第二十一話『グーリェより』
起きた頃には夜になっていた。
僕はゆっくりと身体を起こした。
ふと、引っ張られた気がして横を見ると彼女が眠っていた。どうやら僕にかかっていた毛布を握っているようだ。
彼女を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出した。いつもドアを閉める音で起きてしまうので、いつもなら起きていたかもしれないけれど、さすがに疲れてクタクタなのだろう。起きる様子はない。
ならばと思いついた事をしてみよう。そう、ついさっきまでされていた『あーん』のお返しだ。あんな恥ずかしいことをされたのは初めてだ。上手く食べにくいし味もよくわからなくなる。いい事はないな。
……悪くはなかったけれどさ。
さてそのお返しはどうしてやろうか。ご飯を作って置いても驚くかもしれないけれど、冷めてしまうし、あまりいい評価はもらえなかったから使えないし。
うーん。
すぅすぅと眠る彼女を見ながら、ふむ。と考えた。
そっと首の後ろに右腕を回し、左腕で両脚を持つ。ゆっくりゆっくり持ち上げる。
そう。巷で噂の『お姫様抱っこ』というものだ。もし起きていたら恥ずかしがって顔を真っ赤にしていることだろう。前に、こういうのがあるんだけれどやってみていいかなと、聞いてみたけれど断られたっけ。
そっとベッドに置き、毛布をかけてあげた。あいかわらず眠ったままだ。僕は床に落ちている本を拾い上げた。
まさか、彼女が僕の書いた本を見つけるとは思ってもみなかったし、彼女も魔法を使うとは考えもしなかった。魔法だけは覚えていた?そんな都合のいいことはしないはずだ。と、なるとあのページを読んだってことになるんだけど……。
ペラペラとめくってみると背表紙裏の接着が剥がされていた。無理矢理やったわけじゃなさそうだ。それと、書かれていたはずのブークヴァと呼ばれる魔法文字がなくなっている。つまりはそういうことなのだろう。