第十七話
なんとなく体がだるい。疲労感のようなものがまだ残っている感じ。椅子に座って寝ていたせいか、腰も痛い。上体を起こして部屋を見回して見るけれど、やっぱり彼はいない。
「結局帰ってこなかったんだ……」
机には燃え尽きたランタンと、冷めた料理が並んでいるままだった。
そういえば、と毎日新聞を取りに行っていた事を思い出した。今日は彼がいないので、まだ外にあるはずだから代わりに取っておこう。と椅子から起きてドアに向かおうとした時、ゴン。ゴン。とノックがあった。
初めてのノックだった。それはとても弱々しいものだった。気のせいか、叩かれた場所がとても低いような感じがした。つまり、彼ではないと思った。私に訪ねてくるような知り合いなど(たぶん)いないし、なにより私が来てから誰一人来たこともない。
そのせいかとても怖く不安だった。こういう時どういう受け答えをするべきかわからなかったし、なにより他のお客さんを入れていいものなのかとか。まぁここを訪れるということは、お客さんなんだろうけれど。
(どうしたらいいのかな……。うーん……)
と悩んでいると、ゴン。と三度目のノックがあった。うー、と少し涙目になりながら隅で縮こまっていた。出ていく覚悟はできたのだが、なんて言って出ればいいのかなんて呑気な事を考えていた。
(今日はお日柄も良く……そんな話してる場合じゃないし……あーもう!)
と半ばやけにもなってズンズンとドアに歩いていった。大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら両手を握り締め、ドアに手をかけた。
「今日はっ!どういった御用ですかっ!」
と勢い良くドアを開くとゴンッと何かにぶつかった。そういえばついさっきまでノックしていたのだから、近くにいるはずなのだ。
「あ、あ、だ、大丈夫ですか!?すみません、私、こういうこと慣れてなくて……」
開いたドアから半身を出して謝った。かなりの勢いで開いてしまったので、怪我を増やしてしまったかもしれない。すると足元から声がした。
「いや、大丈夫だよ……。少し怪我してしまったけれど、そんな気にする事もない。とはいってもこの姿になるとなかなか響いてくるものだ。僕も歳かな」
そこには、ははは。と笑ういつもより少し小さくなったグーリェが横たわっていた。
全身を自分の血で染めて横たわっていた。