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080 死人に口なし

80話です。

よろしくお願いします。


「おぉあの時の冒険者さん!本当に助かりました。一本おまけしますね」


「ありがとうございます。お店頑張ってくださいね」


「えぇ勿論!売りまくってやりますよ!!」



露天の店主と硬く握手を交わし、後ろに並んでいる人々の邪魔にならないようにそそくさとアオイとミーナはさけた。アオイは当然の如く金髪碧眼の装いで彼のローブの中にいるスオウにもきちんと偽装の為に魔石を使っている。

勇者凱旋パレードの当日、王都の大通りは露店が隙間なく並びどこの店も行列を作っていた。先ほどアオイ達が寄った露店は数日前に人魚(マーメイド)捕獲のクエストの依頼を出した店で王都名物である人魚肉の串焼きを取り扱っている。そもそも人魚肉は貴族庶民関係なしにウケが良く、人間と魚の中間生物であるがゆえに脂が乗り過ぎずシンプルな味付けでも十分に美味であるため客の好みに合わせようと何種類かフレーバーを用意する店が殆どだ。ちなみにアオイが買ったのは香辛料の効いたカレー粉テイスト、ミーナはこってりめのバターテイストを選んだ。店主がつけてくれたおまけはプレーンのソルトテイストで、スオウは美味しそうな匂いにつられてアオイのローブから出たいとジタバタ動いている。が、勿論アオイがそんなことを許すはずもなく流石にこのままではスオウが可哀想だからと態と人混みに紛れながらバレないようにそっとスオウに人魚肉を与えていた。

勇者御一行が民衆の前に登場するのは昼を過ぎてからで現在の時間は陽の高さから判断しておよそ11時頃。大通りを抜けた広場の先にある王城前には既に人が詰めかけていて勇者御一行を一目見ようと場所とりが始まっていた。しかしアオイは興奮している一般人とは違い場所取りをする気は一切ない。


何故なら勇者凱旋パレードは混乱に終わるということを知っているからだ。


実はこの数日間でアオイはそこら辺にいるゴロツキやチンピラから金を使って情報をもらっていた。彼等は社会の半端者とはいえ数が多いせいかネットワークはそれなりに広い。どうやら他国が雇った傭兵集団が勇者凱旋パレード中に襲撃を仕掛けようとしていることはほぼ確実であり、王都を混乱に陥れてホルストフ王国の地位を失墜させようと画策していることが予想できた。勿論、街のチンピラ風情にも情報が流れているのだから当然王族や勇者御一行にもこの話はいっているだろう。しかし傭兵集団が襲撃しようとしてもまずは彼等を警護しているであろう王家直属のヴェロニカ騎士団の範囲網を突破しなければ手は届かず、もし仮に範囲網を突破したとしても腐っても勇者御一行と呼ばれるだけあって強いと思うし、それに後天性とはいえ能力(アビリティ)がある。それが38人もいるわけなので勝てる見込みはまずないと言っていいだろう。もしかしたら結果次第では勇者御一行の株を上げるかもしれないし他国にとってはまさに危険な選択でもあるのだがまさかそれを決行させるとは、逆にどの国が傭兵集団を支援しているのかアオイは知りたくなった。愚策もいいところである。

しかしこの勇者凱旋パレードの襲撃ほどアオイにとって都合のいいものはない。襲撃されたら間違いなく勇者御一行は反撃するだろうから混乱に乗じて自分と仲の良いクラスメイトと接触することがアオイの目的である。



(日本に帰れる方法があるって言ったら間違いなく食いついてくるな……)



クラスメイト達にとってこれ程いい餌はないだろう。アオイは自分の所属と能力について少し話をしなければならなくなるが知り合いである榎本の能力のことを話せば確実に釣れるはずだ。とりあえず今日クラスメイト達と接触しておけばあとはあちらから事情を聞きにくるだろう。

人魚肉を食べ終えたアオイは露店を見物しながらもどうやって周囲にバレないようにクラスメイトに自分の存在を知らせることができるのか考えている最中だった。



「アイジーちゃんだぁ!」



はぐれないようにとアオイと手をつないでいたミーナが手を離して走り出す。彼女が走っていく方向には確かにアイジーがいた。どうやらレグルス一家も露店を出していたようでアイジーは店子をしているようだ。



