09
「ゾンビ……ゾンビ、かー……。うーん、いいのかなあ……。いや、でもなあー……」
ティオたちのことについて、心の整理がつかずに葛藤を繰り返している私。
そんな私に、ここまで大人しく私たちの会話を見守っていたエルフの1人の叱責が飛んできた。
「ったく、いつまでウジウジ言ってるつもりなんですのっ!? めんどくせーですわねっ!」
それは、金髪ツインテールの女の子、『建築家』兼『芸術家』の、アキちゃんだった。
「今更、そんな野良猫が甦ったくらいのことで、どーのこーの言ってるんじゃねーですわよっ! あんただって、この前お姉様を甦らせたばっかりじゃないのっ!
それともまさか……お姉様よりも猫の命の方が重要だなんて言うつもりなんですのっ!?」
「い、いやあ、そういうわけじゃ、ないんだけどさあ……」
っていうか、今のやりとりからそういう発想しちゃうんだ……? さすが、エア様大好きなアキちゃんだね……。
すごい剣幕にちょっと圧倒されながら、私は彼女に説明する。
「だ、だってさ、アキちゃん? エア様のときと今とじゃあ、ちょっと事情が違うと思うんだよ。エア様の時は、『エア様が死んじゃったパターン』にいた私が、みんなの力を借りて『エア様が生きてるパターン』にやってきたわけでしょ? つまり、私からしたら死んじゃったはずのエア様が生き返ったように見えるけど……『このパターン』のエア様からしてみたら、そもそも一度も死んだりなんかしてない。
でも、今のティオたちは、実際に死んじゃった後でゾンビとして甦ってるんだよ? それって、似てるようで大違いって言うかさ……。人間の私としては、倫理とか宗教的なやつに問題がありそうで、そう簡単に納得できないって言うか…………あ、あれ?」
「はぁ!? そんなの、何も違いやしないわよっ!」
アキちゃんは、変わらずに私を責め立てる。
「どっちも、『誰かにとって大事な人が戻ってきた』ってことに、違いないじゃない! 別に困ってる人だっていないんだし、いちいちそんな細かいことを、気にしてんじゃねーですわっ!」
「ちょ、ちょっと待って、アキちゃん……」
「何よ!? 何か、私の言ってることが間違ってるっていうの!? 大体あんたは、いつもいつもそうやって、どうでもいいことにこだわって……」
「え、えと、今のアキちゃんって、私のこと、知らないはずなんだよね……? 今のアキちゃんは、『エア様が生きてるパターンのアキちゃん』だから、わたしとは初対面だし。別のパターンでエア様が死んじゃったことも知らない……はずなんだよね? でも、あれ……?」
な、なんかこれって、おかしくない……?
やけに、口調に親近感があるって言うか……叱責の中にも愛があるって言うか……。そもそも今の言いぶりだと、アキちゃんはエア様が死んじゃったのを知ってるっていう事になっちゃわない……? これじゃまるで、私が最後に会ったときの彼女みたいな……。
気付いたら、アキちゃんは照れた感じで頬を染めて、私から顔を反らしていた。
あ、あれ? そのリアクションって……?
「やれやれ、もう少し不詳にしておきたかったのですが」
「え……?」
私の疑問には、『研究者』で『錬金術士』の、でみ子ちゃんが答えてくれた。
「何も知らない貴女が戸惑う姿を見て、ひそかに笑っていようかと思っていたのですが……しかし不本意ながら、『アーキテクト』の不用意な発言のせいで、貴女に不信感を抱かせてしまったようです。もはや、これ以上の悪ふざけは不要でしょう」
そう言うでみ子ちゃんは、感情が全然感じられない冷たい無表情だった。背丈は私と同じくらいなはずなのに、そんな風に彼女に高圧的に見られていると、見下されているような気分になってしまう。
……うん、いつも通りのでみ子ちゃんだ。
「な、何よ、私のせいだっていうの!? 仕方ないじゃない! だ、だってこいつが、らしくもなくウジウジしてるもんだから……見てられなかったんですわっ!」
アキちゃんも、いつものツンデレっぷりが全開で、すごく可愛らしい。
って言うか……。
「で、でみ子ちゃん? これって、どういうことなの? だってみんなは……『今のみんな』は、私を知らないはずなんだよね……? 私は、『エア様が死んじゃったパターン』に、『私のことを知っているみんな』を置いてきちゃったはずで……。でも、『今のみんな』は、なんだかすごく私を知ってるように思えるんだけど……」
「そうですね。不幸なことに『貴女を知っている私たち』は、滅び行く『亜世界』と共に、『姉様が死んでしまったパターン』に取り残されました。だから『姉様が死んでいないパターン』であるここに、『貴女を知っている私たち』が存在することは不可能。それが、不動の事実でした…………さっきまでは」
さっきまで……? は……?
