02'''
「私が……犯人……? で、でみ子ちゃん……い、一体、何を言ってるの……」
彼女が冗談を言っているのだと思って、私は無理やり笑顔を作ろうとした。でも、その台詞があまりにも突拍子も無さすぎて、顔の筋肉が思い通りに動かせず、ひきつったような表情しか出来なかった。
「『貴女が犯人だ』という真相にたどり着くためには、大きく分けて3つほどアプローチがありますが……」
「だ、だから……それは『真相』なんかじゃあなくって……」
「その第1は心理的要因。つまり、動機ですね」
私を気にした様子もなく、でみ子ちゃんは話を続けてしまう。
「貴女が知っているかどうかは分かりませんが、今現在この『亜世界』に存在している知能を持った生物は、姉様と私たち妹、そして貴女だけです。それは、『アナリスト』の職能により保証されている確かな事実です。そしてそれを大前提として、『一体その中の誰が姉様を殺し得るか?』という命題を考えてみる。すると、貴女へとたどり着くというわけなのです」
「ちょ、ちょっと待ってよ……それじゃあ……」
「だってそうでしょう? 姉様のことが大好きで、姉様がいなくては生きていけないような私たちが、どう間違っても姉様のことを殺すはずがない。私たちは誰もが、そんなことをするくらいなら自分か、あるいは自分と姉様以外の全員を殺すことを考えます。そういう考えしか出来ないのです。つまり、私たちには動機がない。かたや貴女は……」
「それじゃあ私に、エア様を殺す動機があるって言うのっ!?」
「ありますね」
エキサイト気味の私に対して、でみ子ちゃんは完全に冷めた様子だ。
「は、はあ?」
「貴女には、姉様を殺す動機があります」
「ば、ば、ば………バッカじゃないのっ!? そ、そんなわけないじゃんっ! 私に、エア様を殺す動機があるなんて、そんな適当なこと言って、どうせまた私をからかって……」
「貴女は……」
彼女は私の言葉を遮る。そして、少し眉に皺を寄せて、
「今まで何度も、他人を傷つけてきたのではないのですか?」
そう言った。
「!?」
その彼女の言葉に、私は心臓をわしづかみにされてしまったような気分になった。自分の1番大事な部分、1番弱い部分が、強引に彼女の目の前に引きづり出されてしまったような気分になった。
なんで、それを……。
最初に頭に浮かんだのは、その言葉だ。
私は無意識に、彼女の言ったことを認めてしまっていたんだ。
今までもずっと、私はそのことを考えてきた。どうやったらそれを忘れられるのか……どうやったら心の奥に隠していられるのか……ずっとずっと、考え続けてきたんだ。そうやって、本当はあるはずのその「重荷」を、まるで無いみたいに自分を誤魔化し続けてきたんだ。
なのに、さっきのでみ子ちゃんの言葉はいとも簡単に、それを思い出させてしまった。今までに、私が傷つけてきた人たちのこと……。ティオのこと、サラニアちゃんのこと、アシュタリアのこと。それに、それより前の……。
「ああ…………」
高ぶっていた私の気分は、一気に声を失うほどにどん底まで落ちこんでしまった。そんな私を見ても、特に何も感じた様子もなく。ただ、当たり前のことを言ったら当たり前の反応が返ってきた、とでもいうように、でみ子ちゃんは淡々と話し続けた。
「私は心の精霊については不勉強ですから、貴女の心を読んだわけではありません。ですが、貴女の顔をみたらすぐに分かりましたよ。ああ……この人間は、きっと何かに強く後悔している。過去に、何か取り返しのつかない罪を犯して、それを忘れようともがいているのだ……とね。そんな貴女にとって、この『亜世界』の姉様は、さぞかし眩く輝いて見えたことでしょう。とても、直視していられないほどに」
や、やめて……。
私の声にならない声はどこにも届かないで、ただ自分へと返ってくる。
「姉様は、私たちの誰からも愛されている。私たちの誰もを愛してくれている。姉様の優しさは私たち妹を守り、慰め、励まし、力づけ、喜ばせ、楽しませてくれる。『彼女がいるならどんな世界だって生きていける』。私たちにそう思わせるのに充分なほどに、あの人は周囲に恵みを与えてくれている、世界にとって必要不可欠な存在です。しかし、貴女はそうではない。貴女は姉様とは真逆だ。存在するだけで人を傷つけ、落ち込ませ、悲しませ、死なせてしまう……。だから貴女は、姉様に嫉妬したのです」
やめて……。
「自分はこんなにも世界にとって不必要な存在なのに、姉様はそうではない。自分の出来ないことをする姉様が羨ましい。妬ましい。憎い……だから、殺した」
