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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter01. Hello, Absolute World!
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06

 とはいえ…。

 何も考えもなしに戦ったって、多分ティオは救えない。レベル1の私が、レベル40くらいあるドラゴンからティオを救いだそうって言うんだもん。かなりの無理を通して、道理を引っ込めなきゃいけないんだ。どうすればこの状況を解決出来る?今の私に、一体何が出来る?

 ある意味絶体絶命で、結構絶望的ともいえるような状況だったけど、私の頭の中は割りと冷静だった。だって、私に与えられている「ルール」自体は、すごくシンプルなんだ。考えれば、とりあえず答えは必ず出る。それが、私たちにとって理想的な答えかどうかは別にして。


 この『亜世界』の唯一のルール。それは、「レベルが自分より上のモンスターには、絶対に勝てない」。ティオの言ってたそれをひとまず全面的に信じるなら、今の私が選べる選択肢はかなり限られることになる。無鉄砲に「たたかう」とか「にげる」を選んでも、絶対に失敗するんでしょ?だったら、あと私が出来るのは……。

 そこで私は、さっき「アレ」を見たときに、ちょっと気になったことを思い出した。あれってもしかしたら…。


 ティオを守るような私の行動が不思議だったのか、ドラゴンは一旦攻撃を止めてこっちの出方を伺っている。視線はそのドラゴンを睨みつけたまま、私はもう一度、頭の中にイメージを浮かべた。

 自分のステータスのイメージを。


七嶋アリサ

種族  :百合

年齢  :16才

レベル :  1

攻撃力 :  1

守備力 :  1

精神力 :  1

素早さ :  1

運の良さ:  1

スキル :百合魔法▽


 うん、相変わらず残念なステータスだ。

 いや、そうじゃなくって、今はそんなことはどうでもよくって…ほんとはよくないけど。

 とりあえず今は緊急事態だから、百合とか百合魔法とかの残念部分には目をつぶってあげることにする。それよりも、私が気になっていたことが他に、このステータスの中にあって…。

 それはずばり、スキルのところの最後に書かれていた「▽」って部分だ。


 「百合魔法」だけでも意味は通じるのに、「▽」ってのは一体何?最初見たときは誤記か何かの見間違いかと思ってスルーしてたんだけど、さっきのドラゴンのステータスにも同じことが書いてあったのを見て、そうじゃないってことが分かった。

 私の場合は「百合魔法▽」。ドラゴンの場合は「火属性魔法▽」。共通点は、どっちも魔法ってことだけど。

 でもこれって、もしかして…。

 私は頭の中に浮かんでいる自分のステータスの、その「▽」の部分に意識を集中してみた。すると…。

 「百合魔法▽」って書いてあった部分がスライドして広がって、その下に更に3行の文字列が現れたんだ。ああ、やっぱりね。

 つまりさっきの「▽」は、「ここにはいくつかの小項目がまとめられているよ」っていうことを意味していたってこと。パソコンで言うところの、フォルダーみたいな感じ?

 そんで、その「▽」の部分に意識を集中すると、そのフォルダーをダブルクリックしたのと同じような感じで、まとめられている内容を見ることが出来るようになるんだ。私がマグレで出した火の球の魔法は、「百合魔法」っていうフォルダーに入ってた中の1つでしかなくって、あれ以外にも私が使える魔法はあるんだ。

 もしかしたらその中には、この状況をなんとか出来るようなものもあるかも…?改めて、私は現れた3行の方に意識をうつした。


スキル :百合魔法▲

     ・少女たちの火遊び

     ・百合色コンフェッション

     ・姉妹の契り~世界を革命するキス~


 お、おお…。

 さすが百合魔法。一個一個の名前も、直視できないほどパンチが効いてるぜ…。その恥ずかしすぎるネーミングに、私は全身の力が抜けて地面に崩れ落ちてしまいそうになった。


 てか、もしかして最初に私が使った火の球の魔法って「なんとかの火遊び」ってやつのこと?1つだけ火って言葉が入ってるし…。

 うわあ…。私、気付かずにこんな恥ずかしい名前の魔法使ってたんだ…。「火遊び」しちゃってたんだ…。

 あと、その考えからいくと「なんとかの契り」っていう方は、『亜世界』を結合させるっていう例の契約のことかな…。バカ王子が言ってた、私が『亜世界』の『管理者』としなくちゃいけない特別な接触…ディープキス、のこと。ご丁寧についてるサブタイトルから想像すると、そんな感じがする…。っていうか、普通魔法の名前にサブタイトルとかつけなくない?あったまわるぅ…。

