表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter07. 茜色の世界
78/110

03

 結局、私はその場の空気に流されて、説明を受けることになった。



「私は、このお屋敷で『管理者』様の秘書のようなものをさせていただいています、ピナコ・リルゴールです。お気軽に、ピナちゃんとお呼びください」

 そう言って、優雅に微笑んで見せたメガネっ娘……もとい、ピナちゃん。仕草は落ち着いていて大人びているけど、よく見れば容姿は同い年くらいに若く見えるし、変に気を遣うのもアレだと思って、言われたそばから私はその呼び名を採用することにした。

 それから、自分も自己紹介がまだだったことに気付いて、一度席を立ってから、みんなに聞こえるように言った。

「あ、私は七嶋アリサって言います。元はアカネと同じ世界にいたんですけど、突然『人間男の亜世界』の王子に召喚されて、その後『モンスター女』と『妖精女』の『亜世界』に転送されて……。それでついさっき、この『人間女の亜世界』に来ました。アカネとは学校も学年も同じの、友達で……あ、あと、部活も同じフットサル部ですっ」

 「友達」という言葉を言うときに何故か妙に緊張してしまって、最後変なことを付け加えてしまった。さっきアカネ自身が「私の友達」と言ってくれたのだから、別に何の遠慮もいらなかったはずなのに。

「へぇー。ナナちゃんって、そんなにいろんな『亜世界』に行ったんだぁー。すごぉーい」

「ふんっ……自慢すんじゃねえよっ」

「ふ、ふわわぁぁ……ほんとに、アカネ様と同じ世界の人なんですねえぇぇ」

「……」

 でも、口々に感想を言う女の子たちの様子を見る限り、どうやら私のそんな動揺は、誰にも気付かれずにすんだようだ。自己紹介の時間は滞りなく終わって、話題は次に進んだ。

「なるほど。つまり七嶋さんは、今までにたくさんの『亜世界』を経由して、この『亜世界』を渡り歩いてこられたのですね?」

「まあ、言っても自分の意志じゃなくって、無理矢理転送されてたんだけどね」

「つまりアカネ様とは、やって来たルートが違うということになるわけです。興味深いですね」

「あ、そうなんだ?」そこで私は、当然の疑問が頭に浮んだ。「あれ? そう言えばアカネって、どうやってここに来たの?」

「あ、それはねぇー……」


 それからアカネは、自分がやって来た経緯を私に話してくれた。

 今から2週間前に、この『人間女の亜世界』の前の『管理者』さんは寿命で亡くなってしまったこと。その人が死ぬ前に、「次の『管理者』には、この『亜世界』とは全くの無縁の、別世界の人間を選ぶこと」っていう『遺言』を残していたこと。

 そして……この『亜世界』には、前の『管理者』が残した『遺言』で次の新しい『管理者』を決めるっていうルールがあって、その言葉に従ったこの『亜世界』の研究者の人たちが召喚魔法を開発して、アカネを呼び出したってことを。


「……まあ、そういうことでして。アカネ様と七嶋さんは、全く無関係の者たちが行った2種類の魔法によって、それぞれ違う経路を経て、この『亜世界』に到着したということになるわけです。本来であれば、そんな風に召喚された2人が同じ世界の住人であることさえも珍しいことだと思うのですが、よもや、その2人がご友人同士だったとは……。これはもう、奇跡とでも言うべき事態かもしれませんね」

「き、奇跡ぃ……?」

「ていうかぁー。もしかして私たちって、運命の2人だったりしてぇー?」

「なっ!?」

 あ、アカネあんた、いきなり何言ってんのよ!? アカネの言葉に不意をつかれて、私はつい、変な声を出してしまった。ピナちゃん以外の他の娘たちも、アカネのその言葉に過剰に反応する。

「お、おいっ!? バカな冗談言うんじゃねえーよっ!」

「はうぅぅ……うらやましいですぅ……」

「……」

 最後の無言は、黒い布の人だ。あの人だけは、相変わらずリアクションがよく分からない。

 ってか、実際のところ、さっきのはアカネがふざけて言っただけなんだと思う。だから別に、その黒布の人みたく適当に流してよかったはずなんだ。それは分かっているつもりだったけど、私はなかなか気を落ち着けることは出来なかった。

