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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter06. Alisa in A-posteriori World
64/110

03

「くっそ、あの『エイリアン』め! 余計なことを!」

 彼女らしくもない乱暴な言葉を吐きながら、『研究者』は七嶋アリサたちが消えた壁に駆け寄った。

「このまま逃がしたりはしませんよっ! こちらには『アナリスト』がいるのです。あいつらがどこへ逃げようとも必ず見つけ出せる! そうでしょう!? 見つけ出して、『アーキテクト』もろとも私の『アルケミスト』の職能で消し炭にしてやるっ!」

「……」

 殴りつけるように部屋の壁に手を当てて、彼女は『エレベーター』を起動しようとする。しかし、振り返って『分析家』が部屋の中で立ち尽くしていることに気付いた。

「何をしているのですっ!? 早くあいつらを追いかけますよっ!」

 『研究者』は苛立たしそうに彼女の元まで戻って、強引に手を引こうとする。しかし、彼女は動かない。

「……」

「『アナリスト』!」

 『研究者』と目を合わせず、俯いている『分析家』。

「『アナリスト』っ!」


 『研究者』の再三の呼びかけに、ようやく彼女は呟きを返した。

「よく、分からないんだよ……」

「分からない!? 何が分からないのですかっ!」

「今の僕たちが、何をすべきなのか……これから、どうするべきなのか……」

「そんなの決まっています! 姉様を殺したにっくき『アーキテクト』に、罰を与えるのですっ! それ以外に私たちがすべきことなんてないでしょうが!」

「復讐……それが、今僕らがするべきこと……」

「そうですよっ! だから、早くあいつらを追いかけて……」

「何の……ために?」

 顔を上げて、『研究者』を見つめる『分析家』。その、生気を失った無表情に驚き、『研究者』は言葉を失ってしまった。『分析家』は続ける。

「『建築家』に復讐すれば、殺されてしまった姉さんは喜ぶのかい……? 残された僕たちの心は、満たされるのかい……? この、姉さんを失った灰色の世界が、何か変わるのかい……」

「……」

 彼女は無表情のまま、一筋の涙を流していた。

「僕はきっと……まだ、混乱しているんだ……。姉さんがいなくなってしまったという事実を、まだ、受け入れられないんだよ……」

「そ、そんなことは、今は……!」

 反論しようとする『研究者』。

 しかし、その言葉は最後まで続かなかった。

「今は……そんな……ことは…………う、うう」

 激昂していた彼女の顔が、次第に崩れていく。

 ボロボロと、彼女の両目からも流れていく。

「うう……ああ、あああ……」

 ガタッ、とその場に膝を落として倒れそうになる『研究者』。その体を、『分析家』は優しく受け止めた。

「分かるよ……。君も、同じ気持ちだろう……? 当たり前だよ……。こんなこと……受け入れられる、はずがないよ……。姉さんは、僕らの全てだったのに……。その全てが、失われてしまった……。1晩で、僕らは生きる意味を見失ってしまったのだから……」

「うああああああぁ……」

「ああ……。つらいよ……苦しいよ……。姉さん……」


 抱きしめ合って、静かに泣く2人。

 そのときそこにいたのは、無表情な天才研究者でも、紳士的で落ち着いた分析家でもなく、大事な人を失って悲しみに暮れる、ただの幼い少女たちでしかなかった。




   ※




 『亜世界樹エレベーター』によって、空中に放り出された私。地面は遥か下の方に見える。どうやらアキちゃんの部屋は、『亜世界樹』の中でもかなりの高層階にあったらしい。そんな場所からものすごい勢いで落下している今の状況は、まるでスカイダイビングでもやってるみたいだ。もちろん、今の私たちはパラシュートなんてつけてないけど。


 一緒に部屋から放り出されたアキちゃんは、さっきのでみ子ちゃんからの攻撃がまだ残っているらしく、体が炎で包まれているままだ。普通の炎だったら、空中から落下している勢いで消えてくれてもよさそうなものだけど……多分、それが『錬金術師』の職能で作り出した炎だと、そうはいかないみたいだ。既に彼女は気を失ってしまったようで、目をつむってぐったりと仰向けのような姿勢で落ちて行ってる。このままじゃあ、炎で焼き尽くされてしまうか、あるいは地面に衝突してしまうのは目に見えてる。どっちにしろ、命はないだろう。


 私は空中を泳ぐようにして、彼女の方に近づく。そして、炎で包まれた彼女の体を思いっきり抱きしめた。

 アキちゃんを包み込んでいた炎が、一気に私の体へと移ってくる。全身が熱い……というより、痛い!

