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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter05. Alisa in A-priori World
43/110

01'

「うわあああああああぁぁぁぁーっ!」

 まるで、世界を引き裂くような叫び声。

 目の前の光景を否定したくて。あり得ない現実から、少しでも遠ざかりたくて。私は今まで自分が出したことがないほどの絶叫を、自分の体から絞り出していた。


 やがて、その願いが神様に届いたのか。

 気が付けば目の前の惨劇は跡形もなくなって、私は森の中にいた。


 って。

「え……?」

 キョロキョロと周囲を見回してみる。

 やっぱり見間違いなんかじゃない。辺りは、幾何学模様のように木々が配置された、見覚えのある森の風景だ。そう。ちょうど、私が最初にこの『亜世界』にやって来たときのような場所。

 どうして……ここに?

 私はさっきまで、エア様の部屋にいたはずだ。エア様の部屋で、彼女が痛々しい姿になっていたのを見つけてしまったところだった……はず。

 なのに、今の私は森の中にいる。


 もしかしたら私はあのとき、あまりのショックで気を失ってしまったのかもしれない。そこにやってきた誰かが、私をここまで運んでくれたってことで………いや、そんなの意味がわからない。

 だって、もしもあのとき誰かがエア様の部屋にやって来て、「あんなこと」になってしまったのを見つけたとしたら……悠長に私をこんなところまで連れてきてる余裕なんかないはずでしょ?私みたいにショックで身動き取れなくなって、それこそ、気絶でもするくらいじゃなきゃおかしいでしょ?誰が来たんだとしても、私なんかより遥かにエア様と親しくって、エア様のことが大好きな娘たちばっかりなんだから……。

 だいたい。さっきから私、自分の記憶を遡ってみてるんだけど。なんか、自分が気を失ったっていう感じがしないんだよね。

 気を失うってもっとこう、クラクラっと立ちくらみでもするみたいになって、記憶が曖昧になったりするものじゃないの?それこそ、『亜世界』間を移動するときの体が水にとけてしまうような感覚みたく、意識が朦朧としてくるような。でも、今の私の記憶はそうじゃない。

 今の私はまるで、映画の1シーンから別のシーンに、一瞬で場面が切り替わったみたいな感じだ。2つのシーンにはどちらもはっきりと意識があって、曖昧な部分なんかない。ただ、その2つのシーンを繋ぐ「編集」が下手すぎて、違和感を感じたってだけで。

 まあ例えばこれが、「映画の主人公が瞬間移動したシーン」なんだって言われれば、多少は納得出来るかもね。つまり、さっきの私はエア様の部屋にいた状態から、一瞬でこの森の中にワープしてきたっていうことで…………。


 そこまで考えて、私はだんだん自分の意識に確信が持てなくなってきた。

 なんだか、変なことばっかりが思いついて、全然頭の中がまとまらない。だって、いくら意識がはっきりしているって言っても結局今の私って、ほんの十数分前に目を覚ましたばっかりなわけなんだよね?だったら、ただただ私が寝起きでぼーっとしてただけで、そもそもおかしなことなんか何も起こってないって可能性もあるわけでさ……。

「ああそっか……。そう、だよね……」

 うん。きっとそうだ。そういうことなんだ。

 何も、深く考える必要なんか最初からなかったんだ。

 状況が状況だっただけに、さっきは少し驚き過ぎちゃったけど。よく考えてみたら別に、そんなに珍しいことでもなかった。似たような事なら、今までにも何回も経験してきてるじゃん。夜更かしした後の次の日の朝とか。お弁当食べたあとの午後の授業中とか……。

 起きてから時間が経ってきて少し冷静になってきたせいか、頭の中の混乱も徐々におさまってきて、私は、今の自分の状況を無理なく説明するストーリーが描けるようになってきていた。

「あーあ。変な夢だったな……」


 夢。

 そうだ。そうに違いない。

 あり得るわけのないことが起こったり、かと思えば、それがすぐになかったことになったり。脈絡も理由もなく「突然エア様が部屋で死んでいたかと思ったら、一瞬で消えちゃった」なんていうワケわかんないことが起きたんだから、そんなの、全部夢だったって考えるのが1番自然だ。

 その夢が、余りにもリアル過ぎちゃってたもんだから、現実と区別がつかなくなっちゃったんだろう。さっきまで寝てたってことに気づかずに、夢から現実に戻ったのを、突然シーンが切り替わってワープしたとか言っちゃってさ。ばっかみたい。エア様の死体なんて、どこにもあるわけないのに。

 まあ、部屋で眠ってたはずの私が、どうしてこんな森の中にまで来てしまっているのかってのは相変わらず謎なんだけど……。でもそれだって、きっと私の寝相の悪さがあり得ないくらいに爆発して、眠ってるうちに自分の部屋からここまでふらふらと歩いてきちゃった、って考えれば充分説明つくし。うん、きっとそうだ。そうに違いないよ。

 それはそれでちょっとバカみたいだし、無理がある気はするけれど……。ま、どっちにしろ夢以外には有り得ないんだし、これ以上この事を考えてても意味ないって。はい、この話これで終了!


