079 動き出すは外野
このお話、まだ覚えている方いらっしゃいますかね…?
王都に来てからは魔石で常に金髪碧眼に見えるよう魔法を行使し、一応他の人に見られないよう万が一の時の為にローブの中に隠れさせているがもしもの時の為にスオウにも魔石を使っている。しかしそれにはどうしても1人になる時間がが必要だ。ミーナには自分の本当の髪と目の色を言わないよう再三言い聞かせているので大丈夫だとは思うが、うっかり口を滑らせてしまうのではないかとアオイはハラハラしている。
誰かにバレた時は王都を去るか、その人間を殺害するかの二択になるがアオイの、クラスメイトを元の世界に返すという目的を考えると後者になる可能性が高い。
勇者凱旋パレードが3日後に迫っている中、未だに勇者達にどう接触すればいいのか算段がついていないのはマズイ、とアオイが考えていたらいつの間にか王都のギルドへと到着していた。
アオイは今のところRank D である。
クエストを受ければ受けるほどRankは上がっていくものだがそれに伴い難易度も高くなっていく。最初の Rank Fでは 家事代行や薬草摘み、Rank E では次のRankに備えてひたすらギルドから支持された事を遂行し、そしてようやくRank D で低級モンスターの退治を許されることになる。Rank C、B、は中級、Aは上級の魔物を相手取ることとなり、Rankが上げる為にはその都度ギルドから昇級試験を受けなければならない。しかしこの昇級試験には例外があり、Rank A では括りきれない無類なき強さを誇るものにはRank Sという称号が与えられる。しかしこのRank Sを頂く者は国王の承認が必要であり王城で授与式も開催され、国民の前で国と民を守護すると宣言しなければならない。
アオイの魔力を考えるならばギルドカードをもらった数ヶ月でRank Bくらいまでには上がれていただろうが、旅をしていたこともありクエストをこなす量が少なかったのである。例え食料の為に森で魔物や動物を狩ったとしても換金すれば金は入るがクエストでない以上Rankは上がらない。
なので旅をしている時は魔物を仕留めた少ない報酬で自給自足の生活をしながら時々見かける商人や賊を襲ったりしていた。
しかし王都に来た以上、そんな生活から解放されるのである。魔物退治のクエストをこなして生活できるだけの報酬をもらえればそれで構わないという考えのアオイは一見無欲だと思われがちだが、実際は元の世界に帰ることだけを考えて無駄なことは一切しないと決めているからである。
ギルドに入ると早速クエスト内容がランク別に張り出されている掲示板へと足を運ぶ。掲示板の前には数人程クエストを眺めているようでアオイも自分のランクに見合っているクエストを探しだし、その紙を剥がして受付嬢のところに持って行った。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「このクエストの受注をお願いします」
「かしこまりました。では、ギルドカードのご提示をお願いします」
あらかじめ用意しておいたギルドカードを受付嬢に渡すと入国検査の時と同じような機器でスキャンされ、各項を職員がチェックする。この時ばかりは全項目が映し出される精密チェックとなるのだ。
名 称 アオ=ムラカミ
性 別 男
称 号 冒険者
Lv : 23
HP 1569/1653
MP 51/54
STR 30/55
DEF 78/90
AGI 55/65
INT 48/50
Rank D
属性 氷
技術 鑑定【Lv:3】
冒険者のギルドカード偽造はある種のステータスではあるが、それでも偽造だとバレないかハラハラして心臓に悪い。