 それでも、私は彼女の体を離しはしなかった。

 だって私なら、出来るはずなんだ。

 『異世界人』として、エア様と同じように5属性の精霊を操ることのできる私なら。エア様のかけた「5属性の精霊を固定する鍵」を解除できた私なら。同じ理屈で、アキちゃんに纏わりついているこの火の精霊を固定して、動きを止めることだって、出来るはずなんだ。


 さっき『エレベーター』を高速起動したときと同じように、意識を集中する。

 炎よ消えろ。炎よ消えろ。炎よ消えろ。炎よ消えろ……。

 火の精霊よ止まれ。火の精霊よ止まれ。火の精霊よ止まれ…………止まれーっ!

 しっかりと体をくっつけて、炎に包まれながら空中を落下していく私たち。その見た目はやっぱりスカイダイビングって言うよりも、宇宙ロケットの大気圏突入って喩えた方が正確かもしれない。「殺人の汚名」っていう、猛烈な抵抗の中を突き進んでいくところなんかも、今の私たちとよく似ているし……。

 そんな、どうでもいいことを考えているうちに。

 千切れるみたいに、落下する私たちの体から炎がだんだん離れていった。そして最後には、その炎はきれいさっぱり全部鎮火してくれたのだった。

 長時間炎に包まれていたアキちゃんの体は、さすがに無傷なはずはなかったけど、それでも、思ったよりはずっと軽傷で済んでいた。目で見てわかる影響は、体の半分くらいが赤いケロイド状になったり、黒く焦げていたりしていること。あとは、綺麗だった金髪が先端から燃えてしまって、カサカサのショートカットになってしまったくらいだ。でみ子ちゃんの炎はアキちゃんの口から体内にも入り込んでいたみたいだから、ノドとか内臓とかはもっとひどい事になっているかもしれないけど……とりあえず、命に別状はなさそうだった。


 あとは、この落下している状況だ。これを何とかしなくちゃ。このままだと、2人揃って地上に墜落して、車に引かれたカエルみたいにぺちゃんこになっちゃう……。

 もちろん、私は何も考えずに『亜世界樹』の外に飛び出したわけじゃない。私には、ちゃんと考えがあった。

 だってエア様は言ってたでしょ? 風の精霊を使って空を飛ぶことなんて、この『亜世界』では自然で、とても簡単なことだって。まして、私はさっきでみ子ちゃんたちから逃げるときに、それを1回やっている。あのとき私はアキちゃんの体を抱えていたけど、全然重く感じなかった。つまりあのとき、私は風の精霊を操って、アキちゃんの体を浮かせて軽くしていたんだ。

 だからきっと、私が空を飛ぶことだって出来るはず。

 気絶しちゃったアキちゃんを抱きかかえて、最初に『亜世界樹』の説明をしてくれたときのエア様みたく、優雅に空中に浮かんで、助かることが出来るはずなんだ!

 そう、思っていた。


 だけど、それから地面の方に目を向けた私は、自分の考えが甘すぎたということを思い知らされた。

 どうやら、アキちゃんの炎を消すのに私は時間を使いすぎてしまったらしい。さっきまで夢中だったから気付かなかったけど、遥か彼方に見えたはずの地面は、既にすぐ近くまで来ていた。私の、目の前まで。


 人は、死ぬ間際に今までの人生を走馬灯のように……とか。プロのボクサーは殴られる瞬間に相手のパンチが止まって見える……とか。まあそんな感じで。その時の私には、その一瞬がもっとずっと長く感じた。

 あ、これ……私死んだな。

 今頭の中にあるのは、そんな諦めだけ。あまりにもそれが明白に思えてしまって、とても、どうにかしてこの状況を打破しようっていう気持ちにはなれなかった。

 だって、いくら私が空を飛ぶ力を持っているかもしれないとは言っても、そのためにはいろいろと、心の準備ってものが必要だよ。さっき部屋を飛び出すときは必死だったから、無意識に出来ちゃったかもしれない。けど、だからと言って意識して同じことをしようとして、すぐにそれが出来るわけじゃない。今まで空なんか飛んだことのない私が「せーのっ」で飛べちゃうほど、物事は簡単じゃないんだよ。

