Fake!
「裁判長、ちょっとよろしいですか? 」
ビルはゆっくりと立ち上がりながらそう裁判長に問いかけた。
「どうしたのかね? 」
「その領収書を少し見せて頂きたいのです。」
ビルは中央のデスクに座る裁判長のところへ近づいていった。裁判長は露骨に嫌そうな顔をしながらもビルに領収書を差し出す。ビルはそれを受け取ると今度は父さんのところへ行ってこう言った。
「マイヤーさん、これらの四枚の領収書に見覚えはありますか? 」
父さんは四枚の領収書を見ると一枚ずつ説明を始めた。
「一枚目の八十万ジオンの領収書は今の工場を買った時の借金を毎月返済しているものだ。で二枚目の五百二十万ジオンの領収書は下請けの会社への支払いで三枚目の四十万ジオンの領収書はお手伝いさんへの給料だ。で四枚目の千三百万ジオンの領収書だが……これは私が支払いをしたものではないな。こんな支払いをした覚えがない。受け取った前金は全て発注された剣の材料費に充てたのだ。こんな中途半端な金額は誰にも払っていない。」
父さんははっきりとそう言った。傍聴席に一瞬どよめきが起こる。ビルは質問を続けた。
「材料費は何という業者に払ったのです? 」
「貴金属を扱っている『セントラル・カアサイ』という業者だ。」
「ちなみにあなたの事業での月毎の売上はどれぐらいです? 」
「おおよそ九百万ジオンだ。」
そのやりとりを聞いていたイースティンが大きな声で言った。
「裁判長殿、『セントラル・カアサイ』の出納帳は既に調べましたがそのような入金はありませんでした! また被告の事業についても調べましたが九百万ジオンもの収入があることを示す帳簿の存在は確認出来ませんでした! 」
それを聞いてもビルは表情一つ変えることなく少し戯けた感じでこう言った。
「そうですか、都合の悪い書類は改ざんされたり消されたりしているのですかねぇ? 」
「どういう意味だ!? 」
そう声を荒げて叫ぶイースティンにビルは歩いて近づいていくと領収書を片手にこう問いかけた。
「まぁそうお怒りにならないで下さい。ところで話は戻りますが被告人は千三百万ジオンもの支払いはしていないと申しております。この領収書、何か間違っていませんか? 」
するとイースティンは顔を真っ赤にしてこう言った。
「今更何を言うか! ちゃんとサインがあるだろう! 」
「サインですか? 」
そう言うとビルは領収書をじっくり覗き込んだ。そして再び父さんのところに歩み寄りこう言った。
「マイヤーさん、これはあなたのサインですか? 」
「いや、違う。それは私のサインではない。似せて書いているようだがよく見ると他の三枚とは少し違っていると思わないか? それに筆跡がやけに薄い。薄すぎて不明瞭なのだ。おそらく偽造する為に意図的にそうしたのだろうがな。」
父さんはまた力強くそう言った。傍聴席が再び騒つく。ビルは領収書を手に今度は裁判長のところへ行ってこう言った。
「裁判長殿、他の三枚に比べてこの一枚の領収書は明らかにサインが薄いです。それに私のような素人から見てもこの筆跡は他のものと似てはいますが違うような気がします。如何でしょうか? 」
筆跡を鑑定する機械でもあればいいのだが今の時代にそんなものはない。裁判長は困惑した表情でビルから領収書を受け取るとそれをまじまじと見つめた。すると裁判長の横にいたジュリアンとシンシアもその領収書を覗き込んでいる。シンシアがポツリと言った。
「確かに薄いわ。それに言われてみれば筆跡も少し違うような気がする……。」
それを聞いたビルはイースティンの方へまた近寄っていってこう言った。
「イースティンさん、この領収書には本当に間違いはないのですかな? 」
するとイースティンは顔を真っ赤にしてこう言い返した。
「あ、当たり前だ! それについては証人もいるのだ! 裁判長! ここで証人を呼びたいのですが! 」
「宜しい。呼び給え。」
裁判長のその声を聞いて僕の横に座っていた白いポロシャツにグレーの綿パンを身に付けた男が立ち上がった。先ほど法廷に入ってきた四人の男のうちの一人らしい。その男が証言台に立つと裁判長がその男に質問をした。
「あなたは良心に誓って真実を述べ、また何事も隠さず嘘偽りを述べないことを誓いますか? 」
「おぅ、誓うでぇ。」
その男はでっぷりと太った大男で髪の毛はクリクリのパーマを当てている脂ぎった男だった。顔は爬虫類のトカゲのような顔をしており低いドスの効いた声を発している。その男に裁判長が質問をした。
「あなたの名前は? 」
「サガラー・ガラコや。」
「職業は何を? 」
「金融屋や。」
するとイースティンが裁判長にそのサガラーと名乗る男の補足説明をした。
「彼はクオーリーメンで所謂金貸しを生業としております。彼は被告人に千三百万という大金を貸し付けていました。その領収書は彼から提出されたものです。」
サガラーはイースティンの言葉に続いてそのドスの効いた声を法廷に響かせた。
「あれは確か五月の終わり頃でしたかいな。マイヤーさんが血相変えてワシんとこの事務所に駆け込んできはったんや。どないしはったんでっか? て聞いたら下請の業者さんに払う金がないっちゅうんですわ。すぐ返すて言うてはったし困ってはるんやろなぁと思うたからワシは言われるがままにお金を貸したんですわ。」
「なるほど、でそのお金が返ってきた時に発行した領収書がそれという訳ですかな? 」
裁判長にそう聞かれてサガラーは大きく頷きながらこう答えた。
「そや、でもその金はなかなか返ってこんかったんや。ようやく返ってきたと思うて喜んだんやけどこんな汚い金やったとはなぁ、そこにいはるマッケンジーさんに申し訳ないわ。」
サガラーは大袈裟に身振り手振りを付けてそう裁判長に説明した。どこか胡散臭い野郎だ。僕は内心ムカムカしながらも俯いて黙っている父さんが口を開いて反撃するのを待った。




