02
タルトちゃんと別れたあと、ティオは元気よく私の手を引いて、先に進もうとした。
「さあ!やっとティオのレベルアップに取りかかれるにゃん!ティオ、待ちくたびれたにゃん!」
でも、彼女に引っ張られながらも、実はそのときの私は、少し考えていたことがあった。
「ティオ、ちょっと待って…」
「にゃー、楽しみだにゃー!早くレベル上げまくって、サラのことぶっ倒したいにゃー!」
「だから、ちょっと待ってってばっ!」
「んにゃ?」
やっと私の叫びに気づいたティオが、立ち止まる。
「にゃんだにゃ、アリサ?もう、余分な用事は全部すんだはずにゃ?何で、今更ちょっと待たないといけないんだにゃ?」
「私…この先に進む前に、はっきりさせておきたいことがあるの。だから、先に進むのはちょっと待ってほしいの…」
「んにゃあー?」
本当に訳が分からないという様子で頭を傾げているティオに、私は言う。
「ねえティオ。あんた……この『亜世界』について、まだ、私に言ってないルールってない?あるんなら、今のうちに全部教えてくれないかな?」
「にゃー?アリサに言ってない、ルールぅー…?」
めんどくさそうな表情で頭をかくティオ。まるで、「そんなことどうだっていいから、さっさと先に行こう」って顔に書いてあるみたいだ。でも私だって別に、ティオのことを困らせようと思ってそれを言ったわけじゃない。これから先どうしても必要だと思ったから、今、改めて質問しているんだ。だからこの決意は曲げられない。
「まだ何か知ってることがあるのなら、全部私に話してよ。そうじゃないと、私はこの先には進めない」
さっきの「レベルの隠蔽のルール」で、私は理解した。
この『亜世界』についてのルール、特にレベルのことに関するルールについては、すべてのモンスターが当然のこととして知っていて、そのルールを元に行動している。だから、何か知らないルールがあったりすると、それを利用した攻撃に対処できずに思わぬところで奇襲を受けてしまったりして、さっきのナーガのときみたいに自分や仲間の身を危険にさらしてしまう。この『亜世界』では、無知は命取りなんだ。
ただでさえ既に私たちには、ティオすらもよく分かっていないような謎を抱え込んでしまっている。
例えば、1年前にサラニアちゃんが使ったっていうチートの方法とか…。
さっきのナーガが、タルトちゃんの仲間をどうして生かしたままさらったのか、とか…。
だからせめてティオと私についてだけでも、今のうちにこの『亜世界』についての情報を共有しておいた方がいいって、私は思ったんだ。
「そ、そんにゃこと言ったってにゃー……」
ティオは、私の強い決意にちょっと押され気味になっているみたいで、頭を抱え込んで何かを思い出すポーズをとる。
「何かあるかにゃー……。ティオが、まだアリサに言ってないことってー……」
「うん。何か思いつくんなら、教えてほしいんだけど……」
「んにゃー…んにゃー…んにゃー…」
「ま、まあ…もしもあれば、って話だからさ、何も思いつかないんなら、それに越したことはないんだよ…?」
「んにゃうー…にゃうううううぅぅぅぅ…」
うずくまってしまうティオ。まるで、頭が痛くて立っていることができない人みたいだ。実際、考え事が苦手な彼女にとって、今の状況はかなりの苦痛になっているのかもしれない。見ていられなくて、私は助け船を出そうとした。
「って、ってゆーか、出会ったときに私、ティオからいろいろと説明してもらってたもんね?それで大体カバーできてる気もするし、実のところティオが知っててわたしが知らないことなんて、もう何も……」
「……あっ!」
そこで、ティオは元気よく声を上げて立ち上がった。
「あったにゃん!ティオが、まだアリサに教えてなかったことっ!思い出したにゃんっ!」
「ほ、ほんとっ!?」
私は一気にそれに食いつく。
「な、何っ!?それって何!?私が知らなくて、ティオが知ってることって、それって一体、どんなルールなの!?」
「まーまー。そんにゃに焦るなにゃん?」
「え?う、うん」ティオに言われて、少し冷静に戻る私。改めて、彼女に聞く。「そ、それで、ティオが思い出したことっていうのは…」
「ティオが思い出したのはぁー」
「それは…?」
「それはぁー」
「そ、それは…?」
もったいぶるティオに、私の期待も上がっていく。
やがて彼女はにんまりと笑うと、その「ルール」を私に教えてくれて……。
「それは、子供の作り方だにゃ」
え……?
「アリサには、子供を作るのに2匹のモンスターが必要っていうのは教えたけど、そもそもその2匹がどうやって子供を作るのかっていうのは、まだ教えてなかったにゃ?だから、それを今教えておくにゃ!」
あ、あれ…?
