事件発生
疲れはてた英雄は、街の散策も程々に喫茶ボロンゴへと戻っていた。
「おやっさん‥ココアお代わり‥」
やけココアをしながら、カウンターに項垂れる英雄。
「おいおい英雄君、飲み過ぎだよ‥何があったか知らないが身体に悪いよ?」
項垂れる英雄を見て心配するおやっさんが見かねて声をかける。
「いいから!いいから注いでくれっ!」
自暴自棄の英雄に、溜め息を吐いて新しいココアを注ぐ。
「俺なんて‥俺なんてヒーローになんか成れないんだ‥魔物とか人外にしか‥」
ココアで酔っ払うと言う器用な事をしながら英雄は泣き上戸になっていた。
おやっさんが何か声をかけようとしたその時。
「キャーッ!助けてーっ!」
「ひ‥英雄君!女子の悲鳴だ!事件だっ!」
女性の悲鳴を聞き、おやっさんが英雄に声をかけた。
「‥っ!おやっさん!行ってくる!」
「ああ、気を付けるんだよ英雄君!」
その言葉に手を上げて返事としながら英雄は駆け出した。
「くっ!悲鳴は何処から聞こえたんだ!?」
英雄は悲鳴が聞こえたであろう方角に向け、勘を頼りに走る。
「誰か‥誰か助けて!」
橋の上で女性が川に視線を向けながら叫んでいる。
川を見ると、まだ小さな子供が溺れていた。
「おっ、おかあさっ‥ゴホッ」
「ちいっ‥まずいっ!」
子供が沈んでしまった姿を見て英雄は焦った。
「今いくぞ!待ってろ!」
上着を脱ぎ去り川へと飛び込んだ。
「ガボッ、ゲボッ、ウエェ‥っ」
「大丈夫だ!もうすぐ陸地に出る!そのまましっかりと掴まってろよ少年!」
そして、何とか少年を抱えた英雄は陸地に辿り着いた。
「アァっ!アベルっ!」
母親がアベルと呼ぶ少年を抱き締め安堵の涙を流す。
「お、おかあさーん!ウェーンっ!」
「ふぅ‥間に合って良かった‥」
英雄は溜め息をつきながら言った。
「あ、有り難う御座いましたっ!お陰で息子が無事に‥」
「何、当然の事をしたまでさ」
ヒーローならここはこう言うだろう言葉を返した。
「おじちゃん‥有り難う!」
落ち着きを取り戻したアベル少年がお礼を述べた。
「おじっ!?‥うむ、川は危ないから余り近寄りすぎないようにな、アベル少年?」
「は‥はいっ!」
それだけ言うと英雄は背を向け、手を降りながら上着を片手に去っていった。
「‥かっ‥カッコいい‥」
少年の目に英雄は正にヒーローとして写っていた。