 このまま永遠にツッコんでられそうなくらいにそれらの魔法の名前は残念極まりなかったんだけど、ティオや目の前のドラゴンのことを思い出して、なんとか私は気を取り直した。

 よ、よし…。

 この際、もう名前はどうでもいいよ。ここで大事なことは、私には、「あと1つ使える魔法がある」ってことなんだ。「たたかう」も「にげる」も出来ない今、それがどんな効果を持った魔法なのかは分からないけど、選べる選択肢はこれしかないんだ。自然と私の意識は、最後に残った選択肢の「百合色コンフェッション」に向かっていた。


 そこで私はまた発見することになったんだけど、実はこの『亜世界』で「開かれたステータスの1項目に意識を集中する」っていう行為、すなわち、フォルダーの中身のファイルをダブルクリックするっていう行為は、イコール、「その項目についての解説を見る」っていう意味になるらしい。つまり私はそのとき、「百合色コンフェッション」っていう百合魔法に対して、ゲームで言うところのオンラインヘルプを表示したっていうことになる。そして、そのとき現れたこの魔法に対する解説っていうのが…。

「!?こ、これならもしかして…」


「うぎゃあーっ!」

 そのとき突然、ティオの叫び声が辺りに響いた。

 慌てて彼女の方に目をやって、私はショックを受けた。ドラゴンの吐いた火がいつの間にかティオのしっぽに引火していて、しかもどんどん体の方へと広がっていたんだ。

「そ、そんな…」

 すぐに駆け寄って彼女を助けてあげたいけど、周囲の炎の勢いが激し過ぎて、私もヘタに動くことが出来ない。

 もう迷ってる暇はない!

 私はさっきの魔法を使うことにした。「使い方」も、その「効果」も、もう私には分かっている。さっき私が見た解説文に書いてあった「あの効果」なら、きっとこの状況をなんとかしてくれる、ティオを助けることが出来る。そのことが、私には分かっていたんだ。


 体をまっすぐにティオの方に向ける。

 炎に蝕まれて、苦しそうに顔を歪めている彼女。そんな、見るに堪えない姿の友達を助けるために、勇気を振り絞って、私はその魔法を……。

「うにゃああーっ!」

 わ、私は、その魔法を、さっきの、「使い方」の通りに……。

「あ、熱いにゃー!うにゃーっ!」

 いや…。

 使うよ…?うん、使うってば…。

 だってあの魔法を使えば、きっとティオを助けることが出来るし…。多分、今の彼女を助けるにはその方法しかないと思うし…。ぜひとも、あの魔法を使いたいと思ってるんだけど……。だけどさ、これって結構勇気がいるって言うか…。私、「こういうの」初めてだから……。

「し、死ぬー!焼け死ぬにゃーっ!」

 わ、分かったよっ!使うよっ!使えばいいんでしょっ!

「ティ、ティオっ!」

 そこでやっと、私は本当に覚悟を決めた。そして全身全霊、出せる限りの大声を張り上げて、とうとうその魔法を「使った」。



「あ、あ、あ、貴女が好きっ!大好きっ!愛してるっ!貴女がいないと私はダメなのっ!ずっと一緒にいたいのっ!だから、だからティオ……死なないでぇーーーーっ!」

 その声をきっかけに、突然私の周りに眩しいくらいに輝くピンク色のオーラが現れた。そのオーラはやがて光の塊になって、勢いよくティオの方へと飛んでいく。そして、火に包まれていた彼女の体を優しく包み込んだ。


 きっとその場にいた誰にも、そのとき起こったことを完全には理解出来てなかったと思う。だってその魔法を使った私ですら、ワケわかんな過ぎて呆然としてたんだから。でも、魔法が成功したんだとしたら、これでティオは助かったハズ…。

 だって、さっき「百合色コンフェッション」のヘルプとして浮かんできた解説文、その「使い方」と「効果」は…。


『貴女が愛の告白をした対象は、レベルが1.5倍になったのと同等の能力を得る。ただし、この魔法の対象に出来るのは性別が女性の生物のみ。同時に複数の生物に効果を与えることは出来ない』


 えっと…これでよかったんだよね…?

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