なんか、私が思ってたやつとちょっと違うぞ…?
「実は、子供を作るには2匹のモンスターがお互いに、自分の体のある部分を、相手の体のある部分にくっつける必要があるんだにゃ。つまり自分のxxxxを、相手のxxxxに重ね合わせて……」
ちょちょちょーっ!ストップ!そこでストップだよ!
「あ、xxxxっていうのは、例えばティオの体で言うと、この辺についてて……」
「だ、だから、もういいってばっ!ってか、変なところを見せつけようとするんじゃないよっ!」
恥ずかしげもなく、自分の下半身の体毛をかき分けようとするティオを、私は必死で制止する。何とか間に合ったからよかったものの、危うくもう少しでティオの「変なところ」が、モロに公衆の面前(って言っても私1人だけど…)にさらされてしまうところだった。
こいつ、やっぱりただの痴女だ…。
「んにゃ?アリサが教えろって言ったから教えてあげようとしたにょに……今度はやめろだにゃんて、変なヤツだにゃん」
「い、いや…私が聞きたかったのは、この『亜世界』のルールだから…。そういう話は、聞いてないからさ…」
タジタジになってしまった私は、ティオと目を合わせることが出来ない。とりあえず、彼女がもうその話の続きをしなそうなことに、胸をなでおろしていた。
ってゆーか私って実は、そういうちょっと「リアルな話」って苦手なんだよね…。
ライトエロスなイタズラしたりとか、友達とエロトークとかするのは割と好きなんだけど、話題がそういう「リアル」な方向に言っちゃうと、途端に何も言えなくなっちゃうっていう…。
この『亜世界』に来た目的の、「『管理者』とのディープキス」って話だって、結構自分の中でいっぱいいっぱいの内容で、思い出しただけでも恥ずかしさで顔が赤くなってくるくらいなのにさ……。ティオったらあろうことか……セ…セ……セ……い、いや、子供の作り方の話しだすとか……。そんなの完全に、私のキャパオーバーだし…。
だいたい、女同士で子供作るなんて、そんなの、この『亜世界』じゃあ普通かもしれないけど、私の世界じゃあありえないんだからね!?私別に、そんな方法なんて全然興味ないし、むしろアブノーマルすぎて完全に拒絶反応が……。
「じゃあ、今度はティオにも、アリサが知ってることをおしえてにゃん!そうしないと、不公平だにゃん!」
「え…?」
頭の中で言葉を重ねていたところで、急に話しかけられて驚く私。
えっと…、今度は、私が、ティオに…?それは別に、いいけど…。
でも、私ってこの『亜世界』にきてまだちょっとしかたってないわけだし、その間はティオといつも一緒だったわけだし、私がティオに教えられることなんて、あるのかなあ…?いくら、ティオが世間知らずで、知らないことばっかだったとしても、さすがに私よりかはこの『亜世界』に詳しいだろうし。だからそういう意味じゃあ、私が教えられることがあるとしたら、私が暮らしていた世界のことくらいなもんで……。
え、ちょっと待ってよ…。ま、まさか、この流れは……。
そこで私は思いついて、がたがたと体を震わせ始める。
この子もしかして…さっきは自分が教えたんだから、今度は私に、「私の世界での子供の作り方」を教えろ、とか言い出すんじゃあ……。
い、いやいやいや!無理!私、そんなの説明するの絶対無理だからっ!
そ、そりゃもちろん、その「方法」は知ってるよ?私だって一応高校生だし…。学校とかでも習ったし、友達とかには、もうやっちゃってるらしい子もいるけどさ……。で、でもっ!だからって、それを他人に説明するのなんて、恥ずかしすぎて絶対無理なんですけどっ!
だ、だいいちティオ、女の子しかいないこの『亜世界』のあんたじゃあ、「男」って言っても女の子とどう違うのかわかんないでしょ!?た、例えば、男の人についてる「アレ」のこととかも、い、イメージわかないでしょ!?
い、いや、私だって別にそんなに詳しく知ってる訳じゃないけどさ……友達の子が何故かその写真を持ってて、それを、うっかり見ちゃったりしたことがあるくらいで……その「形状」とか、「サイズ感」とかを、あんたにうまく伝えられる自信がないっていうか……。
「アリサ?何、顔赤くしてるんだにゃ?すっごい気持ち悪いにゃ」
「うるさいよっ!全部あんたのせいでしょうがっ!」
あんたが突然変なこと知りたがるから、こっちはそれをどうやって断ろうかって、必死に考えてたところで……。
「何をそんなに考えてるのかよくわかんにゃいけど…。ティオがアリサに教えてほしいのは、前にサラが言っていたヤツ……掛け算だにゃっ!」
え?
あ、ああー……。
そっち、ね……。




