05
大地を多い尽くすほど巨大な『亜世界樹』を、遥か上空の頂上まで上っていくと、4畳半程度の東屋があらわれる。床は『亜世界樹』の太い幹が平らに変形して出来ており、四方には壁はおろか、落下防止の柵さえもない。『亜世界』全体を見渡せるその場所は、『3周目』に七嶋アリサが訪れた展望台だ。
現在、そこには2人のエルフの少女、『研究者』と『分析家』がいた。
「さあ、始めましょうか」
そう言った『研究者』の涙は、既に完全にひいていて、いつも通りの無表情に戻っている。隣の『分析家』は少し伏し目がちに俯いていたが、やがて、何かを覚悟したように顔を上げた。
「2人の命までは取らない……。そういう、約束だからね……?」
「ええ。私も、同じ姉妹の貴女に対して不義理なことはしたくないです。一度交わした約束を、不履行にするつもりはありませんよ」
「……分かったよ」
そう言うと、彼女は目をつむって数歩歩く。そして、あと1歩踏み出せば『亜世界樹』の頂点から真っ逆さまに落ちてしまいそうな展望台の際まできて、立ち止まった。
静かに精神統一。
それから彼女は、糸のように細かった両目を、大きく見開いた。
次の瞬間、彼女を中心にした360度全方位に向けて、突風が吹いた。
「……くっ」
至近距離にいた『研究者』は、その風の衝撃に備えて思わず目をつむって身構えてしまう。
しかし、その突風は決して彼女を吹き飛ばしたりはしない。それどころか、『研究者』の頭の三つ編みを揺らすことすらなく、一切の抵抗も無駄もなく、ただただ目にも止まらないような速さで彼女の体が作る隙間を吹き抜けていった。
そしてそれから1秒もかからないうちに、その風は再びものすごい速さで『分析家』のもとへと集まってきたのだ。それは、風の精霊による『亜世界』全体を対象にしたスキャンだった。
「……うん……うん……ああ、そうか……」
まるで誰かからの報告を聞いているかのように何度か頷きながら、『分析家』は風が持ち帰った情報を整理していく。彼女にとっては、『亜世界』中を駆け巡った風の微妙な変化が、写真のような鮮明なイメージとなって伝わるのだ。
やがて彼女はそのイメージの中から目的の「形」を見つけた。
「いた……。『建築家』とアリサちゃんは、ここから3km南に行ったところにある、木の開けた場所にいるよ……。ああ、あそこは……『芸術家』のステージだね……」
「そうですか。やはり、私の作った火の精霊で燃え尽きたりはしなかったわけですね」
アリサたちの居場所を聞いた『研究者』は、さっそくその場所に行こうとする。しかし、
「そうだね。2人とも五体満足で……あ、あれ? これは、一体どういうことだ……?」
「……どうしました?」
『分析家』が何かに気付いて、声を上げたのだ。歩き出していた『研究者』も、また足を止める。
やがて、『研究者』の耳にも「それ」が届いた。
……っとー、貴女のぉー寝顔をー……
きーっと……夢を見ているのねー……
それは、歌だ。
いつも『芸術家』がライブで歌っていたアイドルソングのような歌が、彼女の起床時間でもない朝のうちから、聞こえてきたのだ。
「これは、『芸術家』……だよね?」
「……なるほど。つまりヤツは姉様を殺しておきながら、今は呑気にこんな歌なんかを歌っているというわけですか……」
「は、はは……。もしかしたら、レクイエムのつもりなのかな……? だとしたら、ちょっと選曲ミスかもしれないね……」
「全く、不謹慎極まりないですね」
『芸術家』がいつもライブで使っているマイクを通すと、その歌声は『亜世界』中に備え付けられた特別なスピーカー装置に転送されるようになっていた。そのため、『芸術家』のライブステージまではかなり距離があるはずだが、今の『研究者』たちにも彼女の歌が届いているのだ。
この広ーい……宇宙のーしたー……
同じ……で出会ったー……
「ふ……」
やがて、『研究者』は何かに気付いて、つまらなそうに鼻をならした。