そもそもギルド職員も偽造の疑いがあると承知の上でギルドカードを見ているので何も支障はないが、アオイにはどうしても騙しているという感覚が拭えないのだ。実際に偽っている部分は魔力と属性、技術部分のみで他としてはRank Dの冒険者として一般的な数値だろう。少しだけ防御が高めであるがそれは許容範囲内だ。
「ギルドカードのご提示ありがとうございます。クエスト『シャングリラの湖に生息する人魚の捕獲』の受注を承認しました。シャングリラの湖は王都最西端に位置するラ・シャングリラ森林にございます。また依頼者からの要望で、出来るだけ多くの人魚を捕獲してきて欲しい、とのことです。捕獲数で依頼人と報酬額を相談することとなりますのでよろしくお願い致します。それではいってらっしゃいませ」
事務的なギルド職員の言葉に頷いてアオイはギルドを後にする。
王都最西端のラ・シャングリラ森林は観光スポットとしてはそれなりに有名で他国からも観光者がくるほどだ。精霊が多く生息するその森林は魔物が殆どおらず動物も穏やかで、この世界で数少ない、危険性のない普通の森林だ。また、人間の目に見えない精霊から運が良ければ加護がもらえるので冒険者からも人気である。
地球の認識では人魚というと物語に出てくる人魚姫のように上半身は可憐は女性、下半身は美しい鱗とヒレ持ち至上の歌声を発することが知られているが、この世界での人魚はその認識を覆すような姿をしている。
確かに下半身は鱗で覆われてはいるが魚をそのまま人間にしたような顔に鋭い牙、耳を押さえるほどの劈く悲鳴を発し、人間の子供を好んで食べる化け物である。人魚というよりは魚人といった方がいいであろう。
しかしいかにも不気味である容姿の人魚は王都の名物でもある。露店でもよく売り出されており、塩をふっただけのものではあるが脂が程よく乗っており大変美味である。
(依頼人はどこかの店の店主だな)
そうなれば依頼人がどういう立場の人間であるのか推測するのには容易だった。おそらくもうじき開催される勇者凱旋パレードで大々的に売り出すのだ。他のクエストも食料調達系の依頼が沢山貼り出されているところを見ると酒場や宿などの食料を扱う調理部門は今が山場なのだろう。
風を操って街を駆け抜ければ30分程でラ・シャングリラ森林へと到着し、ご丁寧にも観光者向けにあるレンガ道を通ってシャングリラの湖へと向かう。やはり勇者凱旋パレードを見越してか、ラ・シャングリラ森林にはいつも以上に観光客がいてアオイはこののほほんとした緩い空気の中でクエストをこなすのは少し気まずい気がしたが受注してしまったものはしょうがない。看板の矢印通りにシャングリラの湖へと足を進めれば案の定、湖の周りには観光客がチラホラと見かけられた。
「……腹を括れ。村上蒼」
できるだけ観光客のいない場所に場所をとってアオイは 闇の隙間 から木でできたカスタネットのようなものを取り出してそれを鳴らした。湖全体にその音が鳴り響き、少しの間をおいてまた鳴らす。それを何度も繰り返していると、やがてアオイがいる陸地に集まってくるように湖の中には人型の影が近づいて来た。言わずもがな、人魚である。
実はアオイが鳴らしているカスタネットのような物の名前はクスタネットと言い、人魚漁に使われ雄個体の人魚の声によく似ている音を出す。殆どが雌個体の人魚はクスタネットの音に誘われて集まり、時には雌同士が争うこともあるというなんとも罪作りな道具であった。
カンカンカン カンカンカン
何度も繰り返されるその音に雄の声と勘違いした雌の人魚は湖の中から次々と顔を出し、おぞましい奇声を発した。
ーーギィェエェエエエ
(うるっさ!!)