違う……。
「貴女には忘れたい過去があり、弱みがある。だからそれが、動機になる。暴力とは常に、心の弱いものが強いものを排斥しようとしたときに発生するものです。心の弱い貴女は、誰からも愛される姉様の存在を我慢することが出来なかったのです」
ち、違う……。私が、そんなこと……。
「つまり、第1発見者が犯人だったということです。まあ、分かってみれば意外と単純な真相でしたね? 貴女が犯人ならば、1晩中見張っていたとしても犯行に気付けるはずがない。アリバイも関係ない。だって犯行を行ったのは、貴女が姉様の死体を発見する直前のことなのですから。貴女は『アナリスト』が寝てしまったあとに姉様の部屋に行って、姉様を殺した。そして、まるでついさっき発見したとでも言うように第1発見者を装ったのです。人間というのは、恐ろしい生き物ですね? 表面上は私たち妹のことを犯人として疑っておきながら、裏の顔では平然とそんなことをしていたなんて」
違う……違うよ……そ、そんなの……そんなの…………。
「違うよっ!」
ようやく絞り出せた言葉は、音量を調整できずにフルボリュームの叫び声になってしまった。それまで私を無視していたでみ子ちゃんも、そこでようやく言葉を止めた。
「な、な、な……何言ってるの? そんなわけないじゃん……はは……ははは」
「……」
「そ、そんなの、おかしいってば……。私が……はは……犯人だなんてさ……。だ、だって私、ちょっと前にこの『亜世界』に来たばっかりなんだよ? エア様に会ったのだって、ほんの2、3日前だし……精霊とか『亜世界樹』だって、知らなかったくらいだしさ……」
混乱している私の台詞は、上手くまとまらない。
「し、しかも私、どこにでもいる普通のJKだよ? エア様を殺すなんて……毒薬を飲ませたり、まして体をバラバラにするとか……出来るわけないじゃん? そ、そんなの、ちょっと真面目に考えれば、分かるよね……?」
「……」
「だ、だいたい、部屋の鍵っ! エア様の部屋には、精霊でかけた鍵があるじゃんっ! あの、5属性の精霊を使わないと開けられない鍵がかかっていた以上、私にはエア様を殺すことなんて出来ないんだよっ!? それどころか、エア様の部屋に入ることだって……」
「入ったじゃないですか」
「はあっ!?」
「貴女は、姉様の死体の第1発見者。つまり、そのときに姉様の部屋に入ったということでしょう?」
「……っだからそれは!」
彼女ならそんなこと分かり切っているだろうに、私を挑発するようにわざとそんなことを言うでみ子ちゃん。私は爆発しそうな苛立ちを抑えながら、彼女に説明する。
「私がエア様の部屋に行ったときには、鍵なんてかかってなかったんだってばっ! 私が鍵を開けたんじゃなくって、最初っから鍵が開いてたのっ! きっとエア様を殺したあとの犯人が、そのまま鍵をかけずに出て行ったんだよっ! だから私、5属性使える『宇宙飛行士』が実は死んでなくって、どこかにこっそり隠れているって思ってて……」
「ふふ……」
でみ子ちゃんは、私を小バカにするように笑う。それから、「それはありません」と言った。
「な、何でよっ!?」
「『アストロノート』が本当は生きているのか死んでいるのか……それは、誰にも分かりません。ただ、少なくとも今現在、この『亜世界』のどこかに隠れているなんてことはない。それは、『アナリスト』が保証してくれている確固たる事実です。……これ、さっきも言いましたよね?」
「で、でも! それ以外にあり得ないでしょっ!? エア様の部屋にかかった鍵を開けるには、5つの精霊を同時に操らなくちゃいけないんだよっ!? そんなことできるのは、この『亜世界』にはエア様以外には『宇宙飛行士』しか……」
「いいえ」
でみ子ちゃんは首を振る。
「実は、他にも姉様のかけた部屋の鍵を開けることのできる人物がいるのです。姉様や『アストロノート』のように、5属性の精霊を操ることのできる人物が」
「そ、そんな……それって……」
そして彼女はまた、白衣に隠れた手で私を指さした。
「貴女です」
「は……?」
「貴女は5属性の精霊を操ることが出来る存在。つまり、自分の都合のいいときに姉様の部屋に出入りすることが可能だった訳です。そんな人物は、現在のこの『亜世界』には貴女以外には存在しない。これが、真相へとつながる第2のアプローチ。状況証拠です」
「は、ははは……」
私はもう、怒りを通り越して呆れてしまっていた。
だって……だってそんなの、こじつけもいいとこでしょ?