 ピナちゃんは、そんな私をお構いなしに話を続けた。

「きっと七嶋さんは、今までたくさんの『亜世界』に滞在して、様々な経験をしてきたのでしょうね? 是非とも、そこでの冒険譚を聞かせてもらいたいです。それはきっと、この国の『亜世界』研究にとっても、大きな進歩となるでしょうしね」

「い、いやあ……冒険って言うほどのもんでもないっすけど……」

「だだ……とりあえず今のところは、先ほどアカネ様が言ったようにこの『亜世界』のことを説明させていただくことにします。他の『亜世界』のお話は、その後に聞けばよいでしょう。どうやら七嶋さんの『亜世界』に関する知識は、私たちが知っていることとそれほど変わらないようですし、詰まらない前置きも必要なさそうです。分からないことがあれば、その都度質問して下さい」

「あ、はい……」

「きっとこの『亜世界』も、七嶋さんが知ってる他の『亜世界』に負けないくらいに特別で、魅力的と感じると思いますよ……」

 そして、ピナちゃんは本題に入った。



「まず最初に説明しなければいけないことは、アカネ様……つまり『管理者』様が行使できる、特別な『力』のことですね」

「『管理者』の力……?」

「ええ。これはきっと、他の『亜世界』を渡り歩いてきた七嶋さんならば、当然知っていることだと思うのですが……そもそも『亜世界』とは、1つの世界が分断されてできた未完成で不確定な世界です。だからその世界の中には、いくつもの『未定義』な部分が存在する。そして、その『未定義』な部分は、『亜世界』にたった1人だけ存在する『管理者』様によって決定されるのです」

「あ、うん。確かにその話は、聞いたことあるよ」

 それは、一番最初に『人間男』のアカシニア王子から聞いた話と同じだったから、私にもすんなりと理解できた。まあ、実際に私がこの目で『管理者』が何かを決めているところを見たわけじゃないけど。でも、それを疑う余地はどこにもないだろう。だってその力を使って、あのバカ王子は『モンスター女の亜世界』のアシュタリア達のことを「人間よりも弱い」っていう風に定義してしまったわけだし……。

 んん……なんか、思い出したらムカついてきたぞ。アイツ、あんな、ほとんど詐欺みたいなズルい方法でみんなを苦しめやがって。次に戻るときにはなんかとかアイツの裏をかいて、ぎゃふんと言わせてやらないと、とても気が収まらな…………ん? あれ……? 『人間男の亜世界』に戻る……って、それってつまり……。

 何だかとても重大なことに気付きそうになっていたところで、ピナちゃんが説明の続きを始めて、私の考え事は中断されてしまった。


「つまり『管理者』とは、この『亜世界』を自分の想い通りに定義する能力を持っているのです。アカネ様まで続く代々の『管理者』様に引き継がれてきたその能力を、この『亜世界』では『亜世界定義(アプリケイト)』と呼んでいます」

「あ、アプ……? あ、それって……」

「ふふ……アカネ様の近衛兵たちから聞きましたよ? 七嶋さんは先ほどのパレードの最中に、まさにその亜世界定義の力をご自分で体験されたそうですね?」

「う、うん……」

 私がこの『亜世界』に転送されて、空から真っ逆さまに落ちていたとき。アカネの声で、「アプリケイト」という言葉を叫ぶのが聞こえたことを思い出した。そうか、あれが……。

「じゃあ私、あのときアカネに命を助けてもらってたってことなんだ……」アカネの方に体を向けて、あのとき言うのを忘れていたお礼を、今頃になって言う。「あ、ありがとうね。アカネ……」