人魚の大合唱にクスタネットを鳴らし続けることも忘れてアオイは反射的に耳を抑える。そしてローブの中にいるスオウも驚いたのかローブの中から飛び出してアオイの肩をグルグルと駆け回っている。
少し離れた所にいた観光客が走って逃げていく様が視界に入り、アオイも逃げ出したくなったのは言うまでもない。少し涙目になりながらアオイは風を操って湖から飛び出している人魚の首をめがけて勢いよく手を斜めに振り下ろした。
ーズバァン
「あ」
アオイの想定していた人魚の首だけをチョンパするつもりが思ったよりも彼等の奇声に精神が削られていたらしく、勢い余って湖まで風の被害がいき、モーセのように少しだけ湖が割れた。数秒ほどで普通の湖に戻ったが観光客は何を勘違いしたのかパフォーマンスとしてとられてしまいアオイは何故か拍手され賞賛を受けた。
未だにアオイの体を駆け回っているスオウを落ち着かせてローブの中に隠し、湖にプカリと浮かんでいる人魚を能力で陸地に引き上げた。
少々予定外のハプニングは起こったものの、準備していた縄で尾を何匹か纏めて縛りあげて闇の隙間へと放り込んだ。
アオイが一度に確保した人魚の数は21体。これをクスタネットを鳴らす場所を変えながら繰り返し行い、ギルドに戻ろうと考えていたお昼の時間帯には既に50体以上の人魚を仕留めていた。
◆◆◆◆◆◆◆
「それでは依頼人との交渉に今夜またギルドにお越しください」
「分かりました」
人魚をギルドに引き渡すし、アオイは夜の間までフリーになってしまった。そうなれば宿に戻るしかなく、移動で時間がかかってしまったので昼食を食いっぱぐれてしまったアオイは虚しく保存食であった干し肉を齧りながら久しぶりに陽が高いうちに宿に帰ることができた。
「あ、お兄ちゃん!」
どうやらアイジーと一緒に昼食の片付けのお手伝いをしていたミーナはアオイを見つけると一目散に飛びついた。
アオイは困窮しているまでもなく金には困っていなかったが、ミーナはいつの間にか宿先である一家の手伝いを進んで行うようになっていてちゃんと報酬も貰っており積極的に働き出すようになった。どうやらアオイの負担を少しでも減らしたいと働き出したらしいがアオイとしてはミーナに大人しくしていて欲しいというのが本音だ。しかしミーナを説得する時間も無駄な気がしたので放っておいて本人の好きなようにやらせていた。
「おかえりなさい!」
「ただいま、ミーナ」
「お仕事お疲れさまー!」
王都に入ってからはあまり一緒の時間を過ごせないミーナはアオイに対してなにかと甘える癖がついてしまっていた。まだ人肌が恋しい幼い彼女は下宿先の一家との触れ合いに触発されて自分を養っている彼にあれこれと自分の意見を積極的に言うようになったのだ。
「あのね!アイジーちゃんが言ってたんだけどね!少しはなれたところにあるお店にとっても珍しいーー」
「はいはい。その話は部屋についてから聞くよ」
つまり、我儘だ。
これにはアオイも頭を抱えた。いずれ利用しようと思ってミーナを誘拐したのだが連れ回すことも世話をすることも面倒になったアオイは早々に捨てようと王都で態と1人にして賊をけしかけたのだがそれは部外者の乱入で呆気なく失敗。また、ミーナが下宿先一家と仲良くなってしまったがために、急にミーナがいなくなっても周囲が騒ぎ出してしまう今の状況ははっきり言って厄介だった。
日本でいう育児放棄を下宿先で疑われているアオイは彼等の前でミーナを不当に扱えない。そしてアオイの1番の目当てである勇者凱旋パレード前後は王都を去ることができない。更に仕方なく世話をしているミーナが最近我儘を言うようになってきた。
(あ''ーほんとに面倒。あの時殺しておけばよかったな)
ミーナを騙し勝手に誘拐しておきながらもアオイはそう思って、後悔先に立たずとはまさにこのことだと先人の言葉を見にしみて感じた。
ミーナを持ち上げて抱えると彼女は握って揺れても落ちないようにアオイの服をギュっと握る。
「リグネルさん今日もありがとうございました」
「あら、気にしなくていいのよ。ミーナちゃんは可愛いし良い子だからね」