「アイジーちゃん!」


「ミーナちゃん!来てくれたんだね!!」


仲の良さそうな少女2人が店先で仲良く話し出すのをレグルス一家の露店に並んでいる客達が騒ぎ始める。



「アイジー、今は仕事中だ」


「ごめんなさいパパ……ミーナちゃんまた後でね」


「お店頑張ってね!!」


「うん!!」



ミーナはアイジーから名残惜しそうに離れてアオイの元へと帰ってきた。

一家はどうやら宿『レグルスの巣』の定番メニューである人魚肉の包み焼きを販売しており中々繁盛しているようだ。

アイジー達と別れて王城前の広場に出る。勿論そこには王都中の人が既に詰めかけているので最前列まで行くことはできない。



「さがれさがれさがれぇ!!」



賑わっている人集りに突如怒声が響き渡る。



「ヴェロニカ騎士団のご到着だぁ!!」



ここで王家直属ヴェロニカ騎士団のご登場だ。

高潔な純白のオートメールを纏った騎士達が配備され、広場前、大通りにいた民衆は瞬く間に隅へ隅へと追いやられここから先は勇者御一行が通るからと簡易的な柵が設けられる。それはさながら某テーマパークのパレード前の様子に酷似していた。



「………あーあ」



一気に人が無理に押しのけられたことで満員電車のようにギュウギュウな状態になりアオイは反射的にミーナの手を離してしまった。少し離れた所にミーナが人で押しつぶされている様が見えたが生憎そばに行くことは難しく、アオイもこの人集りから抜け出せることはできない。勇者凱旋パレードが始まったら更に人が押し寄せるだろうからそれが終わるまで待つしかないのだ。



(……和秋達に会える気がしない)



最早アオイの計画は始める前から頓挫しかけていた。襲撃で民衆がうまく散ってくれればいいのだがこの状態だと自分の体ごと人々に流されかねない。



(みんなそんなに勇者が見たいのか……まぁ見たいよな)



もう時間帯は既に正午。

そろそろパレードが始まる時間帯だが王城の門は一向に開く気配がなく人々が騒めき出したその時だった。



「開門!開門!」



門が鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。勇者御一行を一目見ようと最前列にいる人が柵にのりだし必死に手を伸ばしていた。



「うぉお?!」



まるで人が渦のようになって勇者達のいる方向へと詰めかけるので完全に人に流される状態になったアオイも気づけば最前列近くまで移動していることに気がついた。まずアオイの目に入ったのは先頭で甲冑をつけた馬に乗っている白いマントを羽織った宮下の姿だった。馬を引いているのは屈強なヴェロニカ騎士団の騎士でおそらく団長であることが伺える。そしてその後ろにクラスメイトである堀、和秋、天野、今野が馬に乗って現れた。そしてその5頭の馬が引いているのは豪勢だが気品のある馬車。その馬車に乗っている宮脇の取り巻き達と数人の女子が身を乗り出して手を振っていた。そして更に驚くべきはその後ろに続いている巨大な魔物だ。アルマジロのような魔物に乗っているのは1人の少女で笑顔で魔物の頭を撫でている。魔物の大きな足枷にはこれまた美しい鎖がついており、後ろに続く馬車からは女子達が和かにホルストフ王国の旗を持って振っている。そしてその馬車の屋根の上に座っている手から生み出す炎を操って花火を出したり様々な色の炎を生み出してパフォーマンスをしている少女。御者が乗るスペースには3人の男子が楽しそうに肩を組んで民衆に手を振っていた。その後も馬に乗った男子や剣舞を見せる女子が次々と登場しパレードは更に盛り上がっていった。

しかし民衆達に笑顔で手を振っているクラスメイト達とは裏腹にアオイの機嫌は段々と降下していく。



(みんなは……帰りたくないのか?)



どう見ても楽しそうなクラスメイト達にアオイはそんな考えが浮かぶ。



(いや、きっと辛いこともあるよな)



怪我も沢山したはずだし戦争だってしたくないはずだと嫌な考えを振り払い、アオイは周囲を観察する。民衆の中には勿論冒険者もいるので一体誰が襲撃しようとしているのか全く分からなかない。アオイは周囲を見渡し不審人物を探していると、ふとこの騒いでいる人々の中で全く動いていない人物がいることに気づいた。それもすぐ隣にいる人物。灯台下暗しとはよく言ったものだ。

体格からして男。黒いフードを被って勇者御一行の方を見つめたまま微動だにしない男ははっきり言ってとても不気味だった。



(……これもしかしてヤバイ?)



