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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter07. 茜色の世界
87/110

12

 アウーシャちゃんの部屋を出た私は、次に、「彼女」の部屋へと向かった。


 私の目的が、幹部の中にいる『嘘つき』を探すことだったなら……その目的は、既に果たされている。

 私は、『嘘つき』を見つけた。アウーシャちゃんが、『前の管理者』さんからの手紙を受け取っていないのにアカネに近づいていることを、知ってしまった。だから、もうこれ以上の「捜査」は必要ないはずだった。でも……。

 自分でもはっきりとは説明出来ないけれど、多分私の目的は、それだけじゃなかったんだ。誰が『嘘つき』であるかということよりも、もっと別のことを知りたかったんだ。

 だから、私はそこで「捜査」を打ち切ることはせず、別の幹部……ビビちゃんに会いに行こうとしていた。


 ビビちゃんの部屋は、さっきトイレを出るときにピナちゃんから聞いた話では、お屋敷の3階のアカネの部屋の近くだそうだ。このお屋敷では、階が上に行くほど重要な部屋があって、内装も豪華になっていく。一応、自称とは言えビアンカ王国の王女様であるビビちゃんは、他の幹部とは別扱いで、アカネと大差ないレベルのいい部屋が与えられているということらしい。

 階段を上って3階に戻った私は、さっきアカネが『管理者』の仕事をしていた部屋を通り過ぎて、ビビちゃんの部屋の前までやってきた。そして、その部屋の扉をノックしようとした、そのとき……。

 部屋の中から、ビビちゃんと他の誰かが話す声が聞こえてきた。


「どういうことですの、ビビ様?」

「詰まらない冗談はおやめになってね、ビビ様?」

「いや……だから、さっきから言ってるだろ? 別に俺だって、払う気がねーって言ってるわけじゃねーんだゼ? ただ、ここんところミスコンの準備とかでいろいろと使っちまったから、今は手持ちがなくなっちまってさ……。つーわけで、頼むから次の支払いはツケにしといてくれねーかって話を……」

「笑止。払うお金がないなら、私たちがあなたに従う理由はありませんわ」

「警告。これ以上聞き分けのないことを言うようなら、あなたの『秘密』を他の人間にバラしますわよ? それは困るのでしょう?」

「あ、ああ。それはまだ、ダメだゼ……」

「だったら、四の五の言ってないで……」


 つい、とっさに聞き耳をたててしまった私。どうやら声の主は、昨日ビビちゃんが私を「襲撃」した時に一緒にいた、「手下」の2人のようだ。いや……今の彼女たちの話を聞いた感じだと、2人はそもそもビビちゃんの「手下」なんかじゃなくって……。

 好奇心よりも罪悪感が勝ったのか、私はそこではっと我に返る。そしてビビちゃんの部屋から離れて、様子を伺うことにした。しばらくするとドアが開いて、部屋から2人の人影が出てきた。

 それは、やっぱりあの時ビビちゃんのそばにいた2人だった。


「はあ……。もう少し、ご自分の立場というものをご理解されることですわね、『ビビ様』」

「あなたが『ビアンキ・ビアンカ王女』でいられるのが誰のおかげなのか……。それを思い出せたなら、またご連絡くださいな、『ビビ様』」

 そんな捨て台詞を残して、部屋を立ち去る2人。そのとき彼女たちが発した『ビビ様』という言葉は、前よりもずっとわざとらしくて、厭味ったらしい言い方だった。

 2人を見送るように、この前のとは違う深緑のドレスに身を包んだビビちゃんも、部屋から現れる。

「いや、もうお前らの力は借りねーことにするよ。もとから、こんなこと頼んだ俺の方がどうかしてたんだゼ……」

 力なく立ち尽くして、そう呟くビビちゃん。

 どうやら、彼女たちの間で何らかの交渉が決裂してしまったらしい。そしてそれはおそらく、さっき手下の1人が言っていた「契約」……。その「契約」の内容についても、私にはなんとなく想像がついていた。



