞いてはいけないことだと分かっていました。ですが数年前のある時どうしても荷物の中身が知りたくなって離れにこっそりと忍び込んだのです。」
「ミ、ミール……。」
マッケンジーはそう力なく娘の名前を呼んだ。だがミールは父親の方を見ることなく話を続けた。
「父が荷物をこっそりと離れに持ち込む度に私はその中身を確認しました。その中身は……。」
ミールはそこで言葉を詰まらせてしまった。だがシンシアは優しくも容赦なくミールに詰め寄った。
「ミール・ルイーズ・マッカートニー、中身は何だったのですか? 」
ミールは止めどなく溢れる涙を拭くのに必死だった。だが数秒の間を置いて彼女はようやく言葉を絞り出した。
「……貴金属や宝石類、大量の金貨や絶滅危惧種に指定されている動物の剥製など様々なものを私はこの目で見ました。こんな私のような小娘でもそれらを見れば父が犯罪に手を染めていることぐらい分かります。でも父が私達家族を養う為に必死でそういう悪事に手を染めているということも想像がつきました。父が以前事業に失敗して多額の借金があることを私は知っていましたから。だから父のことを今まで誰にも言えず悩んできたのです。」
シーンと静まった中でミールの声だけが響く。ミール以外は誰も何も喋らなかった。
「先日また父が朝方に家に帰ってきて離れに荷物を置いていった次の日にユージーン君のご両親が逮捕されたと聞きました。そこで私はピンときたのです。父はユージーン君のご両親の逮捕に何か関係していると。大好きなクラスメイトのユージーン君に迷惑をかけているということを考えると私はもう我慢出来なくなりました。それで私はユージーン君に父が離れに置いたその三本の剣を渡したのです。そして私はもうこれ以上良心の呵責に耐えられそうにありません。ここで父の罪を全て告白し私もその父の娘として一緒にその罪を償っていきたいと思います。」
そこまで言うとミールはワッと泣きだした。マッケンジーも俯いたまま嗚咽を漏らしている。そのマッケンジーの姿はまさにミールの言葉を自ら認めているようなものだった。そこへシンシアが優しくマッケンジーに声を掛けた。
「マッケンジーさん、今のあなたの娘さんの発言は本当ですか? 」
「……は、はい。」
マッケンジーはミールの告発を泣きながら頷いて認めた。さすがにマッケンジーといえども涙ながらの娘の言葉は認めざるを得なかったのだろう。彼は悪事を重ねつつもそれは生活の為と頭では割り切ろうとしていたがやはりどこか引っかかっていたのだ。いつも明るく可愛らしいミールが泣きじゃくりながらも僕を庇い、尚且つ自分の父親の罪を打ち明けた姿を見ていると僕は遣り切れない気持ちになった。