明らかにヤバイ男から逃げようとするアオイだったがいかんせん人が多すぎて身動きができない。どうにかして離れようとするがすぐ押し返されてしまう。


ーードン


「あっすみません」


そしてその反動で隣にいた男にぶつかってしまった。反射的に謝ってしまったのは日本人の癖だろう。

その時黒フードの男が此方に顔を向けて無言で一瞥し、何事もなかったかのように再度勇者御一行に視線を戻した。男はアオイより背が高かったからか、運良くアオイからは顔を少しだけ見ることができたのだ。



(世の中理不尽だ)



男の顔を見たアオイの感想がこれである。

少し長め青髪のオールバックにグレーの瞳。端正だがどこか野性味のある眉毛が男を瞳の強さを強調している、少女漫画風に言えば危険な男といった表現がピッタリな男性。

えもいわれぬ敗北感がアオイを襲う。最早クラスメイト達のことなんてそっちのけで気分が沈みに沈んだ。



(こっちの世界の人は地球の人より体格も良いし背も高い。冒険者なんて職業があるんだから普段から鍛えてると思うしーー)



自分の思考に夢中になっているアオイは気づかない。

隣にいた黒フードの男が静かに懐からサバイバルナイフを取り出したことを。そしてナイフ持っていない方の手をゆっくりと上げて手の平に魔力を練り始めた事を。



(でもこの世界って識字率あんまり高くないよな?市民は学習する機会なんて与えられないしそう考えるとやっぱりロナエンデの人は)



キュッ!


「ん?スオウ静かにーー」



ーーパァアンッ



アオイが何かと戦っている中、ローブに隠れていたスオウが何故か鳴き声を上げ、それを諌めようとした瞬間どこからか破裂音響いた。分かる人には分かる、魔力同士がぶつかって起きた相殺音だ。

音の中心源を見ると馬車の上に座っていた少女ー塚田華菜ーが何故かアオイ達一般市民がいる方向を睨みつけている。その鋭い視線にまさかとすぐ隣にいる男を見ると男は塚田の方に片手を突き出したままニヤリと笑っていた。



(まじでやりやがった…!!)



それは開戦の合図だった。


勇者御一行へと四方八方から放たれる魔法の数々に民衆は悲鳴を上げて逃げ惑う。力のある冒険者は勇者や騎士団を進んで援護し、未熟な冒険者はここで名をあげようと躍起になっている。そして混乱に乗じて恐怖に陥っている市民から金目の物を奪ったり暴力を振るったりしているゴロツキ達。


まさに乱戦の混戦状態で既に取り返しのつかないことになっている。


アオイは大衆に紛れて自分を襲おうとしていたチンピラ風情の顔面に裏拳をかましつつも手が空いてそうなクラスメイトを探すがどの場所においても戦闘状態で迂闊に近づけない。



(……もしかしたら俺が敵を装って近づいた方が早いんじゃ?)



そうと決まれば実行するのみ。戦闘していなく且つ出来るだけ話が通じそうなクラスメイトを探して戦場となっている広場を走り回るアオイ。しかしアオイの事情を何も知らない人から見れば金髪碧眼の青年がただ逃げているようにしか見えないらしい。



「あんた大丈夫か?!早くこっちへ!!」


「え?……は、はい!」



アオイは運良く小川に話しかけられて腕をガッチリ掴まれると騎士団の元へと誘導しようとする。しかしそれではアオイの目的は達成できない。



「小川っ!」



思わずいつものように彼の苗字を叫ぶと小川は驚いた顔でアオイを凝視した



「……なんで俺の名前」


「小川……声でわからないか?俺の顔を良く見てよ」


「は?……いやちょっと待てよ」



小川がアオイの顔を至近距離でマジマジと観察する。ここは戦いの場でのんびりしている暇はないのだが小川とアオイの間には気の抜けた空気が漂っていた。小川は数秒何か考えた後、急にキリッとした表情で言う。



「フリー・ポッター最終章のサブタイトルは?」


「マニアの秘宝」


「よしちょっと(ツラ貸せ」



アオイは小川の質問に間髪入れずに答えると腕を引かれて近隣の建物に隠れる。クラスを代表するバカその1である小川に対してかなり不安があったがそこそこ話はできるらしい。



