074 オリジナル 〜勇者陣営〜
いつの間にかPV数が10万超えていました…皆さん、いつも読んでくださりありがとうございます!
「…なんだ?」
和秋はけたたましく響く鐘の音に眉を顰めた。
今は男女合同での座学の時間。
他の生徒達も鐘の音が気になるようで先ほどから窓の外を気にしている。
「お前ら、今は授業に集中してくれ」
講師の厳つい武官も思わず手を止めて外の方に目を向けていたが、すぐに気を取り直して授業を再開した。
これが、問題の彼等が襲撃してくる2時間前の出来事である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あー今日も疲れた…早く飯食いに行こーぜ」
今日の最後の授業の魔法訓練が終わったと同時に友哉が和秋と悠馬に向かって言う。
「ごめん、少し待っててくれ…あともうちょっとなんだ」
「いいけど…何やってんだ?」
他の生徒が夕食をとりに食堂へ向かう中、和秋は1人演習場で目を瞑りながらただ立っていた。
友哉は悠馬が和秋の様子を近くで座りながら見ているのに倣い、彼の隣に腰を下ろす。
友哉は和秋に問いかけたものの、集中しているのか返事が返ってこない事を察して隣の悠馬を一瞥する。
「……黙って見ていれば分かる」
友哉の視線の意味を正しく理解した悠馬は和秋から目を離さずに答えた。
友哉は再度和秋を見るが、相変わらず目を瞑って立ったまま動かない。
何が起こるのか、友哉の好奇心が擽られたので大人しく悠馬の言う通りにした。
「ねーねー、和秋君何してんの〜?」
次に話しかけてきたのは依子だ。もちろん紫と華菜もいる。
「隣、いい?」
「どーぞどーぞ」
話しかけてきたのは紫に友哉は笑顔で答え、女子3人組も座って和秋を眺めた。
「で?結局和秋は何してるわけ?」
「黙って見ていれば分かる」
「あ、そう」
華菜の問いに友哉は自分が先程悠馬に掛けられた言葉と同じ言葉を返す。
和秋はまださっきと同じ姿勢のまま動かない。
魔法の演習で疲れたのだろう、依子が小さな欠伸をした、その時だった。
和秋は目を見開き拳を構え、
「ーーフッ!」
何もない虚空に向かって、思い切り振りかぶった。
和秋が放った拳は渦を描きながら熱風を伴って周りの酸素を燃やして発火し、瞬く間に巨大な炎になって広い演習場を烈火の如く突き進んでいく。
「悠馬!」
「我、水の神デュオに宣言す いついかなる時も傍に在り 敵をうちはらい 道を切り開かんとする 」
和秋が声を上げるのと同時に悠馬は立ち上って淡々と魔法を詠唱する。
「水の呼吸」
そう紡ぐと悠馬の周りに大きな水滴とも言える水の塊が揺らぎながら何十個も構成され、悠馬が和秋が行使した魔法へと手を向けると弾丸のような速さでそれに向かっていく。
和秋と悠馬の魔法は互いに争い合い、混じり合うような形で双方とも消滅した。
「ありがとな、悠馬」
「予定の範囲内だから別に構わん」
「え…え?ちょっと待って?!」
言葉を交わし合う二人に見ていた4人はついていけず、友哉が口を挟む。
「あ、待っててもらって悪いな。今終わった」
「思ったより早く終わったな、早く食堂に行かねばな」
「だーかーらー!ちょっと待てって!」
検討違いのことを言う和秋と悠馬に友哉は憤慨した。
「悠馬はともかく…和秋!!何あれ?!何か凄いの出てたんだけど?!説明プリーズ!!」
叫びながら迫る友哉に二人は思わず顔を見合わせて苦笑した。
「あぁ…あれな、新しい魔法を使おうとしてたんだよ」
「新しい魔法?あれが?」
思わず紫が聞き返す。
「へ〜!和秋凄いじゃん!私あの魔法初めて見たよ〜!」
「まぁな、特訓したんだよ」
感心したように言った依子だが華菜は和秋をじっと見つめている事に気がつく。
「どしたの華菜?」
「……今の魔法、オリジナルなんでしょ」
「「「!!」」」
確信めいた華菜の言葉に和秋と悠馬以外が驚いた。
「あ、分かったか?」
「詠唱なかったし…私の得意分野の事だから、分かるには分かった。それになんか気合いで出してるみたいだったし」
華菜は当然といった風に言うがオリジナルの魔法を見抜くには相当の力と観察眼がいる。火属性の魔法だけでも何十個あり、また大元の神代魔法以外にも種類があるのだ。いくら得意分野とはいえその量の魔法を把握するのはほぼ不可能と言ってもいい。
「…華菜は天才肌だな」
「あんたにだけには言われたくなかったんだけど」
眼鏡を光らせながらいった悠馬に華菜は複雑そうに言い返す。
確かに悠馬はとても頭が良い。頭脳派であることに間違いはない。
「オリジナル魔法かぁ…和秋凄いね、魔法の才能あるんだよ」
「いや、本当にただ頑張っただけだ。完成するのにもかなり時間がかかったし」
紫の言葉を、あくまでも自分は努力をしただけだと和秋は笑う。実際和秋は全てが月並みであるので才能がものを言うオリジナル魔法を考えるのには骨が折れた。
「でも、頑張り続ける事も凄いと私は思うな。私だったら絶対諦めてるし…うん、やっぱり和秋は凄いよ」
「…ありがとな」
紫に優しく微笑みながら言われた和秋はその言葉に少し照れくさくなりながらも微笑み返した。
そんな中、お腹をさすりながら依子がため息をつき、全員がそちらに注目する。
「疲れたしお腹すいたし…良い加減ご飯食べに行かない?」
どうやら我慢の限界だったらしい。
「そうだな…本当に待たせて悪い。食堂に行こうか」
そう言って和秋達は食堂へと歩き出した。