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072 ③

みなさんお久しぶりです。長らく放置してすみませんでした。

72話です。

 アオイが広場にたどり着いた時、予想していた通りミーナはそこにいなかった。


 (……うまくいったみたいだな)


 小さく溜息をついて依頼したゴロツキ達をがいる路地裏に行こうと踵を返した時だった。


 「お兄ちゃんっ!!」


 「……え」


 後ろから聞こえてきた、覚えのあり過ぎる声にアオイは振り返る。

 アオイに手を振りながら駆け寄ってきたミーナは嬉しそうにアオイに抱き着いた。


 「お兄ちゃん遅いよー!」


 「ミーナ、一体どこにいたんだ?思わず迷子になったのかと思ったよ」


 抱きついてきたミーナに少し厳しい口調で言った反面、アオイは心の中で盛大に狼狽していた。てっきり殺されたと思っていたミーナが生きていたので当然のことである。


「あのねあのね!みせものすっごいキレイだったんだよー!キラキラーってそれでブワァって!!そしたらね!お姉ちゃんがね--」


 ミーナの話を笑顔で聞きながらもアオイの機嫌は急降下していた。

 前金の分が無駄になってしまった、と考えながら今夜のうちにゴロツキ達を処分しに行こうと算段をつける。


「あんたがその子の"お兄ちゃん"?」


 声が聞こえてきた方に顔を向けると少し離れた所に見知らぬ少女がアオイ達をジッと見つめていた。

 高く結い上げた美しい黄金色の髪に燃え盛る炎のような赤い瞳。上は短いローブを身に纏い、下は短パン姿でスラリとした白い足を惜しげもなく晒している。腰に巻きつけてある橙色のスカーフはまさにその少女のイメージを表しているようだ。

少女は腕を組んで仁王立ちし、その赤い瞳を細めてアオイを観察するようにして見つめていた。


「そうですけど。あの、何か?」


 何故この少女が自分に話しかけてきたのかアオイにはさっぱり分からない。

 アオイの問いに少女は眉を顰める。


「……………男?」


 長い沈黙の末、少女はそう言った。


 少女が初対面で間違うのもきっと無理はないのだろう。元々アオイは中性的な顔つきをしている。背も日本人男性の平均身長はあるが、それはこの世界での男性の平均身長を軽く下回る。しかも今のアオイの服装は体格が見えにくい長いローブにこの世界に来てから切っていない襟足が肩スレスレまで伸びた髪。

 男性とも女性とも言えない身長にこの髪型と服装では性別不詳と言われてもおかしくはない。

 高校入学式以来に言われたその言葉にアオイは苛ついたものの、言われ慣れているのでスルーする。


「…あの、貴方は?」


「やっぱり声がひく--」


「貴方は?」


 少女の発言を遮って、アオイは威圧感のある声で言った。


「……そんなに怒らなくてもいいじゃないか。男か女か分からないような格好をしているのが悪いと思うけど?」


 どうやら彼女は気の強い性格らしい。アオイの喧嘩口調が気に障ったのか、不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。

 相手の言い分に一切手を引かない、アオイにとって苦手なタイプの人間だ。しかしこのタイプには2パターンある。

 思っていることがそのまま口から出てしまうパターンか、冷静に相手を分析して自分がほしい情報を引き出すパターンだ。前者であれば手玉に取りやすいが、後者だと非常に厄介な相手である。

 目の前の少女がどちらのパターンか、彼女に悟られないように見極めなければならない。


 「まぁいいや、さっきは怒らせるようなこと言って悪かったよ。あたしはリア。劇団の踊り子だよ」


 「劇団?」


 「そう、国境なき移動劇団"ファスティガトール"……まさか知らない?」


 もしかしたら有名な劇団なのかもしれないが生憎、アオイはロナエンデの知識が未だ乏しい為その名を耳にしたことはなかった。首を傾げるアオイを見てリアと名乗った少女は一つ溜息をつく。


 「大陸中を回ってショーをしているからファンも結構いるし、それなりに有名な自覚はあったんだけど…」


 「なんかすみません」


 「別に謝らなくて良いよ、知らない人がいるのは当たり前だからね。来月に控えている勇者凱旋パレードの為にホルストフ国王に呼びつけられたから、一部の団員はその準備で今月から早入りしてんだ」


 「そうなんですか」


 リアの言葉に棘があるのは聞き間違いではないだろう。実際彼女はとても不機嫌そうに話している。

アオイは近寄りがたい雰囲気を放つリアから離れたかったが、他ならぬ彼女がそれを遮った。


 「で、こっちがなのったんだからあんたも早くなのりなよ」


 「あ、すみません…ムラカミといいます」


 アオイは敢えてよろしく、とは言わなかった。どちらかといえばよろしくしたくない人種だからだ。


 (なんなんだこいつ)