いくらでみ子ちゃんが私を犯人にしたいからって、この私が5属性の精霊を操れる、だなんて。意味わかんないよ。そんなわけ、ないって……。
「信じられませんか?」
「し、信じられないよっ! 信じれるわけないじゃんっ! そんなの、あり得ないよ!」
「確かにそれは、あまり普通のことではないかもしれません。でも、決して不思議なことではありません。だから、あり得ないことでもない。だって……」
でみ子ちゃんは、全てを見透かすように私の瞳を見つめてくる。
「だって貴女は、『エイリアン』なのですから」
「はあっ!?」そんな要領を得ない彼女の言葉が、私をどんどんイラつかせていく。「ってゆうか、でみ子ちゃんはいっつもいっつも私のことエイリアンって呼ぶけどさっ! 私はそんな宇宙人とか怪物とかじゃなく、普通の人間なんだけど! だから、でみ子ちゃんが言ってるみたいな特別なことなんて、何もなくって……」
「いいえ。貴女は『エイリアン』……つまり異世界人。ここと同じような未完成な『亜世界』ではなく、既に完成された『普通の異世界』からやって来たのでしょう? それはつまり、この『亜世界』に存在する何よりも、貴女の方が完成されていて、『確かな存在』だということ。貴女がどう考えようと関係なく、貴女は既に充分に『特別』な存在なのです」
「そ、それって……」
「貴女の元々の世界と、私たちが暮らすこの『亜世界』は、その発生も発達も異なる、全く別の世界です。当然、そんな別世界で暮らしていた貴女が私たちの『亜世界』と交われば、軋轢や衝突、世界のルールについての矛盾が生じる。どうしたって、辻褄が合わないことがあってしかるべきでしょう? では、その矛盾はどうなると思いますか? 一体誰が、その2つの世界の矛盾を埋めると思いますか? …………それは、私たちの『亜世界』の方です。例えば、柔らかい物と固い物をくっつけたときを想像してもらえばよいのですが……」
彼女は以前やったように、手を使ってジェスチャーする。
「固さの異なる2つの物をくっつけようとすると、柔らかい方が固い方に形を合わせて、へこんでくれるでしょう? この場合の固い方は貴女。柔らかい方は私たちの『亜世界』です。つまり貴女がやって来たことによって、私たちの『亜世界』は否応なく形を変えさせられている、ということなのです」
「…………」
『亜世界』が私のために形を変えて、私の居場所を用意してくれる。
彼女のその説明には、私は反論することが出来なかった。
だってそれは、私がそもそもこんなところに来ることになったきっかけである、『人間男の亜世界』の金髪王子も言っていた事だったから。
「貴女が訪れる『亜世界』は、常に貴女にとって『都合のよい世界』になっているはずなのです。貴女を基準に世界の未定義部分が定義され、貴女の存在が矛盾しないように世界のルールに補足事項が加えられているはずなのです。…………この『亜世界』に来る前の『亜世界』でも、そう感じることはありませんでしたか? 例えば、本来ならばあり得ないような強力な力を何故か貴女だけが保持していたとか……。あるいは、その『亜世界』の根本を覆すようなチート級の能力を、特に努力することなく手にいれる事が出来たとか……。そんな、貴女だけが世界に優遇されていると感じるようなことは、ありませんでしたでしょうか?」
「う……」
私には、彼女の言葉に思い当たる事があった。
『モンスター女の亜世界』での百合魔法が、それだ。あの魔法は、レベルが全てを支配するあの『亜世界』では、まさに反則級の強力な魔法だった。そして私はそんな強力な力を、何のリスクも負うことなく、最初から使うことが出来たんだ。
私の考えを表情で察したのか、でみ子ちゃんは勝ち誇ったように微笑んだ。
「やはり、あるのですね?」
「ある……ある、けど。でも……そ、それで、私が5属性の精霊を使えることにはならないでしょ!?」私はなおも、彼女への反論の余地を探す。「確かに私は異世界人として、前の『亜世界』では、すごい強力な魔法が使えたよ!? 今でも、もしかしたら他の人にはない特別な部分があるのかもしれないよ! でも、それで私が5属性が使えるなんて、そんなの強引だよっ! 何の証拠もないくせに、そんなこと言わないでよっ!」
そうだ。エア様を殺す犯人は、5属性の精霊が使えなきゃいけない。これだけは、何があっても変えようのない真実なんだ。だから、私がそれが出来るってことを証明できない限り、でみ子ちゃんに私を犯人呼ばわりすることなんて出来ないんだ!