 私はそうやって心の中で結論を出して、この事について考えるのをさっさと切り上げてしまうことにした。自分でも、ちょっと強引過ぎるとは思うし、頭の奥の方では、まだ何か他のストーリーを探している自分もいたけれど……。でも私って、答えの出ないことをいつまでも考え続けるのって、嫌いなんだよね。そんなふうにウジウジ考えてる暇があったら、間違っててもいいから早いとこ答えを出して、先に進んだ方がいいじゃん!……なんてね。偉そうなことを言いながら、最近はウジウジ悩むことの方が多かった気もするけどさ。


 ああそれにしても、本当に最悪の夢だった。

 昨日、私のことをあんなに歓迎してくれて、あんなに私に優しくしてくれたエア様が、死んでしまう夢を見るなんて。変とか失礼とかを通りこして、自分の人間性を疑うよ。全く。

 今度エア様にあったら、ちゃんと謝らないとだな。

 ガサ……ガサ……。

 なんて思ってたら、近くに生えていた背の高い雑草をかき分けて、エア様が現れた。うーん、グッドタイミング。きっと、朝になって部屋にいない私を心配して、ここまで探しにきてくれたんだろう。相変わらず優しいなあ。私はちょっとはにかみながら、彼女に話しかける。

「あ、エア様、おはようございます。あ、あのぁー、言いにくいんすけど……じ、実は私、さっき変な夢見ちゃって……」

「よかった。時間ぴったりでしたね」

「え……?」


 それから彼女はにっこりと微笑んで、私にこう言った。

「お待ちしておりました。わたくしは、この『亜世界』の『管理者』でございます」

「エア…様………?」


 そのときの、「初めて会ったときと同じ笑顔」でお辞儀をしたエア様の姿に、否が応でも私は事の重大さに気付かされたのだった。




   ※




「なるほろ……ふまり、ありははまのおっひゃるほろをようやくふるほ……」

「え、えっと、エア様……?」

「はひ?」

「な、何してるんです?」


 改めて、エア様に「自己紹介」をした後、私は今までの経緯を彼女に説明した。

 そしたら何故か、エア様が人差し指と親指で自分の頬をつねりながらしゃべり始めたんだ。そんなバカみたいなことをしてるもんだから、彼女のせっかくの美貌が台無し……にはならなくって。超絶美人のエア様の美しさはそんなことくらいじゃあ損なわれたりせず、それどころか、整った顔つきとのギャップ萌えみたいなもので、更に彼女の魅力をアップさせていた。……ずるい。

 とはいえ、さすがにそのままじゃあ喋りにくそうだったし、正直何言ってるか全然分からなかったので、早々に止めてもらうことにした。

「……はい」

 指を離した頬にちょっと赤い跡を残しながら、エア様は言う。

「先ほどわたくしが挨拶をした際に、アリサ様はこうやって、ご自分の頬をつねっていらっしゃいましたでしょう?ですから、こうすることが貴女の世界流のご挨拶の方法かと思ったのですが……。どうやらそれは、わたくしの見当違いだったようですね?」

「いや、ははは……」

 苦笑いが隠せない。

 確かに私、さっきエア様に話しかけられたときに自分がまだ夢の続きにいるのかと思って、そんなありきたりなリアクションしちゃったよ?したけどさあ……。

 だからといって、それを私の世界の挨拶だと勘違いして真似してしまうなんて、やっぱりこの人、相当のうっかりさんだ。相変わらず抜けているエア様に、私は少し気分がほっこりとするのを感じた。

 でも同時にそれは、今私の身に起きている「とんでもない事態」を、間接的に証明しているようにも思った。

 目の前にいる金髪美人のエルフ。自分のことを『亜世界』の『管理者』なんて言うわりには、ちょっとうっかりさんでほっとけないようなところもある彼女は、紛れもなく、私が知ってるエア様だ。エアルディード・シュバルベラ……何とかさんだ。

 そのエア様が、私に向かって「昨日と同じ台詞」を言ってきた。私のことを「初対面」として扱って、私がとっくに知ってるはずの、「自分はこの『亜世界』の『管理者』だ」なんてことを言ってきたんだ。それはつまり、「エア様と私が既に出会っている」ってことを私は覚えているのに、エア様は覚えていないっていうこと。それって、つまり……。

