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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter03. In the arithmetic of Absolute World, 1 + 1 = everything, and ...
24/110

06

「にゃーっ!気持ちいぃーにゃー!アリサも早く来いにゃー!」

「は、はは……。えと……あのぉ…」

「……」



 次の日、出発してまもなく私たちは、タルトちゃんたちの仲間が囚われているっていう洞窟に到着した。

 火の魔法で松明をつくって周囲を警戒しながら、なかなか巨大そうなその洞窟の中へと突入した私たちの前に現れたのは……25メートルプール位の、深くて大きな水溜まりだった。

 地面から水が湧き出しているのか、どこかで川にでも繋がっているのかはよく分からなかったけど、水溜まりの水はかすかに動いていて、全然濁っていない。洞窟の奥の方には、天井に穴が開いていて太陽光が差し込んでいる場所があって、その光が水の中を透過して水底に反射して、まるで水中が青く輝いているように見える。

 斧かなんかを落としたら、女神様が現れて金と銀のやつに代えてくれそうな。あるいは、水を飲んだらHPとMPが全快したうえ、何か新しい魔法でも覚えそうな……そんなことを考えてしまうくらいにその水溜まりはとても神秘的で、ゲームみたいなこの『亜世界』には、出来すぎなくらいにぴったりで……。

 …いや。

 もうぶっちゃけて言っちゃうと、それは、ゲームとかアニメとかのサービスシーンで、裸の女の子が水浴びしてそうな感じの水溜まりだった。


 はあ…。

 私は呆れ返ってしまって、深くため息をつく。

 だってさあ…。さすがにこれは、やり過ぎじゃない?展開が、ちょっとあざとすぎるっていうかさあ……。

 いや、いくら私が、この『亜世界』に来てからずっとお風呂に入れてなくって、途中の小川とかでタオルで体拭くくらいしか出来なくって、いい加減気持ち悪さを感じ始めていたとはいえ……。近くに他のモンスターの気配を感じてなくて、とりあえずこの辺はまだ安全っぽいって分かっていたとはいえ、ですよ…。

 ここで私に「そういうの」を期待されちゃうのは、ちょっと、どうかと思うなあ……。

 だってさあ。

 私、一応花も恥じらう乙女なんですよ?ここで私が何の躊躇もなくいきなり全裸になって水浴び始めたりしたら、さすがにはしたなすぎない?そんなのって、完全に痴女の所業でしょう?いくらなんでも、そんなこと私には出来ないなあ…。


「あー、冷たいにゃーっ!冷たくて気持ちいーにゃーっ!久しぶりのお風呂だにゃーっ!おーいっ!アリサも早くこいにゃーっ!」

 一方、さすが我がパーティのエロス担当のティオは、こういうときでも一切の迷いがない。水溜まりに気付くなり誰よりも早く駆け出していって、勢いよくジャンプ。ザッブーンって大きなしぶきを飛ばして水の中にダイブしてしまって、今は元気よくこっちに手を振っているわけです。あいつ、ブレねえよなあ…………つーか……。

 実は私、さっきから楽しそうに水浴びをしているそのティオのことを、ちゃんと直視することが出来ていない。

 だって……。ティオあんた、今の自分の格好がなかなか「刺激的」になっちゃってるってこと、気付いてる?濡れた毛がくっついて束になっちゃったせいで、本来隠さなきゃいけない場所が、その隙間から見えそうな、見えなそうな……いや、やっぱり結構がっつり見えちゃってるような…。

 だ、だいたいさあ。体毛がビキニの形になってるから、大事な部分が見えなくてセーフ、とか言ってたけど…。よくよく考えるとそれ、全然セーフじゃないよね?「大事なところから生えてる毛」が見えちゃってる時点でぶっちぎりのアウトだし、結構なR指定だよね?むしろ、それを何でもないみたいに見せつけてる辺りが、なかなか変態チックで興奮するっていうか………。

 いやいやいやいや、何言ってんだ私…。


 またしても、放っておくと自動的に変なことを考え始めてしまう私。自分1人だけそんな風に変に意識しているとは思いたくなくて、隣の寡黙な彼女にも意見を聞いてみることにした。

「ま、全くぅ…。ティオにはさ、もうちょーっと恥じらいってものを知ってほしいよねぇー…?」

「……」

 相変わらず、暑苦しそうな黒いローブの奥のタルトちゃんの顔は無表情で、その心のうちを推し量ることは出来ない。

 でもまあ、いつも通りってことは別に、今の状態に特別な関心を持ってないってことなのかもしれない。つまりチジョ…じゃなくってティオの今の格好を見ても、特に変な気持ちになったりしてないってことで……まあ、それが当り前か。

