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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter05. Alisa in A-priori World
49/110

07'

「みんな~! おっ待たせ~☆ 今日も盛り上がっていくよ~!」


 ステージの上を縦横無尽に動き回る「彼女」と、正確にそれを追従する火の精霊(スポットライト)

 突然爆発音が響いたかと思ったら、赤、青、白の光が大きな花火のように炸裂して、彼女をキラキラとした輝きで包み込む。私は驚いて、一瞬目を細めてしまう。

 やがてそれが落ちつくと、ステージの真ん中で静止したスポットライトの光の中で、彼女が片脚を上げて右手でピースを作ったかわいらしいポージングを決めている姿が目に入ってきた。

 彼女はその姿勢のまま、鼻にかかる甲高い声で言った。


「は~いっ! ちょっぴりセクシ~、ときどきキュ~ト! 寝ても覚めても絶対妹宣言! (おねえちゃん)大好き、偶像(アイドル)ちゃんで~っす! キラりんっ☆」

 彼女がそう言った瞬間、私の背後から「フゥーっ!」という、まるで誰かの声援のような声が聞こえた。ビックリして振り向いて見るけど、そこには誰もいない。どうやら、それも「彼女の職能」の一部ということらしい。

 それは本当に、私の世界のアイドルのステージを見ているようだった。



 私たちがアグリちゃんたちと昼食を食べたのが、お昼の12時くらい。あれから、すでに9時間近くが過ぎていた。

 昼食の後、アキちゃんが私の部屋を建築してくれたところを最後まで見届けた私は、そのあともけみ子ちゃんが職能で水から火を作るところを見学させてもらったり、エア様にこの『亜世界』の観光名所的なところ(って言っても、基本的にこの『亜世界』にあるのは『亜世界樹』の森だけなんだけど……)を紹介してもらったりして、適当に時間を潰した。そして午後の7時になると、エア様とけみ子ちゃんと一緒に、昼食を食べたあの森の中のテーブルに戻った。

 その時にはもうアグリちゃんは眠ってしまっていなかったけど、そこには昼食に出されたものに負けないくらいに豪華でおいしそうな料理と、彼女が毒が入ってないことをチェックしてくれた安全な保存食や飲み物が、たくさん用意されていた。しかも、その全てには精霊を使用した特殊な保護がかけてあって、アグリちゃんがチェックをしたときから「誰も触れていない」、「何も改変されていない」ということが、完全に保証されているらしかった。

 アグリちゃんは朝の5時から午後2時までしか起きていられないから、それらの準備に使えたのは彼女がエア様に「約束」を取り付けてから、ほぼ2時間くらいしなかったはずなのに……まさに有言実行。彼女はその短い時間の間に、しっかりと自分のするべき仕事をこなしてくれていたというわけだ。ホントに男前な娘だよ、アグリちゃんは。

 おかげで私たちは、もはや毒に関して少しの不安も感じることなく、おいしい夕食を楽しむことが出来たのだった。


 太陽が西の空に沈むと、『亜世界樹』の森の木々の間に、ポツポツと小さな火がともり始めた。それは、『亜世界樹エレベーター』のように誰かの「職能」で作られた、火の精霊の街灯だ。恐らく周囲が暗くなったのに反応して自動で起動して、火の光で周囲を照らすような仕組みになっているのだろう。おかげで、『亜世界樹』の葉っぱに遮られて月の光が地面にまで届かなくても、私の視界が真っ暗になることはなかった。

 今ではもう、アグリちゃんだけじゃなくアキちゃんも眠りについてしまっている。ついさっきけみ子ちゃんも、うつらうつらしながら自分の部屋へと帰っていったところだ。爽やかな昼の景色が夜に切り替わっていくように、1日9時間しか起きていられないこの『亜世界』の妹ちゃんたちも、夜になるとメンバーが一変する。

 現在ステージの上で元気に飛んだり跳ねたりしている彼女も、そんな娘の1人だった。




「よ~っし! それじゃあまずは最初の1曲目っ! (おねえちゃん)、準備はい~かなあ~っ!? いっくよ~!」

 彼女のそんな言葉とともに、どこからともなくノリのいい音楽が聞こえてきた。

 森の中の特設ステージにはやや不釣り合いの、電子音のような明るく弾けるような音。テンポは結構早くて、聞いているだけで心拍数とテンションが上がっていくようだ。メロディ展開もとてもシンプルで、私の元いた世界でも全然通用しそうな感じの…………それはいわゆる、Jポップのような歌だった。


「そ~っと~ 貴女(おねえちゃん)の寝顔を覗いてみ~る~

 (ドキ… ドキ…)

 き~っと~ ステキな夢を見ているのね~?

