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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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新たな証人

「う〜ん、ふむふむ。」


三十分程経ってもトミヤマの鑑定はまだ続いていた。トミヤマの一人言だけが法廷の中に響いていて他の誰も喋ろうとしない。傍聴席ですら誰もいないかのように静まり返っている。だが皆目だけは必死にトミヤマを追っていた、彼の次の一挙手一投足を見逃さない為に。


「なるほどね。」


トミヤマはそう言うとようやくルーペをポケットにしまった。鑑定がどうやらようやく終わったらしい。皆無言でトミヤマからの鑑定結果の報告を待った。


「終わりました。」


だがトミヤマは皆の期待を裏切って一言そう言っただけだった。傍聴席の面々にイライラとした表情が浮かぶ。僕も彼らと同じように思わずトミヤマを睨みつけてしまった。するとその雰囲気を察してかトミヤマはゴホンと突然咳払いをした。一気に傍聴席は静まり皆がトミヤマに再び注目する。その時僕は何故かふと気になって父さんの方を見た。父さんは顔を上げつつも視線は床に落とし顔にはやや微笑みを浮かべている。父さんは何を考えているのだろう? 僕がふとそう思った時だった。


「本物です。」


トミヤマがそう言った。だがその声が少し小さかったせいかシンシアが大きな声でトミヤマに命令した。


「トミヤマ! もう一度大きな声で言いなさい! 」


するとトミヤマはシンシアの方を向いて叫ぶようにこう言った。


「シンシア姫様! この剣に使われている宝石の類いは全て本物です。本物というより全てに最高級品が使われています。ここまで見事な剣を私は今まで見たことがない。素晴らしい逸品ですよ! これを作られたのはそちらにいらっしゃるマイヤーさんですかな? 」


トミヤマは笑顔を浮かべて父さんの方を見た。どうやらこのトミヤマという男と父さんは顔見知りらしい。


「トミヤマ様、お久しぶりでございます。トミヤマ様の言う通りその三本の剣は私めが製作したものでございます。」


父さんは会釈をしながらそう言うとニヤッと笑った。するとトミヤマもニヤリとしてこう返した。


「あなたの作品はいつも素晴らしい。これからもヘフナー王の目を見開かせるような逸品の提供を宜しくお願い致しますぞ。」

「ハハッ! ありがとうございます! 」


父さんがそう言い終わるか終わらないかのうちに傍聴席には歓声と大きな拍手が巻き起こった。僕はふと後ろを振り向く。すると傍聴席では殆どの人が鑑定結果を喜んでいたのだ。それはすなわち父さんの人望の厚さを指し示すものだ。僕は胸が熱くなった。


「……良かった。」


僕は思わずそう呟いた。だがよく見ると傍聴席の中には笑顔でない人も何人かいる。その人達はタンケーダ一族の支持者なのかもしれない。だがタンケーダの財力と地位を考えればその数はあまりにも少なかった。


「頑張りましたですわねぇ! 旦那様! そしてユージーン坊っちゃま! 」


歓声の中で突然僕はそう声を掛けられた。ふと気がつくと僕から少し離れた傍聴席の一つに我が家で家政婦をしてくれていたワカバさんの姿が見える。良かった! 彼女は生きていたんだ。そう思うと僕はワカバさんに手を振りつつ涙を零してしまった。僕はワカバさんにお礼を言った。


「応援してくれていたんだね! ありがとう! ワカバさん! 」


ワカバさんもいつの間にか涙を流しハンカチで顔を覆っている。大きな歓声の中、法廷の中央の机の上に並ぶ三本の剣が父さんによって作られたということをワカバさんだけでなくこの場にいる全員が分かってくれたということを僕はこの時始めて実感した。それは父さんの無実を証明することに繋がるのだ。するとビルがシンシアに大きな声で訴えかけた。


「シンシア様、お聞き下さい。マイヤー氏が製作したこの三本の剣は卑劣にもそこにいるマッケンジーによって盗まれたのです。彼はマイヤー氏に商談を持ちかけておきながら実はその裏で策略を図り完成していた剣を盗み出すことによってマイヤー氏を詐欺師に仕立て上げ刀剣製作と販売の事業を奪い取り我が物にしようとしたのです! 」


ビルが喋ると歓声は薄らぎ傍聴席はまた静けさを取り戻していった。マッケンジーは真っ青な顔をして俯いてしまい反論しようとする気配すらない。だがビルの言葉が途切れた瞬間を突いてシンシアが口を挟んできた。


「待ちなさい! マッケンジー氏がこの三本の剣を盗んだとあなたが主張する根拠は何です? 」


シンシアからビルに対する質問だったが僕は思わず大きな声でこう言った。


「この剣はマッケンジーさんの館の離れにあったのです! 」

「何ですって!? 」


シンシアがそう驚嘆の声を上げたのと同じ瞬間に傍聴席からも悲鳴のような声が上がった。外見がとても優しそうなマッケンジーがそんなことをするとは誰も想像出来なかったのだろう。法廷内に響いた悲鳴がそれまでのマッケンジーの世間の評判を物語っていた。シンシアは傍聴席の群衆に右手の人差し指を立てるとそれを口に当てて静かにするように促した。すると場はあっという間に静まり返った。


「マッケンジー、今証人が言ったことは本当ですか? 」

「……。」


シンシアの質問にマッケンジーは俯いて何も答えなかった。目には涙を溜めているように見える。その顔に浮かんでいるのはまさに絶望そのものだった。


「ユージーン・ハロルド・マイヤー! ではあなたはこれらの剣をどうやって手に入れたのです? マッケンジーの敷地内に忍び込んで奪い返したのですか? 」


マッケンジーからの質問への返答が期待出来ないと察したシンシアは今度は僕に質問をしてきた。だがここで何と答えたらいいのだろう? 確かに奪い返したのは事実だがそれを正直に言ってしまうとまた裁判長辺りから何かの罪に問われたりするのだろうか? 僕には裁判とか法律といったことに十分な知識がないのだ。僕はどう返答していいか分からず躊躇った。


「ユージーン! 答えなさい! 」


シンシアは僕に返答を促してきた。その姿は迫力がありとても五歳や六歳の女の子には思えない。だがその迫力に呑まれてしまっていてはいけないのだ。僕は腹を決めて正直に話をしようと口を開きかけた。その時だった。


「……シンシア様、私が彼に剣を渡しました。」


静まり返った法廷の中に小さな声が響き渡った。その声は女性の声でか細く少し震えている。しかもその声は背後の傍聴席の方から聴こえてきた。


「今喋ったのは誰です!? 」


シンシアが傍聴席の方を見てそう言った。法廷内の全員が傍聴席の方を見る。するとそこには髪の毛の短い可愛らしい少女が悲しげな顔をして手を挙げて立ち上がっていた。

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