 「手下」の2人が完全に見えなくなったことを確認してから、1人で部屋に戻ろうとしたビビちゃんの前に、私は姿を現した。

「……てっめえ」

 私のことに気付いた彼女は、「さっきの、見てたのかよ……」と、私をするどく睨みつけてくる。でも、その睨みはすぐに収まって、無表情になった。

「ふん……。今回は見逃してやるから、痛い目見たくなかったら、とっとと消えるんだゼ」

 「襲撃」されたときも思ったけど、どうやら彼女、パッと見の見た目や15歳っていう年から想像するよりは、ずっと、その中身は落ち着いた性格のようだ。もしかすると、普段のキレやすいヤンキーっぽさは、わざとやってるのかもしれない。

 特に私には興味を示さずに、ビビちゃんはまた部屋の中に戻ろうとする。私はあわてて、彼女の腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと待って!」

「ああん?」

 また、これまでみたいなガンを飛ばしてくるビビちゃん。でも今の私には、その眼光はどことなく無理をしているようにも見えた。

 怯むことなく、私は彼女に言う。

「わ、私、ビビちゃんのこと、もっと知りたいんだ! ビビちゃんともっとお話がしたくて、それで……」

「あぁ? 話だぁー?」腕をつかんでいる私の手を、乱暴に払いのける彼女。「てめえ、もしかしてさっきのことで、俺の弱みを握ったとでも思ってんのかよ? そんで、俺をゆすろうってのかぁ?」

「ゆ、ゆする!? そ、そんな!」

 もちろん、そんなつもりは毛頭ない。そうじゃなくって私は、本当に、ビビちゃんと……。

「はっ……やれるもんなら、やってみろよ。言ったよな? 俺は、腰抜けのお前のことなんか、ちっとも怖くねーって。格下の俺にビビッて反撃も出来なかったお前に、そんなこと出来るわけねーゼっ」

 全く聞く耳を持たないって感じの彼女。この前の「襲撃」のときの情けない姿を見て、彼女は私のことを完全に軽蔑してしまったらしい。


 でも確かに、それも、無理もないことなのかもしれない。

 彼女が、本当にビアンカ王国の王女様なのかどうか。それは、私にはまだ分からないけど。でも、少なくとも私が見てきたこれまでの彼女は、一国の王女様と同じくらいに……いや、ある意味ではそれ以上に、覚悟と意志の強さを持った人のように思えた。

 アカネに危険を及ぼすかどうか見極めるために、出会って数時間しかたってない私を、「襲撃」したり。その私が、自分よりもはるかにたくさんの魔力値を持っていたって知っても、少しも怯えたり逃げたりしなかったり。今だって、自分の弱みを握られちゃったかもしれないのに、こんなに堂々と振舞っている。

 そんな彼女からしてみれば、ちょっと凄みをきかせただけで身動き取れなくなってしまって、何も抵抗できなかった私は、「ただの腰抜け」でしかなかっただろう。取るに足らない、道端の石ころレベルの、どうでもいい存在なんだろう。


 それは、私には否定できない。

 だってあの時の姿は、私の本性だから。


 私は臆病で、独りよがりで、日和見主義で、自分が困ったときでも、何もしなくてもきっと誰かが助けてくれるって思っちゃってるような、どうしようもないバカだ。

 だから今だって、ビビちゃんのことが怖くてたまらないし。私に凄味をきかせている彼女と、これ以上話を続ける勇気もない。もしかしたら、彼女に本気で怒られないうちに、さっさと逃げてしまった方がいいんじゃないか、なんて……そんなことすら思い始めている。ビビちゃんに軽蔑されても当然の女なんだ。


 でも。

 あくまでもそれは、私1人だけの話だ。自分の行動が、自分1人の運命しか担っていない状態の話。そんなときの私は、自分でもいやんなっちゃうくらいにただの「腰抜け」で、どうしようもないほどのバカでビビリだ。

 だけど、今はそうじゃない。今の私の行動には、私だけじゃなく、アカネの運命も関わっている。私がビビちゃんと納得いくまで話せないってことは、アカネが傷つけてしまうかもしれないことに繋がる。それは同時に、アカネが作ったこの『亜世界』を傷つけるってことにも……。

 だから、私はもう「腰抜け」なんかじゃない。アカネがいる限り、私は、どこまでも強くなれるんだ!


