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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter06. Alisa in A-posteriori World
69/110

08

「んー? ……んんんー?」

 木の「宇宙船」から飛び出してきた宇宙飛行士ちゃんは、地面にちょこんと着地してから、周囲を見回す。

 それから、「あっれぇー? あれれれぇー?」という可愛らしい声をあげながら、私たちのいる周囲を走り回り始めた。

「帰ってきたなのぉー。予定よりちょおーっと遅れちゃったけどぉー……あたちぃー、帰ってきたなのよぉー?」

「あ、あの……」

 何か話しかけようとする私のことも無視して、テトテトという効果音でも出すように、小さな体でコミカルに走る彼女。しばらくして、誰に聞くでもなく、こう言った。

「お(ねぇ)はぁー?」

「あ……」

 その瞬間、私は動けなくなってしまった。

「お(ねぇ)、どこなのぉー? お(ねぇ)に会いたくて、あたち、急いで帰ってきたなのよぉー?」

 彼女は、エア様たちにとって1番下の妹。だから彼女にとっては、すぐそこにいるでみ子ちゃんたち3人も「お姉さん」に当たるわけだけど……。でも、今の彼女が探しまわっているのが彼女たちではないことは、どう見ても明らかだった。

「お(ねぇ)ー? いないのぉー? 眠っちゃってるなのぉー?」

「……」

 草むらに頭をつっこんだり、木にのぼって周囲を見回したり、近くにいたリスのような動物を捕まえて尋ねてみたり……。さっきまでの私たちの重い空気とはまるで正反対の明るいテンションで、エア様を探し続ける宇宙飛行士ちゃん。

 そんな彼女に悲しい現実を伝えるのは、とてつもなく気が重かった。彼女の曇りのない笑顔を壊してしまうのが、怖かった。

 でも……。

 だからと言って、このまま黙っているわけにはいかない。

 でみ子ちゃんたち3人は、さっきからずっと口を閉ざしている。きっと、まだ自分たちの心の整理もついていないんだろう。だからそんな彼女たちに代わって、私は宇宙飛行士ちゃんに今の状況を伝えようとした。

「あ、あのね……驚かないんで欲しいんだけど……。実は、エア様は……」

 だけど、そこで彼女は、

「あぁぁーっ! 分かったなのぉーっ! かくれんぼしてるなのぉー!? お姉ってばどっかに隠れて、あたちのこと驚かそうとしてるなのぉーっ!?」

 と言って、にんまりと笑顔を作った。

「ち、違うの……そうじゃなくて、エア様は……」

「えへへへぇー。そうはいかないのぉー。そんな風に隠れちっても、あたちがお姉のこと、すぅーぐに見つけちゃうなのぉー!」

「お願い、私の話を聞いて! エア様は隠れてるんじゃなくって…………うっ!」

 その瞬間、宇宙飛行士ちゃんがいる場所を中心に、ものすごい勢いの突風が吹きぬけた。

 踏ん張ってないと吹き飛ばされてしまいそうなくらいの風圧。それは、最初に私の体の前側を吹き付けたかと思ったら、直後に、まるで往復ビンタみたいに今度は背中側を叩きつける。暴力的で乱暴な、1往復の風だ。私が知ってるのとは全然違っていたけど、でも、私にはすぐに分かった。これは、風の精霊を使った『亜世界』スキャンだ。

 そうだ。彼女は800年前に、エア様たちから精霊の力を借りているんだ。だから、アナと同じような『分析家』の職能だって使えてしまうんだ。さっき「宇宙船」から飛び出たときに、『錬金術師』の職能を使ったみたいに。


 突風で崩れた体のバランスを持ち直しているうちに、私の横をテトテトと彼女が走りぬけて行った。

「分かったなのぉーっ! お姉のいる場所、分かっちゃったなのぉーっ!」

 彼女の向かった先は、『芸術家』のライブステージ。その上の、ドーム状に盛り上がっているエア様の部屋だ。

「ちょ、ちょっと待って……!」

 そこに到着した彼女は、部屋の壁に手をかける。そして、エレベーターを起動するなんていう回りくどいこともせず、瞬きするほどの一瞬のうちに、その部屋を構成する木をまるごと風に『変換』してしまった。