「確かに私たちは、姉様の死んでしまった『亜世界』に残り、そこで姉様の遺体と共に『亜世界』の終わりを待つはずでした。それ以外に、あの時点で選べる選択肢はなかった」
そ、そうだよ……。
あのとき、本当は私だって、みんなと一緒に過去のパターンに行きたかったんだ。なのにでみ子ちゃんが、「自分たちが過去に行ってしまうと、同じ人物が2人になってしまう」、「これが1番確率が高い方法だ」とか言って、私だけを過去に行かせたんだよ?
だから、「私を知っている妹ちゃんたち」がここにいるはずない。「ここにいるみんな」が、私を知っているはずがない……。
「しかし、私たちはやっぱりそれでは不満だったのです。貴女を過去に見送った直後に、不意に気が変わったのです。『やっぱり、姉様抜きで生きるなんて耐えられない!』と思っちゃったのです」
いやいやいや……。
そんな、やけにフランクな感じで言ってくれちゃってますけどね? それ言いだしたら、元も子もないっていうか。あのときの私の気持ちが、台無しになっちゃうっていうか……。
「私たちはあのとき、必死になって考えました。私たちがもう一度姉様に会うことは、本当に不可能なのか? 本当に、私たちと姉様の『世界』はここで不遇の終わりをむかえてしまうのか、と。
……しかし、そうではなかったのです。私たちは、『自分たちが選べるもう1つの選択肢』を発見したのです」
「え、マジ……?」
「ええ、マジです」
でみ子ちゃんは表情を変えずに頷く。
「貴女は覚えているでしょうか? 『姉様が生きているパターン』を探すために、貴女が身体を精霊化して『アガスティア』に潜りこんだとき……どこからか、『アーティストの歌』が聞こえていたということを?」
「え? あ、うん。もちろん、覚えてるよ」
あんなシリアスな状況で聞こえてきた、あんなバカバカしいアイドルソングを、忘れるはずがない。あんな、「お姉ちゃん大好きっ」っていう気持ちがいっぱいこもった、最高のラブソングのことを。
「実はあのときの歌には、『アーティスト』の職能によって、『歌詞以外のメッセージ』がこめられていたのです」
「え?」
「その『メッセージ』とは、私たち妹4人をデータとして表現した情報……つまり『アガスティア』が毎日やっていたのと同じように、私たち自身をデータ化したシミュレーションモデルのデータファイルです」
「へ……?」
「『アーティスト』の職能は、『歌声を使って、歌詞以外の情報を伝えることが出来る』というもの。だから私たちは、あのときの彼女の歌声に『私たち自身』を載せたのです。『私たち自身』をデータ化し、圧縮したデータファイルを歌に載せて、それを聞いた貴女の頭の中に無理やり詰め込んだというわけです」
「は、はぁ……?」
「その情報は、しばらくの間は用途不明の不使用データとして、貴女の脳内の記憶領域の一部を不当占拠していた訳ですが……先ほど、『アーキテクトにぶつかってよろめいた貴女がアナリストと接触したとき』に、『心を読むことが出来る』という『アナリスト』の職能によって、回収されました。そして、その圧縮データは再び展開され、復元され、『このパターンの私たち』と『融合』されたというわけです。
理解していただけました? まあ、特段貴女にとって不都合なこともありませんし、問題ないですよね?」
いやいやいや……。
変わらずの無表情で、平然とそんなことを言ってのけるでみ子ちゃん。
自分たち自身をデータ化とか、圧縮とか、勝手に私の頭の中に情報を詰め込んだとか……。そんなの、問題ないわけないでしょーが……。この娘たち、ときどきサラっととんでもないことするよね……。まあ、もう今更だし、別にいいっちゃいいんだけどさあ……。
とりあえず、ただポカンとしているだけだとバカだと思われそうだったので、私は何か言ってみることにする。
「え、えーっとぉ……。そ、それで結局、その、データ化とか復元とかした結果、今のでみ子ちゃんたちはどっちなの? 『エア様が死んじゃったパターン』のみんななのか、それとも、『生きているパターン』のみんななのか……」
「ふ」
