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076 ②



「そんなに慌ててどうしたローラ」


そう呑気に言う緑の髪の青年にローラは王女にあるまじく顔を引き攣らせこめかみに青筋をたたせる。


「ふざけないで下さい!先程大切なお客様と(わたくし)は言ったばかりです!部屋で大人しくして下さらなければ困ります!!リベル!」


「ここに」


「今すぐ勇者様とご友人方を別室に移動、シェフに再度料理の作り直しを頼んで。使用人の指示は貴方に任せます」


「かしこまりました」


リベルはその後食堂にいた数人の使用人に話しかけ、やがて1人の使用人を伴い生徒達に近づいてきた。


「大変申し訳ありませんがこの先は彼女の指示に従って下さい」


「エルハと申します。お見知りおき下さいませ」


リベルに紹介された、エルハと名乗る使用人は綺麗な所作で礼をして生徒達に微笑みかけ、此方にーと未だローラの怒声が響き渡る食堂の外へ誘導した。















生徒達が案内されたのは一番初めに王宮に来た時に入った応接室のような部屋だった。


「シェフが至急料理を作り直していますのでもう暫くお待ち下さい」


「あ、じゃあその待ってる間質問していっすか??」


「はい。(わたくし)がお教えできる範囲でお答えします」


申し訳なさそうに言うエルハに、小川が軽い調子で質問する。


「じゃあ…さっきローラさんが"兄様"って呼んでた人達のことを教えてもらってもいいすか?」


「はい。あの場にいた御三方のうちの1人は実兄のライモンド様であり、ディルク様、クリストフ様は義弟であらせられます。ライモンド様は緑の御髪の方で、ディルク様が金の御髪をした眼鏡をかけていらっしゃる方、クリストフ様が少し長めの金の御髪を一つに纏めていらっしゃる方です」


エルハの説明に生徒達は誰がどれなのか理解する。


「…あれ?確かローラさんって第二王女でしたよね?どの順番で産まれたのか詳しく教えてもらえます?」


次に質問したのは女子の鉛谷(えんたに)である。


「かしこまりました。まず第一子としてクリスティア王女、続いて第二子ライモンド王子がご誕生なされました。次いで第三子としてローラ王女がご誕生されましたが出産後、当時の女王であらせられたティスティ様が不運な事故で帰らぬ人となり、その後、側室の1人であらせられたシェニヤ様が第四子ディルク王子と第五子クリストフ王子をご懐妊されましたが産後の御加減が優れなく、ティスティ様に続きそのまま…そして第六子シャルロット王女、続いて第七子アルマ王子をご出産なされたリオセラ様が現在女王としてお勤めを果たされています」


「なるほどね…複雑だわ」


腹違いの子供が王宮に何人もいる事は中世時代の王家にとって普通だとは思うが、現代日本人の感覚からしてみればなんとも複雑極まりない。


「やはりあなた方の世界とロナエンデとでは王家の在り方も違うのですね…他に何か質問のある方はいらっしゃいますか?」


生徒達は皆な質問を考えているのか沈黙が落ちる。すると1人の男子生徒が小さく手を挙げた。


「質問いいか」


「はい」


生徒達自身も久しぶりに聞いた声に驚き、声の主に視線が集まる。

クラスではよく言って大人しい、悪く言って地味な男子生徒 今野(こんの)は基本的に誰とも関わらない事でクラスメイトからは一線引かれている存在だ。いつも教室で1人静かに音楽を聴いたり本を読んだりしており話しかけても滅多な事がない限り声も発さないので会話が成立せず、結局誰も近づかなくなった。


ーこんな口調だったか、と疑問に思うよりも、"あの"今野が発言した事を意外に思い生徒達は彼の言葉を待つ。


「エルハさんはこの王宮に勤め始めて何年になる?あんた自身…この王宮のこと全て知っているのか?」


何とも不思議な質問の内容に生徒達は首を傾げた。それはエルハも同じようで予想外の事を聞かれたからか、一瞬怪訝そうな顔をするもにこやかに対応する。


「私は勤め始めてちょうど10年目で…使用人の中では比較的長い方だとは思います。私はリベル様のような王家専属の使用人ではなく王宮の雑務を担当しておりますので、全てを知っているわけではありません。禁書庫や王族の方しか立ち入れない場所、使用人が近付いてはいけない場所等も少なからずあります」


エルハがそう答えると、今野はジッと見つめていた彼女から視線を外し、小さく礼を呟いた。


「他に質問のある方はいらっしゃいますか?」


「あ…はいはい!」


今野に引き続き、今度は白石が手を高く上げて自己主張する。


「俺達、今日までアルマ王子しか見たことなかったけど…なんであの3人の王子様は今までいなかったんですかー?」


そういえば確かに、と生徒達は顔を見合わせた。そもそも地球からロナエンデに召喚された生徒達は余程のことがない限り王城から出して貰えないので嫌でも王族以外の騎士や使用人と顔見知りになり交流を深める事が出来たのだ。