 つまり、瞬時にエア様の部屋と、アキちゃんが『建築』した棺さえもが消え去って、その部屋の主の姿が目の前に現れたってことで……。

「わぁーい! お姉、見ぃーつけたぁーな、の…………え?」

 そこで彼女は言葉を失い、満面の笑みの表情のまま、一時停止したみたいに硬直してしまった。


 そのときの彼女のショックがどれだけ大きかったか。それは、私なんかには想像もできない。

 以前の私は、「宇宙に追いやられたことを逆恨みしている宇宙飛行士が、エア様のことを殺しに帰ってくる」なんて考えたこともあった。けど、それは完全な間違いだった。さっきまでの彼女の姿を見れば一目瞭然だ。彼女も他の妹ちゃんたちと同じように、エア様のことが大好きだったんだ。

 800年間暗い宇宙で1人きりの間、彼女はエア様に会えることを、ずっと楽しみにしてきたんだろう。無事に宇宙から戻った自分を、エア様が褒めてくれることを。優しくて温かいあの笑顔を、自分に向けてくれることを。そんなことを大好きなエア様に喜んでもらえることを夢見て。もう一度、エア様と一緒に暮らせることを信じて、それだけを唯一の希望にして、これまで頑張ってきたんだろう。

 それなのに、ようやく戻ってこれたときにはもう、エア様が死んでしまっていたなんて……。


 今の私が、彼女に対して何かしてあげられるとは思えない。でも、これじゃあ宇宙飛行士ちゃんがあまりにもかわいそうで……。私は、彼女の傍に行ってあげようとした。

 そのとき。


 ゆらぁ。


 突然、目の前の視界が斜めに傾いていった。

 立ちくらみでもして、体が倒れている……? とか思って、足に力を入れて踏ん張ろうとする。でも、すぐにそうじゃないことに気付いた。私の体が倒れているんじゃない。私が立っている地面そのものが、実際に斜めになっているんだ。

 というか、地面が沈んでいってる……!?

「ちょ、うそっ!? ま、待って……」

 さっきまでは確かに私の体を支えてくれていたはずの地面、つまり『亜世界樹』の根っこが、超局地的に地盤沈下でもするみたいにどんどん消滅していた。つまり地面の木が、空気に『変換』されていたんだ。

「お、落ちるぅーっ!」

 この『亜世界』は、『亜世界樹』が海に浮かんでできている。だから、地面の下は底なしの海だ。その海に向かって、私はなすすべなく落ちていってしまった……。


「つかまるのですわっ!」

 その声とともに、上の方からものすごい勢いで木の枝が伸びてきた。私は両手で必死にそれを掴む。すると、その枝は私を連れて、今度はものすごい勢いで上空に向かって上昇していってくれた。おかげで、なんとか私は海に落ちる前に、また地上へと戻ることが出来た。まるで、物語の「クモの糸」だ。もちろん、私にその糸をたらしてくれたのはお釈迦様じゃなく、『建築家』のアキちゃんだった。

「あ、アキちゃん、ありがとう。でも、今の落とし穴みたいのは……?」

 アキちゃんは私のその質問には答えずに、アゴをくいっと動かしてライブステージの方をさす。私がその方向を見てみると、そこには……ボコボコとチーズのように穴だらけになった地面と、その中心でこっちをにらみつけている宇宙飛行士ちゃんがいた。

「宇宙飛行士ちゃん……?」

「ああ、もう……。これじゃあ、お姉様が静かにお休みになれないじゃないのよ」

「アリサちゃん。もう少し、下がっていた方がいいよ……」

 そう言って、アナが私を自分の後ろに下がらせる。

「もうすぐ、ここは戦場になるからね……」

「え……?」



「お姉が……死んじゃってるなの……」

 こっちをにらみつけたまま、宇宙飛行士ちゃんが呟く。

「お前ら……何なの? 今まで、何してたなの……? お姉が、何でこんなことになってるなの……?」

 彼女の呟きとともに、周囲の地面に次々と変化が現れる。地面を作っている根っこが、別の物に『変換』されている。

 風に『変換』されて、さっき私が落ちた落とし穴みたいなっているところもあれば、水に『変換』されて池みたいになっているところや、火に『変換』されて地上に火柱みたいに噴き出しているところもある。多分、それらには何かの意味があるわけじゃなくて、無意識なのだろう。感情が抑えきれなくなった宇宙飛行士ちゃんが、無意識のうちに『錬金術師』の職能を使ってしまっているせいなんだろう。