 残念だけど、ここでゲームオーバー。このまま地面に激突するのは、避けられないって思えた。


 そして、引き延ばされた時間は正しく動き出して、私は地面にぶつかった。




 ……と思ったのに、私はまだ死んでいなかった。

 固い地面に墜落して、体が潰れて即死……のはずが、どういうわけだか地面は全然固くなんかなかった。むしろ、クッションみたいに柔らかくなって私の体をめり込ませて、墜落の衝撃を吸収してくれたんだ。確かこの『亜世界』の地面は、『亜世界樹』の根っこが平らになって出来ている。つまり、固い木の根っこが、私が着地した瞬間に柔らかくなったわけで……。

 クレーターのように半球状にへこんだ地面の真ん中。私は、抱きしめているアキちゃんの方を見る。さっきまでは気絶していたと思っていた彼女は、今は薄く目を開けていた。そしてその口からは、キラキラと輝く吐息が、かすかにこぼれだしているのが見えた。

 どうやら、すんでのところで意識を取り戻した彼女が『建築家』の職能を使ってくれて、地面をクッションみたいに柔らかく『建築』してくれたということらしい。本当に、ギリギリだった……。



 理解がだんだん追い付いてくると、自分がもう少しで死ぬところだったという興奮も、遅れてやってくる。そんな感情の高まりをなんとか押さえつつ、とりあえず、私は自分の命の恩人にお礼を言おうとした。

「あ、ありがとうっ! アキちゃ……」

「離して……」

 でも、彼女は冷たい言葉でそれを遮ってしまう。

「え……? あっ」

 まあ、それも無理もないと思う。だって今の私は、空中から落下してきたときと同じ姿勢のまま、彼女と体をぴったり重ねて抱き合っていたんだから。

 それに気付いた私は、慌てて彼女から体を離した。

「ご、ごめんっ!」

 それから立ち上がって、何かフォローになるようなことでも言って、この状況を説明しようとした。

「ち、違うんだよっ!? 今のは、なんかそういう、変な意味があったわけじゃなくってねっ!? か、勘違いしないでね!? 別に、私がアキちゃんのことが好きだから抱きしめてたとか、そういうわけじゃないのっ! って、っていっても、もちろん私がアキちゃんのこと嫌いなわけじゃないよっ!? だってアキちゃんってかわいいし、いい匂いするし、胸はちょっとアレだけど……でも、そういうところも含めて充分魅力的だと思うよっ! もし、抱きしめていいって言われたら、四六時中でも抱きしめていたいって思うくらいで……って、いやいやいや! 何言ってるの、私っ!? だ、だから、そういうことじゃなくって……」

「どうして……」

 勝手におかしなテンションになって盛り上がっている私に対して、アキちゃんは完全に冷め切っている。

「ど、どうして、って……? あ。だ、だから、さっき私がアキちゃんを抱きしめてたのは、そ、そういう、いやらしい意味じゃなくって……」

「どうして、私を助けたの……」

「え……」

 そこでようやく私は、今の自分たちがおかれている状況を思い出した。今の彼女に、私のセクハラなんかを気にする余裕があるはずがなかったんだ。


「どうして、私を放っておいてくれなかったのよっ!」

 響きわたる、アキちゃんの叫び声。

 その声に驚いた小鳥やリスが、一斉に周囲の木々から逃げ去る。


「アキちゃん……」

 さっき散々泣きはらしたのに、それでもまだ、彼女の瞳からは涙が流れている。まるで、全身の水分を全部涙に変えてしまうみたいに、彼女はあのときからずっと泣き続けていたんだ。私が、彼女を告発したときから。

「あのまま、私は殺されてしまえばよかったのですわ。私のせいで、お姉様は死んでしまった……。私が、お姉様を殺してしまったのだから……」

 両手で顔を覆うアキちゃん。

 きっと今の彼女は、自分で自分を許せないんだろう。エア様を殺した自分が生きているのが、許せないんだろう。このままだと、彼女はその考えを行動に移してしまうかもしれない。間違っている自分を、消そうとしてしまうかも……。