「待って!」

 私はもう1度、ビビちゃんの腕を掴む。

 振り返った彼女は、またうっとうしそうに、私の手を払おうとする。だけど、今度はそうはいかなかった。

 今回の私は、彼女の腕をつかんでいる右手に強く精神を集中していた。「目的を果たすまで、絶対に放さない」っていう強い意志を、右手に込めていた。その私の気持ちに応えるように、薄赤いオーラのようなものが私の手に集まっている。まるで、私に正拳突きを繰り出そうとしたときのビビちゃんのように。

「……くっ」

 彼女は、私の手を払うことが出来ない。彼女がどれだけ抵抗しても、私の右手はびくともしない。魔力値5千の彼女じゃあ、本気を出した1万5千の私を、動かすことは出来ないんだ。


「てっめえ……やろうってのかよ……」

 敵対心をむき出しにしたビビちゃん。私に対抗するように、自分の左手にオーラをため始めた。さすが、覚悟と強い意志を持っている彼女だ。さっき自分で自分のことを「格下」と言ったくせに、ちっとも私に怯んでいない。

 でももちろん、私には彼女とバトるつもりなんてあるわけがないから、そんな彼女の臨戦態勢には応えない。

「違うよ……私は、貴女と話したいだけだよ。貴女のことを、もっとよく知りたいだけだよ……」

 もう彼女はどこかに行かないだろうと思って、私はあっさりと彼女の腕を放してしまう。それから、じっと彼女を見た。

 彼女は前の時みたいに、腰を落として正拳突きの構えを取ってる。でも、今の私はそれを怖がったりしない。だって私は、彼女のことを知らなくちゃいけないんだから。アカネのために。そして、彼女自身のためにも……。

「俺のことを、知りたいだと? はっ! てめえなんかに、俺の何が分かるっ!? どうせてめえらは、上っ面だけ知って、俺のことを分かった気になりてえだけだろーがっ! てめえらなんか、信用できるかよっ!」

「違うよ。私が知りたいのは、ビビちゃんの上っ面なんかじゃないよ」

 私は、いたって冷静に、そう答える。


 ビビちゃんがどこの誰であるかだとか、どうしてこのお屋敷にやってきたのかとか……。今の私が知りたいのは、そんなことじゃない。私が知りたいのは、彼女の中身だ。彼女がどんなことを考える人間で、今、何をしようとしているのか。それを、知りたいんだ。

 彼女の立場や過去じゃなく、現在を知りたいんだ。


 だから。

 そのために私は、彼女に「ある問い」を投げかけるつもりだった。そのために、ここにやって来たんだ。

「ねえ、ビビちゃん……1つ、教えて欲しいことがあるんだけど……」

「ああんっ!? んなもん知るかよっ! てめえなんかに教えてやることなんか、1つもねーよっ!」

 彼女のそんな言葉を無視して、私は続ける。


 私が彼女に問いたかったこと……。本当のビビちゃんを知るための「問い」、それは……。


「ビビちゃん……貴女は、一体どうやって魔力値を5千も集めたの?」


「なっ!?」

 その瞬間に、彼女の顔が引きつったのが分かった。明らかに、予想もしてなかったことを指摘されて、取り乱している様子だ。

「昨日ビビちゃんは、自分で言ってたよね? 自分の魔力値は、『5千ちょい』だって。

私が聞く機会があった他の人……例えば、ピナちゃんの魔力値は、確か3千。それから、コルナちゃんの場合は4千とかって言ってたかな? 他にも、私が知らないだけで、たくさんの魔力を持ってる人はいるだろうけど……私が知ってる中だと、最初から1万5千の魔力を持っている私とアカネを除けば、1番魔力値が多いのはビビちゃんだよ? それって、どうしてなの?」

