三本の剣
「これが証拠です。」
僕はそう言うと裁判長が座る机の上に木製の厚さ十cm、幅四十cm、長さ一mの大きなケースを三つ重ねて置いた。ドスンという激しい音と共にそれらは机の上に高く積み上げられた。
「……嘘だろ。」
マッケンジーがそう小さく呟いた。先ほどまでそれらのケースにはシェリルによって黒い革製のアタッシュケースに見えるように魔法がかけられていたのだが今は違う。僕の目の前にあるケースはマッケンジーの家から盗み出されたままの姿をこの法廷に晒しているのだ。マッケンジーの顔には真っ青な肌の表面に冷や汗がとめどなく流れ落ちている。
「……。」
裁判長もイースティンも俯いてしまって何も言おうとしない。父さんも愕然として言葉を失ってしまっているようだ。その静まりかえった法廷には異様な空気が漂っている。だが暫くするとようやくその沈黙を破る者が現れた、シンシアだ。
「ユージーン・ハロルド・マイヤー、その箱には何が入っているのです? 」
シンシアは静かにそう言った。僕は一度深呼吸をして自分を落ち着かせた後、はっきりと皆に聞こえるようにこう答えた。
「我が父、ウォルフガング・フォン・マイヤーがそこにいるマッケンジー氏からの依頼によって製作した王室へ納める為の三本の剣です。」
僕はそう言うとケースの一つを開けた。そこには窓から入り込む日の光に輝く宝飾の施された見事な剣があった。傍聴席から「おお〜! 」という声が上がる。僕は項垂れる裁判長の目の前で残る二つのケースも開いて見せた。ジュリアンとシンシア、そして父さんまでもがそれらを見て目を丸くしている。傍聴席は騒ついているが傍聴席と柵で区切られた法廷の中にはまた沈黙が漂っていた。
「ユージーン・マイヤー、これが本物だという証はありますか? 」
沈黙を破ったのはまたしてもシンシアだった。誰も喋らない中、彼女は王族の人間としてこの裁判を前に進めようと必死なのだろう。そこへ裁判長が言葉を付け加えた。
「そうだ! この剣は本当に王室から発注されたものなのか!? 何か証拠はあるのか!? 」
それはもはや裁判において原告と被告の主張を聞いて紛争を解決する立場である筈の裁判長の物の言い方ではなかった。証人である僕を忌み嫌いその僕が提出した証拠を嘘であってほしいと願うような物の言い方だった。そこへビルが一つの提案をした。
「裁判長、そしてジュリアン様、シンシア様。王室にはこの剣をどういうデザインにするか等を定めた仕様書があると思います。その仕様書を作成した方を仕様書持参の上でこの場に呼んで頂きたい! それと宝石の鑑定人の方もです! その方々に今すぐこの場で鑑定をして頂きましょう! そうすればこの剣が仕様書通りに製作されているのか、そしてこの剣に使用されている宝石類がイミテーションではないのかどうか、その二つのことがはっきりするでしょう! それをもってこの剣が本物かどうかということを判断しませんか! 」
ビルは強い口調でそう迫った。鑑定が万が一後日にでもなってしまえばタンケーダの裏工作によって剣が偽物だと判断されてしまう可能性があるのだ。勝負はここでつけなければいけない。すると予測していた通り裁判長がこう言った。
「王室からすぐにそのような方々を呼ぶなど無理だ! それは出来ない! 」
するとイースティンも裁判長に加勢した。
「そうだ! 調子に乗るんじゃない! 」
だがビルは引き下がらなかった。目線を裁判長からシンシアに移して強い口調でこう言った。
「シンシア様! お願い致します! 」
またも沈黙が法廷の中を支配したが今度はそれは傍聴席にも広がっていった。僕が唾を飲み込んだゴクリという音ですらその場にいた全員の耳に届く程だった。そして時が過ぎること数十秒の後、シンシアは言った。
「……刑務官、王室芸術員のオカマツとトミヤマをすぐにここに呼びなさい。」
「ありがとうございますっ! 」
ビルと僕は思わずそう叫んでいた。ビルが僕の方を見て笑顔でウインクしてくる。おそらくそれは「やったね! 」という意味だろう。僕もそれに笑顔で答えた。父さんも横を向いて僕の方を暫く厳しい顔つきで見ていたが一瞬にこりと微笑むとすぐに表情を元に戻し視線を前方に向けた。僕にはその一瞬の父さんの微笑みがとんでもなく嬉しかった。その表情には息子である僕に対する感謝と愛情がこもっているように感じられたからだ。だがまだ気は抜けない。最終的な判決が下るまでは油断は禁物なのだ。僕も父さんに倣って姿勢を正しつつ改めて前を見据えた。