それにも関わらず、王城にはいない王族の話を生徒達は一切聞いた事はなく、王子はアルマただ一人だけだと思い込んでいたのである。

生徒達がこのロナエンデに来てから約一年の間、3人の王子は一体どこに行っていたのかを白石は疑問に思った。


「それは学園に通われていたからですよ」


「へぇー…学園」


「はい、学園です。全寮制なので長期休暇以外は帰ってはこれないのです」


学園、という言葉に納得はしたものの、どうしても理解しがたい事が白石にはあった。


「あの、エルハさん。つかぬ事をお聞きしますが…」


「は、はい……?」


白石はやけに真剣そうな顔をしてエルハを見つめるので思わず彼女もタジタジになる。


「その…、王子の年齢っていくつですか?」


「えぇと、ライモンド王子が18、ディルク王子とクリストフ王子が16ですが…」







































『…ええぇぇえええ?!?!』



生徒の大絶叫が部屋中に響いた。

あの堂々とした態度と大人の雰囲気はもっと年上のものばかりだと思っていた生徒達にとってそれは衝撃的な事である。3人とも一歳しか違わず、男子は皆一様に項垂れ落ち込んだ。

何しろ3人ともまず背が高い。

そしてあの風格に圧倒的実力差は格としての違いを見せつけられ、完璧に男として負けをみせられたのである。しかも3人の内2人は年下だという事が男としてプライドをズタズタにさせられていた。


「いやいや、あの背の高さは反則だろ…」


ポツリと呟いた小川の言葉に男子は力なく頷く。


しかし男子以上にダメージを受けているのが女子だ。

王子の年齢、それは女子達にある事実を突きつけている事と同じだからである。


ーーコンコンコン


生徒達のいる部屋に誰かがノックする音が聞こえてきた。


「失礼します。食事の用意が出来ましたのでただいまこちらの部屋に運ばせていただきます。どうぞお席についてお待ちください………………何か?」


タイミング良くローラが部屋に入り連絡事項を伝えると、ふと女子の視線に晒されている事に気がついた。


女子数人はローラと自分の体をしきりに見比べて顔を歪ませている。


精錬された身のこなしで落ち着いた印象を与えるローラ。170cmはあるであろう高身長に小さな顔。引き締まった腰は豊満な胸を強調させ、しかしそれは彼女の性格を表しているような決して見栄を張らないシンプルな白いドレスを着ている事で主張され過ぎず、バランス良く纏まっている。緑がかった長い金髪は腰まであり、光に当たる事でキラキラと光りとても綺麗だ。


「お、同い年…」


渡辺は思わずそっと自分の胸に手を当ててしまい、自分で自分の傷を抉ってしまった。


「だ、大丈夫だよ!」


そんな渡辺を見て海老名が慌ててフォローに入るが、何が大丈夫なのかわからない上に海老名はクラス一の巨乳の持ち主である。天然が入っているお蔭かその行為が渡辺の首を更に絞めている事に全く気付いていない。


生徒が精神的なダメージを受けている中、エルハとローラは疑問符を浮かべる事しか出来ず、生徒達が落ち着くまで待っているはめになった。



キャラ紹介ドン。


小川 (とおる)

クラスを代表するバカその1であり盛り上げ役。帰宅部。良く広瀬、天野とつるんでおり某魔法小説の大ファン。難しく考える事は苦手で何事も感覚から覚える派である為魔法は得意。が、座学は駄目駄目。白石とはとおるペアと呼ばれている。

能力: 複写(コピー)

特定の物質を複写して増殖させる能力。しかし質は本来の物質に劣り複写数も限りがある。


白石 透

バスケ部に所属している男子。身長が低い事を気にしている。クラスを代表するバカではなく、愛すべきバカ。

何事にも一緒懸命な為、成績はそこそこ良い。つまり、愛すべきバカ=頭が弱いの意。小川とはとおるペアと呼ばれている。

能力: 言霊(ことだま)

特定の物質・人物を選定してその行動を縛り操る能力。然し意志の強い人物には効果がなく時間も制限される。


今野 (あきら)

学年一絡みにくい男子でいつも静かに周りを傍観している。剣道部。人と関わる事にかなり消極的な為、友人は殆どおらず1人でいる事が多い。

能力:分裂(ヴィジョン)

特定の物質を分裂させる能力で、能力者自身も分裂が可能となるが、その物質が維持出来なくなる程の負荷がかかると消滅する。


鉛谷(えんたに) 牡丹

黒髪ミディアムで目つきが悪い女子。バレー部。性格もキツく、女子には優しいが男子には容赦なく攻撃(物理&精神)する。何事にも慎重に動く生粋の頭脳派。面倒臭い事が嫌いだがなんでもそつなくこなしてしまう。

能力: 液状化(ニュームレイター)

触れたものを液状化させて操る能力。ただし密度が大きいもの程液状化させにくく時間がかかる。


渡辺 胡桃(くるみ)

癖っ毛の茶髪をいつもサイドテールにしている女子で帰宅部。貧乳がコンプレックス。料理をする事が大好きな為薬の調合等が得意ではあるが、魔法はあまり得意ではない。とても優しい性格をしている。

能力: 天候操作(テンペスタ)

自由自在に天候を操れる能力。ただしその日の天候によっては大きなタイムラグが生じる事がある。


海老名 珊瑚

黒髪ロングに軽い天パが入っているクラス一巨乳の女子。バレー部。取り巻き達を超える程の美少女で、性格も天然なことから一部の生徒には「大天使」と呼ばれている。かなりモテるが彼氏はいない。魔力の扱いに長けている。

能力: 先見(チョイス)

数ある未来を先見出来るが能力。しかしその時によって見える未来が定まっていないのでかなりの情報処理能力が必要とされる。


エルハ

王宮に勤めている、主に雑務をこなす使用人。茶髪茶目で、長い髪を後ろで簡単に纏めて布を被せている。20代後半。王宮の使用人としての教育をしっかりと受けており王族に忠誠を誓っている。

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