でも。どうやらそんな抵抗は無駄に終わって、私はめでたくバカ認定されたらしい。鼻で笑いながら、でみ子ちゃんは言う。
「相変わらず貴女は、頭脳が不自由なようですね?」
「う……」
「ですから先ほども言った通り、今の私たちは『姉様が生きているパターン』に存在しながら、『姉様が死んでしまったパターン』の要素も手に入れているのです。『AもしくはB』ではなく、『AかつB』な存在なのです。2つの並行世界の私たちは、融合されたのですよ」
「は……」
「つまり端的に言うなら、2つのパターンのいいとこどり、というわけですね」
「はは、はははは……」
すらすらと説明してくれたでみ子ちゃんの言葉は、結局私にはほとんど理解出来なくて。私は、もう、笑うしかなかった。
「……ははは…………あぁーあ」
でも。
何も理解できなかったけど、それでも。
1つだけ、私にも分かったことがある。それは……。
私が今、みんなに再会出来て、とてつもなく嬉しいってことだった。
良かった。
本当に、良かった……。
私は今まで、妹ちゃんたちを置いて1人で過去に戻ってきてしまったことを、心のどこかでずっと気にしていた。彼女たちをエア様と離れ離れにしてしまったことを、ずっと後悔していた。こうするしかないって思ってたつもりでも、頭の奥の方では、いつも辛い気持ちがにじみ出ていたんだ。
だから……。
「か、勘違いしないでよねっ!? 別に、あんたのためにやったわけじゃねーんですわっ! わ、私たちはただ、お姉様にまた会いたかっただけで……」
「そう? 僕は、アリサちゃんにもすごく会いたかったけどな?」
「あのねえー、あたちねぇー、このまえねぇー……お姉が死んじゃう夢見たなのぉー。すっごくすっごく、悲しかったなのぉー!」
「みんな……」
そこにいたのは、紛れもなく、私の知ってるエア様の妹ちゃんたちだった。みんな個性的だけど、共通してエア様のことが好きで好きで仕方がない、可愛らしいエルフの女の子たちだ。
そんなみんなに、また会うことが出来た……。みんながエア様と一緒にいる姿を、見ることが出来た……。
そのことが……すごく、すごく……すごく、嬉しくって……。
「そんなに大げさにとらえない下さい。これは、いたって当然の事なのです。……だって、私は貴女に約束したでしょう?
私たちが姉様に再会することは、不可避だと」
でみ子ちゃんったら……あのときの言葉、忘れてないなんてさ……。
ああ、もう……。何なのよ、これ……。
こんなの……本当なら、あり得ないでしょ……。
死んじゃったと思ってた人に……普通なら、もう会えないはずの人たちに……また、会えるなんて……。
「うにゃあー! サラやめるにゃーっ! 変なところを触るんじゃねーにゃーっ!」
「姉さん……ああ、姉さん……ニャ」
それに……妹ちゃんたちだけじゃなく、ティオたちのことだってそうだ……。
私が傷つけてしまって、私のせいでいなくなってしまった人たちと、また、こうして巡り会えるなんて……。こんなのって……こんなのって……。
「なんか、ずるいよ……」
気付いたら、口からそんな言葉を漏らしていた。
今の私は、本当に本当に、心の底から嬉しい気持ちでいっぱいだった。みんなとこうやって再会できたことに、嬉しさが止まらなかった。
普通ならあり得ないような幸福、普通ならあり得ないような展開に、感情が昂りまくっていた。
自分なんかに不相応なくらいの喜びに、戸惑ってさえいたんだ。
私はこれまで、いろんな人たちを傷付けてきた。いろんな人たちの気持ちを踏みにじって、悲しませてきた。親友のアカネにさえ、あんなひどいことをしてしまった。
それなのに、そんな私が、こんなに幸せな気分になるのは……ずるい……。本当は、あっちゃいけないことだ……。
私は、アカネを悲しませた罪を償わなければいけないんだ。自分がアカネを傷つけたのと同じくらいに……ううん、それよりもずっと、つらい思いをしなくちゃいけないんだ。
それなのに……。こんなのって……。
そのとき、目の前をふわっと優しい風が吹いた。
それは、暖かい日が差し込む森の中にいるような、どこか懐かしい、落ち着く雰囲気のある風だ。
