056 このお話は必ず訪れるとは限らない、
ここでちょっとだけ全く別の視点を入れてみようと思います。本編とは関係ありません。
「ーーあれ?部長、またその事件ファイル見てるんですか?」
ピシっとした制服を着ている男が尋ねる。
まだ新しそうな制服なので彼はきっと新米だろう。
「……まぁな」
俺は素っ気なく返した。
「やはり未解決事件というのは警察官にとっては憧れですよね。特にその事件はとても有名な話ですからねぇ…。しかし、その事件が起こったのはもう60年以上前ですよね?
流石にガイシャが生きているとは思えませんが…」
「…………」
「……部長?」
俺は静かに飲みかけのコーヒーを机に置いた。
「……私の叔父が、病気で、もう長くはなさそうなんだ」
「はぁ」
唐突に切り出された重い話に、新米の彼は、内心首を傾げながらも相槌を返した。
「その叔父には私が幼い頃から良くしてもらっていた。とても立派な人だった」
「そうなんですか」
きっと彼には関係のない話をしているようにしか聞こえないだろう。
俺はその自覚があった。
「だから最期に、何をして欲しいか聞いてみたんだ」
「……」
新米の彼は話の流れからしてある可能性に辿り着いたようだ。察したのだろう、俺が先を話すのを黙って聞いている。
「……叔父がね、63年前の事件で失踪した親友に会わせて欲しいと言われたんだ。泣きながらね。いつも笑っている人だった。あんな顔を見たのは初めてだったよ。
叔父だって、本当は分かっている筈なんだ。
もう失踪した生徒達は戻ってこない。
それでも、やっぱり最期に一目でも良いから嘗ての親友に会いたかったんだろう。心から」
「……」
彼は何も言えずに
一言、見回り行ってきます、とだけ告げ交番を後にした。
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(空が青いなぁ…)
病室のベッドから空を見上げた。
「……ご家族の方はベッドの周りに来て下さい」
医師が呼びかけたことで、家族が歩み寄ってくる。中には目に涙を浮かべている者もいた。
「……そういや、アイツはいつも机に肘つきながら空見上げてたっけなぁ…」
アイツは出席番号的に毎回窓際の席だったからなぁ、と力なく笑った。
ふと、妻であるその人が泣いているのを目に映しながら他人事のように思う自分がいた。
(自分の最期だってのに、死が近づくにつれアイツのことを思い出すのは家族には悪りぃなぁ)
俺は覚えている。
アイツと走ったグラウンドも、初めて出た大会も。
アイツはいつだって俺の相棒だった。
喧嘩なんて、数え切れない程したけど、それでも一緒に居て楽しかった。
空を再び見上げて思う。
アイツがいなくなった日の空も
秋のよく晴れた日の空だった。
頬に一筋の涙が伝ってくるのが分かる。
(あぁ、)
「アイツに会いてぇなぁ」
ーーーーご臨終です。
ーーーーー 先生、ありがとうございました。夫の頼みを聞いてくださって。
ーーいえ、延命措置を行わないことが本人の希望でもありましたから。
ーーそれで、いいんです。
ー?
ーーー夫はきっと、会いに行ったんです。だから、これでいいんです。