 (キラ☆ キラ☆)

 なら、ず~っと~ 目覚めないでいて下さい!

 あ・た・し・が その中に飛び込んじゃうから いっそ!

 (ワク!? ワク!?)」


 これは、その歌のAメロらしい。

 彼女は可愛らしい振付のダンスを踊りながら、やはり可愛らしい声で歌っている。どこからか、さっきと同じような声の主のわからない「合いの手」が聞こえてくるけど、私はだんだんそういうのにも慣れてきていた。


「この広~い 宇宙(そら)の下~

 同じ☆亜世界☆(ほし)で~ 出会った~

 2人の関係は 必然の運命(デスティニー)

 そ~れ~と~も~ からまった 生命の神秘(ミステリー)!?」


 続いてBメロ。

 私の隣にいるエア様にウインクを飛ばしつつ、その歌を歌い続ける彼女。その仕草は、あざといくらいに可愛らしい。ああ、そうだ。『1周目』に彼女のライブを聞いたときも、彼女はずっとこんな感じだったっけ。

 メロディはだんだんと盛り上がっていって、高揚感をあおっていく。そしてその高まりが最高潮に達したとき、満を持してサビに入った。


「それは

 シスター×シスター! 今はまだ

 シスター×シスター! 無茶なカップリングでも~

 きっと~ 変わる・変える・叶えてみせる!


 Oh!

 シスター×シスター! 大好きよ

 シスター×シスター! 誰が何て言っても~

 貴女(キミ)は~ あたし~ だけの~ かけがえのない……

 最愛の人(ディアレスト) マイ♥シスター!」


 は、ははは……。

 曲は間奏に入って、彼女は両手を振りながらステージ上を駆け回り始めた。私は強がるようにそんな彼女からわざと視線を外して、1人考える。

 ま、まあ、あれだよね?

 正直、歌詞はイタ過ぎて問題外だけど、曲の方は意外と悪くないかもね……。つーか、一周回って逆にアリ? みたいな? いや、もっとヒドいの想像してたから、思ったよりはクオリティ高くて安心したよ、うん。

 ま。まだまだ粗削りで、これから頑張らなくっちゃいけないとは思うけどさ。これだったら私、ちょっとくらいは応援してあげてもいいかなあ…………って、いやいやいや。何言ってんだ私は……。

 そんな、「友達に連れられて全然興味がないアイドルのライブに来て、いろいろ文句言ってたのに結局最後にはドハマりしてるヤツ」みたいなリアクションしてる場合じゃなくってさ……。今はもっと、考えなくっちゃいけないことがあるでしょーが……。

 そうだよ。

 私が今ここで、こんなきゃぴきゃぴしたアイドルソングを聞いているのには、ちゃんとした理由があるんだよ。それはつまり、今現在私の1番の関心事である「エア様殺人事件」について、彼女がとても重要な存在なんじゃないかっていう推理をしたからで……。


「むぎゅ~っとぉ~ 貴女(おねえちゃん)肉体(カラダ)に~ 溺れてみ~る~……」


 どうやら、彼女の歌は2番に入ったらしい。

 いつの間にかそのライブに見入ってしまっていた私は、そんな自分を戒めて、改めて頭の中で考え事を始めた。

 現在ステージの上で恥ずかしい歌を歌っている、赤黒チェックの衣装をまとった彼女は、エア様の妹の1人の偶像(アイドル)ちゃん………じゃなくって、芸術家(アーティスト)のあーみんだ。

