10
あれから、どのくらい眠っていたんだろうか。
意識を取り戻したときに最初に目に入ってきたのは、ぽっかりと木の枝がなくなった空。宇宙飛行士ちゃんが帰ってきた時に、アキちゃんが『亜世界樹』の木をどかしたときのままの光景。
どうやらここはまだ、さっきの『芸術家』のステージのようだ。
相変わらず、空には薄く雲が覆っているけれど、その向こう側に、うっすらと太陽も透けて見えてきている。その位置もだいぶ高いようだし、もしかしたら、時刻的にはもうお昼くらいになってる? でも、ここは私の世界とは違うんだから、この『亜世界』の太陽の動きが私が知ってるのと同じとは限らないし……。
なんて、寝起きにしては妙にはっきりとした頭でそんなことを考えているうちに。私は横になって寝ている自分の後頭部に、違和感を感じることに気付いた。
いや……違和感というよりは、違和感が無さすぎることが気になるっていうか……。だって頭の下は、木の根っこが平らに敷き詰められた硬い地面のはずなのに。それにしては、何故か頭を高級枕が包み込んでくれているみたいな感じがしていて……。しかもその枕が、ほんのり温かいような気までしているという……。
え……も、もしかして……これって……。
「アリサちゃん、おはよう……」
「う、うわあぁぁーっ!」
突然目の前にアナの顔が現れて、私は思わず大声を上げてしまった。
体が寝ている状態の私の前にアナの顔が現れて、し、しかも頭の下には人肌の感触がする……ってことは、やっぱり今の状況って…………私がアナに、ひ、ひ、ひ、膝枕を、されてるってことで……。
「僕の太ももは、お気に召したかな……?」
「ぎゃーっ!?」
そこでようやく、私は慌てて体を起こして、アナの膝枕から逃げ出した。
「ななななななななな、何言ってんのよーっ! もぉーっ!」
び、びっくりさせないでよっ! なんでいきなり膝枕とかしちゃってくれてんのよっ! 私そんなの、頼んでないよね!? 頼むわけないよね!? もぉうっ! ただでさえアレなのに、イケメン顔のアナに膝枕なんかされたら余計にドキドキしちゃうっつーのっ! ほんと、勘弁してよねっ!
……ん?
よ、余計に? ただでさえ、って……どういうこと?
あ、あれ? それじゃまるで……私が女の子に膝枕されてドキドキするのは大前提、みたいになってない?
い、いやいやいや、そんなわけないし! 私がそんなことぐらいでドキドキなんかするわけないじゃんっ! そうだよ、女の子同士で膝枕するくらい全然普通だしっ! 何でもないしっ! つーか私だって、そんなの週3くらいでやってたしね! むしろ、女の子に膝枕してもらえないと熟睡できない体になっちゃってるってゆーか…………って、それもおかしいからっ!
そんな風に、テンションマックスで勝手に盛り上がってしまった私だったわけで……。つーか、起き抜けでこんなに興奮させないで欲しいんだけど……。
……おお? ちょ、ちょっと待ってよ……?
「ね、ねえ、アナ?」
「何かな……?」
「さっきまでの私ってぇ……アナの膝枕で、寝てたんだよね?」
「うん、そうだね……僕が作った催眠ガスで、ぐっすりだったよね……」
「で、ついさっき目覚めたばっかりってわけだと思うんだけどさぁ……」
「ふふふ……それが、どうかした?」
しかめ面の私と対照的に、余裕ぶった感じで微笑んで見せるアナ。
私は、恐る恐る続ける。
「も、もしかして貴女……寝てた私を起こすために、心の精霊を活性化させるとかいう『例の技』を、使ったりしてないよね?」
「………」
「ね、ねえ……?」
「…………さあ、どうかな?」
どうかな、じゃねーよ!
つーか、アナがどんだけとぼけても私には分かっちゃうんだからね? だって今の私って、めちゃくちゃ寝起きがいいだもん。『3周目』に最初にそれをやってもらったときみたく、頭の中があり得ないくらいにすっきりしてて、いつもの数倍考えごとがまとまるんだもん。こんなの、絶対おかしいもん……。
「ふふふ……」
ああー、もおーう!
この色ボケイケメンがぁ……。言っとくけど私、そういうの結構大事にしたいタイプなんだけど!? そんな、目覚まし感覚でポンポンおでこにキスされたら、たまったもんじゃないんですけど!?