 エア様も、そんな私と話していて分かったことがあるらしく、上品に頬に手を当てながら言う。

「アリサ様のおっしゃることを要約すると、アリサ様は既に1度『今日』を経験されていらっしゃるということですよね?この『亜世界』にやってきて、わたくしや、わたくしの妹たちと出会っているということで……」

「ええ……」

「ですが。わたくしたちにとってみれば、アリサ様がやってきたのは『今日』が初めてです。先ほどお会いするまで、わたくしはアリサ様のことを存じ上げませんでした。もちろん、わたくしの妹たちもそれは同じはずです。つまり、これは……」

「そうですね。これは、多分……」

 私たちはそのとき、2人とも同じことを考えていたようだ。今私に起きている不思議な現象について、2人の予想は一致していたんだ。

「私が……」「アリサ様が……」

 視線を合わせた私たちは、タイミングを見計らって、いっせーので声を揃えてその予想を口にした。


「タイムリープして」「『亜世界樹』の計算過程を見て」

「い、る…………あれ?」


 と思ったけど、蓋を開けてみたら結局、声が揃ったのは最後の2文字だけだった。

 ええー?なんだよー。ちょっとがっかりだよー。

 テレビドラマとかアニメでよく見るような感じで、2人の声がバシッと揃ったら気持ちいいと思ったのになあー、もおー……。

 いつも通りのボケをかましたエア様によって、私の予想は思いっきり外されてしまった。完全に拍子抜けさせられた私は、呆れを通りこして、そんな彼女のことが愛おしく思えてくる。まるで、物わかりの悪い子供を持った母親のような気持ちだ。

「はあ……」やれやれって感じで、エア様に言い聞かせる。「えっとぉ……あのですね、エア様?何でここで、『亜世界樹』が出てくるんです?違うでしょう?この状況って、どう考えてもタイムリープ、つまり、時間跳躍じゃないですか?『わたし以外の時間が巻き戻ってる』的な状態なわけで、つまりつまり、今の私は『時をかける美少女』になっちゃってるってことなんじゃないんですか?」

「時を、かける……びしょ……?」

 まるで「七嶋アリサ」っていう私の名前を聞いたときみたいに、とぼけた感じで首を傾げるエア様。何でも知ってるエア様でも、さすがに、私の世界の物語のタイトルまでは知らないか?ま、しょうがないよね。私は、そんなエア様に暖かい眼差しを向ける。

 まあ、そもそも元ネタのタイトルには「美」は付いてなかった気がするから、エア様が知ってるはずがないんだけど……そこは私が主役を演じる以上、自動的にそうなっちゃうっていうか……。


「それについてはまあ、一旦置いておくとしまして」あ、置いとくんだ……。私の強がりを見事にスルーするエア様。「……ただ」

「はい?」

「アリサ様の世界では、もしかしたら今のアリサ様に起きているような現象のことを、その『名前』で呼ぶのかもしれませんが……。この『亜世界』では、やはり『亜世界樹』が関わっていると考えるのが1番自然かと思います。この『亜世界』は『亜世界樹』を中心に動いていて、『亜世界樹』は、この『亜世界』で起こる全てのことに関与してるのですからね?」

「そ、そうは言ってもですねぇ……」

 エア様的には、あくまでも今のタイムリープ現象のことを『亜世界樹』に結び付けたいらしい。言いくるめようとする私にも負けずに、食い下がってきた。

 でも私としては、今の状況がタイムリープしている以外にありえないってことは、もう完全に分かり切っていたんだけどね。だって、言っちゃ悪いけどこういうのって、漫画とかアニメとかで、割とよくあるっちゃあよくある展開だし。こんな、エルフが出てくるようなファンタジー世界だったらなおのこと、タイムリープみたいな不思議現象くらいは起こってもおかしくないだろうしさ。


「ええ。やはりこれは、『亜世界樹』が起こしている現象と考えるべきでしょうね……。そのことだけは、ほぼ間違いないと言っていいと思います」

 でも、そのときのエア様があまりにも自信に溢れた口調で語っていたので、私は口を挟むことが出来なかった。意外と強情なとこあるよね、この人。

「そして問題が『亜世界樹』に関係するということであるならば、わたくしたちには、その対処や解決法を知るためのとても良い方法があります。それは、『専門家に聞く』ということです。つまり、『亜世界樹』について誰もよりも詳しく知っている、研究者(アカデミック)に……」


 そういうわけで。

 それから私たちは、研究者(アカデミック)としてずっとこの『亜世界』で『亜世界樹』を研究してきた、でみ子ちゃんのところに行くことになった。

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