 この『亜世界』には、偶像(アイドル)ちゃんなんていう娘はいない。だって、Idol(アイドル)だと頭文字がAじゃなくてIになっちゃうしね? でも本当のところはともかく、少なくとも見ため的には、彼女がアイドルってのもそうそう間違いでもなかった。

 もともと、他の妹ちゃんと同じようにエア様似の美人な顔に加えて、彼女の髪はまるで漫画とかアニメのキャラみたいな鮮やかなピンク色をしている。そのうえ胸も結構大きいし、短いスカートからのぞかせているスラリとした太ももも、健康的ですごく魅力的。

 だから、もしも私の世界にこんな娘がいたら、速攻芸能界デビューしちゃって本当にトップアイドルとかになれちゃうんじゃない? なんて思ってしまうくらいに、彼女は典型的な美少女キャラだったんだ。

 まあ、髪の毛はただの植物性のカツラだし、『1周目』にアナに聞いた話だと、胸も結構「盛ってる」って噂なんだけどね。

 一見すると、ただ単に自分の趣味でこんなアイドルごっこをしているように見える彼女だけど、実はそうじゃない。だって、こうやってステージの上で歌って踊ることが、彼女にとっての仕事の一部だったんだから(もちろん、だからと言って彼女にそういう趣味がないって訳でもないんだけどね)。


 でみ子ちゃんのときにも言ったけど、この『亜世界』における芸術家の役割は、「『亜世界樹』が計算した結果を他の皆に展開する」こと。「分からないもの」を「分からないまま」に、他者に伝達することだ。そしてそのためには、芸術家のあーみんが自分の職能を駆使しながらこうやって歌を歌うことが、どうしても必要になってくるんだそうだ。

 例えるなら、私の世界には「本気と書いてマジって読む」っていう言葉があるよね? 彼女の職能は、言ってみればあれの「超スゴイ版」なんだ。……いや、自分でもだいぶ頭の悪いことを言ってるな、ってのは分かってるよ? でも、彼女の職能の概念が私の常識を越えすぎていて、本当にそうとしか説明できないんだよ。

 それでも、もう少し分かりやすく彼女のことを説明する努力をしてみると、こういうことになると思う。「彼女は自分の歌の好きなところにルビを振ることが出来る」、「歌を歌いながら、その歌の歌詞とは別のメッセージを伝えることが出来る」、ってね。

 つまり、歌の歌詞は「本気」なのに、それと同時に歌を聞いた人に「マジ」っていうメッセージも伝えられる。それが、心と火の精霊のエキスパートである、芸術家のあーみんの職能ってわけなんだ。


 毎晩、夜の9時に起きた彼女は、こうやって森の中に作られた特設ステージでアイドルライブを始める。そしてそのライブの歌に、でみ子ちゃんが『亜世界樹』に計算させた「最良の明日のパターンのイメージ」を載せて、皆に聞かせるんだ。もちろん、そんな歌を聞かされても、『亜世界樹』の計算結果の意味は誰にも分らないんだけど、「考えるよりも心で感じる」的なニュアンスで、みんなの無意識下には影響を与える。そしてその作用によって、みんなは次の日のあらゆる行動を、無意識的に『亜世界樹』が計算したパターンの通りに決定してしまう。結果的に、その歌を聞いたみんながその日を最高の1日として過ごせるようになる、ってわけなんだ。

 ちなみに、歌を歌っている彼女の声は、『亜世界樹』を加工して作った特殊なスピーカーを通して、この『亜世界』中に配信されている。だからアキちゃんとかアグリちゃんとかの、今現在シフト的に部屋で眠っちゃってるはずの娘たちにも、睡眠学習的な感じでちゃんと彼女の歌は届いているらしかった。


 って、いやいやいや! いくらメッセージ伝えるのに歌が必要だからって、そんなアイドルの恰好しなくたっていいじゃん!? 芸術家(アーティスト)っていうから絵画とか彫刻とか作る人想像してたのに、これじゃあテレビの歌番組でいう「アーティスト」じゃん!? ……っていうツッコミは、当然あると思う。でも、今はその辺のことには目をつぶっておいてほしいんだ。