「アリサちゃんって、寝顔は、結構可愛いんだね……?」
おーい、誤魔化すんじゃねーよ。
だいたい、「寝顔は可愛い」とか言っちゃってさ。お前それじゃ、普段の顔は別に可愛くないってことじゃん! 褒める振りして、バカにしてるだろ!?
くっそぅ……。アナだけは他の妹ちゃんたちとは違うと思ってたのにぃ……。やっぱりこの『亜世界』の妹ちゃんたちは、みんなひどい娘ばっかだ!
「ああ、やっと起きましたのね?」
そこで、別の誰かがこっちに近づいてくるような気配がする。声がした方を見ると、そこにいたのはアキちゃんだった。
「全く……貴女が急に飛び出した時は、私、本当に貴女の頭がどうかしちゃったのかと思ったわよ?」
うんざりするような表情で、彼女はそう言った。
彼女が言っているのは、さっき私が宇宙飛行士ちゃんに突撃していったときのことだろう。確かにあのときは、私の計画を知らなかった彼女とでみ子ちゃんをかなり驚かせてしまったし、アキちゃんのそんな言葉も、無理もないことだ。
……ただ、そうは言いながらも彼女は、私が竜巻で吹き飛ばされた時には、しっかり助けてくれたわけで。そう考えると、彼女って私が最初に思ってたよりもずっといい娘なのかもしれない。私は結構、アキちゃんのことを好きになっている自分に気付いた。
「あ、あはは……だってあのときは、ああするのが1番いいって思ってさ……」
「まあ、結局私たちもこの娘も、何事もなく済んだからよかったですけどね」
彼女はそう言って、両腕で抱きかかえている女の子を軽く揺する。それは、さっきまで大暴れしていた宇宙飛行士ちゃんだった。アナの催眠ガスの効果は絶大だったらしく、彼女はいまだにぐっすりと眠ってしまっているようだ。
「もう少ししたら、この娘も起きると思いますわ。その頃には、ちょっとは物分かりが良くなっているといいんですけど……」
「うん、そうだね……」
アキちゃんと比べると、彼女の背丈は半分くらいだろうか。抱きかかえられているその姿はまるで、アキちゃんがお母さんで、宇宙飛行士ちゃんが子供のよう……には、さすがに見えないな。アキちゃんの顔は子供を産んだお母さんにしては若すぎるし、宇宙飛行士ちゃんも、赤ちゃんって言うにはちょっと大きすぎる。どう見ても、小学校の低学年くらいって感じだ。
どちらかって言うと、ペットの大型犬と遊んでいる女の子って言った方が適切かも……。
……ま、まあ、それはそれとして。
アナが説明してくれた話によると、催眠ガスで宇宙飛行士ちゃんが眠ってしまったあと、アキちゃんは彼女を部屋に運んで、ずっと子守歌を歌ってあげていたらしい。それも、『芸術家』の職能でメッセージを乗せた特別な子守歌を。
彼女はその歌で、どうしてエア様が死んでしまったのか、とか。エア様が今までどれだけ宇宙飛行士ちゃんのことを想っていたか、とか、そういうことを宇宙飛行士ちゃんに伝えていたんだそうだ。
もちろん、それで宇宙飛行士ちゃんの悲しさや怒りが無くなるわけじゃない。今さらそんなことを知っても、彼女の気持ちは全然収まらないかもしれない。それでもまずは、落ち着いて真実を知ることだ。エア様がどんな思いで、今までの800年間を死につづけてきたのか……宇宙飛行士ちゃんもまずは、それを知るところから始めなくちゃいけないんだ。
それから、更にしばらくすると、
「お待たせしました」
と言って、『亜世界樹』の方からでみ子ちゃんも現れた。
どうやら、私と宇宙飛行士ちゃんが眠ってしまった後に、すぐに『研究者』のシフトも終わってしまったらしく、でみ子ちゃんも私たちと同じように今まで眠っていたようだ。
『錬金術師』のシフト時間(つまり、昼の1時)になって起きてきたでみ子ちゃんは、アナとアキちゃん、そして、アキちゃんが抱きかかえている宇宙飛行士ちゃんに順番に目をやってから、落ち着いた口調で話し始めた。
「全員揃いましたね? それでは、話し合いを始めましょうか。これから、姉様を失った私たちがどうやって生きていけばいいのかについて……」
「ああ、そうしよう……」
「そうですわね」
2人は、どこか悲しそうな……でも、しっかりと決意を持った表情で、それに答える。でみ子ちゃんも、同じ表情で頷く。
「『アドミニストレーター』を失ったこの『亜世界』は、もう長くはもたないでしょう。要を失った世界は、脆く儚い。これから先に出来ることは、静かに破滅に向かっていくだけです。……しかし、だからこそ私たちは、この『亜世界』を守り続けなければならない。姉様が遺してくれたこの『亜世界』の最期を看取るために、生き続けなればならないのです」
そんな風に話す彼女を見ている間、私は、少し心がジーンとしてしまった。