 でみ子ちゃんが一歩前に出て、彼女に言う。

「久しぶりですね、『アストロノート』。貴女が生きて帰ってきてくれたことには、正直少し驚いてますが……しかし、とても喜ぶべきことだと思っていますよ。今まで長い間、本当にお疲れ様でしたね。……それだけに、既に姉様が死んでしまっているという今の状況は、貴女にとってはとても辛ことでしょう。認めたくないのも分かります」

「……っるさい……なのぉ……」

「ですが、それは何も貴女だけではないのですよ。私たち全員が、姉様の死という残酷な事実に、生きていく気力を失うくらいにショックを受けているのです。だから……」

「うるっさいなのっ! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいなのーっ!」

 宇宙飛行士ちゃんは叫ぶ。子供が駄々をこねるように叫んでいる。

 でも、でみ子ちゃんはお構いなしで言葉を続けていた。

「先ほどさんざん取り乱してしまっていた私が言うのもアレですが……もっと大人になってください。姉様は死んでしまったのです。それはもう、どれだけあがいても覆ったりはしない。だから今はただ、その死を悼み、静かに悲しみにくれるべきではないですか? これから、姉様の後を追って命を絶つとしても……」

「お姉が死んじゃうなんて、そんなのおかしいのっ! お前らのせいなのっ! お前らが、お姉を殺したのーっ!」

「ふ……それについては、否定はしませんけれどね。しかし、だからといって私たちを責めれば、それで姉様が戻りますか? そうではないでしょう? だったら、もう少し静かにしたらどうですか? 今は喪に服す時間なのですから……。まあとりあえず、貴女が800年前に姉様たちから借りた『力』は、返上しておいた方が良いでしょうね。特に、貴女が先代の『錬金術師』から借りた力は、まだ貴女が扱うには不相応なほどに強力なもので……」

「うっせえぇーって言ってるなのぉーっ!」

 宇宙飛行士ちゃんはそう叫びながら、小さな両手を勢いよくこちらに向けた。すると、爆発でもしたみたいに彼女の手から炎が噴き出してきて、私たちに向かってきた。

「だから貴女は、空気が読めないと言ったのです……」落ち着いた様子でその炎に対峙したでみ子ちゃん。「逆上して姉妹喧嘩とか……その(くだり)、もう終わってるんですよっ!」

 彼女はテニスのラリーでもするみたいに勢いよく右腕を払って、その炎を水に『変換』してしまった。水に変わった炎は、雨のように周囲を濡らしたり、他の炎と打ち消し合ったりしただけで、完璧に無害化された。

 良かった……。

 何かを、別の何かに自由に変換できるっていう反則級の能力を持っている宇宙飛行士ちゃんが、急に私たちを攻撃してきて、びっくりしちゃったけど。同じ職能を持っているでみ子ちゃんがいてくれれば、何も心配することはなかったんだ……と、思ったら……。

「まだだっ! 上だよっ!」

 アナの叫び声に、上を向く。すると目に入ってきたのは……え? 無数の大木……? 地面から引き抜かれたように根っこが露わになった巨大な木が、何本も雨のように降り注いできていたんだ。多分それは、宇宙飛行士ちゃんが上空の空気をいつの間にか、木に『変換』していたってことで……。

「ちっ……」

 さっきの炎に対処するために大きなモーションで動いたせいで、でみ子ちゃんはとっさには反応出来ない。しかも、そもそもその木の量が半端じゃないせいで、とても全部を『変換』して回る余裕はない。嘘……このままじゃあ……。