「そ、そんなの、俺が知るわけねーだろっ! だ、だってこれは、他のヤツらが勝手に俺に『承認』してきて、気付いたら勝手に集まってきたせいで……」

 慌てた様子で、自分のピンク色の首輪を指さしているビビちゃん。でも私には、そんな彼女の態度が、何かを誤魔化そうとしているようにしか見えない。

「本当に?」

「ああ!? てっめぇーっ! 俺が、嘘ついてるとでも……」

「だって、ビビちゃんを含めたアカネの幹部の3人の中に『嘘つき』がいるかもしれないことって、みんなが知っていることなんでしょ? そんな状態で、ビビちゃんに『承認』をする人がそんなにたくさんいるなんて、思えないよ」

「そ、それは……!」

 反論が止まるビビちゃん。やっぱり、彼女は思ったよりもずっと頭のいい娘だ。私が言おうとしていることに、もう気付いてくれたらしい。それでも私は、一応説明を続けた。

「これが、例えばアウーシャちゃんとかコルナちゃんだったなら分かるんだよ。彼女たちは、宗教っていう強い結びつきがあるからね。どれだけ変な噂が流れていたとしても、その宗教の信者の人たちなら、彼女たちに『承認』を捧げることは充分にありえる。事実、コルナちゃんの魔力値4千は、多分それが理由だろうしね」

 そもそもピナちゃんが昨日言っていたように、彼女たちがこのお屋敷に幹部としてやってきた目的が、自分たちが所属する宗教団体を大きくすることだとしたら。それは、当然のことなんだ。自分たちの集団を代表する存在として、黒狼教団はコルナちゃんを、トリヴァルア教はアウーシャちゃんを、このお屋敷に派遣してきた。だったら、その代表者がこのお屋敷で上手く立ち回れるように、事前に信者の『承認』を彼女たちに集めておくというのは、容易に想像がつく。

「でもさ、ビビちゃんはそうじゃないよね? ビビちゃんは、国交のない遠くの国から亡命してきた、王女様。……ってことは裏を返せば、今この国でビビちゃんのことを知っている人は、誰もいないってことだよ? 素性は知らない。熱心な信者がいるわけでもない。だけど、変な噂だけはある……。言っちゃ悪いけど、そんなビビちゃんが幹部の中で1番『承認』を集められている今の状況は、どう考えたっておかしいんだよ」

 更に言うなら。

 ビビちゃんの故郷ビアンカ王国と、このお屋敷がある国には国交がない。ってことは同時に、ビアンカ王国にはまだ『承認』ネットワークが広まっていないってことも意味する。しかも、今現在ビアンカ王国側ではビビちゃんの所在を掴めてなくて、神隠しにあったとか言ってる状態でもあるわけで。

 そういうことも考慮すると、ビアンカ国民がビビちゃんに『承認』しているって線も、あり得ないんだ。

 じゃあ、ビビちゃんの魔力値5千は、一体どこから出てきたのか?


「だから……ねえ、教えてよ? どうしてビビちゃんは今、そんなに魔力値を持っているの?」

「……」

 取り乱してた態度は既に元に戻っていて、今は、静かに私のことを見つめている。その視線は、さっきのようにただ睨みつけている感じとも違う。何か、私の言葉の真意を品定めしているようでもあった。

 それから、やがてビビちゃんは、

「んなこと聞いて、どうすんだよ……?」

 と、私の質問を質問で返してきた。

「それを知ったら、なんか変わんのか? てめえがそれを知って、どんなメリットがあるってんだゼ?」

「め、メリット……? メリットって言っちゃうと、ちょっと、すぐには答えられないけど……」

 でも……。

「でも、多分それを教えてもらえれば、私はビビちゃんのことをもっと知ることが出来ると思うんだ。さっきの私の質問の答えが、ビビちゃんの本質に繋がっている。そして、それは多分アカネを守ることにも、繋がっているって思えるから……」

 ビビちゃんが求める答えには、なってなかったかもしれない。

 変なこと言うヤツって思われてしまったかもしれない。

 だけど。それは紛れもなく、私の本心だった。

「……だから、私はそれを聞きたいんだ。聞かなくちゃ、いけないと思うんだ」


 実は……。聞くまでもなく、その質問の答えを、大体分かっていたんだ。どうしてビビちゃんが魔力値5千を持っているのかについて、何となく、想像がついていることがあったんだ。