……もはや、発想が2時間ドラマとかに出てくる犯人が追い詰められたときみたいになってしまっていた私。事の真相を導くことよりも、なんとか目の前のでみ子ちゃんの追及から逃れることに必死で。言えば言うほど、反論すればするほど自分の罪を認めているようなものなのにも気付いていなかった。
まあ、そんな私の悪あがきさえも、でみ子ちゃんには全く効果がなかったんだけど。
「……というか、貴女が5属性の精霊を行使できるということ自体は、貴女が何を言おうと、既に証明されているのですけどね。気付きませんでしたか?」
「な、な、何言って……」
「実は私も、あらかじめこんな可能性があることを多少は予想していたつもりでしたが……実際にそれをこの目で見たときには、驚いて声を上げてしまったくらいなのですが……」
「しょ、証明されてる!? 変な冗談言わないでよっ! 私は、そんなの使えないよっ! 使えるわけないって言ってるじゃん!」
「いいえ、冗談なんかではありませんよ? だって貴女は『さっき』、『私の見ている前』で、5つの精霊を操作して見せてくれたじゃないですか?」
「はあっ!? だ、だから、そんなはずないってばっ! だって私、この部屋に来てから今まで、何も変なことしてないし! まして、精霊の操作なんて……」
そこで私は、気付いた。
私を追及するでみ子ちゃんの目線が私ではなく、私を通り越した先の、「部屋の壁」に向けられているということに。
「ちょっと! 私の話、ちゃんと聞いてるのっ!? そんな勝手なことばっか言うくせに、部屋の壁なんか見て私の話を無視して…………え?」
「ふふふ……」と不敵に笑い、でみ子ちゃんは私に答えた。
「貴女はご存知ないと思いますが、私は昨日……とある、『気まぐれな行動』を起こしているのです。普段ならば絶対にやらないようなことを、昨日に限っては、おこなっている……いや、もっと正確に表現するならば、『アガスティアの計算結果によって、私がその気まぐれを起こすことが最良と判断された』と言うべきでしょうね。私も昨日の時点では、どうしてこんなことをするのが『最良』なのか分からなくて、とても不思議に思っていたのですが……『今日』貴女がここにやってきたことによって、その気まぐれが確かに最良のルートであったことが分かりました」
「で、でみ子ちゃん……まさか……まさか……」
私にも、既に彼女の意図していることが分かり始めていた。つまり彼女は昨日、自分の部屋に……。
「それはきっと、『3周目の私』にしても同じことだったのでしょう。『3周目の私』がどんな意図をもって貴女をここに呼んだのか、それを知るすべは今の私にはありません。ですが、その理由を想像することならば出来ます。『3周目の私』が、貴女を『なるべく早く』ここにやってこさせた理由。『姉様よりも早く』、ここにこさせたかった理由。それはきっと、この部屋を貴女だけの力で開けてもらうためです。………この、『姉様が5属性の鍵をかけた部屋』をね」
「そ、そんな……」
「昨日の夜、私は姉様にお願いして、自分の部屋にかけている精霊の鍵を、私の部屋にもかけてもらっているのです。もちろん、私にはその鍵を開けることは出来ませんから、『今日』になったら姉様に開けてもらう手はずだったのですが……貴女はその姉様の手を借りることなく、この部屋に入って来た。それこそが、貴女が5属性の精霊を行使出来るという何よりの証拠。そして、姉様を殺すことが出来るということの証拠でもあるのです」
その事実を知って、私は膝を崩して床にへたりこんでしまっていた。私の中の、でみ子ちゃんに反論しようとする意志は、その瞬間に決定的に粉砕されてしまったんだ。
だって彼女の言葉に嘘や偽りや、私をからかう気持ちがないということは、私にはもうわかっていたのだから。
「思い返して見てください。今まで貴女が私の部屋に来た時、そこには必ず姉様が一緒ではありませんでしたか? 貴女はいつも姉様が動かしたエレベーターに乗って、この部屋に入ってきたのではありませんでしたか? そうでなければ、『前のループの私』は貴女が犯人であることにもっと早く気付いていたはず。こんな周りくどい『罠』を張ったりせずに、もっと手っ取り早く手を打っていたはずなのですから」
私は茫然としてしまって、何も考えることが出来なっていた。
近くにいるはずのでみ子ちゃんの声が、ものすごく遠くから聞こえてくる気がする。
私は今まで、何をしていたのだろう?