「ああもう……」

 すると今度は、アキちゃんがみんなの前に出てきて、ふっ、と勢いよく息を吹いた。たちまち、周囲の『亜世界樹』から枝が折り重なるように伸びていく。そして、あっという間に私たちを取り囲む簡易のシェルターのようなものが出来あがった。しかもそのシェルターは、上空から降り注いだ大木が突き刺さるたびにその大木を吸収して一体化していって、どんどん防御壁を強固にしていったんだ。

「あんまり変な素材を混ぜると、『亜世界樹』の質が下がっちゃうから嫌なのよね」

 なんでもない風に、そんなことを言うアキちゃん。既に、彼女がでみ子ちゃんの炎で負った火傷や傷は、アナが『農業家』の職能で調合した薬でほとんど完治していたらしい。


「す、すごい……すごいよ、みんなっ!」

 大木の雨をやり過ごせたのを確認して、単純な私は何も考えずに喜ぶ。

 さすが、宇宙飛行士ちゃんのお姉ちゃんたちだ。たとえ宇宙飛行士ちゃんが『錬金術師』の職能を使えたり、5属性の精霊を使えたりしても、みんながいれば全然大丈夫じゃん! ……でも、

「そろそろ、次が来るよ」

 そこでアナが、さっきと同じように緊迫感のこもった声で言った。よく見ると他の2人も、全然警戒を解いてない様子だ。

「分かって、ますよ……」

 そう言って、でみ子ちゃんはシェルターの壁の前に駆け寄る。すると、それと同時くらいで、いきなりシェルターの壁が炎に包まれた。というか、シェルターが丸ごと炎に『変換』されて、守られていたはずの私たちが、あっという間に炎に囲まれてしまったんだ。

 次の瞬間、でみ子ちゃんはその炎に右腕をつっこんで、その炎を更に水や木に『変換』しなおす。その反応があまりにも素早かったおかげで、炎が私たちの体に燃え移ることはなかった。

 そ、そうか……まだ安心なんかできなかったんだ……。『錬金術師』の職能の前では、シェルターとか防御力なんて、何の意味もないんだ。気を抜いたらやられる。そういう、ギリギリのところで彼女たちはやりあっていたんだ。全然大丈夫なんかじゃなかったんだ……。


 シェルターが消え去って、もう一度ステージの方が見えるようになると、そこにはさっきと同じようにこっちをにらみつけている宇宙飛行士ちゃんがいた。

「終わった……? 終わってなんか、ないなの……。お姉のこと殺したお前らが生きてて、お姉が死んでるなんて……そんなのおかしいなの……。そんなのじゃ、終われるわけないなの……。だからきっと、お前らをぶっ殺せば、お姉が生き返るの……。生き返って、あたちのこと、褒めてくれるなのぉ……」

 完全に頭に血が上ってしまっている様子の宇宙飛行士ちゃん。言っていることがまるで支離滅裂だ。

「お姉に会うために……お前らぶっ殺すなのぉーっ!」

 そう叫ぶと、彼女はまた周囲の物を炎に変換して、私たちを攻撃してきた。

「やれやれ……」

 でみ子ちゃんは、あきれるようにため息をつく。そして、

「姉様を失った今、私が死ぬこと自体は別に何の問題もないのですが……私の死体は、ちゃんと姉様の隣に寝かせてもらえるのでしょうね?」

「うるせぇーって言ってるのぉーっ! お前らなんか、燃えカスも残すわけねぇーのぉーっ!」

「ふ……。では、貴女にやられるわけにはいかないですねっ!」

 そんな風に、でみ子ちゃんはまた余裕ぶって、宇宙飛行士ちゃんの攻撃を打ち消して(キャンセル)してくれた。



 それからも、だいたいさっきと同じような展開が続いた。

 宇宙飛行士ちゃんの錬金術攻撃は、でみ子ちゃんが同じ能力でキャンセルする。そのときに隙が出来たら、アキちゃんが『亜世界樹』を使った防御でカバーしてくれる。宇宙飛行士ちゃんの攻撃のタイミングは、随時、風を読んだり心を読んだりしたアナが教えてくれる。全く隙のない3人の連携。まさに、鉄壁の布陣だ。

