ヒーローになりたい
「え、嘘でしょ?嘘だよね?‥嘘っていってよ英雄っ!」
「何か禿がその字面の言葉使うと気持ち悪いっ!」
そう切り返すと、禿が四つん這いになりながら激しく落ち込んだ。
「あ、えーと‥ち、因みに何でも良いの?お願いは」
流石に神を自称する髪無しをこれ以上追い込めない英雄は話を反らした。
「ぐすっ‥う、うんっ!何でも良いよっ!只儂の権限だと10個迄で、転生先は流石に選べないけど、えへへっ‥」
急に子供っぽくなった禿に、若干恐怖しながらも話を反らせて安堵する英雄。
「んー、何でも‥なぁ‥」
考えるうちに、ふと子供時代に憧れていて、今も周囲には言えないが日曜日には必ずチェックしていたある事を思い出した。
「あのさ‥実は俺、正義の味方のヒーロー達が大好きなんだよね‥三十代で恥ずかしいけど‥」
明後日の方向を見ながら顔を真っ赤にして言う英雄。
「ふむ?正義の味方‥かの?」
「そうそう、正義の味方、あの変身とかして悪をバッタバッタと倒して、最後は大体皆でワッハッハの大円団で終わるアレ」
英雄の言葉に禿は一声唸ってから聞き直す。
「魔法使いや剣聖や、勇者とかでなくて変身ヒーローなのか?」
「いや、学生時代とかならそう言ったゲームっぽいのに憧れそうだけどさ‥流石に大人だし、まぁ三十代のオッサンがヒーローになりたいってのもアレかもだけどさ‥」
最後は消え入りそうな声で聞き取り難かったが、禿は何やら頷きながら英雄に言葉を返す。
「何やら新鮮じゃの‥他の神々達が言ってたが、最近の転生候補者達は悉く、やれ魔法じゃ、やれチートスキルじゃとしか言わないからのぅ」
まぁ、そんなもんだろうと英雄は思う。
「良かろう、ヒーローに転生じゃな‥種族を変身ヒーローに設定してやるから、お願いにはカウントせず10個叶えてやろう」
何やら若干裏技くさい事をしようと考えたらしい禿。
「え?いいのそれ?何か卑怯じゃない?」
「儂が認めたから良いのじゃよ」
決定事項らしい。
「いや、良いなら構わないけどさ‥」
「では、サクッとお願いを決めてくれるかね英雄?」
言われて英雄は考える。
「ん‥じゃあ、先ずは変身用のデバイス的なアイテムを‥」
「そんなもん[種族・変身ヒーロー]のセットに決まっておろう?」
「え?そうなの?」
「うむ」
マジか、と英雄は悩む。
「んー‥じゃあ、変身後のコスチュームを‥」
「それもセットじゃ」
「ちょっ‥なら、活動拠点‥」
「セットじゃ、喫茶店じゃろ?ヒーローなら付いてくるのが常識じゃろ」
英雄は絶句した。
「じゃ、じゃあ、巨大変形メカっ!これは流石に‥」
「巨大変形メカが無いヒーローなぞ居らんじゃろ、当たり前にセットじゃ、序でに高性能変形バイクにおやっさん、ライバルのダークヒーロー[後半には仲間になる]や、働いてないのに謎の収入もヒーローなら当たり前じゃ、他にもヒーロー番組あるあるは全てセットじゃからな?」
「何その謎のセットシリーズ‥」
お願いする事が無いんですが、と呆然と佇む英雄。
「まあ、ファンタジー要素満載の世界に、種族で変身ヒーローを希望するやつ何ぞ居らんからなぁ」
禿が頭をポリポリと掻きながら呟いた。
「そんな訳でかなり良いチョイスじゃの、英雄」
「いや、絶対におかしいだろ!?」
疑心暗鬼しか沸かない。
「まぁ、こうなれば魔法やスキルとかを選択するしか無いと思うんじゃがなぁ‥チラッチラッ」
自分の口から効果音を出しながらチラチラ英雄を見る禿。
激しくウザい。
「何がなんでもファンタジー要素を付けたいんだろ、アンタ‥」
冷たい眼差しで禿を見る英雄。