プロローグ 滅びゆく小国の歴史
1943年ーーとあるヨーロッパの小国。
轟々とーー塵殺の唸りを上げながら炎が踊る。
熱せられた空気が風となって渦を巻き、炎を生み出す無数の光と影が、揺らめきながら入り乱れる様はーー見るも残酷な地獄絵図だった。
樹木が。大地が。街の家々が。荘厳な白亜の城が。
ありとあらゆるものが、炎の中で滅びを余儀なくされていく。たとえ燃え上がる事は無くとも、強烈な熱に晒されれば、変成や融解は免れる事が出来ない。触れるものに終わりをもたらしながら、炎は最早手の付けられない勢いに成長しつつあった。
だがーーその最中。
凄愴な大火の中心に、一人立つ王家筋の血を引く男の姿がいた。
辺りに在る諸々のものが熱に炙られて燃え上がり、崩れ落ち、割れ砕け、あるいは溶け去るその最中でありながら、その身体を庇護する者の気配は無く、衣服といえばボロ布同然の白いマント類で、身に纏っているだけという戦に敗れた総大将のあり様で。
怯えるでもなく。戸惑うでもなく。狂うでもなく。ましてや怒るでもなく。
ただ立ってーー
「……ぅぅううううううああああああああああああああああああああああッ!」
ーー吠えていた。
まるで獣の遠吠えのように、夜空へ顔を向けて悲哀の声を絞り上げる小国の王様。
真紅の炎を包むが如く、酷い重傷を負った身体を伸ばし、未だ英雄めいた鋭い瞳で、血を吐くかの如く殺伐たる叫びを放つその様は、死という概念は己の中には存在せぬ、といった雰囲気を感じさせるーー瞬間、小国の王様の全身から微量でありながらも力強い光が生まれる。そして淡く蒼い焔の揺らめきは、とある王国を照らしていく。
終わるべきものの一つがここに終わり、始まるべきものの一つがここに始まる。
その証を立てるか如く、ありとあらゆるものに滅びをもたらす灼熱の真ん中でーー小国の王様は悲劇を伝えるかのように遠々と吠えた。