「ううぅんー、気にしないでぇー」

「で、でも……」

「っていうかぁー。あんなの、全然大したことないんだよぉー? 魔法とか使えば、もっとすごい事出来る人なんてこの『亜世界』にはいっぱいいるんだからねぇー? だからぁ、ナナちゃんのこと助けられたのだってマグレみたいなとこあるしぃー。誰か落ちてくるのが見えたから試しにやってみたら、たまたま成功してラッキー、ってだけだよぉー」

 さほど興味もなさそうに、アカネはそんなことを言う。でもきっと、それはただの謙遜だろう。

 私が知っている真面目で責任感のあるアカネは、そんな風に適当な娘じゃない。彼女はきっと、空から人が落ちてきたことに気付いた瞬間から、その人を助ける方法を誰よりも真剣に考えたはずだ。そして、自分の亜世界定義の力を使うことに気付いて、全力で私を助けてくれたんだ。あのときの必死な叫び声が、それの何よりの証拠だ。

 私の考えを肯定するように、ピナちゃんも言う。

「アカネ様のお言葉を返すようで恐縮ですが、亜世界定義は、この『亜世界』のどんな高名な魔法使いにも真似することは出来ないくらいに唯一無二で、どんな大国の王が保有する権力よりも強力な力です。この『亜世界』で最強の力と言ってしまっても、けして言葉が過ぎることはないでしょう」

 ほら、やっぱりね。 

 まるで自分のことみたいに、ちょっと誇らしい気分になる私。でも。

「しかし……『大したことが出来ない』というアカネ様の言葉も、また1つの真実ではあります」

 え?

 自分が言ったことを、あっという間に覆すピナちゃん。

「実のところ、『現在』の亜世界定義で出来ることというのは、それほど多くない。そう言った意味では、今回七嶋さんの命が助かったのはマグレであり、『たまたま成功したラッキー』以外の何物でもないのかもしれない……」

「え? え? だ、だって亜世界定義って……『亜世界』を、『定義』出来ちゃうんでしょ? それって、この『亜世界』を好きに出来るっていうことで、つまりは、なんでもアリってことでしょ?」

「いえ、それは違いますね」

 ピナちゃんは、薄っすらと微笑みを浮かべながら首を振る。

「確かに亜世界定義は、『亜世界』を『定義』出来る力です。この『亜世界』についての未定義な部分を、自分の好きに出来る力です。……ですが、それは裏を返せば、未定義な部分以外には何の効力もないということでもある。実のところ、この『亜世界』にはもうほとんど未定義な部分なんて残ってないんですよね」

「未定義部分が……残ってない?」

 アカネがのんきに返事をする。

「そおだよぉー」

 それから、そのアカネの言葉をピナちゃんが継いで、言った。

「例えば七嶋さんが空から落ちてきたときの話で言えば……。本当に亜世界定義が何でも出来る万能の力であるならば、何も、風を使って貴女の体を浮かせるなんていう回りくどいことをしなくてもよかったと思いませんか? 例えば『七嶋さんの背中から羽が生えて、空を飛べるようになる』とか、『地面が柔らかくなって体を受け止める』とか。もっと確実にあなたを助ける方法は、いくらでもあったはずですよね? でも、実際にはそれは出来なかった。なぜならば、『人間には羽が生えない』ことや、『あの場所の地盤が強固である』ということは、既にこの『亜世界』で『定義されていた』ことだからです。過去の『管理者』様による亜世界定義か、あるいは、これまでに培われてきた人々の知識、常識の積み重ねによって、ルールのように既に決められてしまっていることだからです。そのように定義されてしまっていて確定している事柄は、いくら『管理者』様といえども、いまさら変えることは出来ません。だから、『大したことは出来ない』のですね」

「そ、そう……なんだ……」

「はい。だから現在の『管理者』様の亜世界定義で出来る事と言えば、せいぜい、今から後の『天候や風の向きを決定する』くらいなものです。それも、周辺地域の気候と矛盾しない程度の、ごく局所的で突発的なものだけですけどね」