 そりゃそうだよ。クールな無口キャラのタルトちゃんが、こんなことぐらいで心を乱すわけないじゃん……とか、思ってたら。

「気持ちよさそう……」

 ぽつりと、そんな言葉がこぼれた。

「え?」

「私も、あんな風に体を洗えたら…いいのだが…」

「そ、そうなの?」

 なんだ、意外と普通の感想が出てきたよ。

 まあ、よく考えたら無表情の無口キャラだからって、感情まで無いわけじゃないもんね。

「い、いいんじゃない?それだったらタルトちゃんもそんな黒い服脱じゃって、ティオと一緒に泳いでくるといいよっ?」

 な、何だったら私、服脱がせるのとか、て、て、て、手伝うし?

 ……い、いやっ、脱がせるって言っても、別に変な意味じゃないよ?むしろ「変な意味で脱がせる」ってどういうことだよ、って感じだけど…。と、とにかく全然、全っ然、ただただ普通にお着替え手伝っちゃうってだけだからね?も、もちろん、そのときはなるべく、出来るだけ、タルトちゃんの体を見ないようにするし?だって、おんなじ女の子同士で体じろじろ見てたりしたら、そんなの気持ち悪いもんねっ!?

 ま、まあ、不可抗力と言うか役得というか…最低限見えちゃう部分はあるだろうし、そういうのはしょうがないとしても…。

「いや、私はいい…」タルトちゃんは首を振る。

「何でよっ!?」

 ちょっと変なテンションになっていたせいで、私は必要以上に声を荒げてしまう。慌てて、今度は普通の口調でフォローした。

「え、えっと?ど、どうして…かな?こんなに水浴びに丁度いい感じの場所、滅多にないと思うよ?私は別にいいんだけど、タルトちゃんは遠慮せずに、ティオみたいに入ってくればいいと思う…ケド?」

 わ、私もなるべく、タルトちゃんの体をじろじろ見ないように、努力するから……。

「……」

 顔を俯かせているタルトちゃん。やがて、何かを決心したみたいにぼそりと呟いた。

「あまり……自分の体を他人に見られるのが、好きではないのだ…」


 あれ…?

 あれれ…?

 かすれ気味の、か細い声。それはまるで、シャイな女の子が勇気を振り絞ってしゃべっているみたいに、私には聞こえて…。

「私は……あの猫のように、自分の体に、自信がなくて…」

 え?え?え?

 そんな、ちょっと…これって…。

 俯いている彼女の顔はよく見えないけどなんだか震えているような気もする。っていうか、私が彼女の顔を覗き込もうとするとタルトちゃんは首を動かして、自分の顔を見せないようにしたりして…。

「た、タルトちゃん?今、何て…?」

「いや…何でも、無い…」

「うっそだー、何でもないってことないでしょーよ?ってか、何で顔見せてくれないの?え?え?もしかして……恥ずかしがってる?え?いつも無表情なタルトちゃんが?もしかして今、顔真っ赤だったりして?」

「ナナシマアリサ…あまりこっちを…見ないで、欲しい…」

 首どころか体ごと動かして、私の視線から逃げ回るタルトちゃん。しまいには、ダンゴムシみたいに体を丸めてその場にうずくまってしまう。


 お、おいおいおいーっ!?

 も、も、も、も、もしかして……マジで恥ずかしがっちゃってんのかぁーいっ!?

「私の背中には、かつて敵にやられた……みっともない傷跡があってだな……」

 いやいやいやっ!そういう言い訳とかいーからっ!人前で服脱ぐのが恥ずいんでしょっ!?スタイルのいいティオと、比較されたくないんでしょっ!?もー、正直にそう言えばいーのにっ!普段はクールで無口に徹してるくせに、脱ぎたくなくって必死になっちゃうとかっ!なんだいなんだい、このめちゃくちゃ可愛い生き物はぁーっ!?


 ガシッ!

