第十四話
その次の日も彼は出かけていかなかった。
いつも通り新聞を取りに行って私を起こし、がっかりし、いつも通り朝ごはんを食べ、私と一緒に食器を洗い、昨日と同じように本を読み、たまに談笑しつつ、夜になると私はご飯を作り、彼はまた部屋に入っていった。
いつも通りのようにいつもの一日を過ごした。昨日見たあの顔が、薄く、ボヤけてしまうような、そんな一日だった。
その次の日は出かける日だった。
いつもなら持ち歩かない大きなカバン、私くらいなら一人、軽く入るくらいに大きなカバンを持っていた。それを机の横に置き、一緒に朝ごはんを食べていた。
私は箸でカバンを指しながら
「そのカバンは何が入ってるんですか?」
と聞くと
「ん、あぁ。僕の仕事道具だよ」
と答えてくれた。
「仕事道具。珍しいですね、いつもなら持ち歩いていなかったですよね」
「そういえばそうだねぇ。久々に引っ張り出したと思う」
「最近部屋に閉じこもっていたのは、この荷造りですか」
「ん、まぁ、そんなとこだね」
と、もぐもぐと食べながらそんな会話をしていた。相変わらずどこに行くのかは、教えてくれなかった。
食べ終わって一緒に食器を片付けていると
「今日は、もしかしたら、遅くなるかもしれない。帰られるかも、わからないんだけど、なるべくは、帰るようにするから」
と言った。どんな顔をして言っていたのかは見えなかった。
「そうですか……。じゃあ晩ごはん作って待ってますね。あんまり遅かったら先に食べちゃいますよ」
「ははは、僕の分は残しておいてくれよ」
「……そんなに食べませんし」
と言ったところで片付けが終わり、彼は支度を始め、準備万端といった格好だった。
「じゃあ行ってくるね」
「はい、お気をつけて」
見送ったあとは、私はいつも通りの一日を過ごす。日が暮れるまで本を読み、ご飯を作る。たったそれだけ。
いつもなら、陽が半分ほどしか見えなくなる頃には、帰って来ている。けれど帰ってくる様子がない。遅れるから先に食べてて、とは言っていたけれど、少し待つ事にした。自分で明かりを着けられないので、とっぷり暗くなると何も出来なくなる。その前には帰ってきてほしいとか考えていた。