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071 王都タコージ ②

皆様、お久しぶりです。

長い間放置して申し訳ありませんでした。

70話になります。

「わぁ〜!すごいすごい!なんかイッパイあるよおにいちゃん!!」


「ミーナ、離れすぎると迷子になるよ」


「はーい!」


出店や武器屋を見ながら少し前をはしゃいで歩いてたミーナは大人しく戻り、アオイの隣に並ぶ。髪や顔立ちさえ見なければ完全に兄妹の会話である。


(それにしても人が多いな…)


王都の城下町は溢れかえる人でかなりの賑わいをみせていた。あまりの人の多さにアオイも思わず溜息を吐く。


「お兄ちゃんおなかすいたー!」


「そうだね…ミーナは何食べたい?何でも良いよ」


ミーナは呻き声を上げながらキョロキョロと辺りを見渡し、一点のところで止まって指を指す。


「ミーナあれ食べてみたい!」


「あれ?」


アオイは彼女が指を指した先を見る。そこには優しそうなおばさんが出店で何か焼いている姿が見られ、ミーナはそこへ走っていった。

アオイはゆっくり歩きながらミーナの後を追う。


「すみません、1本下さい」


「くださいー!!」


「6銅だよ」


「これでお願いします」


「はいお釣り。またいらっしゃい」


アオイは代金を払い、女性からお釣りを受け取る。女性はミーナに何かの肉の串焼きを手渡した。

そういえば何を焼いているのかよく見ずに買ったな、とアオイは思いミーナが持っている串焼きに目を向ける。

が、串刺しになっているものを見て一瞬硬直するもすぐに顔を背けた。


(………俺は何も見てない)


ミーナが笑顔で持っている物には照焼き色に光る巨大な芋虫が刺さっていた。焼いた時に熱変性で変形したのだろう、若干縮んだのか丸まっている。

そしてそれを楽しそうに振り回す幼女。

実にシュールな光景である。

ミーナが串焼きにかぶりつこうとしているのを見てアオイはそれを止めた。


「ミーナ、危ないから止まろうか」


「うん!」


出店同士の間に少し広めな空間を見つけ、そこに移動する。

そこに数人、アオイ達と同じように休憩している人達がいたがミーナが持っている物を見て皆一様に顔を青ざめさせるあたり、アオイの認識は間違っていなかったようだ。

他の人から遠巻きに見られているなか、それに気づかず無我夢中で芋虫を食べている姿は修正をかけても良いんじゃないかとすら思えてくる。

幼いとは残酷なもので、ミーナの服から顔を出すスオウにも分け与えている光景にアオイは倒れそうになった。

アオイとしては得体の知れない物をスオウに食べさせないで欲しいというのが本音だ。ミーナとスオウが楽しそうに戯れているのを見て一人項垂れる。


「ふぁ〜おいしかった〜また食べたいね〜」


キュッ!


一人と一匹が楽しそうにしているのに呆れながらもアオイは街路から見える城に向かって足早に歩く。それに気づいたミーナは慌てて後に続いた。


王都は今一番忙しい時期と言っても過言ではない。年末・年越しに向けての準備と、来月に行われる勇者御一行のパレードもさし迫っているのだ。

街を行き交う人々は皆一様に慌しく、王都の出国手続きをする人々の列が街中まで続いていて中々前に進めずにいるというのが現状である。

まずは寝泊まりするところを決めなければならないので広い大通りを忙しなく見渡しながら王都の中心へと向かっていく。


「お兄ちゃんお兄ちゃん!むこうで見せものやってるみたい!!」


ミーナが目を輝かせながらアオイの長いローブの裾を引っ張る。確かに数m先の広場を囲うようにして何やら人集りができており、それに加えて小さく軽快な音楽が流れているのが聞こえた。観客は盛り上がっておりアオイも思わず好奇心が擽られる。

