059 分岐なんて幾らでもある、お話です。
ーーピンポーン
「はーい」
そう声を上げながら私は洗濯物を途中で切り上げてリビングへと向かう。
今の時間帯は水曜日の午後お昼過ぎ。
今日はよく晴れたのでベランダで機嫌良く洗濯物を干していたところだった。
テレビドアホンで誰が来ているのかを見てみると、そこにはスーツ服を着た男性が2人。
(あらやだ…また不審者かしら)
ここら辺は住宅街であり、学校も多い。
不審者が出るのは少なくない。よく聞き込みにくるあたり、きっとこの地区の担当警官なのだろう。
2ヶ月前位に露出魔が出て大騒ぎになったばかりだがまた何かあったのだろうか?
兎に角話さないと分からないと判断し、通話ボタンを押す。
「はい、なんの御用でしょうか」
そう言うと男性2人は警察手帳を前に掲げる。
『捜査にご協力願いたいのですが、宜しいでしょうか?』
「えぇ…今そちらに伺います」
ドアホンを切り、玄関の鍵を開けに行く。
ガチャリ
「お疲れ様です」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、大事なお話があります。出来れば中でお話をさせてもらっても宜しいでしょうか?」
「別に構いませんけど…どうぞ」
いつもは玄関先で聞き込みをされるのだが今回はそんなに深刻な事件なのだろうか?
少しの不安を覚えた。
「すぐにお茶を用意いたしますので、ソファにおかけになってお待ちください」
「 ありがとうございます 」
台所に行き、お茶の用意をしようとする。
が、一つ疑問がよぎる。
( 緑茶と紅茶……どっちがいいのかしら?)
チラリ、とソファに座っている男性2人に目を向ける。
お隣さんとお茶をする時はいつも緑茶なのだが、刑事ドラマを見る限り皆一様にコーヒーが紅茶だったような気がする。
( 紅茶ね…)
こういうのは雰囲気というのが大切だと思ーー
「あーっ疲れた!」
そう言って今書いている書類を投げ出したのは小学生位の男の子である。
「何で僕が尻拭いをしなくちゃならないの?!
遊びたい!
ゴロゴロしたい!
下界におりたいー!」
そう言って厳かな椅子の上でジタバタと暴れる。
「今、最後の方に聞き流してはならない言葉をおっしゃったような気がしますが…」
いつの間にか暴れる少年の後ろに眼鏡をかけた黒髪の女性が現れた。
その右手にはお盆を持っており、上にのっているカップを静かに彼の前に置く。
「また……下界に降りていたのですか?」
女性の後ろに般若が浮かび上がっているのが見えた少年は慌てていい訳を探した。
「いや!下界に降りてみたいな〜、って言ってみただけでお、降りた訳じゃないよ〜何しろ片付けなきゃいけない仕事が一杯あるしね〜アハ、アハハハ」
「そうですよね…こんなに沢山の書類を部下に押し付けて、一人だけ下界で遊ぶなんてこと、しませんよね」
爽やかな笑顔で威圧してくる女性ほど怖いものはないだろう。
内心ビクビクしながら少年は女性の持ってきたカップに口付け、溜息をついた。
「それにしても…まだまだ終わる気配がありませんね…」
女性は部屋中に積み上がった紙束を見て疲れた顔をする。
「人一人の人間に関係している人の数は何十人もいるからね…もう修正が大変で大変で……」
異世界召喚なんてもう嫌いだ…と少年は机の紙の束に顔を埋める。
「本当に面倒な事をしてくれましたよね。あちらに抗議した方がよろしいのでは?」
「それがさ!」
少年は勢いよく顔を上げ、声を荒げる。
「あっちの神にどんなに呼びかけても返事すらないんだよ?!酷くない?!これ絶対に嫌がらせだよね?!ね?!」
「それは……嫌がらせですね」
女性がそう返すとぁあー、と声を上げながら少年は頭を抱え始めた。地球側とロナエンデ側の神達は昔から仲が悪い事で有名である。
「大体38人、ってなんだよ?!一体どう間違えたらそんな人数になるわけ?!後処理が面倒だから1人って原則だろうがぁあ!!それに存在の消去を忘れるとか……あり得ない!」
異世界召喚とは異世界の神同士がしっかりと打ち合わせをした上で行われるものである。異世界召喚は原則として一回につき1人。急に人間1人が消えたら大変面倒な事になるのでその人間の存在消去ー要するに召喚された人間の関わっている全てのものに対し人生の書き換えを行わなければならない。基本的に準備や後処理、術を行使するのは召喚する側で、される側は召喚しますよ〜、という報告を受けるだけなのだがどうやらロナエンデ側は大きなミスをしたらしい。
おかげで地球側はその大変面倒な事になっている。
下界も天界も大騒ぎである。
女性は近くにある書類を一枚手に取る。
「人生の書き換え処理が終わったのは半年で12人、ですか…まだまだ先は長いですね」
半年で12人、という数は他の神に比べてかなり早い方なのだ。その世界の環境や人間の質は神の質でもある。地球は他の異世界と比べて上位世界である事は神の場合においても同じ、上位世界と上位神は同義なのである。
「はぁ……もうやりたくない」
とうとう泣き始めた神を見て女性は何か小さく唱えると、ポンッと可愛い音をたてて少し大きめの箱が現れる。
「シャーリー、それはなんだ?」
いきなり魔法で箱を出した女性ーシャーリーーに少年は問いかける。
「これは尊様より、『私の国の人間が迷惑をかけた』と渡されたものです。少しお茶にしませんか?」
「尊が一番大変だっていうのに……そうだね、お茶にしよう」
少年は椅子から降りて床の書類を避けながら部屋を出た。シャーリーもそれに続く。
ーーバタン
ザザザザー
扉を閉めた振動で、数秒後書類が雪崩れたのは言うまでもないだろう。
これにて幕間は終了となります。次からは本当の本当に1章が始まります。
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