「どうかしたのかい……?」
「いや……。どうやらこの歌は、ヤツらの作戦のようですね」
「さ、作戦?」
「ええ。だって、この声をよく聞いてみてくださいよ」
『分析家』は『研究者』に言われるままに、その歌声に耳を傾ける。
……ター×シスター……今はーまだー……
シス………シスター……無茶なカップリングでも……
「何か、違和感がありませんか?」
「うーん、そう言われると……いつもよりちょっと元気がない……かな?」
『研究者』は軽くうなづく。
確かにその時の『芸術家』の声は、いつもの伸びやかで深みのある彼女の歌声に比べるとだいぶ薄っぺらい響きに聞こえた。『分析家』は控えめに言ったが、1000年近く歌われてきたこれまでの『芸術家』の歌に比べると、その違いは明らかなものだった。
「元気がない、というより、端的に言えばやる気が感じられません。いつもの彼女の歌のような、情感がまるで感じられないのですよ。これはきっと、さっき私が『アルケミスト』の炎で口の中を焼いてやったから、声が枯れていつものように上手く歌えていない……」
「ああ、そうか。なるほど……」
「……と、思わせたいのでしょう」
「え?」
「……こんなことを考えたのは、あの『エイリアン』の方でしょうね。私たちが1度に1つの職能しか使えないということを知って、それを利用して私たちの裏をかこうとしたのです。なんとも浅はかな考えだと、言わざるをえませんね」
「ど、どういうことだい? 僕には、何がなんだかさっぱり……」
首を傾げている『分析家』に、彼女は答える。
「『アーティスト』の歌が聞こえている以上、『アーキテクト』の職能は使えない。だから、歌が聞こえている間は『アーティスト』にだけ注意を払っていればいい……と思い込ませておいて、実は本当にヤツラが使いたいのは、『アーキテクト』の職能の方なのです。あの歌はフェイクです。恐らくあの『エイリアン』は、歌を『録音』して後で『再生』するような魔法、あるいは、そんな事を可能にする私たちの知らない『未知の道具』を持っているのでしょう。貴女がスキャンによって捕捉した2人は、木で『建築』された偽物です。もしも動いているように見えるとしたら、それは、『アーキテクト』が職能で動かしているだけですよ」
「そ、そんな……本当に?」
『分析家』はもう1度職能を行使して、『亜世界』スキャンをおこなってみる。しかし、風の精霊が彼女に持ち帰った情報だけでは、ステージにいる『芸術家』と七嶋アリサの姿は本物のようにしか思えなかった。
「で、でも、何のためにそんなことを……?」
当然の質問をする『分析家』。
「ふふ、それは……」
シスターシスター……大好きよー……
貴女は……だけの……かけがえのない……
「2人があのステージにいると分かれば、もうそれ以降は『アナリスト』が『亜世界』スキャンをする必要がなくなる。だから、その間にヤツラは自由に動くことが出来る……という考えなのでしょう。といっても、この『亜世界』から逃げられるわけではありませんから、そんな偽装工作を行うからには、今のヤツラにはどこかの目的地があると考えられますね……。まあ、恐らく狙いは姉様の部屋でしょうが……」
「じゃあアリサちゃんたちは今、この『亜世界樹』を目指している……?」
「ええ、そういうことです。……ところで『アナリスト』、貴女のスキャン能力は、『部屋の中』や『エレベーターの中』にいる相手に対しても有効なのですよね?」
「え……?」突然聞かれて少し驚くが、『分析家』はすぐに答えた。「う、うん、そうだね。『部屋の中』や『エレベーターの中』も、完全に密室ってわけじゃないからね……。どこかに空気穴は作ってあるはずだから、そこに風の精霊を潜り込ませれば、その中にいる人をスキャンで知ることは可能だよ……。まあ、そこまで入念にやろうとしたら、さっきよりは余計に時間がかかっちゃうけどね……」
