06 境界線
ーーーゴォォォォォオオ
「……綺麗だ」
巨大な風の渦を抜けた先で目にしたものは視界いっぱいの大きな丸い地球。
感動で他の言葉が見つからないなんて、人生初めてかも知れない。
「すゲェ、めっちゃ綺麗」
馬鹿の一つ覚えたいに綺麗、綺麗と連呼する。しょうがない、ボキャブラリー少ないんだから。風の抵抗が強すぎて目を開けるのも辛く、一瞬でも気を抜けば意識が飛んでしまうだろう。しかし、そんな事は気にならない位俺は感動していた。
後ろを振り返ってみる。俺が出てきたであろう巨大な渦は存在すら無かったかのように消えており、その代わりに夜空に星達が瞬いているのが見えた。
どうやら俺は大気圏内にいるようだ。
(…ん?ということは、俺は今まで大気圏外にいたってことか?)
仮にあの真っ暗な空間が大気圏外だとしても、人間の身体が耐えられる筈がない。一瞬でお陀仏だ。ならあの空間は何だったのだろうか?謎だ。
しかし、今問題なのはそこじゃない。
(……これ、落ちてね?)
落下はまだ終わっていなかった。現実はいつだって俺に無理難題を押し付けてくる。
さっきから見ている景色は全く変わっていないが、かなりの速度がでているだろう。
星になりました、なんて今この状況で笑えない。シャレにならん。
「ああああ、どうしよう!!まだ死にたくねー!んでこんな事になったんだよ?!」
流石の俺も焦った。
「っそうだ!チェンジが出来たんなら他のことも出来る筈!出来なきゃ困る!俺、やれば出来る子だから!!」
パニックになりながらも、取り敢えず、今この場にあって欲しいものを思い浮かべる。
「…………ウィ、ウィング!!」
• • • • •。
「……何もおきねー!!」
ガチで泣きそうになりながら両手で頭を押さえて身体を仰け反らせた。
その時、視界の端に何かが映った気がした。
「?」
上半身を起こして後ろを振り向く。
何もない。
星達が瞬いているだけだ。
「……」
試しに、今度はラジオ体操でやる時みたいに大きく仰け反ってみる。
「……………なんだこれ」
仰け反る事で、視界が逆さまになる。
本来なら星達が輝いているのが見える筈なのに、そこには地球と似た別の惑星があった。
また身体を元に戻してから星があるか確認し、仰け反る。その動作を2、3回繰り返した。
地球のように青く、海があることが分かるのだが、地球ではない。そもそも、火星よりかなり近くにあるであろうその惑星は、こんなにも地球に似ているのに聞いたことも見たこともない。
何より、こんなに至近距離にあったら地球に太陽の光が当たらなくなってしまう。
地球とその惑星の見える大きさはあまり変わらないから、どうやら俺は中間地点にいるようだ。
その惑星の側には小さな丸い球体があるのが見えるから、地球でいうところの月の役割をしているのだろう。
しかし、その丸い球体は月とは全然違っていた。俺たちがいつも見る月は薄い黄色で、たまに赤く見えたり、青白く見えたりするものだが、それは月と違い、やけに青みがかっていた。青白く、ではなく、まさに青い月だった。
(青い月っていうのも神秘的でありだな…)
のんきにそんな事を考えていると、急に逆側から引っ張られる感じがした。俺は地球の大気圏内に居たはずだ。その惑星が引力のように俺を引っ張っているとしか考えられない。
「ぅぉおお?!」
凄い速さで引っ張られ、落下していく。ちょうど青い球体と同じ高さに並んだ時、見えてしまった。
その青い球体が輝く鉱石で作られていることに。
鉱石の筈なのに、生き物のようにザワザワと蠢いていることに。
青い球体を通り過ぎ、ひたすら落下していく。
青い球体と月の両方が見え、双方がすれ違う。
一つに重なった瞬間、
青い球体はまるで月の色を写したかのように白く輝いた
そこから俺は何も覚えていない。