 だって今の私は、そんな彼女の職能とかはあんまり関係なく、もっと単純なことで、彼女のことを「怪しい」って思っていたんだから。


 ……うん。

 今更誤魔化してもしょうがないし、ここは正直になろう。

 私は今、彼女のことを怪しいと思っている。ぶっちゃけ、「エア様殺人事件」の真犯人だと思っているんだ。

 もちろん、それには理由もある。それは、彼女の「アリバイ」だ。



 昼間の一件があって以来、私のアグリちゃんに対する容疑は、完全になくなった。

 そしてここが重要なところなんだけど、『今日のパターン』でアグリちゃんが犯人じゃないって分かったってことは、多分、『昨日のパターン』でもアグリちゃんは犯人じゃないってことになるんじゃないだろうか? だって、『亜世界樹』が毎日計算しているのは、あくまでも「あり得るパターンの1つ」なんだから。そもそも起こるはずのないことは計算していないんだから、『1周目』と『2周目』は本質的には等価値になる。

 つまり、『1周目』の真実は『2周目』の真実でもあるし、その逆もまたしかり。『2周目』で殺人をしていない人は、『1周目』でだってそんなことしてないってことだ。だから私は、アグリちゃんはこの事件について完全にシロになったって言っていいと思うんだ。

 それを前提にして考えてみると、『1周目』のエア様は、真犯人である「アグリちゃん以外の人物」から毒を盛られたっていうことになる。でも、それは一体いつのことなんだろう?

 自慢じゃないけど私、『1周目』のときは四六時中エア様と一緒にいて、彼女の隣で、お花畑のようにかぐわしい彼女の体臭(スメル)を独り占めにしていた…………じゃなくって。彼女の行動を、多分誰よりも詳細に把握していたんだ。

 だから、エア様が何かを口に入れればすぐに気付いただろうし、おかしな様子でエア様に近づく娘がいれば、それを見逃すはずなんかなかったんだ。

 でもそんな私が、お昼にアグリちゃんと話すまでは特に怪しいと思う人を思いつけなかった。毒を盛るとしたら、アグリちゃん以外には出来なそうだって思っていた。ってことは、『今日』のお昼みたくアグリちゃんが頑張ってくれなくても、そもそもエア様に毒を飲ませるなんて相当難しいことだったったことじゃない? 『1周目』の時点から、アグリちゃん以外にはエア様に毒を盛ることなんて出来なかったんじゃない?

 つまり。

 私が常に隣にいたせいでアグリちゃん以外には毒を盛ることが出来ない。でも、アグリちゃんは多分犯人じゃない。だとしたら、答えは自動的に1つしかなくなるんじゃないだろうか?

 つまりつまり……。

 真犯人がその「犯行」を行ったのは、私がエア様を見ていなかったとき。私とエア様が眠ろうと思って、それぞれの部屋に帰った後ってことだ。



「あたし実はこの前~、道でおねえちゃんの脚によく似た形の木を見つけて~、思わずスリスリしちゃったんですけど~…………」


 いつの間にか、あーみんのライブは何曲か歌を歌い終えて、MCコーナーに移っていた。

 え、そんなの要る? 『亜世界樹』のパターン全然関係ないし、それこそ彼女の趣味じゃん、っていうツッコミも置いといて…………。


 さっきの私の考えをもっと正確に言うなら、エア様殺害の犯行時刻は、「私とエア様が別れた深夜午前1時」から、「私がエア様の死体を発見した朝の6時くらい」までの、約5時間の間ってことだ。そして全ての妹ちゃんたちには、9時間しか起きていられないっていうルールがあるから、自分のシフトがその5時間にかぶっていない娘は「アリバイ」があるってことになって、自動的に容疑者として除外することが出来る。すると、残るのは……

 午後5時から次の日の2時まで起きているアナ。

 午後9時から次の日の6時まで起きているあーみん。

 午前1時から10時まで起きているでみ子ちゃん。

の3人だけになるんだ。


 さらに言うと。

 その3人の中でもでみ子ちゃんは犯人じゃない気がする。だって、『今日』エア様が死んでしまうって話を聞いたときの彼女の顔は、なんか、その、うまく言葉じゃ言えないんだけど……すごく真に迫る感じがあった。あんな風にエア様を思いやってくれる娘が、殺人犯だとは思えない。……思いたくない。


