王室芸術員
「お呼びでしょうか? シンシア様。」
待つこと二十分、ビルの背後にある僕達が入ってきた扉が開いて二人の男が法廷に姿を現した。一人は身長が165cm程の痩せた男で黒い髪の毛を額の中心で分けた髪型をしている。肌の色はやや浅黒く年齢は四十代前半といったところだろうか、真面目そうな感じのする人物だ。そしてもう一人は茶色い髪の毛を短く刈り込んででっぷりと太った五十代半ばの大男だった。その大男は蛙のような愛嬌のある顔つきをしており和かな表情が印象的で二人とも王室に仕える人間がよく着用する茶色いブレザーを羽織っている。二人のうち痩せた男の方がシンシアにそう話し掛けるとシンシアはこう返事をした。
「オカマツ、よく来てくれました。例の仕様書は持ってきてくれましたか? 」
するとオカマツはにこりと微笑んで手にしていた鞄から書類を取り出すとそれをシンシアに見せながらこう言った。
「はい、こちらにございます。」
「よろしい。では今私達の目の前にある三本の剣を見て下さい。これらの剣はその仕様書を忠実に再現していますか? 」
シンシアはそう言って机の上に並べられた三本の剣を鑑定するようにオカマツを促した。どうやらこの二人の男は王室で取り扱う美術品や貴金属の発注から品質の確認までを行う役割を担っている『王室芸術員』らしい。僕もうっすらとはその言葉と役割を聞いたことがあった。オカマツは法廷の中央に歩み寄ると三本の剣に見入る。するとオカマツは突然大きな声を上げた。
「シンシア様! この剣はどうされたのです!? この剣こそ私がジュリアン様の為に仕様書を作成させて頂いたものですよ! 王室から製作の発注はされたものの受渡しはまだだと聞いていたのですが既に完成していたのですね!? 」
その声が法廷内に響き渡るとまた傍聴席が大きく騒ついた。オカマツは今回の事件のことを何も知らないのだ。裁判長とイースティン、それにマッケンジーは三人とも力を落としてがっくりとしてしまっている。オカマツは白い手袋をして三本の剣を順番に一本ずつ手に取りながら彼ら三人に追い打ちをかけるようにまた口を開いた。
「見事だなぁ! 仕様書を見て頂いてもお分りになると思いますがこの三本の剣は私のイメージを完璧に再現してくれていますよ! シンシア様、私は今猛烈に感動しておりますっ! 」
オカマツはそう言って仕様書をシンシアに見せながら涙ぐんでいた。シンシアは三本の剣と仕様書を何度も見比べた後、感涙に咽ぶオカマツにこう言った。
「オカマツ、ではこの三本の剣はあなたが王室から作成を依頼されたジュリアン王子達の剣の仕様書を再現しているということでよろしいですね? 」
「そうでございます! 異なる三つの種類の宝石でそれぞれ彩られたこの三本の剣を並べた時の美しさは我ながら本当に素晴らしい! これらを製作してくれた職人さんに感謝です。ジュリアン様の戴冠式が今から楽しみでございます! 」
オカマツは泣きながらそう叫んで興奮しまくっている。そのオカマツの様子とそれをどんよりとした目で見つめている裁判長、イースティン、マッケンジーの様子の対比が僕には滑稽に思えた。オカマツも暫くするとようやく周囲の状況がどこかおかしいことに気づき涙を拭くと冷静になってシンシアにこう言った。
「あれ? あの……何かありました? 」
シンシアはニコリと微笑みながらこう言った。
「オカマツ、いいのですよ。この剣があなたの仕様書通りのものかどうかを知りたかっただけなのですから。では次はトミヤマ! 」
シンシアはもう一人の男を呼んだ。
「ハハッ! 」
「この剣に使われている宝石が全て本物かどうか確認しなさい! 」
「ハッ! かしこまりました! 」
肥えた蛙のようなトミヤマはそう返事をすると法廷中央へ歩み出て剣の宝石を調べ始めた。
「ふむふむ、なるほど。」
トミヤマはルーペをポケットから取り出すとそう一人言を言いながら剣に装飾されている宝石を一つ一つ丁寧に見ていった。あとはこのトミヤマという男の鑑定次第なのだ。もし剣を飾りつけている沢山の宝石の中に一つでも偽物が混じっていれば父さんの方に傾きかけているシンシアの信用は一気に崩れてしまうだろう。僕は不安になってトミヤマの方を見ることすら出来なかった。
「ほぉ〜っ! これは凄い!」
すると突然トミヤマが大きな声を上げた。どういう意味なのだろう? 巧妙な偽物をよくこれだけ集められた! という意味なのだろうか? それとも物凄く高級な宝石が使われていたのだろうか? 父さんの作ったものに間違いはないと信じてはいるがこのトミヤマという男もひょっとしたらタンケーダの息がかかっているのかもしれないのだ。様々な思いが僕の頭をよぎる。だが考えても仕方がない。僕は俯いて目を瞑りトミヤマが結論を出すのを待った。