「そうですか、なるほど……」『研究者』はわずかに口角を動かして微笑んでから、「では貴女にはこれから、その入念なスキャンとやらを行ってもらうことにしましょう。そうすればきっと、あのライブステージ以外のどこかで隠れている人影が見つかるはずです。それこそが、本物の『エイリアン』たちですよ……」と言った。
「そ、そうかもね……」
実のところ、そのとき『研究者』が考えていたことはアリサの思惑そのものだった。『研究者』の彼女と比べると、アリサの知能は大人と子供よりも大きな差があり、アリサ程度がどれだけ必死に策を講じても、そんなものは彼女には手に取るように分かってしまうのだった。
そんな彼女の神がかった推理力を、『分析家』は恐ろしく思ってしまうほどだった。
「次に会った時こそ、ヤツラを…………きゅふ、きゅふふ……」
「……」
しかし、それから数分後。
「…………」
『研究者』は、展望台の中を苛立たしそうに動き回っていた。
『分析家』は気まずそうに俯いている。
「……まだ、ですか?」
「う、うん……」
あれから『分析家』は何度も、風の精霊で『亜世界』のスキャンをおこなっていた。それも、『部屋の中』や『エレベーターの中』まで分かるような、入念なスキャンを。しかし何度やってもその結果は、最初におこなったものと何も変わらなかった。
「……まだ、だね。『芸術家』は相変わらずステージで歌を歌っているし、アリサちゃんもその観客席にいる。もちろん、その場所以外には動く人影はないよ……」
「そう……ですか」
ヒラリ……… 花が舞い落ちるー……亜世界樹……
キラリキラリ… ……愛を知り……流す……
スピーカーから聞こえてくる『芸術家』の歌は、既に1曲を歌い終えて、次の曲へと移行している。しかし、明らかにわかる変化といったらそれくらいのもので、状況はさっきから何も変わっていなかった。『研究者』の推理したように、『亜世界』のどこかに本物の七嶋アリサたちが現れるということはなかったのだ。
「おかしい……おかしすぎる。まさか、私の読みが間違っていた……? この歌は『アーキテクト』の職能を使うためのカモフラージュではないのですか?」
ぶつぶつと、独り言を漏らす『研究者』。
「そんな馬鹿な……。あり得ない……そんなことは不可能です……。このタイミングで、『アーティスト』がこんな歌を歌っているということには、必ず何か理由があるはずなのです、……理由がなければならない。こんな……こんなに不謹慎で、不真面目な歌を、あの娘が歌うなんて……普通なら絶対にあり得ない。あの娘の性格上、本来ならば姉様へのレクイエムにはもっと相応しい歌を捧げるはずなのです……。喉が枯れてこの程度の歌しか歌えないのなら、むしろ歌わないことを選ぶはず……。それでも歌っているというからには、そこには絶対に、何かを隠す理由があるはずなのに……」
それは、ある種のプライドだった。
自惚れや過剰な自意識とは全く正反対の、『研究者』としてのプライド。『研究者』という、この『亜世界』で最も知識に秀でた者としての立場を自分に与えてくれた、今はもう失われてしまった姉に対する、絶対に曲げることのできない矜持。
自分は、この『亜世界』の『研究者』でなければならない。この『亜世界』で、誰よりも賢くなければならない。そうでなければ、自分を『研究者』として認めてくれていた姉に、申し訳がない……。
しかしそんな思いが、『研究者』を焦らせてしまったのだろう。そのときの彼女は、とても単純なことに気付けずにいたのだった。
「彼女の歌が……彼女の姉様への想いが、こんな不完全で不抜けた歌で表現されるはずがない……。彼女自身が、何の意味もなくこんな歌を歌うことに、我慢できるはずがないのに……。しかし……なぜ……」
「『研究者』……」
『分析家』は、そんな風に思いつめた様子で呟き続ける彼女を見ているのがいたたまれず、彼女に話しかけた。
