始まりのギガント
「‥ここは‥何処だ‥?」
呟いた30代後半位の男は周囲を見渡しながら、自分の置かれている状況に困惑していた。
頭がハッキリせず、先程から頭痛が止むこと無く男の思考を妨げていた。
「確か‥実家のトイレで壁付けの遠隔洗浄モニターの時計を併せていて‥」
その先を思い出そうとする度に、男に酷い頭痛が起こってしまい思考を中断されていた。
「いっ‥痛たっ‥なんだよこれ‥何でトイレじゃないんだよ‥何処だよここ‥」
男の周囲は、真っ白と表現する他無いほどに光だけが存在する空間だった。
[なんと‥なんと憐れな最後だ‥こんな悲劇的な死が赦されるのか‥否!断じて否!他の神々が赦そうと、この私が赦さん!]
男が頭痛と戦っているその時、謎のハスキーボイスが何処からともなく響いてきた。
「し、死ん‥?だ‥誰だ‥?」
声はすれども姿は見えず、男は周囲を見渡しながら呟いた。
[‥これはすまんな、実体を持つなど私の次元では必要ない事ゆえ‥暫し待つがよい、英雄‥]
その声と併せ、英雄と呼ばれた男の目の前に光が集まり、その光が人の形へと収束してゆく。
‥現れた人影は、痩せすぎな体に白いローブを着た高身長の男だった、髪色は金色で、とても長い顎髭を蓄えた老人であった、金色の髪は頭頂部から側頭部までが見事なまでに禿げていた。
「‥何か、有り得ない位に禿げが神々しく光ってる‥この部屋の光はアンタの頭が眩しいせいで光ってたんか‥」
英雄は理解した。
「そんな訳あるか、馬鹿にしてるのか貴様」
神々しい禿が憤慨した、その姿はまるで義憤に駆られた三國志の蜀が皇帝、劉備玄徳が如くに神々しく光っていた、禿てる部分が。
「大体、この姿は英雄のイメージしている神様の姿を模倣したにすぎん、もう少し何とかならんかったのコレ?」
神々しい禿が英雄にクレームを入れた。
「いや、そんな事言われても‥」
訳の解らない状況で訳の解らない人物から、自分のセンスに対していきなり謎のクレームを喰らい、混乱の極みを迎かえる英雄。
「‥まあ良い、それよりも英雄、自分がどうして死んだか覚えておるか?」
自分がイメージしていたらしい神様の姿になっている辺り、どうやら自分を神様だと言いたいらしい、神々しい禿が聞いてきた。
「た‥確か、トイレで中々出てこないウンウンを力の限り排出しようとして、それで‥」
そこで英雄はハッと気付いた。
「まさかっ!息みすぎて命まで使い果たしたのかっ!」
「違うわボケ、脳ミソ膿んでるんじゃ無いのか貴様は」
禿の鋭すぎる銘刀の様な切り口のツッコミが英雄の心を抉った。
英雄は思う、きっとこの禿は悪だ、と。
「話が進まんじゃろ、これじゃ‥もう儂が説明するから英雄は黙って聞いてろ」
禿は英雄にそう言うと英雄の思考など無視して語りだした。
「よいか英雄、お主は自宅のトイレの地下にある悪の秘密結社[ネオ・クリムゾン]の中枢部に浸入してしまい、幹部の[ヘル=アーク]の手により、お尻をプリンと剥き出しの状況で殺されたのじゃ‥お尻をプリンで‥な」
そう言うと哀しそうな表情で禿が目を伏せた。
所々に納得のいかない説明があるが、英雄は取り敢えず一番大事な部分を禿に聞き返した。
「いや、何か色々突っ込んで聞きたい部分が盛り沢山なんだけど‥てか、殺された?ヘルアーク?」
「うぬ、お尻プリン、での‥途中だったらしく15cm位出ておったぞ、お主のギガントがお尻プリンから‥」
「お尻プリン強調すんな!てか、途中まで出てたの!?てか、ギガントとか変な名前付けんな!」
英雄の魂の絶叫が木霊する。
「憐れなり、英雄」
「くっ‥糞があぁああぁっ!」
「そうじゃな、確かに」
「貴様っ!殺すっ!ゴロジデヤルゥウゥっ!!」
男泣きに泣く英雄は、その言葉とは裏腹に絶望に刈られながらその場に崩れ落ちた。
「だから、儂の話が進まんじゃろってば‥」
「煩い禿があぁあ!大体お前最初は自分を私とか言ってて何で途中から儂とかに変わってんだ!」
「いや、この姿に併せてみたんじゃよ、てへっ」
「アァアアアッ!何なんだよこの訳の解らない状況はァアアっ!」
「じゃから、お主の家の液晶ディスプレイの隠しパスワードが偶々当たってしまい、秘密裏に改造されていたトイレ形エレベーターが起動してネオ=クリムゾンの中枢部に行ってしまい殺されちゃったんだって、お尻プリンで」
「だ、か、ら!何で家のトイレが秘密結社とかの中枢部に繋がってんだよ!!」