 な、なーんだ……。

 なんか、拍子抜けしてしまった。

 いや……もちろんこの『亜世界』の『管理者』の力がどうだろうと、私には関係ないし。天気しか操れないって言うなら、それはそれで、別に構わないんだけどさ……。

 でも、最初にアカネが『管理者』やってたって知って、ものすごい力を持っているって話を聞いてから、ちょっとドキドキしちゃってたところも、あるにはあったわけで……。だ、だって、その……ちょっと前にアカネを傷つけてしまった私としては……その相手が、何でもアリの最強の力を持ってたりすると、流石に気が休まらない部分もあったりしたわけで……。

 なんて、最悪にクズい考えをしてしまった自分を後悔する暇もなく。ピナちゃんはそこで、聞き捨てならない言葉を言った。

「……と、実はここまでの話は、先代までの『管理者』様にのみ当てはまる話だったりします」

「え?」

「2週間前にこの『亜世界』にやってこられたアカネ様は、そんな私たちの常識を、あっという間に覆してしまいました。異世界人ならではの全く新しい考え方で、本来ならば『大したことは出来ない』はずの亜世界定義にブレイクスルーをもたらした。そして、これまで誰も達成しえなかったような、素晴らしい偉業を成し遂げてしまったのです」

「へ?」

 またまた、急に話を覆しちゃうピナちゃん。

 アカネの方を見てみると、今は謙遜することもなく、ちょっと照れくさそうな感じで顔をふせている。なんか、「まんざらでもない」って感じ……。

「もおぉーう。ほめ過ぎだよぉ、ピナちゃぁん……」

「あ、アカネが……? 偉業を……?」

「はい」

 それから今度は、ピナちゃんの方が自分のことのように誇らしげな態度になった。

「この『亜世界』の『管理者』となられたアカネ様は、ご自分の力を知った一番最初に、ある亜世界定義をされました。その定義の内容とは……『この亜世界には、まだ誰にも見つかっていない未知の物質が至るところに存在している』というものでした」

「未知の、物質……?」

「はい。アカネ様はそれを、『方舟物質(アーク・マター)』と名付けられました」

「それってつまり……ダーク・マターみたいな……?」

「改めて言われると、恥ずかしぃよぉー……」

 アカネはまだ、顔を赤らめて照れている。まあ、方舟とか言っちゃうあたりが、ちょっと中二っぽくて確かに恥ずかしいとは思うけど……。

「先ほども言ったように、この『亜世界』では既にほとんどの事が『定義済み』であるために、亜世界定義で行えることはさほどありませんでした。しかし、それはあくまでも私たちが目にしてきた範囲での、この『亜世界』の姿に過ぎなかったのです。私たちが見えている範囲では、既にほとんどの現象は、その原理や、背後で働いている物理法則が明らかにされていて、いまさら予想外な結果が起きたり、大きな変化が起こるとは思えない、『定義済み』の事柄でした。しかし、もしもこの『亜世界』に、まだ私たちには発見されていないような未知の要素(パラメーター)が存在していたとしたら? もしもそうであるならば、私たちが現在知っている物理法則は完璧ではなかったということになる。確かだと思っていた事柄が決して確定事項ではなく、あくまで『今のところはたまたまそう見えているだけ』の、不確かで曖昧な『未定義部分』になってしまうという訳です。そういった意味で、アカネ様が『箱舟物質』を形容するのに使った『まだ誰にも見つかっていない』という言葉は、とてつもない破壊力を持っていました。だってその言葉さえ付ければ、後はアイデア次第で、『管理者』様は本当にこの『亜世界』に自由なルールを作ることが出来るのですからね? そしてアカネ様は、『方舟物質』を使ってそれを成し遂げた……。『方舟物質』に、ある特別な性質を付与することで、凝り固まっていたはずのこの『亜世界』に新しいルールを作り上げたわけです……」

「へ、へー……」

 合いの手という名の、力の抜けたため息。

 何だか、あっけにとられてしまうというか……。話が途方もなさ過ぎて、いまいちピンとこないっていうか……。

 そんな私の気持ちが通じたのか(それとも、私の顔があまりにもアホ面になってしまっていたのか……)、ピナちゃんはその説明を一旦中断してくれた。そして私の前のテーブルに、何か文字のようなものが書かれているA4くらいの紙と、万年筆のようなペン。それから、結婚指輪のようにシンプルで飾り気のない、薄青い色のリングを置いていった。

