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061 工房 スィーニ

第1章始まりました。

よろしくお願いします。



「さて、金も手に入った事だし……魔石の貯め買いでもするか」


朝の誰もいない町中をアオイは闊歩する。

昨日の夜にアオイが襲った馬車には偶々貴族が乗っていたらしく、それはもう有り余る位の金を所有していた。今まで襲って殺してきたのは運が悪い事に皆一様に一般人であった為得られる物ははした金にしかならず、結局は盗賊紛いの事を繰り返す事になっていた。が、これで当分は生活に苦しむ事にはならないだろう。


まだ朝の早い時間帯なのでどこの店も開いておらず今さっきこの町に到着したアオイはまずは宿をとろうと辺りを見渡した。


「お、あったあった」


宿は7割位の確率で町に観光に来た人が利用しやすいよう門の近くに建てられている。どうやらこの町も例外ではなく、アオイは簡単に宿を見つける事が出来た。

カランカラン、と宿のドアに設置してある鐘が鳴り宿に入るとアオイは目の前のカウンターに居る妙齢の女性に声を掛ける。


「おはようございます。すみませんが一泊滞在したいのですが…」


「はい、おはよう。一泊で4銀貨、食事もつけるなら1銀貨と6銅貨追加だけどどうすんだい?」


「食事は良いです」


「あいよ……2階の8号室を使いな」


そう言ってアオイに部屋の鍵を手渡す。


「ありがとうございます」


香ばしい良い匂いが鼻腔を擽るあたり朝食の準備をしている事が窺える。腹を空かせているアオイはちょっと早まったかな、と思ったが金は有限だ。いくら臨時収入が入ったとはいえ贅沢は言っていられないのが今の現状だった。

2階に行き鍵を渡された部屋に入るとアオイはベットに座って明日に向けての事を考える。


( 明日の朝王都に向けて出発するか…それまでにありったけの魔石と食料を買いこまなくちゃな)


アオイがこの町に寄ったのは魔石と食料が切れそうになってきたからだ。食料は問題ないがアオイが悩んでいるのは魔石である。ただでさえ相場が高いのにアオイと分とスオウの分、毎日2個消費している為すぐに使い切ってしまう。光魔法が使えるなら買わずに済むのだが生憎アオイは全くといって良いほど光魔法が使えないのでこのままでは金が減る一方だ。

ギルドに行って討伐依頼を受けるのも良いが、これはアオイの正体が他の冒険者に見破られるというリスクもつく。魔石は所詮魔石、簡易的な魔道具の一つである。レベルの高い冒険者に看破されるかもしれないという事がアオイの足を踏みとどまらせる理由だった。



キューキュー


「ん?そうか、もう飯の時間か」


アオイは(ディ オ)()(ムール)を発動して中からパンを取り出し、それを食べ易い大きさに千切る。パン屑を手の上に乗せるとスオウが近寄ってきて食べ始めた。もう大分世話に慣れてきている。

その様子をただジッとアオイは見ていたが、ふと前から試してみたい事をやってみようと思いつく。


(……魔物(モンスター)って魔力量が多いと強いんだよな?)


前に地下街の書庫で見た文献の内容だ。確か魔物(モンスター)の生態日記のようなものですだったのをアオイは記憶している。

スオウはこんなに愛らしい姿をしてはいるが正真正銘の魔物(モンスター)である。しかし母親が人間(俺)だからか、人に危害を加えたり魔法を放っているたりするのを全く見ていない。アオイは隠せない位にスオウが大きくなったらスオウを戦闘に加えるつもりでいた。なので弱いままでいると困るのだ。

スオウの朝食が終わったのを確認するとアオイは短剣を取り出して人差し指を軽く切る。血が溢れ出てくるのを確認するとその指をスオウの前に差し出した。


「ほら、スオウ」


キュー


スオウはアオイの指に近付き血の匂いを嗅ぐと少しずつだが舐め始める。多分アオイの血を止めようとしてくれていると思うがこれはこれで結果オーライだ、とアオイはスオウに指を舐めさせ続ける。

アオイは自分の血が止まったところでスオウの頭を撫でた。


「ありがとな、スオウ」


そう声をかけるとスオウは嬉しそう鳴き、手を伝ってアオイの肩まで登り定位置に収まる。


アオイは自分の血を舐めさせた事でスオウに魔力を譲渡した。魔力は常に自分の体を循環している血液のようなものだ、という事は世間一般の常識である。しかしこの理論は人間を食べればその人の魔力は自分のものになる、という事を意味しているかどうかは定かではない。