いつの間にか俯いていた顔を上げると、そこには……静かに微笑むエア様がいた。
「アリサ様……」
彼女も、もうとっくにこの状況を把握しているようだった。
「貴女の『世界』でどれだけ『正しい』ことでも……時には、誰かを傷付けてしまうことがあります。しかしそれは同時に、貴女が『ずるい』と思ったことが、誰かを喜ばせることも出来るということ……。これは、貴女がわたくしに教えて下さったことですよ……?」
エア様の手が、そっと私の頬に触れる。その瞬間に、彼女の思いが私の体の中に入り込んでくるような気分になった。
妹ちゃんが大好き。喜んでいる妹ちゃんたちを見れて嬉しい。妹ちゃんたちと分かりあえていることが嬉しい。そしてなにより、自分がそんな気持ちになれたことが、心の底から嬉しい……。そんな気持ちが、私に伝わってくるような気がした。
「わたくしたちは、種族も、考え方も、これまで生きてきた経緯も、全く違います。だからこそ衝突もするし、自分の『世界』のルールにそぐわない行動が、『ずるく』見えてしまうときもある……。でも、だからこそ……違うからこそ……わたくしたちがお互いの『世界』を知ったときに、感動することが出来るのだと思うのです。お互いのことを、尊敬できるのだと思うのです。
凝り固まった自分の『世界』だけで、問題が解決出来ないならば……その『世界』を壊してしまっても、いいのではないのでしょうか?」
彼女の宝石のような瞳からは、静かに涙が流れていた。自分の『亜世界』がなくなってしまうときにも泣かなかった彼女が、今は、妹ちゃんたちのことで嬉し涙を流していたんだ。
それは、どんなに言葉を尽くすよりも力強い、エア様から私への感謝のメッセージだった。
自然と、私の目にも涙が溜まっていた。
「にひひひー。あんまり愚かしいことを言うとるでないぞー? ナナシマアリサよー」
部屋の壁にもたれかかっていたアシュタリアが、ニヤニヤと笑いながら言った。
「おぬしの『世界』のものさしで他者の『世界』を計っても、無駄なだけじゃぞー。おぬしにとって普通じゃないことでも、他者には当たり前なことかもしれんし、その逆だって充分にあり得る。おぬしの『世界』と私の『世界』は、違って当然なのじゃー。
じゃからこそ、私はこうやって、おぬしに会いに来たのじゃからなー?」
「あ、あんた……」
それは、彼女なりの私へのエールだろう。
気が付けば、アシュタリアに対する私のわだかまりはだいぶ薄くなっている。一度は、ティオたちを死なせた彼女のことを、殺したいくらいに恨んでいたはずなのに。今では、それほどでもなくなっていた。
だから、今私が感じていたのは、純粋な喜びだった。
「ああもうっ! いい加減、はっきりしなさいよっ! そんなの、いつもふてぶてしいあんたらしくないって言ってるでしょっ!」
あ、アキちゃん……。
「んにゃ? アリサは、ティオに会えて嬉しくないのかにゃ? ティオは、またアリサと会えて、とってもうれしーにゃん!」
ティオ……。
「アリサちゃん。君は、僕たちと姉さんの『世界』を繋いでくれた……。僕たちを、新しい『世界』へ連れて行ってくれたんだよ……? だったら君は、君の友達にだって同じことが出来るんじゃないのかな?」
アナも……。
胸の奥の方から、力がみなぎってくる気分だった。
「そっか……そう、だよね……」
体中をエネルギーが駆け巡って、熱を帯びていくような。
眠っていた細胞が、一斉に活動を始めたような。
自暴自棄で、もう全てがどうでもよくなっていたさっきまでが、嘘みたいだった。
「『世界』は1つじゃない……。みんなそれぞれ、別の『世界』に生きているんだよね……? だからこそ、『世界』は繋ぐことが出来るんだよね……?」
私、どうかしてた。やっと目が覚めたよ。
私は、アカネを傷付けた。だから、その罪を償うために、アカネと同じくらいに悲しい思いをしなくちゃいけない、消えなくちゃいけない、なんて言ってさ……。
違うよ。
全然違うでしょ。バッカじゃないの。
私がアカネを傷付けてしまったのなら。
私の大好きな親友が、どこかで悲しんでいるっていうのなら。
私はそれを、何とかしなくちゃいけないんだ。