「蒼どこにいたんだよお前。ずっと探してたんだぞ?」


「なんか1人だけ違う所に飛ばされたみたいでさ……」


「つかその髪と目……魔法で変えてんの?」


「うん。この世界でちょっとお尋ね者になっちゃって……だからずっとこの容姿にしてるんだ」


「………………もしかして◯ム・リドル?」


「YESトム・◯ドル」


「マジかよお前何やってんだよ…」



ごもっともである。



「いつか捕まえてみせるという俺の夢が……」


「そっちかよ」



相変わらず某魔法小説ファンの小川に蒼は完全に肩の力が抜けた。そして再確認できた。

こいつは馬鹿であると。



「駄目だ話が進まない。本題に入るな」


「出来るだけ俺に分かるように話してくれよ」


「なんで小川が偉そうなんだ」



何故かドヤ顔の小川に蒼は噴き出す。



(久しぶりだな、こんなに楽しいの)



そう、蒼が欲しかったのはこんな風に友人達と馬鹿な話ができる日常である。退屈ではあるが充実した毎日が送れるのならこんな幸せなことはないだろう。



「あぁ実はな……日本に帰ることができるんだ」


「え?」



出来るだけ小川に分かりやすいように蒼は話していく。



「クラスメイトのみんながこの世界に来る時に覚醒した能力(アビリティ)があるだろ?実は俺、地球にいた時にはもう能力を持ってたんだ」


「……」


「俺の知り合いにさ、異世界にも転移できる能力を持った人がいるんだ。その人と連絡が取れたから、その人の体の都合上2日に1人しか日本には帰れないけど帰りたい人は帰ることができるんだ」


「……」


「事情を知っている人は何人かいるし保護してもらえる。もちろん能力のこともバレないように取り計らってくれるよ……どうかな?」


「…………蒼、ごめん俺はパスしとく」



小川は無言を破り小さく溜息をついた後、気まずそうに言った。蒼も小川の反応からして断られるとは思っていたが実際それを聞くとすこしショックだった。



「……一応理由を聞いてもいいか?」


「おう。まずはこの世界を見捨てることができない。それに…」


「……それに?」


「……あー、多分だけど俺の他にも日本に帰ることを断るやつがいると思う」


「………」


「俺はそいつらを助けたいんだ。誰にも死んでほしくない……だからまだ帰れない」


「……そっか」


「誘ってくれたのに悪いな」


「いや、大丈夫だよ。それとこの話をクラスのみんなにも話しておいて欲しいんだ。俺はまだしばらく王都に入るつもりだし、宿は''レグルスの巣''っていう所にとってる。もし帰りたいっていう人がいたら教えて欲しい」



蒼は無理やり取り繕ったような下手な笑みを浮かべる。ポーカーフェイスを得意とする彼は今うまく表情を作ることができない。小川は申し訳なさそうにして、必ずみんなにこの事を伝えると約束して蒼と別れた。



(なんでだよ)



小川が去った途端にアオイは無表情になり心の中で先程再開した友人を責めた。



(俺はみんなに死んでほしくないから言ってるのに)



何もかもが思い通りにならないことはアオイも自覚している。しかし日々の癒しを学校としているアオイにとって小川の発言は想像以上に苦しかった。



(……1人になりたい)



少し落ち着きたいとアオイはその場に座り込んだ。


キュー


ローブに隠れているスオウを撫でながら遠くの喧騒をBGMに1人黄昏る。







アオイはこの時ミーナの存在を綺麗にサッパリスルッと滑らかに忘れていた。




◆◆◆◆◆◆



(お兄ちゃん……)


「大丈夫、ミーナちゃんは私達が守るよ」


「……うん」


「それにしてもムラカミさんどこに行ったのかしら」



ミーナは現在、ちょうど広場の近くにあったレグルス一家の露店に隠れていた。襲撃が始まり人混みに流されたミーナは運良くこの一家に保護されたのだ。

元冒険者のベインとフリートはそこら辺のチンピラ風情には簡単に勝てるので今のところ危険はないが勇者御一行との戦闘に巻き込まれたとなれば話は別だ。下手に動くと被害が出る可能性が大きいのでなるべく見つからないように体を縮こまらせながらその場をやり過ごすことしかできない。どうやら露店を構えている大体の人は考える事が同じなようでレグルス一家の両隣に露店を出している人達も静かにことが収まるのを待っている。