エア様の死を知った直後は、怒りで我を忘れてしまっていた彼女。宇宙飛行士ちゃんと同じように、アキちゃんとか他のみんなのこととか、エア様のいないこの『亜世界』のことなんて、どうでもいいって思っているように見えた彼女。自分のことでさえ見失って、完全に自暴自棄になってしまっていた彼女……。
そんなでみ子ちゃんが、「生き続ける」と言ってくれている。エア様のために、自分たちのために、生きることを考えてくれている。
いや……彼女だけじゃない。
自分がエア様を殺してしまったと思って、悲しみにくれていたアキちゃんも。感情を失くしてしまったように、無表情になっていたアナも。みんな、これから生きることを考えようとしてくれている。
妹ちゃんたちに悲しみや後悔を生み出し続けていた残酷な現実は、いつしか、彼女たちの心を前向きにするための「希望」のような存在へと変わっていたんだ。諦めや、強がりなんかじゃなく、エア様のために……。エア様がしてくれたことに応えるために……。そんな風に、彼女たちはエア様を失ったことを乗り越えて、そこから立ち上がろうとしているんだ。
「良かった……」
エア様の死の理由に気付いてからずっと、私の頭の上にのしかかっていた灰色のモヤのような心のつかえが、その瞬間に消え失せたような気がした。
良かった。本当に、良かった……。
さっき私が宇宙飛行士ちゃんに言ったことなんて、全然見当外れだった。私が、彼女たちに「エア様のために生きて行って欲しい」なんて言うまでもなく……彼女たちはちゃんとエア様のことを想って、生きる決意をしていたんだ。エア様との出会いを、エア様と過ごした日々を、無かったことにしないって決めていたんだ。
「ふふ……」
そこで、アナがこちらを見て微笑んだ。
「それは、違うよ……」
「え……?」
「僕たちが、これからも生きて行こうって思えたのは……僕たちだけの力じゃない。アリサちゃんが、いてくれたからだよ……」
「わ、私……?」
その言葉は思ってもいなかったものだった。
「君が、最後まで姉さんのことを信じてくれたから……。だから、僕らも姉さんのことを信じなくちゃって思えたんだ……。姉さんが命を懸けて守ってくれた僕らのことも……信じなくちゃって、思ってさ……」
でみ子ちゃんも、続ける。
「『アストロノート』に向かっていったときの貴女の気持ち……私たちにも届いていましたよ。ふ……。姉様との付き合いは私たちの方がよっぽど長いのに、まさか昨日今日ここにやってきたばかりの貴女に、姉様のことを教えられるとはね……。本来ならばかなり不本意な話ですが……不思議と、それほど不満には感じませんでしたけどね」
そしてアキちゃんも、私に目を合わせずに、
「っていうか……私たちが死んでしまったら、誰がお姉様の素晴らしさを後世に語り継ぐのか、って話ですわ! 貴女みたいに頭の悪そうな人間が、完璧にお姉様の素晴らしさを表現できるとも思えませんし……。仕方がないから、お姉様のいない地獄みたいな世界でも、我慢して生きててあげようって言ってるんですわっ!」
なんて言ったんだ。
そ、そうか、さっきの……。
私が初めてエア様に会ったとき、私の感情が激しく動いていたせいで、考えていたことがエア様にまで伝わってしまったらしい。それと同じことが、さっきの宇宙飛行士ちゃんのときにも起きていたんだ……。だから、あのとき私が考えていたことは、あの場にいたみんなにも伝わっていたんだ……。
私は恥ずかしく思いながらも、もっと別の感情が湧き出してくるのを感じていた。
さっき、アナが私のアイデアを認めてくれた時に感じたような感情。いや、それよりももっと強い気持ちで全身が満たされて、ゾクゾクッと震えてしまいそうなほど、体が熱を帯びてきたような感じだ。思わず、感情に任せて、大声をあげて叫んでしまいたいような気持ちになる……。
でも、やっぱり一番大きく感じているのは、「嬉しい」って気持ちかもしれない。
みんなが、元気になってくれて嬉しい。
みんなが、エア様の気持ちに応えてくれることが、嬉しい。
幸せに暮らすために、みんなが協力し合うことが、とても嬉しかった。
やっぱり、みんなは最高の妹ちゃんたちだ。お姉さんのエア様のことを、私なんかよりもずっとずっと大事に思ってる。
だから、本当は私なんかよりもずっと辛いはずなのに、エア様の気持ちを考えて立ち直ることが出来たんだ。本当にエア様のことが大好きだからこそ、エア様がいなくなってしまった世界でも、生きていくことが出来るんだ。
本当に、みんなに出会えてよかったって思うよ。
エア様も、きっとみんながいてくれてよかったって思ってるよ。
でみ子ちゃん、アナ、アキちゃん……それに、宇宙飛行士ちゃんもね。4人は、誰よりもエア様のことが大好きで、誰よりもエア様に愛されている、最高の………………え?