彼女を傷付けた私自身が、彼女の悲しみを少しでも和らげてあげなくちゃいけないんだ。
悲しんでいる彼女から逃げるように命を絶つなんて、絶対違う。むしろ私は、彼女を楽しませてあげられるように、喜ばせてあげられるように、彼女の『世界』に行かなくちゃいけない。彼女の『世界』と私の『世界』を繋げなくちゃいけなかったんだ。
だって私は……。私たちには、それが出来るんだから。
「ごめん……みんな。私、やっとわかったよ。自分が今、するべきことを……」
私は、室内のみんなを見渡す。
「それは……本当に、よかったですね……」
「ああもう! お姉様に心配かけるんじゃねーですわよっ!」
「ふふ。アリサちゃんなら、きっと元気をとりもどしてくれるって思ってたよ……」
「流石、不屈の精神を持つ『エイリアン』ですね」
「うん」
エルフのみんなに、力強くうなづく。
「うむうむ。それでこそ、私の『亜世界』を破壊したナナシマアリサじゃー!」
「うにゃーん。アリサって、元気だけが取り柄みたいなとこあったにゃんねー?」
「私は、姉さんの後についていくだけ……ニャ」
「もう……」
モンスターたちにも、笑顔で応える。
そうだ……。そうだよ……。
私はさっさと、こうすればよかったんだ。アキちゃんに言われたみたいにウジウジなんかしてないで、最初から、「それ」を言っちゃえばよかったんだ。ああもう、相変わらず、大事なことに気付くのが遅いよね。
「私、実はとっくに分かってたんだよ」
私はみんなに向かって、強い意志を込めて言う。
「この状況でも、私たちに出来ることがあるってこと。アカネを助ける方法が、あるってことをさ!」
アカネのいる『人間女の亜世界』は、ピナちゃんの唱えた『世界破壊魔法』によって、もうすぐ消滅してしまう。しかも、その『亜世界』は『管理者』であるアカネの『亜世界定義』によって、完全に閉ざされてしまっている。
「もう2度と、『人間女の亜世界』と他の『亜世界』は繋がらない」。「もう2度と、別の世界の人間が『人間女の亜世界』に訪れることはできない」。そういう定義をされてしまった以上、私たちは誰も、『人間女の亜世界』に行くことは出来ない。アカネに会うことは出来ない。
それでも……。
「まだ、私たちが選べる選択肢は残ってる! みんなが力を合わせれば……アカネを助けることが出来るんだよっ!」
さっきまでの私なら、こんな事は言えなかった。
アカネを傷付けてしまった私は、みんなのことも傷つけてしまう。だから、こんなこと思い付いても、言うべきじゃないと思っていた。でも、今は違う。
「もしかしたらこれから私は、みんなを危険にさらしてしまうかもしれない。みんなには、デメリットしかないかもしれない。でも……お願いっ! 私に力を貸してっ! 私の親友を……私の1番大事な人を助けるために、みんなの力を貸してっ!」
「……」
少しの沈黙、それから……。
「……ふ。これでやっと、貴女に借りが返せそうです」
最初に、でみ子ちゃんが呟いた。
そして他のみんなも、それに続いた。
「ええ、もちろんです。アリサ様のためならば、わたくしはこの身を捧げる覚悟は出来ていますよ」
「お姉がやるなら、あたちもやるなのぉーっ!」
「おおっ、面白いことになってきたのじゃー!」
「い、いちいちそんなの、聞くんじゃねーですわよっ! こっちの答えなんて……とっくに決まってるわよっ!」
「アリサちゃんに協力できるなら、僕は光栄だな」
「にゃーんか、めんどくさそーだから、ティオはパス……」
「姉さん、空気読んで……ニャ」
「んにゃー? ……ああもう、分かったにゃん。アリサといるとにゃにかと面白いし、手伝ってやるにゃんよーっ!」
「みんな……ありがとう」
取り囲むみんなが、私を見ている。
私の期待に、応えようとしてくれる。
私を信じてくれて、私の『世界』と繋がろうとしてくれる。
そのことが、すごくすごく、嬉しかった。
(ただ……ティオだけは、あとで覚えてろよ?)
それから。
みんなに支えられた私は、あふれる想いを胸に、その「方法」をみんなに話した。
今の私が考えられる、アカネを助けるための唯一の方法を。