「タルトちゃん!」

 丸くうずくまってしまったタルトちゃんの上半身を、私は後ろからぎゅっと抱きしめる。

「……な、何だ?」

 ビクッと体を震わせて驚くタルトちゃん。彼女のぷにぷにと柔らかい体の感触が、私の腕全体、体全体に伝わってくる。金木犀みたいな爽やかで香ばしい匂いが、私の鼻をつく。それはモンスターとかサテュロスとか関係なく、普通に人間の女の子を抱きしめたのと何も変わらないような、気持ちのいい感覚だった。……って、別に私、そんなに女の子を抱きしめたことがあるわけじゃあないんだけど。

 とにかく私は、それから全力で叫んだ。

「しようよっ!水浴びっ!」

 その大声は洞窟内に反響して、カラオケのエコーみたく何度も繰り返される。


「え…?」

 間の抜けた声を出すタルトちゃん。そりゃそうだ。いきなり何言ってんだ私。

 とは思いつつも、別に訂正はしない。

「うん、ぜひするべきだよっ!いや、しない理由がないよっ!だってやっぱり体を清潔に保つのって、すっごい大事なことだと思うしっ!」

 それどころか、必死な剣幕で説得を始めちゃう。

「恥ずかしいとか言って体洗わないのって不潔だし、とっても不健康なことだよっ!?それじゃあ体の汚れが溜まって、病原菌の温床になっちゃうし、病気とかにもかかりやすくなっちゃうと思うんだよっ!」

「び、病気…?」

「そうだよっ!病気怖いでしょっ!?ダメでしょっ!?」

「い、いや……そ、それは、よくわからないが……」

 どもるタルトちゃん。よし、コレいけるな……。

 私は更に押しを強める。

「それにねっ!やっぱり女の子なら、1日に最低1回は、ちゃんとお風呂に入らないとダメだと思うっ!汗の匂いするのとか最悪だし、お肌にも絶対悪いだろうしっ!とにかく、絶対ダメだと思うのっ!」

 そ、そうなんだよ?だから、ここで水浴びするのは全然普通のことでさ…。むしろ、恥ずかしいとか言ってお風呂入らないとか、女の子としてヤバいと思うわけでさ…。べ、別に、裸になって更に恥ずかしがっちゃうタルトちゃんを私が見てみたいとか、そういう低次元な話をしているわけじゃなくってね…。

「そ、そうなの…か?」

「そう!そうなのっ!だからタルトちゃんは絶対、ここで水浴びしなきゃダメなんだよっ!これはもう、決定事項だからねっ!?あ、ほらっ!なんだったら私も一緒に入るからっ!それなら全然恥ずかしくないでしょっ!?私だって、ティオと比べてたら全然しょうもない体だしっ!ほとんど男だしっ!むしろ、タルトちゃんの方がスタイルいいんじゃない!?タルトちゃんって、絶対着やせするタイプだよねっ!?うんっ!絶対そうだっ!そうに違いないよ!もう決めたっ!」

 はあ、はあ…。

 私の声はどんどん大きくなってきて、息も荒くなっていく。

「あ、あれ?タルトちゃんもしかして、今、変なこと考えてない?ち、ち、ち、違うよっ!?これは、タルトちゃんが今考えてるような、そういうアレなやつじゃないよ?私が変態だとか…女の子を無理やり脱がすと興奮する性癖を持ってるとか、そういうことじゃないんだよっ!?はあ、はあ…。た、確かに私、学校のプールの時間とかに、タオルとかで隠しながら着替えてる友達を無理矢理脱がすイタズラしたりするよ?10回中、8か9回くらいの割合でやるよ?でも、それとこれとは、また全然話が違うわけでさ……はあ、はあ…」

 そ、そうなんだよ?これは、ただ単に友達同士でお風呂に入りませんか?っていう、純粋なお誘いなだけでさ…全然普通のことで…むしろ、下手したら医療行為って言っても過言じゃなくって……。恥ずかしいなんて考える方がおかしいって言うか…。そういうこと考える人の方が、エロくて不謹慎って言うか……はあ、はあ。

「と、とにかく何でもいいから……その邪魔な黒い服なんて早く脱いじゃえよぉ……。はあ、はあ……。そしてこのお姉さんに裸を視姦されて、羞恥心を全開にして……はあ、はあ…」

 あ、あれ…?

 いつの間にか、本音と建て前が逆になってる?っていうかこれ、どっちにしろ変態っぽくない?…まあ、この際どっちでもいいか。

 私のフェチズムのドツボをついてくれたタルトちゃんの態度に、ちょっと……どころじゃなく、完全にエキサイトしておかしくなっちゃった私。

 頼んでもないのに自分からガンガン変なことをしてくるティオには何とも思わないのに、恥ずかしがってるタルトちゃんのことは、更にイジめたくなっちゃうという…。私、Sっ気が強すぎるのかな?いや、むしろタルトちゃんが、他人の嗜虐性を刺激する天然のM体質っていう可能性も…。


