始まりの出会い
自分の人生で悩んでたことを面白おかしく書けたらな~っておもって書き始めました。
読んだ方のなにかの足しになってくれれば
幸いです(._.)_(((茶)
ーーを愛する者へ、祝福の声響かん
村の外れ、ひっそりと朽ち果てた小さな聖堂。
村人からも忘れ去られたこの場所に、その石碑はあった。
風化した文字はところどころ消えかかり、もはや誰がなんのために刻んだのか知る人もない。
それでも聖堂の神聖さは失われることなく、魔属のもの達は近づこうとしない。
この世界は人と魔が混在し、互いに共存する世界。
どちらが善悪などと世界大戦になったこともあったが、人から魔属、魔属から人に変容するという事実が「共存」の道へ進ませたのである。
当時の大戦ー100年も前の話ーを終結に導いた人物、人でありながら今だこの世を統治する者。
『全知全能の乙女』
そう呼ばれ、遥か遠い聖都に君臨するーこの村ではそれだけが世界の認識である。なぜなら自分達の今の生活に事欠かぬようすることだけが目下の課題なのだ。
朽ちた聖堂…ここに毎日のように通う一人の少年がいた。
名はアベル
まだ青年になりきれていない体躯は小柄で俊敏ではあったものの、魔属に比べればなんの取り柄も持たぬというのが彼の経験から得た結論だった。
なんせアベルの家族は、知らぬものがいないほど有名な魔属一家の、彼は長男であり唯一の「人」であった。
母は西にそびえる氷帝山を統べる『氷結の女帝』
女帝の怒りは村に氷河と飢饉をもたらすといわれーその実、村の貿易や商人の管理を司る彼女に頭の上がる者などいない。が、決して自らの住まう居城から出ることはなく、なかば伝説と化している。
父は地下ふかく秘伝の工房を持つドワーフであり、がっしりとした体躯は技術者に留まらない戦闘力を誇る『地の創造者』母と違いあちこち放浪するたちで、工房も息子達に任せて自由気ままに生きている。
8人いる兄弟たちも、ある年齢を境にそれぞれ魔属へと変容していった。
あるものは父の意思を継ぎ、ドワーフへと。
あるものは母に憧れ氷女へと。
長男であるアベルを除いて。
毎日かかすことなく通うアベルの日課は、聖堂に隠した「本」
この村で本は貴重であり、文字を読める者すら数人しかいない。
体を鍛えることも、魔法の練習も、あっという間にアベルを越えていく兄弟たちをみて諦めた中で、本だけが心の拠り所であった。
世界大戦に終止符を打った伝説の人物が、本の挿し絵からアベルに変わらず微笑みかける。
いつもと変わらぬ日常だった
息をきらして走り込んだ聖堂に、黒色のスーツらしい正装に身を包んだ紳士がアベルの本を手に取り、しげしげと眺める姿を見るまでは。
「おや、君がこの本の持ち主かな?」
二人の視線がぶつかり一瞬の間がひどく長く感じられる中、始めに言葉を発したのは紳士であった。
「…返してっく…くださいっ」
緊張と焦りで声が上ずった。
紳士の腕が僅かに上がった瞬間、反射的に身構える。
「そう構えなくても大丈夫。とったりはしないさ。珍しいものがあると思ってね。」
差し出された本を恐る恐る受けとる。
とりあえず、この紳士にアベルをどうにかしようという気はないようだった。
「本は読めるのかね?」
紳士の不思議と人を安心させる身のこなしや話し方がいつしかアベルの緊張を取り去っている。
「少し…ですが。本もまだこれしか読んだことがありません。」
「ふむ…。」
なにやら思案している紳士をよそに、またとない機会を逃すわけにはいかないとアベルも怒濤の質問責めをみせた。
「あなたも本を読めるの?おれっ、もっと読んでみたくて!どこに行けばもっと読めるんですか?この本に書かれてある『全知全能の乙女』が授かった神の力というのは本当なんですか?」
少し驚いた顔で見返す紳士は、ニタリと笑った。
「さしずめ、変わり者という点では私と同じようだな…いいだろう、招待状を書いてやろう。これさえあれば、好きなだけ本が読めるだろう。まずは『全知全能の乙女』を訪ねよ。」
懐から出した封筒は鈍く光を帯びており、豪奢な飾り模様がひときわ紳士のただならぬ正体を暗示しているようだった。
「あの、あなたは一体…?」
恐々受け取った封筒から目線をあげると、すでに紳士の姿は霞のごとく消えかかり声だけが聖堂にこだました。
「君の本に目指すべき場所が書いてある。辿り着くまでに問に答えられれば、全知全能の神の力を手にいれることもできるだろう」
呆然と立ち尽くすアベルをよそに、封筒に文字が浮かび上がる
『ーーを愛する者へ、祝福の声響かん』
え?たったこの問だけで全知全能の力が手にはいるっていうのか?
楽勝じゃん…
この時の楽天的な自分をボッコボコにしてやりたいという気持ちと、まだ気づかぬうちが花だという気持ちになるのはまだ先のお話。