 それから、アナもちょっと違うんじゃないだろうか。

 まあ、これだって何か確固たる証拠があるってわけじゃないんだけど……なんか、彼女が犯人だとするとちょっと「忙しすぎ」のように思えるんだよね。

 だって、シフト的に彼女が起きていられるのって、深夜の2時までなんだよ? 彼女が犯人だとしたら、1時に私がエア様と別れてからのたった1時間しか、犯行を行う時間がなかったっていうことになる。いや、実際にはアナは眠ってしまう前にちゃんと自分の部屋に戻らないといけないわけで、その辺のことも色々と考慮すると正味30分もなかったんじゃない?

 もちろん、エア様に毒を盛るだけだったら30分もあれば充分だとは思うんだけど……でも、それにしたって、もう少し余裕のあるスケジュールを組んだっていいと思う。彼女的には、都合悪いなら明日にでも明後日にでも、日にちを変えることだってできたはずで、もっと都合のいいタイミングを待てば良かったと思うんだ。それなのに、わざわざ30分なんていうシビアな時間を狙って、エア様に毒を飲ませたっていう……。うーん。『1周目』に私が見た時の、あの余裕ぶっていた彼……い、いや、彼女の性格的に、あんまりそういう無謀なことをしそうには見えなかったんだ。


 で。結局私は、残ったあーみんを疑ったというわけ。


 正直自分でも、消去法にすらなっていない程度の説得力のない推理だとは思う。でも、さっき言った3人の中に真犯人がいること自体はかなり濃厚な気がするし、そこまで絞れているなら、とりあえず『今回のパターン』の私としては、あーみんを重点的にマークしてみるってのも、いいかなって思うんだよ。

 これでもし彼女も違うってことが分かれば、3択が2択に絞れるわけだしね。



   ※



(おねえちゃん)、ごっめ~んっ! ここでちょっと休憩だよ~! 第2部は10分後からでぇ~っす! その間に、し~っかりお手洗いは済ませておいてね~☆」

 ライブが始まってから、2時間くらいがたった。

 ちょうど歌が終わって区切りがついたところであーみんはそう言うと、舞台裏の休憩室(という名の、ステージの奥の方にある木で『建築』された小屋のようなもの)の中へと消えて行った。


 実は、芸術家のあーみん主宰のこのアイドルライブって、彼女が夜の9時に起きてから次の日の6時に眠りにつくまでの9時間、ぶっ通しのオールナイトライブだったりする。しかもそれが1日だけの話じゃなく、これまでの1000年間もの間、毎日そうだったっていうんだから……ホント、この娘って見かけによらずスゴイ体力だなあと思う。私も『1周目』にそれを聞いたときは、驚いて彼女のことを尊敬しちゃったくらいだったんだけど……。でも『2周目』の今気にしていたのはそれとは別のこと。それは、彼女が言ってた「休憩」ってやつだ。

 『昨日』も彼女は、ああやって2時間に1回くらいの割合で10分間の休憩を挟んで、私の見えないところへと引っ込んでいった。

 一応、それには彼女が疲れた体を休めたり、次の衣装に着替えるためっていう納得できる理由があったのだけど……。でも、もしも実はその間に、彼女がエア様の部屋に行っていたのだとしたら? 私とエア様が分かれた深夜1時以降で、ライブが休憩になったときに彼女が犯行を犯していたのだとしたら?

 10分という時間は、犯行時間としてはアナよりもさらに短いわけだけれど、アクティブな彼女ならばそれもあり得るような気がする。なにより、起きている間はぶっ続けでライブをしている彼女にしてみれば、それがどんなに短い時間だとしても、エア様を殺すチャンスはこの休憩時間以外にはなかったんだから。



 何か確信があったわけじゃないけど、私は今日は朝まで眠らないつもりだった。

 『1周目』に殺人をした犯人は、もしかしたら、『2周目』も同じことをするかもしれない。だから私は、彼女が休憩中にあの小屋を抜け出してエア様のところへ行ったりしないか、徹夜で見張ることにしたのだった。

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