しかしまだ宿も見つかっていない状態で遊ぶのは流石に不味いと思い、アオイははやる気持ちグッと我慢した。



「ミーナ、見ておいで。お兄ちゃんは宿を探してくるから俺が戻るまでその場で待ってること、いいね?」


アオイはミーナの目線までしゃがみこんで言い聞かせるように言った。


「?? お兄ちゃん、いっしょに見ないの?ミーナひとり?」


アオイの言葉に、ミーナは眉を下げて沈んだ表情を見せる。


「ごめんねミーナ。ミーナは夜あったかいふかふかのベッドで寝たいだろう?お兄ちゃんはその為の準備をしに行くから一緒に見れないんだ」


アオイは苦笑いをしながらミーナの納得するような理由を言い、もう一度ごめんね、と言ってミーナの柔らかい髪を優しく撫でた。


「スオウ」


アオイが一言、スオウの名前を呼ぶと、スオウはミーナのもとを離れてアオイの肩まで上る。


「……わかった、ミーナ待ってる」


スオウまでもが離れて益々落ち込んだ顔をしたミーナが人集りの方へと歩いていくのを見届け、アオイは宿探しの為に街へと繰り出した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(ミーナひとりぼっちかぁ…さみしいなぁ)


ミーナは人集りの中を小さい体でする抜け、一番前で見せものという名のショーを見ていた。

軽快な音楽と共に全身を着飾り、煌びやかな仮面をつけた美しい女性達がリズムに合わせて踊っている。

ミーナは最初、初めて見るショーに興奮していたが、側に一緒に楽しめる人がいない事に気付き、思わず兄の姿を探した。

その時偶然にも見えてしまった、自分と同じ位の歳の子が家族に囲まれながら楽しそうにしているのを。それを見てミーナは一瞬にして興奮が冷め、その顔から笑顔が消える。


(なんでミーナはパパとママにあえないんだろう…)


ミーナは自分の父、母、祖母、そして優しかった姉を思い出す。

俯き気味にじわりじわり、とその瞳に涙が浮かび上がったところでミーナは肩を叩かれた。


(…お兄ちゃん!)


ミーナは兄が迎えに来てくれたと期待して顔を上げる。

しかしそこにいたのは踊り子である一人の女性だった。橙を基調とした服に同じ色の装飾品が散りばめられた衣装を身にまとっており、髪は輝くような黄金色をしている。目元は仮面で覆われているが口元は優しい微笑みをミーナに向けていた。


「……??」


いきなり踊り子の一人に肩を叩かれた理由が分からず、ミーナは首を傾げる。

橙色の踊り子はミーナの手を引き広場の中心へと連れて行かれた。

初めて沢山の人から視線を受けてミーナは無意識に緊張してしまう。そんなミーナを見て「大丈夫」とでも言うかのように橙色の踊り子は優しく頭を撫でた。

やがて他の踊り子達も集まり、ミーナの周りを取り囲むようにして踊り始める。


「うわぁ…!!」


太陽の光が踊り子達の身につけている色とりどりの装飾品に反射してキラキラと光っている光景はミーナの心を奪った。

踊り子達はミーナの周りを回りながら演舞する。

音楽の終わりと共に踊りも終了し、観客からは割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。

ミーナは連れてこられた橙色の踊り子に丁寧に礼をされ、元いた場所に帰された。


(すごいすごい!ミーナもあんな風に踊れるようになりたい!!)


アオイとの約束もある為、広場から人々が去っていく中、ミーナは移動する必要もなく唯々感動の余韻に浸っていた。


ショーが完全に終わり、踊り子達や楽器の演奏者達も片付けに入る。

アオイはまだミーナを迎えに来ない。


(お兄ちゃんまだかな…?)


だんだんと人通りが多くなりミーナは一人完全に取り残された。

しかしアオイとの約束を破るわけにもいかず立ち竦む。


ドン


「…んなとこっ立ってんな、邪魔だ!」


「っ!!」


軽い衝撃と共に真後ろから男性の怒声が聞こえ、いきなりのことにミーナは小さく震えた。男性は態とらしく舌打ちをしながら去っていく。


(お兄ちゃん…早くきてっ!)


そうミーナは願ったが、一向にアオイは現れない。

心細さのあまりミーナはその場に(うずくま)り、目をきつく瞑りながら時間が過ぎるのをただ待っていた。


(お兄ちゃんお兄ちゃんっ!!)






トン


「!!…お兄ちゃん!!」


不意に肩を叩かれ、ミーナは勢いよく振り向いた。


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