「こ、これって……?」

 彼女はもったいつけるように一呼吸おいてから、説明を再開する。

「先ほど私が言った、アカネ様が『方舟物質』に付与した『ある性質』というのは……『人間の持つ魔力を伝播出来る』ということ。すなわち……音が空気中を振動となって伝わっていくように、魔力は、『方舟物質』を伝わって行くことが出来るのです。この性質が定義されたことによって、各個人が持つ魔力は、その個人の中に閉じたものではなくなり、相互間通信が可能になった。人から人へ、ピア・ツー・ピアでセキュアな、仮想魔力ネットワークを構築出来るようになったのです」

「ま、魔力……? ネットワーク……?」

 相変わらず、私はさっきまでの意味を完全には理解できていない。それなのに、更にまた別の話題が現れて、もう混乱がMAX状態になってしまいそうで……。

 ピナちゃんはそんな私に「小難しい原理の話はこれくらいにして。ここから先は、具体的にアカネ様が成し遂げた偉業を見てもらった方が良いでしょう」と言って、さっきテーブルの上に置いた指輪の横に、自分の手を広げて見せた。よくみると彼女のその左手の薬指には、テーブルのものと同じようなデザインのピンク色の指輪がはまっていた。

「ってか、左手薬指って……え? ピナちゃんって、もしかして既婚者……?」

 ソファから、「んふふぅ」という、アカネの笑う声が聞こえる。

 ピナちゃんも、微笑みながら小さく首を振ると、

「いいえ。この『亜世界』では、この指にリングをはめるということに深い意味はありませんよ……」

 と言いながら、自分の指から指輪を外して、水色の指輪の隣に置いた。

 すると……。

 どういうわけだかそのピンクの指輪がみるみる色を変えていって、すぐに、隣のリングと同じような水色になってしまったんだ。驚いている私に、ピナちゃんは説明する。

「このリングは、アトモス試験石という特別な石で作られていて、近隣の魔力帯域の集積率に反応して内部エネルギーが励起し、光学的屈折率を変える性質があって…………まあ簡単に言うと、これをはめている人間の魔力の強さを、色で教えてくれるのです。魔力がゼロの状態が青で、身に着ける者の魔力が高ければ高いほど、赤っぽい色に変わっていく。つまり、魔力の強さを可視化することが出来るのです」

 ピナちゃんは言いながら、またリングを自分の左手薬指にはめる。すると、水色になっていたそのリングは、すぐに元のようなピンク色に染まっていった。

「ね? 色が変わったでしょう? これは、私の魔力の強さをこのリングが表しているということなわけです……」

「う、うん」

 ……手品、かな? 率直な私の意見は、それだった。

 そりゃ確かに、この『亜世界』には魔法があるっぽいし、魔力っていうものが可視化出来るのはすごいかもしれないけど……。

「で、でも……それと、さっきの話が、どう繋がるの……?」

「はい……」

 ピナちゃんはゆっくりと頷く。

「もちろん、個人の魔力が分かることだけでしたら、大した意味はありません。実は、このアトモス試験石で作られたリングはそれ以外にも、『方舟物質』が構築する魔力ネットワークの端点となることもできまして……。むしろ、このリングにとって重要なのは、そちらの性質の方だったりするのです」

「魔力ネットワークの……端点?」

「先ほども言ったように、アカネ様が定義された『方舟物質』によって、この『亜世界』では魔力は伝播させることが可能になりました。そしてその伝播のネットワークの端点となるのが、このリング……。つまり、このリングを身に着けている者同士は、簡単な契約を結ぶことで、容易に互いの魔力を譲渡し合うことが出来るようになったのです。……それが、アカネ様がこの『亜世界』に作り上げた今までに存在しなかった新しいシステム……アカネ様による、全ての人間が幸福になれる完璧な世界なのです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