07 手を繋いで
「兄ちゃん‼︎早く早くっ!!」
「待てってば、走ったら危ないだろ」
弟が無邪気に走りながら俺の手を引っ張る。
弟と俺の足の長さは当然違うので、何度も足がもつれそうになりながらもついて行った。
「早くしないと《ニルアーナ》の時間に間に合わなくなっちゃうよ!」
弟が焦りながら、そして嬉しそうに言う。
「別にそんなに焦らなくても充分間に合うだろ」
実際、目的地である小さな丘はあと数十メートルである。歩いても間に合う距離だ。
「…もういいよ、先に行ってるからね!!」
弟が顔をわざとらしく逸らし、一人で走って行ってしまった。
「お、おい!!傍から離れるなよ!!」
俺は母さんから弟の面倒をみておくようにと事前に頼まれていたので仕方なく、弟を追い駆けた。
そして辿り着いた丘で《ニルアーナ》の時間を弟と待つ。
「あ、ほら兄ちゃん。もうすぐだよ!!」
「分かってるよ」
俺達は両膝を地に尽かせ、身体の前で両手を合わせながら夜空を見る。
あと数秒で青と黄色が重なる。それを確認すると頭を垂れて目を閉じた。
祈祷のポーズだ。
「……」
「……」
二つのものが重なる時、それは一つになり、ニルアーナの神が願いを叶えてくれる。しかし、重なる瞬間だけは決して見ては行けない。見た者には禍が降りかかるであろう。
それがこの国の言い伝え
それがこの世界の言い伝え
俺は頭を垂れながらチラリと片目を開け、右隣にいる弟を見る。
何故か弟は呆然として口をだらしなく開けながら空を見上げていた。
「……ぉぃ」
「……」
小声で話しかけてみたが、全然反応がない。
「おいってば、お前何してんだよ」
今度は普通に話しかけてみる。
「…だって、兄ちゃん。見てみなよ」
さっきまであんなにはしゃいでいた弟が静かに答えた。
「……?」
もう二つが重なり合う瞬間は過ぎたと思い、上を見上げる。二つは今は半分位重なっていた。
しかし、注目すべきものが一つ。
「…なんだありゃ」
青色に光ったものが高速で駆け、俺達の頭上を通過する。
光の落ちる先を俺達のいる丘のすぐ後ろの山だと気付くと、俺は咄嗟に側にいる弟の襟首を掴み地に伏せた。弟から何か変な声が出たような気がしたが、気にしない。
「早くバリアをは
ーードォォオオオオオオオオン
俺が言い終わらなない内に光が落ちた。衝撃で身体が吹き飛びながらも弟を離さないように必死に抱き込む。
地面に亀裂がはしり、土が舞う。
何より風が凄く、俺達の身体は数十メートル吹き飛ばされることになった。
地面に身体を打ちつけられ土まみれになりながらも、何とか立ち上がる。
「…兄ちゃん」
俺の隣に座り込んでいた弟も、すぐに立った。
山はというと、上半分が吹き飛んでおり跡形もなくなっていた。残ったのはやけに標高の低い、もはや山とは言えなくなったオブジェのようなものだけ。
「…兄ちゃん、見に行こうぜ!!」
そう言った弟を見て、俺は少しだけ笑顔を浮かべなから頷いた。俺の予想を見事に裏切らなかった弟の発言は俺にとっても酷く魅力的だ。
普段大人しめである俺でも、流石に今回ばかりは好奇心には勝てない。
俺と弟は手を繋いで走り出した。
ーーーーそういやお前、ニルアーナ様に何お願いした?
ーーーーーーーーーーーー秘密。
ーーーーなんだよ、ケチだな。
ーーーー(…言える訳がない。父さんに帰って来て欲しいだなんて)