 しかも、逆上して思考が簡単になっている宇宙飛行士ちゃんの攻撃は結構ワンパターンなんだ。炎の錬金術攻撃か、作り出した木をさっきみたく空から降らせたり投げたり、あとは、地面を消して落とし穴を作ったりとかくらい。その組み合わせの順番にも法則性もあるっぽいし、でみ子ちゃんたちも、ある程度は対策が取れるようになってきてたみたいだった。

 でも。

 対策が取れるからと言って、それでこっちが勝っているってことにはならないと思う。

 宇宙飛行士ちゃんの攻撃を受けていることによる興奮で出てきたアドレナリンが、いい感じに影響したのか……今の私は、結構冷静に状況を判断できるようになっていたらしい。

 その冷静な判断で、分かってしまったんだ。この状況が、非常にマズいということに。


「い、いい加減……こんな不毛な争いはやめにしませんか……?」

「うるせぇーのぉーっ! お前らぶっ殺すまで、やめるわけねぇーのぉーっ!」

「はあ、はあ……だ、だから……お姉様がお休みなんだから……静かにしてって……はあ、はあ……言ってるでしょうが……」

「……」


 でみ子ちゃんたちは相変わらず、宇宙飛行士ちゃんの攻撃を完璧に防いでくれている。おかげで、いまだに誰1人ケガや火傷を負っている娘はいない。それは良かったんだけど……。でもそれも、もう限界だ。

 まず「攻撃を完璧に防いでいる」っていうのは、実は正確な言い方じゃない。もっと正確に言うなら、宇宙飛行士ちゃんの「攻撃を防ぐので精一杯」ってことなんだ。彼女の攻撃はワンパターン……だけど、1撃1撃が強力過ぎて、防御しなかったらその時点で即負けが決定する。だから、防御する以外の選択肢がとれなくなっているんだ。私たちは能動的に彼女の攻撃を防御しているんじゃなくって、彼女に防御を強制されているんだ。

 しかも。

 宇宙飛行士ちゃんの攻撃に対応し続けていたせいで、でみ子ちゃんもアキちゃんも、かなり疲れてきているようだ。攻撃タイミングを探知することに気を張っているアナも、いつ集中力を切らせてしまうかわからないし。

 一方の宇宙飛行士ちゃんの方は、怒りで疲れを忘れてしまっているのか。それとも、彼女の使っている能力が他の誰かの借り物だから、いくら使っても彼女は疲れないのかは分からないけど、さっき空から降ってきたときと全然変わったように見えない。つまり、このまま今の膠着状態が続けば、明らかにこっちの方が不利ってことだ。

 例えるなら、RPGゲームのボスに、パーティーのレベル上げが不十分な状態で挑んじゃった感じ?

 相手の攻撃パターンを読むことは出来るけど、それに対処するので精一杯。

 何とか相手のターンに受けたダメージを回復することは出来ても、自分のターンにダメージを与えることが出来ない。だから、こっちのMPが尽きた時点で回復が間に合わなくなって、後は一方的にやられちゃうだけっていう……。


 しかもしかも……。

 唐突だけど、今って何時なの?

 確か、アキちゃんが『建築家』として起きるのが朝の9時で、私が彼女に会いに行ったのもちょうどそのくらいで。その後、でみ子ちゃんとアナがやって来て私たちが彼女たちから逃げたり、エア様の部屋に行ったりで、いろいろあったけど……。もうそろそろ、1時間くらい経っちゃったりしない?

 そうなったら完全にアウト。ゲームオーバー確定だ。だって朝の10時は、でみ子ちゃんの『研究者』としてのシフトが終わる時間だから。

 『研究者』は深夜の1時から10時までしか起きていられない。それは、でみ子ちゃんが前に言ったように、1000年間続いてきた絶対に変えることの出来ない真理だ。つまり、10時になった時点ででみ子ちゃんは眠ってしまう。『研究者』はもちろん、宇宙飛行士ちゃんの攻撃をキャンセル出来る『錬金術師』も、眠ってしまうってことなんだ。そうなったら、宇宙飛行士ちゃんの攻撃で普通に全滅だ。


 もう、ほとんど余裕はない。何か、この状況を打開するには……。


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