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アレが見えるの  作者: 青木誠一
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その二 呪われた教室 2


 どうやら、終業時間まで自習するのが僕らの運命のようだった。

 自習といったってまともに勉強なんかやる者はなく、誰もがスマホをいじり(授業中は禁止だが、知ったことか)、この不思議な現象を知り合いにメールしたりTwitterやLINEにも投稿、あわよくば話題をさらおうとする。

 実際、ネットでわがクラスのことは次第に関心を集めつつあった。デロ河童(仲村よし子)なるアカウントでTwitterではわりと人気者らしい伊東など、自分のつぶやきが運営関係の隠れアカに引用されたのを皮切り、またたく間に千を超えるリツィートを重ねたと嬉しそうに見せて回る。しかし、授業中でもネット活動する奴が全国でこんな大勢いるとは驚きだ。


 それは「#呪われた教室」というハッシュタグまで作っての連続ツイートで、朝から続く不幸の頻発を実情より大げさな怪現象として、おもしろおそろしく実況する内容だ。初めのうち真に受ける者は少ない様子で、リプライを見ると、「黙れ、童貞」「昼間っから悪夢うなされてんじゃねぇよ、ボケ」「てめえの顔のほうが怪異だわい」など盛大な出迎えぶりだった(そら、馬鹿にされるわな)。


挿絵(By みてみん)



デロ河童のプロフィールはこうだ


挿絵(By みてみん)



 ところが投稿を重ねるにつれ、疑わない者が増えてくる。

 お節介なユーザーの尺力で学校や人物が特定され、まるっきりネタ話でないと裏付けられたことにもよるが、やはりこんな摩訶不思議な話でも連爆ツイートでの効果は大きいのかもしれない。


 なにしろ伝えるのがデロ河童だけじゃない。

 僕らのクラスはおろか学校中がみんな総出で、稲葉高校の怪異についてツイートする活況だ。「#呪われた教室」はさながら、現場からの絨毯爆撃という観を呈し、トレンドの首位にのし上がった。

 もちろん、Twitterなら僕もやってる。ネタ垢のデロ河童と違って僕の場合、わりとまともなアカウントとして通っており、映画評や時事問題でのつぶやきが大手ブロガーからリツィートされることもしばしばだ。そいつがデロ河童の同級生で、しかも自分もその場にいて一部始終を見た、デロの言うことは本当だと請けあうのだからこれは事実と認めねばと思った人もいたのだろう。

 それなりに裏付けでの貢献を果たしたわけだ。


 かくたる次第で、この教室のことはいまや、全国的な話題となった感がある。

 ネットでもさまざまな反応が飛び交っていた。

 三人の教師がひとつの教室で一時間おきに被災する確率は本来ならあり得ないほど小さいのだという、理工系の大学生の投稿を見た僕らは今更ながら、直面する事態の特異性に昂ぶりを覚えた。

 それにしても、自分たちが現におかれた状況の由々しさについて学校側に伏せられ、外部から得た情報で知らされるというこの理不尽さはどうだろう。

 正直に言うけど、そんな成り行きもまた、僕らをわくわくさせていた。


 親切に、厄払いの仕方を教えてくれるリプライもあった。私が出向いて御祓いしてあげます、というメッセージも受けた。学割の特別料金で請け負ってくれるという。

 テレビ局の公式アカウントからはツィート紹介の依頼でのデロ河童とのやり取りを通じ、学校に取材を申し込んだところ丁重に断られたという内情を明かされ、僕らをどよめかせた。

 もっと派手な話題になればと願う生徒たちと違って、職員側は騒ぎを大きくしたくなかったわけだ。


 しかし、もう手遅れだ。

 「呪われた教室」の実況はどのつぶやきも何千ものリツィートを重ね、日本中をかけめぐり、絶大な反響を巻き起こしつつあった。

 そんなわけで現に起きたことが全国にこれだけ知れわたってるのに、学校側は表向き、稲葉高校に怪異は存在しないという態度を頑として変えない。

 しかも生徒たちを家に帰さず、自習をさせている。

 なんという茶番。なんたる猿芝居。


 この出来事が契機で、通常なら高校生が関わるはずのない人たちとコンタクトを持つことになった。

 ジャーナリスト、評論家、教育者、宗教者、精神科医、大手ブロガー、作家……いちばんの変り種は、早乙女呪怨さおとめ・じゅおんというプロの霊能者を自称するアカウントで、僕らのことにかなり興味をそそられたらしく、いろいろとこみ入った質問を投げかけてきた。メシの種にする気なのか。


 はじめのうち、早乙女呪怨の質問にクラス中の者が一斉に応答するものだから混雑状態を呈したが、大人相手では僕がいちばんまともな受け答えができた。しだいに淘汰されるかたちで、呪怨氏との応対はこの守屋護が代表のように受け持つことになる。

 リアルタイムのやり取りをみんなに、Twitterで注視されながら。


 早乙女呪怨は、そこは墓場のあった場所だから怨霊の通り道になっていて霊障が起きるのだ、ともっともらしく由来を説いた。あれ? ここって畑だったはずだし、災難の連続は今日からなんだけど。

 相手は反駁した。そんなはずはない、太古の時代は墓地だった。それを畑に利用していただけだ。今までに、何か兆候が見られただろう? 教室で幽霊が目撃されたり説明のつかない不思議なことが起こらなかったか?


 ここからが転回点だ。

 いや、そんなの起こるはずない。幽霊なんて誰も見ないし。と返そうとした矢先……。

 教室のみんなは一斉に、ある生徒を見やった。もう一人の生徒と交互に見比べ、関連付けるように。

 僕と、それから御影とを。

 どの顔からも、そうだったのか、やっぱり、との思いが見てとれた。

 なるほどな……。こっちまで妙に納得した気分になった。

 守屋には幽霊がつきまとってるという噂がここにおいて、絶大な効果を発揮したようだ。抗弁しても無駄な雰囲気だった。僕は勝手にしやがれという素振りで天井に吐息をついたが、御影はといえば周囲から注がれる視線を避けるように顔をそむけていた。

 自分と守屋護で共犯者みたいに見られるのを嫌がってるのはあきらかだった。



( 続く )

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