「ああ……お姉様……」

 私には、もうさっきのような『メッセージ』は、聞こえてこない。今目の前にいるのは、何かの間違いで大好きな人を殺めてしまって、絶望に沈んでいる少女だけだ。

 結局、私がさっきやったことは、何の意味もないことだったのだろうか……。



 でも。

 そのときの私の目には、そんなアキちゃんに重なるように、今まで見てきたいろんな彼女の姿が映し出されていた。エア様の体に抱きついて、楽しそうに笑っている彼女。エア様と話しながら、頬を赤らめている彼女。うっとりと、エア様を見つめている彼女……。

 それは、特別な力でも何でもなかった。

 『芸術家』の職能も、『異世界人』の精霊の力も関係ない。ただの人間の私が、今までに見て、聞いてきたものの記憶。800年続くような確かさもない。私の目を通して、私の頭で考えただけの、曖昧で自己中心的な主観に過ぎない。


 それでも、私は「それ」を信じるしかない。

 私はエア様でもなければ、アキちゃんでもない。存在するだけで、どうしようもなく他人を傷つけてしまう1人の人間……七嶋アリサでしかないんだから。私には「それ」しかないんだから……。

 そして私は、もう1度その言葉を口にした。


「どうして、アキちゃんはエア様を殺したの……?」


 それによって、アキちゃんを傷つけてしまうとしても。

 誰かを救うことなんて出来なかったとしても。

 私には、それを考えずにはいられなかったんだ。

「私の目には……アキちゃんは、エア様のことが大好きに見えたよ……? 他の何を犠牲にしても、誰を傷つけても、エア様のことだけは幸せにする娘に見えたよ……? そんなアキちゃんが、エア様に毒を飲ませたり……エア様をバラバラにしたなんて、やっぱり信じられないよ……。本当に、アキちゃんがエア様を殺したの……?」

 自分で彼女を告発しておいて、随分と勝手なことを言っていると思う。

 それでも、そのときの私の気持ちには少しも嘘はなかった。エア様を殺せる人がいるとしたら、アキちゃんしかいない。でも、彼女がそんなことをするなんて思えなかった。絶対に、思いたくなかった。

 だから私はそんな自分の気持ちに正直になって、彼女に尋ねてしまったんだ。でみ子ちゃんはさっき、アキちゃんにかける「問い」なんてないって言った。でも今の私には、彼女に聞きたいことだらけだったんだ。


「そうよ、私が殺したの……」

 あっさりと、それを認めるアキちゃん。

 でも、私の「問い」はそれだけじゃ止まらない。

「どうして? アキちゃんには、動機がないよ。だってエア様がいなくなって、誰よりも悲しんでいるのはアキちゃんじゃない……。一体、アキちゃんとエア様に何があったの?」

「ど、どうして……ですって?」

 そこで、こちらに顔を向けたアキちゃん。私のことを睨みつけると、ワナワナと体を震わせる。

「よ……くも……そ……とを」

「え?」

「よくも……よくも、そんなことを……」

 彼女の瞳に、恐ろしいほどの怒りの炎が揺れる。でも……。

「全部、貴女のせいなのよっ! 私が悲しんでいる!? そんなの、当り前じゃないっ! 私はお姉様のことが、大好きだったのよっ!? でも貴女が……貴女がお姉様を独り占めするから……! 私は……そんなのに耐えられなくて……」

 でも、今の彼女の怒りが向けられているのは、私じゃない。

 言葉は私を非難しているようだけど、その怒りは明らかに、彼女自身に向けられているのが分かった。

「アキちゃんがエア様を殺したのが、私のせい……? それって……」

 彼女は小さく首を2回振ってから、私の問いに答える言葉を語り始めた。



「お姉様は……今までずっと私たちのことを、愛してくださった。私たち『6人』のことを、分け隔てなく愛してくださった。私はそれが本当にうれしくて……でも、とても悔しかった……」

「悔しい、って……?」

「お姉様は、私たちにいつも『平等』だった……。私にとっては、お姉様だけが全てだったのに……。私がどれだけ尽くしても、愛しても……お姉様の特別には、なれなかった。それが悔しくて……でも、どうすることもできないと、自分に言い聞かせてきたのよ。なのに……なのに……」

 アキちゃんはまた私を睨む。でも、その表情はすぐに涙で崩れてしまった。

「貴女がやって来て、それが出来なくなってしまった。時間を気にせずにいつまでもお姉様と一緒にいることが出来る貴女……『名前』で呼び合うことのできる貴女……あっさりと、お姉様の特別になる貴女を見ているうちに……自分を律することが出来なくなった。貴女のことが、羨ましく思えて……お姉様への想いがあふれ出してきて……我慢、できなくなって……」