 リアが何故自分に個人情報を言ったのかが分からず、アオイは益々今れ暗する。


 「あ、お姉ちゃん!」


 リアとなのった少女を見てみーなは嬉しそうに声を上げる。


 「ミーナ、本当にこの人がお兄ちゃんなの?」


 先程アオイと話していた態度から一変、ミーナに対しては柔らかな声で返事をする。


 「うんそうだよ!お姉ちゃん遊んでくれてありがとう!」 


「どういたしまして」


微笑ましいやり取りをしている二人の関係性をアオイはなんとなく察したが、一体どうやって接点を持ったのかが分からない。楽しく話をしている二人の世界に入ることは躊躇われたがいつまでも道の真ん中で立っているわけにもいかず、取り敢えず二人を引き離そうとアオイはミーナに話しかけた。


「ミーナ、この人と凄く仲良しなんだね。何があったの?」


「そうだ!お兄ちゃん聞いて!あのねあのね--」


 明るい笑顔で応えたみーなは嬉しそうに話し始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 トン





「!!…お兄ちゃん!!」


不意に肩を叩かれ、ミーナは勢いよく振り向いた。

しかしそこにいたのはミーナの期待している人物ではなかった。


「お嬢さん、こんな所に座っていたら他の人にぶつかっていしまいますよ」


 ミーナに話しかけてきたのは一見普通の、優しそうな顔立ちをしている金髪の青年である。


「ふぇ?」


「あれ?もしかして迷子なのかな?おい、ちょっと来てくれ」


 青年が声をかけると、金髪と緑の髪をした人物が近づいてきた。

二人とも青年と同じ年代くらいの年頃である。


「どうした?」


「なんかこの子迷子らしいんだ」


「本当か?こんな街中で」


「親は何してんだ」


 ミーナの外でどんどん話が進んでいく。


「ギルドに連れて行こう」


「やだ!!」


彼等のうちの一人がそう言った時、ミーナは叫んだ。


「ミーナ、ここでお兄ちゃんを待ってるの!約束したの、だからギルドいかない!!」


 ミーナはアオイとの約束を守ろうとするために必死に声を上げる。


「…とは言ってもなぁ」


「危ないって。取り敢えず誰か一人ここに残ってその人が来たらギルドに案内すればいいんじゃないか?」


「それが一番良いだろうな…お嬢さん、ここは君みたいな子がいたらとっても危ないんだ。もしかしたらお兄ちゃんににどど会えなくなるかもしれない。それでも良いのかい?」


青年の言葉にミーナは固まる。


「や、やだ!」


「だろう?君のことは俺達がお兄ちゃんに伝えておくから、一緒にギルドに来てくれないかな?お兄ちゃんが迎えに来るまで待ってれば良いよ」


「……うん」


青年の脅しともいえる言葉を信じてミーナは渋々頷いた。青年は連れの一人に指示を出してこの場に残るように言う。しかし、このときミーナは気づかなかった。

自分が兄と呼ぶ人物の情報を青年達に何一つ伝えていなかったことを。


「じゃあいこう」


青年が差し出した手をみーなは躊躇いながらも握ろうとした、その時だった。


「そこのあんた達、ちょいと待ちなよ」


後ろから声をかけられ、青年とミーナは同時に振り返る。

そこには仮面まではつけていないが、先程ショーの最中にミーナの手を引いてくれた踊り子と同じ格好をした少女が立っていた。

少女はミーナの隣にいる青年を睨みつけている。


「急に呼び止めたのは謝るよ。でもその子、私の知り合いなんだよね。だからその子の"お兄ちゃん"が来るまで、私がここで一緒に待つから」


 少女の一方的な物言いに青年が何か言おうと口を開くが少女の鋭い眼光に気圧され、何も言えなくなる。


「私が一緒に待つ、って言ってんの。他人のあんた達にも迷惑かけるわけにはいかないからね…私と一緒に来てくれる?」


 少女は青年から目を外すと隣にいるミーナを見て言った。


「……一緒にお兄ちゃん、待っててくれる?」


「勿論!」


 当たり前だ、と笑顔で答えた少女にミーナは照れながらも笑い返し、青年から離れて今度は少女の隣に立つ。


「…そういうわけだから。態々ギルドに連れて行こうとしてくれたのに悪いね」


「いえ、その子がそれで良いのなら別に構いません。それでは俺達はこれで」


「……あぁ」


 笑顔で青年たちは軽い会釈をして去って行った。

 そのことに今まで警戒していた少女は毒気を抜かれ、違和感だけが残る。

 あまりにあっさりとした別れだった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ」