「少し、落ち着いた方がいいよ……」
「私が間違っていた……? 姉様が『研究者』と呼んでくれた私の考えが……間違っていたというのですか?」
「き、きっと、今はまだ休憩でもしてるんじゃないのかな……? そのうち、動き出すよ……。はは……」
「こんなことでは……こんなことでは……姉様に……」
プライドは『研究者』を焦らせ、冷静さを失わせた。
しかし、同時にその焦りは彼女の闘志に火をつけ実力以上のものを引き出したようだ。やがて、フル回転していた彼女の頭脳は、ひどく単純な真実へとたどり着いた。
そして……、
「……ま、まさか!?」
何かに気付いた彼女は、素早くその場にしゃがみこみ、展望台の床に手を付けた。そして、『亜世界樹エレベーター』を起動する時間すら待てないとでも言うように、『亜世界樹』の幹の中を、『錬金術師』の職能でドリルのように削り取っていった。
凄まじいスピードで『亜世界樹』の幹に垂直のトンネルが作られる。目的地に向かって、『研究者』は真っ直ぐに突き進んでいく。『分析家』も、少し遅れてそれに続く。
そしてそれから10秒もたたないうちに、彼女は目的の部屋にたどり着いた。いや、より正確に言うと、かつてはその部屋があった場所に……。
「やられましたね……」
そう言って彼女が見つめる先には、本来ならばこの『亜世界』の『管理者』の部屋があったはずの場所が、丸く削り取られたように大きな空洞になっていた。
※
「……もう、いいでしょ」
ステージの上で適当な歌やダンスをしていた「あーみん」は、急に動きを止めた。
「なんか、すごい虚しいわ……。お姉様が聞いて下さってないって分かってるのに、こんな歌なんか歌って……私、馬鹿みたいじゃない……」
私は慌てて、彼女を説得しようとする。
「ま、まあまあ……そう言わずに……。だって、私たちが安全にエア様の部屋に入るには、この方法が1番なんだから……」
そうだ。あーみんには、ここでアイドルライブを続けてもらわなくちゃいけない。私たちの作戦が成功するために。でみ子ちゃんとアナの目をそらして、その間にエア様の部屋に「行く」ために……。
「あーあ……、やっぱりこんな『異世界人』に協力なんかするんじゃなかったわ……」
「は、はは……」
実は。
最初に私が考えた方法は、今のとはちょっと違っていた。最初の考えでは、あーみん……つまり、『芸術家』が本当にここで歌を歌う予定じゃなかった。ここで歌を歌うのは本物のあーみんじゃなく、「あーみんの声を録音したスマホ」のはずだったんだ。
最初の私の案では……。
私は、あーみんの歌をスマホに録音してその音声をエンドレス再生してあーみんのライブ会場から流すつもりだったんだ。そうすれば、「今は『芸術家』が職能を使ってるから、『建築家』の職能は使えない」……ってでみ子ちゃんたちに思わせる事が出来る。その隙にアキちゃん……つまり『建築家』の職能で、「私たちが今いる場所からエア様の部屋に通じる、直通のエレベーター」を建築してもらうことが出来るから。
だってこの『亜世界』じゃあ、地面もどこもかしこも、全部『亜世界樹』で出来てるんでしょ? だから、みんなの部屋がある『亜世界樹』の幹だけじゃなく、どんな場所からだって『亜世界樹エレベーター』を起動することが出来るはずなんだ。そして木の中を潜っていくエレベーターを使えば、私たちはでみ子ちゃんやアナに見つからずにエア様の部屋に行くことだって……って、そう思ってたんだけど。
実際にアキちゃんに相談してみたら、その案はあっさり断られてしまった。
「スマホだか何だか知らないけど、録音なんかで私の歌を偽装できるわけないじゃない! そんなことしたって、耳のいい『分析家』や目ざとい『研究者』に、すぐにバレてしまうにきまってますわ!」って……。
でも、私にはそれ以上にいい案なんて思いつかなかったから、そんなこと言われてどうしたらいいかって困ってしまったんだけど、そうしたら、アキちゃんがふてくされた感じで……。
