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069 王都タコージ ①



「お兄ちゃーん楽しみだねー」


「そうだな、ミーナ」



ミーナとの出会いからかれこれ数ヶ月経ち、アオイは遂に王都タコージの検問所まで辿り着いていた。今は早朝、商人なら観光人やらの列に並んで2人は仲よさ気に手をつなぎながら検問待ちをしている。王都は他領よりも遥かに大きい城壁を築いており、門も南北にしか存在してない。



(これは…簡単に逃げられないな)



アオイはクラスメイト達を地球へ戻す算段としてバラバラに散らばりどこか他領へと逃がすことを予定していたが門が二つしかないと知り、大勢の兵士で塞がれたらどうしようもないことになると予想した



(そうなったら和秋達を見捨てて1人で地球に帰る事になるかもしれない…でもそれは、)



出来ない、とアオイは俯きながら考える。

学校は好きで、もちろんクラスメイトも好きだ。理不尽な異世界召喚なんかでせっかくできた友人を失いたくはなかった。異世界に来た事は面白味があって良いと思っていたが、友人と異世界。双方を天秤に掛けた時、 アオイは今自分が体験している現実(リアル)より不確かで曖昧な友情をとったのだ。

友人達は能力を持っているので先天的に能力を発現していた自分を受け入れてくれるのは予想出来る。

しかしアオイが問題視していたのはこの世界の事についてだ。



(この世界を救う……なんて考えなきゃ良いけど)



1人が残る、と言いだしたら全員がこの世界に留まり続けるのは目に見えている。

地球でもそうだったが、友人達には平和な世界を生きていて欲しかったのがアオイの望みである。アオイはNFIOに所属している限り争い事は避けられない以上、学校の暮らしと友人達だけが癒しとなっていた。


現状、地球の人類は変わりつつある。

年々生まれる異能者は増え続け、それと比例して未解決事件数も増えている。発現した異能によっては産声をあげた途端、その場にいる者を皆殺しにしてしまう事例も少なからず出てきているのだ。異能者の事が世間に広まるのも最早時間の問題と言っても良い。その内異能者を取り締まる団体も出てくることだろう。アオイ達が暮らしていた地球はまさに束の間の平穏を体現しているのだ。後数年もすれば新人類と旧人類が争う怒涛の時代が訪れることだろう。

それは地球規模で行われる人類史上最悪の時代だとNFIOの予知能力者の誰もが預言していることだ。


だからこそアオイは友人達が平和だと思い込んでいる世界につかり、残された少ない時間を楽しく過ごそうと思っていた。何も知らないフリをしてのうのうと生きていたかったのだ。

アオイは自分が異能に目覚めたあの事件から何かがおかしくなってしまったことは分かっている。NFIOの敵対組織の人間を殺したり、自分達にとって脅威となる異能に覚醒した子供を殺したり、時には機嫌が悪くてうっかりすれ違った人間をコマ切れにしてしまったりと、殺しすぎて元からあまりなかった感情の起伏が今や皆無と言っても良い位だ。人を騙したりする事が多い所為で表情筋だけは鍛えられたが今も相変わらずアオイは人と共感する事が苦手である。

アオイの異能が発現して以降、普段無理矢理笑顔で隠していた化けの皮が剥がれ今まで仲の良かった友人もなんだかんだいつも一緒にいた幼馴染も離れていってしまった。

だからアオイは今までを切り捨てて、一からリセットしようとした。高校は誰も行かないようなギリギリ自宅から電車で通える所にし、自然体を守ってあくまでも良い人間を演じた。

結果、晴れて''村上 蒼''という少し天然気味でよく笑う普通の青年の出来上がりである。

周りはアオイを''良い人''と判断して近寄ってくる人間もいれば、笑顔が胡散臭い、と距離をとる人間もいる。が、勿論そんな事は気にしていられない、今では笑顔の種類や不自然にならないよう時々無表情になることも忘れずに取り入れているので早々演技だと見破れる人間はいないが。



「次の方、どうぞ」



アオイ達の番が回ってきて、素早く自分とミーナの分のギルドカードを提示する。流石に王都ではやはり入都が厳しいらしい。

何やら専門の機械でギルドカードをスキャンして偽造品でない事を確かめる。

アオイは一瞬ヒヤリとしたがよくよく考えてみればあのギルドカードは元ギルド職員から貰ったものである。王都にくる道のりのギルドで提示しても何も言われなかったので本物で間違いないはずだ、と気付いた。


「お兄ちゃん!」


「ん?どうしたミーナ?」


「ミーナお腹ペコペコ!スオウもお腹空いてさっきから元気ないよ!」


そういえば、といつもは戯れてくるスオウがやけに静かな事に気づく。


「そうだな、王都に入れたらどこか美味しいもの食べに行こうか」


検問所がかなり混んでいた事もあり、お昼の時間はとっくに過ぎている。そう思うと途端にお腹が空いてくるのはいつになっても不思議である。


「あの…」


「はい」


兵士に声を掛けられにこやかに返事をする。


「ご兄妹、なんですか?」


(そんなもん、ギルドカードみればすぐわかるだろ…)


その兵士がアオイ達に鎌をかけているのは間違いない。瞳の奥には疑いの眼差しが窺える。


「いえ、この子の両親に王都に連れて行って欲しいと頼まれてたんですよ」


そう答えればあからさまにホッと一息つかれる。青髪青目の兄に茶髪茶目の妹、そして何より顔が全く似ていないことをおかしく思うのは正しい。この質問にアオイがYESと答えれば即お縄頂戴となっていただろう。


「ご提示ありがとうございます、どうぞお通り下さい」


その後は何事もなかったかのようにカードを返却され、アオイとミーナは王都の門をくぐった。


色々すっ飛ばして王都に入ります。

ミーナとアオイの数ヶ月間の冒険譚は番外編として書く予定です。

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