「……『エイリアン』の貴女には、きっと、これまでいろいろと迷惑をかけてしまったのでしょうね。本来ならば関係のないことで、貴女を悲しませてしまったかもしれません」
でみ子ちゃんは、柄にもなく穏やかな表情を作って、喋っている。
「貴女がこの『亜世界』にこようとくるまいと、いずれ、私たちはこのような事態を迎えていたことでしょう……。私たちが姉様の優しさに甘え、何も手を打って来なかった以上……いつかはこうなることは、最初から分かり切っていたことなのです。姉様の底抜けの優しさをもってすれば、全ての『パターン』で姉様が死んでしまうという悲劇がいつか起こってしまうことは、自明……あらかじめ決まっていたようなものなのです。ですから、もしかしたら以前の『パターン』で私は、貴女に何かひどい事を言ったかもしれませんが……その言葉は、もう忘れて下さい。それはきっと、貴女を追い詰めることで『パターン』に何か変化を起こそうとした、苦しまぎれの詭弁に過ぎません。本来貴女には、何の責任もなかったのですから」
「………………」
でも、彼女が喋っている言葉は、今の私には半分も届いていなかった。
「貴女としては、元の世界に戻るのにこの『亜世界』の『アドミニストレーター』の存在が不可欠だったのでしょう? 貴女が『亜世界』を結合させるために別の『亜世界』からやってきたということや、元の世界に戻るためには『アドミニストレーター』と契約を結ぶ必要があったということは、貴女の心を読んだ『アナリスト』から聞いています。それがこんな不測の事態が起きてしまって……元の世界に戻れなくなってしまったことは、不幸でしたね? まあ、気長に待っていてください。何とかして、『アドミニストレーター』無しで貴女を戻す方法を考えてみましょう。このまま、破滅を待つだけのこの『亜世界』に貴女を留めておくというのは、あまりにも不憫ですから……」
「…………」
「あれ……アリサちゃん? 眠っちゃってるのかな……? いや、これは……」
私はそのとき、考え事をしていた。
だから、でみ子ちゃんの言葉も、アナが声をかけるのにも、全然反応できずにいた。
これまでにないほどのものすごい速さで、脳内の情報が処理されていく。
今まで経験したこと、見聞きしたことを計算して、組み立てて、推測して、予想して……。バラバラに思えたそれらから、何かの答えを導きだそうとしている。
「それでは前置きはこれくらいにして……本題である、これからの私たちの『亜世界』での役割についてですが……」
「ちょ、ちょっと待ってもらえるかな、『研究者』……? なんだか、アリサちゃんの様子が、おかしいみたいなんだけど……」
私はまだ、考え事を続けている。だから、妹ちゃんたちが私をいぶかしげに覗き込むのも、気にしない。
「はあ……。『分析家』、貴女何を言ってるの? その『異世界人』の様子がおかしいのは、今に始まったことじゃないでしょ?」
もちろん、アキちゃんがめんどくさそうにそんなことを言うのも、気にしない。
「そいつは、元から頭がおかしいのよ。頭がおかしいから、今までいきなり変な行動を取ったり、お姉様や私たちに、平気でセクハラをしてたのよ?」
「…………」
それでも私は、まだ考え事をしていた。
「だいたい、こんなに胸が小さくてみじめな恰好をしているのに、お姉様の前で平気な顔をしていられたのだって、どう考えたって普通じゃないでしょう? 頭がおかしいとしか、考えられないでしょう? もしも、私がこいつと同じ顔と体をしていたとしたら、お姉様を見た瞬間に即座に舌を噛んで死にますわよ、絶対に。お姉様と比べて余りにも醜い自分を恥じる気持ちと、そんな醜い汚物を美しいお姉様に見せてしまってごめんなさいという、懺悔の気持ちからね?」
「…………」
考え事を、していたから……。
「確かに。この『エイリアン』の不細工さならば、本来はそうする方が自然ですね。ああ、もしかしたらこの『エイリアン』、今ごろやっと自分の醜さに気付いて、それで恥ずかしくなって黙り込んでいるのかもしれませんよ?」
「……く……」