宿名にもなっているリグネル一家は夫のベイン、妻のフリート、として一人娘のアイジーの3人家族で経営している規模の小さい宿だった。王都の中心部の方にある大きな宿ではなく端の方に位置している一見大きな家にしか見えない宿なので滅多に観光客はこない。しかし宿に集まっている人達は専ら近くの住民が常連客のどちらかでリグネル一家は地域と強い結びつきを持っていた。面倒見の良い一家の中に見知らぬ可愛いし子供がいるとなれば噂になる。ならば本当の親はどこにいるのかと宿に訪れる客達は連想していき、その結果アオイの評価は下がっていった。アオイを立派だと言う人もいるがミーナを放っておいている現状に不満がある人達が殆どだ。
リグネル一家と客達はアオイとミーナを見送ると一斉にため息をつき、どうにかできないかと思案する。
「リグネルさん、いっそのことミーナちゃんを娘にしたらどうだい?」
「ミーナちゃんも1人じゃ寂しいだろうにね……」
「あれじゃミーナちゃんの為にならねぇよ」
ミーナの為を思って口々に言う客達にフリートは力なく首を振った。
「あの2人は兄弟なの。それにミーナちゃんはムラカミさんにとても懐いているのよ?引き離すなんてことしたら……」
「でもママ。ミーナはお手伝いが楽しいって言ってたよ」
「アイジー、これは難しい問題なの。それにミーナちゃんの意志も聞いていないのに勝手に決められないわ」
アイジーは知っていた。時々アオイがミーナのことをとても冷めた目で見ていることに。
しかしそれをたとえ自分の家族にも言える自信がなかった。それは偏にミーナの為だ。自分がそんな事を他の人に言ったらミーナとアオイは引き離されることは分かりきっている。しかしミーナは本気でアオイが大好きなのだ。ミーナの気持ちを知っているからこそアイジーは2人を離れ離れにはしたくなかった。
ミーナの気持ちを考えるのならこのままの方がいい。けど、今のままじゃミーナの為にはならない。何とももどかしい問題なのだがミーナはまだ幼いし、どのみち兄離れをしなければならない日が来る。それならば早々に2人を引き離した方がいいのではいかと考えたのだ。
「……ムラカミさんと俺たちで直接話した方がいいだろう」
「あなた……そうね、そうしましょう。本人達がいないところで話しても何も解決しないわ」
「俺から話を持ちかけてみる」
「お願いね」
ベインの案に客達は盛り上がった。なにせこの宿にもうひとり娘が増えるかもしれないのだ。アイジーも一緒に過ごした時間はまだ短いがミーナの事を妹のように思っている。ムラカミと一緒にいるよりも自分達とここで暮らし方が幸せになれるだろうと確信していた。
「パパ、いつムラカミさんに話すの?」
「ん?そうだな……勇者様達の凱旋パレードまでは忙しいからそれが終わってからだな」
「そっか」
ムラカミはミーナのことを邪険に思っているようだし反対はしないだろう、とアイジーは早くパレードが終わらないかと楽しみになった。もうすぐ家族になれるのだと浮き足立って上機嫌に働きだす。
そんなアイジーを周囲も微笑ましく思いながらやがて話題は勇者凱旋パレードのことへと移っていった。
だから誰もあんなことになるとは予想もしていなかったのだ。
登場人物
ベイン=リグネル
宿『リグネルの巣』のオーナー。とても男らしい性格の元冒険者。妻フリートとはとてもロマンチックな出会いをしたらしい。この国ではとても珍しい黒髪黒目。髪は刈り上げている。
フリート=リグネル
宿『リグネルの巣』のおかみさん。控えめで優しい性格の元冒険者。夫ベインとはとてもブリリアントな出会いをしたらしい。茶髪茶目の普通の面立ち。
アイジー=リグネル
宿『リグネルの巣』の一人娘。気の強い性格の齢8歳。友人ミーナとはとてもグレイトな仲。容姿は母親寄りで長い髪をサイドテールにしている。
ギルドカードについて
この世界の駆け出し冒険者としての数値はHPが1000前後、MPは50前後となっています。他の数値は人それぞれの技量に依存してくるので基準としてHPとMPが使われていると判断してください。