「別に偽物の歌じゃなく、本当に私が歌を歌えばいいでしょ……。そうすれば、少なくともあの娘たちの目を誤魔化すことは出来るじゃないの……」
って言ったんだ。
「え? で、でも……それじゃあ『芸術家』本人が歌を歌っているわけだから、『建築家』の職能が使えないじゃん? 『建築家』じゃなきゃ、エア様の部屋に通じるエレベーターを作ることが出来ないから……」
「作る必要なんてないわ……だって、もうあるもの……」
「え……?」
それからアキちゃんが説明してくれたことを聞いて、私は、心の底から呆れてしまった。だってアキちゃんは、私が話す前から既に、エア様の部屋に通じるエレベーターを完成させていたってことで……いや、実は実際にはそれよりももっとタチが悪くて……。
「はあ……やっぱりダメだわ。私、お姉様のためじゃなきゃ歌えないわ。全然やる気が出ないのよ」
そう言って、あーみん……いや、アキちゃん(もうややこしいから「アキちゃん」で統一しよう)は、ステージを下りてしまった。
「ちょ、えっ、そんな!?」
それは困るよ。だって、アキちゃんには歌を歌ってもらわなくちゃいけないんだ。エレベーターが「やってくる」まで、でみ子ちゃんたちを誤魔化すために、歌を歌ってもらわなくちゃ……。
「だから……もういいって言ってるでしょ。エレベーターなら、もう到着したんだから……」
そう言って、ステージの方を振り返るアキちゃん。すると、さっきまでアキちゃんがやる気のないライブをしていたステージが、だんだんと、半球状に隆起してきたんだ。最初は、雪でつくるカマクラくらいの大きさ。それが、どんどんどんどん大きくなっていって、ついには見上げるくらいの大きさにまでなって、やっと動きを止めた。
全部が木で出来た、半球状の塊。半径は5mくらいはありそう。それだけ見るとかなり大きく見えるけど、今までこれが『亜世界樹』の幹に入っていたわけだから、そう考えると『亜世界樹』の規模の大きさに改めて驚かされる。そして、そんな幹から、根っこを通って、このライブステージまで「これ」を持ってきてしまった、アキちゃんの職能のすさまじさにも……。
「こ、これが、エア様の部屋……」
「ま、そういうことね」
つまり、今私たちの目の前に現れた「これ」こそが、エア様の部屋。
私たちがエア様の部屋に行くんじゃなく、エア様の部屋のほうから私たちのところに来てもらう。これが、私たちの作戦だったんだ。
「だって『芸術家』として私が歌う歌は、お姉様にはいつも最前列で聞いて欲しいじゃない? だから私、『建築家』のときに、お姉様のお部屋をここに持ってくることが出来るエレベーターを作っておいたの。確か……今から、500年くらい前だったかしらね? もちろん、お部屋でお休み中のお姉様をおこさないように、揺れや駆動音は最小限に抑えているわ。もしかしたらお姉様も、ご自分のお部屋が夜な夜な移動してるなんて気付いてないんじゃないかしら? まあ、こんなことやっても許されるのは、私がお姉様に1番愛されているからこそね。これは私だけの、特権ってやつかしら?」
自慢そうにそんなことを言った彼女。つまり彼女、これまで毎晩エア様の部屋を移動して、エア様が眠ってしまったあとも自分の歌を「最前列」で聞かせていた、っていう。
やっぱり、この娘ってかなりエキセントリックだ……。
でも、今は彼女のおかげ目的を果たすことが出来たわけだから、素直に感謝しておくことにしよう。深く考えると、怖いだけだし……。
そういうわけで。
それから私たちはもう話をするのをやめて、ステージの上に半球状に盛り上がっているエア様の部屋の前に行った。そして部屋の壁に手をかけて、特に意識したわけでもなく自然と声を合わせて、
「部屋の、中へ……」
と言った。
その声に反応して、エア様の部屋の壁に穴が開く。私たちは、その中に入った。