か、考え事を……。
「で、でもさ……」
「ええ、きっとそうですわ! ねえ、『研究者』! こいつが恥ずかしさに耐えきれなくなる前に、早くこいつを元の世界に戻す方法を見つけてあげなさいよ! そうじゃないとこいつ、今に自分で自分を殺してしまいますわよ!? 別に、こいつが死ぬのについてはどうでもいいですけど、死体を片付けるのは面倒ですわ!」
「……く、……くく……」
「だから、早くこいつを元の世界に戻してあげなさいよ! あの……ほら……確か、『貧乳女の亜世界』だったかしら? に……」
「…ぐぐ、ぐぐぐ……」
「いや、それはもちろんそうなんだけどさ! でもアリサちゃんの今の様子は、そういう感じじゃなくって……」
ぷっちーん。
「お、おまえらーっ! いい加減にしろぉーっ!」
そこでとうとう、私はブチ切れてしまった。
っていうか、結構最初の方から全然考えごとなんか出来てなかったし! 普通に、私の悪口言われてるの聞こえてたからね!?
何だよ、『貧乳女の亜世界』って! 貧乳女しか存在しない世界とか……想像しただけで悲しくなるよ!
あとアナも、守ってくれる振りして「もちろんそうなんだけど」とか言ってんじゃないよ! それじゃあ、私が『貧乳女の亜世界』から来たこと認めちゃってるじゃないかよっ! そんなわけねーだろーがっ! つーか、そんなこと言いだしたら、お前らも全員同じ世界の住人だからなっ!?
「ああ、やっといつもの貴女に戻りましたね?」
「あんたが黙ってると、良からぬことを考えてるんじゃないかと思って、なんかヒヤヒヤするんですわ」
「良かったよ……。アリサちゃんはそうやって騒がしくしているときの方が、比較的どちらかというと、可愛い気がしないこともないよ……」
あーもー! 全然反省してないしっ!
結局、そんな風に彼女たちにツッコミを入れるのに忙しくて、私は考え事を続行することが出来なくなってしまった。
っていうか、実際のところは多分、彼女たちは私の考え事を邪魔するために、わざと私を馬鹿にしたって言う方が正確なんだろう。だってさっきのって、突然難しい顔して黙ってしまった私に対する、彼女たちなりの気遣いだったんだろうから。
で、見事それに成功した彼女たちが、次にとる行動と言うと……。
「それで? あんた、さっきから一体何考えてたのよ? 馬鹿にしてあげるから、言ってみなさいよ」
う……。
「そうですね。『エイリアン』である貴女の意見は、時として私たちの発想を超えることがあります。よかったら、何を考えていたのか教えてもらえますか?」
うう……。
やっぱり、そういう質問したくなっちゃうよね……。
そこは当然、聞かない訳にはいかないよね……。うん……。私も、流れ的にはみんなに説明した方がいいってのは、分かってるんだよ。ましてや、それがみんなに思いっきり関係することだとしたら、なおさらね……。
でも、実はまだ私、いまいちこの考えに自信が持ててないんだよね。考えがまとまる前にみんなに邪魔されたってのもあるけど、そもそもこの考え自体が、私の脳みそで分かる限界を超えてる気もするし……。私なんかが、確かな答えを出せるとも思えなくて……。だから、そんな不確かな状態で言葉にするのが、はばかられるっていうか……。
「うわ……。さてはこいつ、いやらしいこと考えてたんですわ……」
「ち、違うからっ!」
「じゃあ何なのよ、早く言いなさいよ」
「う……。えと……それは、その……」
「アリサちゃん……。いいから、言ってみてよ……」
「さあ、教えて下さい」
3人の妹ちゃんは、私の方を見つめている。私は、それからもしばらくは、この考えを言おうか言うまいか迷ってたんだけど……。
結局、私は覚悟を決めた。間違っているかもしれないけど、それでもいいから、彼女たちに聞いてもらいたいと思った。
そして、そのまとまりのない、夢とも妄想とも思えるようなアイデアを口にした。
「え、えっと……あの、あのね……? みんな、驚かないで欲しいんだけど、えっとね………………もしかしたら私たち、もう1度エア様に会えるかもしれない……」




