第一話
静かな教室。30人くらいは軽く入る大きさ。その中には10人くらいがまばらに座っていた。私は左端の席に着いていて、窓から入ってくる風が、肩まで伸ばした三つ編みを撫でていた。
黒板にはなにか文字みたいなものが書かれている。書いている人と、書かれている文字は、もやがかかっているようにピントが合わない。だからみたいなものと言うしかない。もしかしたら図が書かれているのかもしれない。教壇に立つ人が指示棒で何かを指しているけれど、やっぱり何を指しているのかは、わからない。
私はノートを取っていた。自分で書いている文字は読めなかった。長々と書いているみたいだけれど、書いている本人は理解しているのだろうか。
それを見ているとなんだか懐かしい気持ちになった。どれくらい昔のことなのか、どんなことを学んでいるのか、わからないままだけれど、なんとなく、ふと、懐かしいなって。そんな気持ちがあった。
いつどんな時だったか、思い出すのに目を瞑ってみたけれど、ただ暗くなるだけで何かが浮かんでくることはなかった。
しばらくしてから目を開いて見えたものは、木目がはっきり見える天井。所々ツタが這っていて、古いように感じるかもしれないけれど、これはこれでひとつのインテリアだと思えば悪くもない。
と思い込むようにしてる。
どこかに住み直せばいいじゃないか。と紹介されることもあるくらいボロいみたいだけれど、ここを離れる気にはなれないので、断ってきた。
その度に申し訳ない気持ちになってるんだけど……。
外にあるポストに新聞紙が届けられた音がした。カタンと。
いつも決まった時間に届くから、目覚まし代わりに出来るくらい。でもだいたい届く前に目が覚めて、意識がはっきりしているから、元々目覚ましなんていらないのかもしれない。まぁひとつのルーティンとして、その音を取り入れている感じ。聞こえたら動き始める。天井を見ながら
「おはようございます」
と、ひとりで呟いてから、ゆっくりと。