故に、試しているのだ。

上手くいけばスオウが成長するし強くもなる。自分の血が多少無くなっても問題ないのでアオイは気紛れにこの実験をしようと思いついた。

結果が出なければそこまでだった、で終わるがもしスオウが成長するようなら今まで殺してきた人間の死体はかなり勿体無かったとも言える。


(……これからは殺した奴らを食わせてみる事にするか)


などと、アオイは非人道的なことを考慮していた。


ーーバタンッ


パタパタパタ


いつの間にか宿の宿泊客が起きる時間帯になっていたらしい。ドアの閉まる音と複数の足音が一階へと向かっていくので朝食をとりに行ったのだろう。


「そろそろ買い出しに行くか」


アオイはスオウを肩に乗せたまま宿を出る。

魔石の効果は最長12時間。


(少なくとも…あと3時間ってところか?)


きっと昼までは保たないだろう。


限られた時間をどこまで有効に使えるか、それが専ら最近のアオイの課題であった。


一階に下りるとロビーで宿泊客が朝食をとっているのが眼に入る。それを少し羨ましそうに見つつもアオイはカウンターに向かい、女性に質問した。


「すみません、このあたりに工房(アトリエ)とかありますか?個人経営の所でも良いので……」



工房(アトリエ)かい?そうだねぇ……あぁ、この店の裏道に回って左にまっすぐ進んでみな。右側に青い屋根が見えるから。そこが工房(アトリエ)だよ」


「ありがとうございます」


アオイは礼を言い宿を出て女性の言う通りに進んでいく。少し歩いた所で右手側に青い屋根を見つける事が出来た。明らかに普通の家に見えるが他に青い屋根の建物は見当たらない。仕方なく近づいてみるとドアの上に「工房 スィーニ」と書かれた板が打ち付けられてあった為、この建物が本当に工房なのだと理解し扉を開ける。


「いらっしゃい」


どうやら個人経営らしく、カウンターには顔までもスッポリと覆った黒いベールを掛けている女店主しかいない。声からして若い印象を受けるがチラチラと見え隠れする紫の口紅を塗った口元が歪な笑みを浮かべていてかなり妖しい。

外は一見普通の家に見えたが中は薄暗く、如何にも曰く付きの品が置いてありそうでアオイは内心ビビる。


「お客さん、今日は何をお探しでぇ?」


「魔石をこの店にある分だけ売って欲しい。属性は光だ」


やけにゆっくり喋る女店主を警戒しながら本来の目的を果たそうとアオイは魔石を要求する。


「全部?!……はいはい、ちょっと待っててねぇ………………全部で32個、しめて11金貨6銀4銅になるよ」


(……高ぇ)


いや、きっと他の店よりは値段をふっかけてはいないのだろう。実際魔石は最低でも1つ3銀貨はする。32個でこの値段ならある意味良心的と言っても良いのだ。しかし数が数だけにとんでもない値段になっている。


アオイはチラリと女性を見た。


「…………」


「…………」


見続ける。


「………………………2銅」


「6銀」


「えぇ……そこまでは……せめて1銅」


「6銀」


「1どーー」


「6銀」


「……………………はぁ、6銀でいいよぉ」


「ありがとうございます」


爽やかな笑顔でアオイはそう言いカウンターに11金貨6銀を置く。

何か女店主が言いたそうにしていたが結局、口にする事はなかった。


「今から袋に詰めるから……適当に商品でも見ててねぇ」


女店主は魔石を用意しに奥に続く部屋へと姿を消しアオイは暇になったので女店主の言葉通りに商品を見ていく。


(………………大丈夫かこの店)



棚にある商品を眼にしてそんな不安感に襲われた。何故こうも禍々しい気を放っている商品ばかり置いてあるのか不思議である。しかしどれも珍しい物ばかりで逆に普通の商品がないと言っても良いくらいだ。もう少しまともな店を勧めて欲しかった、とアオイは宿の女性に思いを馳せた。


「用意できたよぉ…」


少し疲れた声を出して大きな袋を引きずりながら女店主が売り場に出てくる。それを見るに相当重かったのだろう。

アオイの前まで袋を持ってくると大きな溜息をついた。


(なんか悪い事したな)


アオイは軽々と袋を持ち上げ、それを見て呆然としている女店主に向て一言礼を言い工房を出る。

扉を閉める直前に「2度と来んな」と声が聞こえたような気がしたが気の所為だろう。


(……また来よう)


面白い店を見つけてアオイは浮き足立つのだった。


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