青年達が去って行った方向を睨んだまま動かない少女を見て不思議に思ったミーナは話しかける。少女は青年達を訝し気に思いながらも返事をした。


「お姉ちゃんってさっき踊ってた人?」


ミーナにとって少女はそのような認識しかない。実際、お互いのことは何も知らないのだ。


「名前、言うのが遅れてごめんね。私はリアっていうの。短い間だけどよろしくね」


「うん!よろしくね!」


 これがミーナとリアのセカンドコンタクトであった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「……どうしてミーナがリアさんと一緒にいるのか分かりました。リアさん、お手数をおかけして申し訳ありません」


 ミーナとリアの出会いのあらましを聞いたアオイはリアに頭を下げる。


「いや、私がやりたいことをやっただけだから気にしなくていいよ。てゆーか、あんた何考えてんの」


「…?」


 リアの言葉の意味が分からずアオイは頭を上げると、彼女は射殺しそうな目でアオイを見ていた。


「あんな小さい子を街中に一人で置き去りにしていって…私がいなかったら確実に人攫いにあっていたはずだ。そのことちゃんと分かってんのか?」


「…えぇ、勿論です。ミーナが無事で本当に良かった。感謝してもしきれません」


 アオイは苦笑しながらもリアに感謝の言葉を言うと隣にいるミーナを呼んで徐に片手を出した。ミーナは正しくその行動の意味が伝わったようで、嬉しそうにアオイの手を握る。


「お引き留めしてしまい、すみません。日も暮れてきたことですし、僕達はこれで失礼します」


「お姉ちゃんまたねー!」


 ミーナはアオイに手を引かれながらも振り返ってリアに手を振る。その愛らしい動作にリアも笑いながら小さく手を振り返し、二人が人混みに紛れて見えなくなるのを確認すると力なく手を下して不安そうな顔をした。














夕日に赤く染まる王都をアオイとミーナは歩く。

昼間はあんなに騒がしかった露店も忙しなく店じまいの準備をしているところが多い。アオイはその様子を眺めながら宿を目指す。


「ミーナ」


「なーに?お兄ちゃん??」


不意に声をかけられたミーナはアオイを見て首を傾げる。


「今日は楽しかったか?」


「うん!優しいお兄ちゃん達とも会えたし、何よりお念ちゃんと一緒に遊べた!!」


 アオイを見上げながらも可kが焼くような笑顔でミーナは答える。


「お姉ちゃんのことは分かったけど…最初にミーナに話しかけてきた優しいお兄ちゃん達について聞いてもいいか?」


「??いいよ?どーしたのー??」


「ほら、少しの間だけどミーナの面倒を見てもらえたからお礼を言おうと思うんだ。そのお兄ちゃん達は何人いたか教えてもらえる?」


「うん!えっとね…3人だったよ!」


「そっか、その3人の髪の色は何色だった?」


「うーんと、2人のお兄ちゃんは金色で…もう一人のお兄ちゃんは緑色だった!」


「ふるはどんなのを着てた?」


「服はミーナよう覚えてる!お兄ちゃん達3人とも真っ黒でながーいローブ着てた!」


「長いローブ?」


「うん!そのながーいローブの上の方にね!小さくてキラキラした物が何個かついててきれいだったの!」


「……そっか、分かったよ。ミーナ、教えてくれてありがとう」


 アオイがそう言ってミーナの頭を撫でるとミーナはえへへ、照れくさそうに笑った。が、突然ミーナは笑うのを止めて何か思い出したように声を上げる。


「ミーナ、どうした?」


「そーだ!金髪のお兄ちゃんの1人はおめめになんか透明なガラスみたいなのかけてたー!!」


 ミーナが言っているものは間違いなく眼鏡のことだろう。

  一通りミーナに質問し終わったアオイは宿への道を進みながら考える。

 アオイが前金を払ってまで依頼したゴロツキ達とは明らかに違う。そもそも彼等はお兄ちゃん、と呼ばれるような年齢ではないことは確かだし、何より身なりが違いすぎる。

 3人組が着ているローブについているのは宝石の類で間違いないだろう。この世界で、一般市民では到底手の届かない代物である。


(まだお兄ちゃんと呼ばれる年代でそれが持てるのは階級持ちの騎士、高ランクの冒険者、あるいは…)


 アオイはだんだんと自分の顔が歪んでいくのを自覚しつつも、それを止めることが出来なかった。


(……貴族)


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