「そ、そんな……」

 アキちゃんとして、あーみんとして、私とエア様のことを見てきた彼女が、そんなことを考えてたなんて。そんなつもりはなかったのに、やっぱり私は、存在するだけで彼女を傷つけていたんだ……。分かっていたハズだったけど、改めて言われるとショックだった。

 それでも、今の私はそんなことに落ち込んでいる暇はなかった。だってアキちゃんは今、私に自分の気持ちを話してくれているんだから。私が知らなかった彼女を、見せてくれているのだから。


「それで私は、『芸術家』の休憩時間に、仕事を抜け出してお姉様の部屋に行ったわ。お姉様の部屋の鍵を開けて、お姉様に、自分の気持ちを伝えたようとしたの……でも……」

 やっぱり……。私が思った通り、犯行時刻は『芸術家』のライブの時だったんだ。

 5属性を使える彼女は、エア様がかけた鍵を開けてエア様の部屋に行って、そして、そこで何か気持ちの変化があって、エア様のことを……。

「私の姿を見たお姉様は、とても驚いていらしたわ……。それは、そうでしょうね……。だって、お姉様はご存知なかったんですもの。私たちが全員、1人で2つの職業を演じていたことを……。800年前に、この『亜世界』の多くの仲間の命を奪った大災害……そのときに、辛うじて私たち6人の妹だけは生き延びることが出来た……お姉様は、きっとそう思っておいでだったはずだわ……。でも本当はあの時に、私たち妹の半分が死んでいたのよ……」

 そうか……。

 だから妹ちゃんたちの3人が、全員2役を演じてたんだ。1人が1つの職業を持っているとか、この『亜世界』に6人の妹ちゃんがいるとかを演じていたのは、全部、エア様を思ってのことだったんだ……。

 でも、『昨日』の夜に『芸術家』が5属性の精霊の鍵を開けてしまったことで、エア様はその秘密に気づいてしまったんだ……。

「『宇宙飛行士』のことを、自分のせいで死んでしまったと思っておいでだったお姉様に、そんな真実を伝えるのは余りにも酷で……。だから私たちは、お姉様を騙していたのよ……。でも昨日の私の軽率な行動が、お姉様にそんな残酷な真実を教えてしまった……。それで、私が部屋を去った後に、お姉様はご自分で、ご自分のことを……」

「え?」

 そこで私は、思わず間抜けな声を上げてしまった。

「部屋を出て行くとき、お姉様は私を笑顔で見送ってくださったわ……。でも、あのときの笑顔は、私が今まで見たこともないくらいに、寂しそうだった……。あのときに、私がお姉様をお1人にしなければ……こんな……こんなことには……」

「ちょ、ちょっと待ってっ!」

 泣き崩れそうになったアキちゃんの肩をつかむ。余りにも焦っていたせいで、かなり乱暴なつかみ方になってしまったけど、今の私には、そんなことを気にしていられなかった。


「じゃ、じゃあ……アキちゃんが、エア様を殺したわけじゃないのっ!?」

「いいえ。お姉様を殺したのは、私よ……。私がお姉様に会いに行かなければ、お姉様が私たちの秘密に気付くことはなかった……。お姉様を、傷つけてしまうことはなかったのだから……。私が殺したのと、同じだわ……」

「で、でも……アキちゃん自身が、エア様に毒を飲ませたり、体をバラバラに切り刻んだわけじゃなくて……」

「……そんな恐ろしい事、私に出来るはずがないでしょう? 第一、私はまだ、お姉様が亡くなられた姿を見てさえもいないのだから……。あの夜にお姉様と別れてから、私はずっと最後に見たお姉様の顔が忘れられなくて……。もしも、何かおかしなことが起こってしまったらって、気が気じゃなかった……。そして『建築家』として目覚めたときに、貴女がやってきて、『姉様を殺した』と言ったのを聞いて……姉様が死んでしまったことを知って……」

「そ、そんな……そんなことって……」


 私はその真実に、かなりのショックを受けた。

 自分の考えていたことが、何から何まで全部間違っていたと知ったような……自分の知っていた常識が、全部ひっくり返ってしまったような……。


「それじゃあ……エア様は本当は、自殺だったってこと……?」

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