「……分かった」

「え…?」

「分かった…。水浴び、しよう……」

 物凄く重大なことを決意したような声で、彼女はそう言った。体は少し震えているようだ。

 ちょ、ちょっとちょっとぉー。こまるなぁー。これじゃあまるで、私がタルトちゃんを脅して強引に脱がせたみたいじゃーん。私が、すごい変態なやつみたくなっちゃったじゃーん。

 ああ…。

 でもそういうところがまた、イジめがいがあるんだよなあ…。

「しかし……私が服を脱ぐ間は、こちらを見ないでくれないか…?せめて後ろの方を、見ていて……欲しい」

「はいっ!向きます、向きますっ!タルトちゃんが脱いでくれるなら私、後ろでも上でも下でも、あさっての方向でも!見てろって言われた方向を、いくらでも見てるからっ!」

 バカみたいなテンションでそう叫んで、私はタルトちゃんに背を向ける。そしてしばらくすると、後ろの方からスルスルという、布地が擦れるような音が聞こえてきた。


 や、やっべぇー……。

 い、今、私の後ろでタルトちゃんが…あられもない感じの、アレになっちゃってるってことだよね?恥ずかしがりながら…顔真っ赤にしながら…1枚1枚、アレをアレしちゃってるってことだよね……?

 実際には何も見えてないのに、タルトちゃんが恥ずかしそうにローブを脱いでいる光景を想像するだけで、私の興奮はどんどん高まっていった。


 やがて…。

 チャポンッ…という、水の中に足をつけたみたいな音が洞窟内に響いた。

「あ、あれ?もう全部脱いだ?今って、水につかってるの?も、もう振り向いても、いい…かな?」

「まだだ…」

 聞こえてくる声は、さっきよりは距離が離れているみたいだ。

「完全に水に入るまで、まだ…待っていてほしい……」

 くううううぅ…。

 今更そんなこと言ってえ…。どっちにしろ最後には私に全部見られちゃうんだからさぁ、もういいでしょうよぉーっ!ぎりぎりまでお預けとか、高度なじらしテク使いやがってからにぃーっ!

 で、でも、この先はもう待てないからね?よ、よーし、決めた。これから3秒数えたら、もう勝手に振り向いちゃお。お、怒られても、そんなのしらないもん。散々勿体ぶる、タルトちゃんがいけないんだもんっ!

 じゃあ、いくよ?いーち、にー……。


 バシャ……バシャッ……バシャッバシャッバシャッバシャッ!

 そのとき突然、静かだった後ろの方が、水をかき回すような激しい音で騒がしくなった。どうやらさっきのティオみたく、誰かが水溜まりの中を泳ぎ始めたみたいだ。

 ちょっとちょっとちょっとおー…。

 完全に水に入るまでって言ったのに、既にタルトちゃんってば、私に何も言わないで1人で泳ぎ始めちゃってなぁーいー?これ、絶対そうだよねぇー?

 もぉー!ここまできて、最後の最後で放置プレイかましてくるとか……テクニックが高度過ぎるにも、程があるゾっ!そっちがそういうことなら、もう私だって遠慮しないからねっ!

 そして完全に頂点に達していた興奮に身を任せて、私は勢いよくタルトちゃんのいる方、つまり、水溜まりの方を振り向いた。

「アリサ、いっきまぁーすっ!」


 って……アレ?

 バシャッバシャッバシャッ!

「グハっ!…ブハッ!ゴボッ!」

 プールほどの大きさの水溜まりの中心、水深が割と深くなっていそうな辺りで、角が生えた真っ黒な肌の女の子が、両手と両足を必死に動かしている。

 ああ、なるほど。確かに彼女の背中には、さっき彼女自身が言ってた通りの大きな傷跡があったりして。それが、黒いローブを脱いだタルトちゃんだってことは間違いなさそうだ。でも、今の彼女の様子って、泳いでいるにしては余りに動きが激し過ぎて、あれじゃあむしろ、溺れているって言った方がしっくりくる感じで……。


「にゃっはははーっ!」

 近くの水面にぷかぷか浮いていたティオが、そんなタルトちゃんを指さしながら馬鹿笑いをしている。

「まっさか『レベル40のアイツ』がこの水溜まりの中に隠れてたにゃんて、ティオ、ぜーんぜん気が付かなかったにゃんっ!ザコのくせにいきがってティオたちに絡んでくるから、こんなところで不意討ち食らって溺れさせられるんだにゃん!ざまみろだにゃーんっ!」

「そ、そんな…」

 そう言われてよく見ると、確かに湖の中で溺れているタルトちゃんの足元には、太い蛇のような物体がしっかりと絡み付いていた。

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