 でも、それについてちゃんと彼女の口から理由を聞きたかった。私の想像だけじゃなく、直接彼女の口からそれを言ってもらうことが、何より意味があることに思えた。

 だから私は、彼女に今、それを尋ねているんだ。


「ふん……」

 ビビちゃんはそこで、小さく笑った。

「変なやつだゼ……おめえはよ」

 そう呟くと、また私に背中を見せて、自分の部屋の中に入っていってしまう。でも、今度は部屋の扉は開けたままだ。

「入れよ。続きは、部屋の中でだ」

 彼女は、私を部屋に招いてくれていたんだ。ということは、私の気持ちは少なからず彼女に伝わったのだろうか? だとしたら、うれしい……。

 私は、言われるままに部屋に入った。



 ビビちゃんの部屋は、やっぱりアウーシャちゃんのそれとは全然違って、だいぶ広かった。面積だけで言ったら、相当広く思えたアカネの部屋と、大して変わらないだろう。でも、そんな広い部屋の室内には、アウーシャちゃんと同じで、家具がほとんどなかった。そのおかげで、広い室内がよけいに広く見えて、寂しい感じがするくらいだ。アカネが、幹部の人たちに部屋だけ用意して、家具を付け忘れるなんてことはないだろうけど……。

 その光景は、ちょっと不思議に思えた。


「その辺に、適当に座ってろ」

 部屋の真ん中あたりにある小さなテーブルを指して、ビビちゃんは言う。そのテーブルの4つある席のうちの2つは、最初から斜めに動かされていた。きっと私が来る前にいた「手下」の2人が座っていたんだろう。私は言われるままに、斜めになっている椅子のうちの1つに、腰かけた。

 その部屋にも、やっぱり小さめのキッチンはついているようで、ビビちゃんがそこから陶器のグラスを持って来るのが見えた。

「あ、お茶とかそんな、気を遣わなくてもいいよ!?」

 一応、ビビちゃんは王女様なわけだし。王女様に、私ごとき小市民がお茶をついでもらうなんて、申し訳がない。そう思って、むしろ自分が気を遣ったつもりで、私はそんな台詞を言う。それに対して、ビビちゃんは、

「あぁんっ!?」

 と、またまた私を睨みつけてきた。

「何言ってんだてめぇ!? 俺が、てめえに茶なんか出すわけねーだろーがっ! クソ下らねーこと言ってると、ぶっ殺すゼっ!」

「え……?」

 あ、あれ? だって、今ビビちゃん、グラスを持ってきてたから、それってつまり、お茶を用意してくれてたってことじゃあ……? でも、よく見てみるとちょっとおかしいことに気付く。

 だって彼女が、持ってきたのは、不透明な陶器のグラスが1つだけ。ティーポットもピッチャーも、何もない。確かに、彼女は私にお茶を出そうとしてくれたわけではないみたいだ。

 それから、ビビちゃんはそのグラスを逆さ向きにして口のつく方を下に向けて、テーブルの上にドンと置く。そして、テーブルを挟んだ私とは向かい側の席にドカッと座ると、言った。


「このグラスを使って、今から、ちょっとしたゲームをしよーぜ。そのゲームに俺が負けたら、てめえが知りてえことを何だって答えてやるよ。でも俺が勝ったら、てめえはこの屋敷から出て行くんだゼ。てめえが持ってる、1万5千の『承認』を俺に渡してな」


 え?

「どうやらてめえは、ただの腰抜けじゃねーってことは分かったゼ。これまでの俺は、お前のことを甘く見てたらしーな」

 あ、あれ?

 な、なんか、思ってた展開と、違うんすけど……。

 私が思ってたのは……私の気持ちを分かってくれたビビちゃんが、自分の部屋に招いてくれて……それで、これから2人でお茶でも飲みながら、楽しくお喋りをするっていう感じで……。

「つまり、てめえは敵に回したら、油断ならねーやつってことだ。だったら、この場でぶっ潰しとく方がいいだろ?」


 そこで私は、思い出した。

 そうだ……。私は、とっくにビビちゃんのことを知っていたんだ。彼女が、初対面の私をいきなり「襲撃」するくらいに、覚悟と行動力がある、エキセントリックな娘だったって事が。

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