エア様の部屋には鍵がかかっている。だから、その鍵を開けられる人が犯人……そう思ってたのに。
まさか私が、その鍵を開けることが出来る人物だったなんて。じゃあ、犯人は本当に、私なの……?
でみ子ちゃんに言われているうちに、本当にそんな気がしてきてしまった。自分のことが信じられくなってくる。……いや、もともと私は、自分のことなんか信じてなかったんだ。
『あの子』をあんなにも傷つけてしまった自分は、どうせまた誰かを傷つけてしまうって。どんな世界にいっても、私の居場所なんかないんだって……。
「貴女は存在するだけで他人を傷つける。貴女がいなければ泣かなくて済んだ者が、死ななくてすんだ者が、貴女がいることによって傷つけられる。殺されてしまう」
もう、やめて……。
「貴女だって分かっているのでしょう? これまでの800年間、この『亜世界』は姉様と私たち妹だけで、うまくやれていたのです。何も損なわれることなく、誰も欠けることのなく、800年間という期間を続けてこれたのです。それが、今日1日で崩れてしまった。貴女がやってきた、まさにその日に……。これで貴女が無関係であるはずがない」
違う……。私は、そんな……。
「800年続いたことが、突然今日終わることなどありえない。それだけ長期間続いた事実は、もはや習慣を越えて、完全なる真理です。そんな真理が覆るのは、何か状況に変化があったときだけ。そして、『今日』この『亜世界』で起きた1番の変化は貴女がやって来たこと。だから、犯人は貴女。そう考えることはとても理にかなったことだとは思いませんか? これが、真相へとたどり着くための最後の方法、論理的アプローチです」
違う……はずなのに……。
全身の力が抜けていく。反論どころか、呼吸する方法さえよく分からなくなっていく。
そこででみ子ちゃんは席から立つと、ゆっくりとこちらへ歩いてきて、うなだれている私の肩に手を置いた。
「とまあ、色々と言いましたが……私が先程貴女を呼び止めたのは、このようなことを言いたかったからではありません。だから、どうか顔を上げてください」
一瞬、何か優しい言葉でもかけてもらえるのかと思った私は……。
「これは提案なのですが…………どうか、『今回のパターン』で貴女、死んでみてもらえませんか?」
「え……」
「貴女が死んで、それでもし姉様が生きていられたとしたら、先ほどの私の推理が正しかったということの何よりの証明になります。貴女が犯人で、犯人が犯行に及ぶ前に死んだから、誰も殺されることはなかった。それで全てがうまくいくわけです。ねえ? だから、どうか……死んで……」
ふらっ……。
彼女の言葉が耳から滑り落ちるように、頭に届く前に聞こえなくなってしまう。意識が朦朧としてきたことに気付く。
ああ……。
もしかして私、本当にこのまま死んじゃうのかな……。
意識を失って、そのまま、もう2度と目覚めなくって……。
それでいいのかも。それが、いいのかも。
私がいることで、いろんな人を傷つけて、悲しませてしまうなら……。いっそ、ここで……。『あの子』を傷つけた罪を背負ったまま……。
消えゆく意識の中でうっすらと、エア様の声が聞こえた気がした。
まあ……こちらにいらしたのですね……。
わたくしは……この『亜世界』の……。
小鳥のさえずるような、彼女の綺麗な声。
どうやら、私を探してこのでみ子ちゃんの部屋までやって来てくれたらしい。エア様はやっぱり優しいな…………でも。
でも、エア様もばかだなあ……。ふふ……私なんかに優しくしても、どうせ殺されちゃうだけなのにさ……。
そして私の意識は、ゆっくりと闇の中に落ちて行った。表情は、自然とほころんでいた。