そろそろ襲撃者達が捕まってもいい頃合いだと思うが想定よりも数が多かった為か勇者御一行は苦戦を強いられているようだ。



ーーガシャァァン



「うわぁぁぁああ!!」



ミーナの右隣の露店に襲撃者達の1人が投げ飛ばされて突っ込み、隠れていた市民は一目散に逃げ出した。

レグルス一家の露店も被害に合うのは時間の問題だと潔く逃げる事を決めて騎士団に保護してもらいに4人で表に出ることを決意する。取り敢えず大通りを無事に抜けられることを目標としてミーナ達は戦場の中を走り出した。アイジーはミーナの手を引きながら全速力で大通りを駆け抜けていく。



「やっと出てきた」



どこからか聞いたことない女性の声が聞こえた直後、アイジーはバランスを崩して転んだ。ミーナも倒れている。



「ミーナちゃん!ごめ……」



その先の言葉は発せなかった。

アイジーの視線の先にあるもの。先ほどまで自分が手を引いて走っていたミーナを見て恐怖で喉が引き攣り、上手く呼吸が出来ない。

呼吸しようとしてもヒュー、ヒューとか細い音がするだけで気道が狭くなっていることが分かる。


ミーナの顔が綺麗にスライスされたように横半分に割れていた。


もちろん本人は絶命していてなんの反応も示さない。アイジーはミーナの屍から目を反らすことが出来ず、ただ目の前の恐怖に支配されていた。

そんなアイジーの視界に入ってきたのは誰かの足。茶色の靴下に黒のローファーを履いているその足はミーナの死体に近寄ると予備動作なく彼女を足蹴りにして幼い子供の体は容易に吹き飛ばせ、アイジーの視界にはミーナの上半分の顔と血溜まりが残った。

それでもアイジーは動かない、動けない。



「ほんっとムカつく」


バキバキバキ

グチャリ



その足は追い打ちをかけるように残された上半分の顔を踏み潰し血がアイジーの方まで飛んできた。踏み潰された反動で押し出されたのであろう目玉が視神経を切断された形で地面に座り込んでいるアイジーの足元に転がってきた。普通、女性の脚力では子供とはいえ人間の頭蓋骨ごと踏み潰せない。もしそれができるとすれば魔族か身体強化した人間くらいだ。

だとすればこの女性は魔法使いか。



「俺達の娘から離れ」


「あなたぁぁあ!!ぎゃ」



アイジーの耳に背後から両親の声が聞こえてきたがどちらも不自然に文章が途切れたまま何も言わなくなった。

そこでようやく気づく。先ほどまで襲撃者達と勇者御一行が争っていたはずの喧騒が聞こえない。異様なほどに周囲が静まり返っていた。

それでもアイジーは動かない、動けない。



「あの人をっ」



グシャ

グシャ



「お兄ちゃんって呼んでいいのはっ」



グシャ

ブチュ

ブツ



「私だけなのにっ」



ブチ

ジャリジャリ



声の主は執拗にミーナの頭をその足で何度も何度も踏みつけた。

黒いローファーが真っ赤に染まり周りの地面にも派手に血が飛び散っている。どこからか誰かが嘔吐しているような声が聞こえて場違いにも自分とこの足の持ち主以外に人がいることに安堵した。

それでもアイジーは動けない、動かない。



「はぁ……少し熱くなっちゃったみたい。こいつ本当にあの人の邪魔ばっかしていい加減我慢の限界だったんだよね」



足の持ち主はアイジーの方にも足を向けた。



「あぁ」



それでもアイジーは、



「あなたも同罪だから」



動けない、動かない。












「誰かたす」





一応蒼君は召喚時の女神遭遇イベに参加していないのでクラスメイトの能力はこちらの世界でリミッターか何かが外れて自然に覚醒したと思っている設定です。


そして実は前々から考えていたフリー・ポッターシリーズ(笑)。◯リポタ好きの皆さん申し訳ありません完全におふざけです(笑)

・フリー・ポッターシリーズ(全8作)

一作目 ニートの石

二作目 腐女子の部屋

三作目 ゲーマーの囚人

四作目 炎の自宅警備員

五作目 眼鏡の騎士団

六作目 謎のレイヤー

七作目 マニアの秘宝 PARTⅠ

八作目 マニアの秘宝 PARTⅡ


上映はしません。

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