Liar
「続けなさい。」
裁判長にそう言われてウエストは話を続けた。
「参考になるかどうか分からないっスけど、これ、とある日の点数をメモした紙っス。」
イースティンはその紙を受け取るとまた大きな声でメモの内容を周囲にアピールし始めた。
「これはひどい負けっぷりですなぁ! メモによりますとこの日は被告人はマイナス二百六十五となっております! ウエストさん、この時はいくら賭けていたのですか? 」
「この時のレートはピンピンっス。」
「ピンピンとは? 」
「えっと……千点千ジオンっス! 」
「ということは二百六十五掛ける千ジオンだから二十六万五千ジオンものお金を被告人は一晩にすったということですか? 」
「そうっス。」
また傍聴席がざわざわし始めた。父さんは何も言わず俯いて黙っている。イースティンはメモを裁判長に渡した。
「一晩で二十六万五千ジオンですと! それは尋常ではない金額ですなぁ! 」
裁判長がまたそう言ってジュリアンとシンシアにそのメモを見せる。するとジュリアンが小声で裁判長に聞いた。
「二十六万五千ジオンてそんなに大金なの? 」
どうやらお金持ちの王族にはその価値が分からないらしい。ジュリアンの発言を聞いた裁判長は呆れ顔になったが次の瞬間シンシアがピシャリと言った。
「お兄様! 我が国では大学卒の初任給がおおよそ十八万ジオンですわよ! それ以上の額を貴族とはいえ借金を背負った被告がたった一晩で失うというのはただ事ではありませんわ! 」
傍聴席からシンシアを讃えるような歓声が起こった。この姫は本当にしっかりしている。だがその姫が父さんの不利になることを信じようとしているのだ。どうすればいいのか分からず僕はビルの方を思わず見た。
「裁判長、ちょっと宜しいですか? 」
僕がビルを見た瞬間ビルはそう言った。裁判長が少し嫌そうに答える。
「何だね? 」
「そのメモをちょっと見せて頂けますか? 」
ビルは裁判長のところへゆっくりと歩いていくとメモを見ながらこう言った。
「日付が五月の三十日とある。先ほどの『マヨコ』の被告人の訪店記録を見せて下さい。」
するとイースティンが早口でこう言った。
「五月三十日はマイヤーは来ているぞ、それはもう確認済みだ。」
イースティンの言葉を無視して訪店記録を見ていたビルだったが暫くすると裁判長の方を見てこう言った。
「なるほど、確かに被告人はこの日は朝方まで『マヨコ』にいたようですね。それは分かりました。しかしながらこの点数の記録は正しいものなのでしょうか? この記録にはマイヤーさんのサインがある訳ではありません。誰かが勝手に作ったものなのかもしれません。」
するとイースティンが反論した。
「貴様! では証人が嘘をついていると言うのか? 彼はこの法廷で宣誓をしているんだぞ! 」
「そうですか。……確かにそうですね。証人が嘘をつくなんてあり得ませんね、失礼しました。」
ビルはそう言うと口をつぐんだ。イースティンは少しほっとした表情をしている。だが暫くするとビルはまたウエストに質問をした。
「ところでウエストさん、あなたは生活費はギャンブルで稼いでいるのですよね? 」
ビルが唐突にそう聞いたがウエストは躊躇うことなく答えた。
「俺っスか? そうっスよ。」
「麻雀をやり始めてどれぐらいです? 」
「え〜と、二年ぐらいっスかね。」
「では腕前はそこそこ? 」
「俺、強いっスよ! マイヤーさんを負かせるぐらいっスから! 」
そうウエストが言った瞬間だった。ビルが早口で新たな質問をした。
「では麻雀の強いウエストさん、質問をします。子の二翻四十符でロン上がりは何点ですか? 」
するとイースティンが裁判長にこう訴えた。
「異議あり! 今の質問は審理に関係ありません! 」
「いや、関係ないことはない! 証人の麻雀についての技量を確認しようとしているのだ! 」
ビルは強い口調で言い返したが裁判長はそれを遮るように言った。
「被告側は質問を変えなさい。」
ビルは悔しそうな顔をした。だが一瞬の空白の後大きな声が法廷に響いた。
「裁判長、続けさせなさい! 」
それはシンシアの力強い言葉だった。シンシアはまだ幼いのに大人の論争を側で聴いていてその内容を理解しているのだ。その上で今のビルの質問がこの審理に必要だと判断したのだろう。僕はシンシアの頭の良さとこの法廷で大人すらひれ伏せさす威圧感を既に身に付けていることに正直感服した。




