053 ヴァンダスキン町支部
今回はちょっと早めに更新出来たかな?
53話です。
「 あと調査していないのはスラム及び地下街だけとなります。シリウスさんどうしますか?」
両腕を組んで机に肘をつきながらパールの報告に耳を傾ける。
「どうしようかねぇ…パール、敢えて聞くけど彼の事、どう思う?」
「彼…とは、ト◯=リドルのことですか?」
「あぁ、その彼であってるよ」
「そうですね…」
パールは少し考えるような仕草をした後、顔を上げる。
「私達が捜索するのに、取るに足らない輩だと」
「何故そう思うんだい?」
完全に彼を舐めきった表情でそう言ったパールに私はまた質問した。
「敵国の内部調査も出来ないようなスパイは最早そこら辺を飛び回る蝿と一緒だと。彼は自分の身分証明書になるギルドカードを作る為にこの支部を利用したとは思いますが最初から失敗して出鼻を挫きましたからね…あまりにも計画性がないのです。
属性が分からなくとも大人しく衛兵に連行されれば、供述次第では釈放の可能性もある筈。それにも関わらず彼は民衆の前で逃走を図りました。スパイならそのような事は致しません」
そう、彼女の言う通りスパイなら何も言わずに逃走する事はあり得ない。今起こって言うように捜索やスパイ疑惑がかかるからだ。スパイだと分かれば所属している国に処分される可能性だって十分あるのにも関わらず、だ。
「私も君と同意見だ。彼は恐らく…嫌、確実にスパイではない」
「なら捜索願いのとり消ーー」
「勿論、上もその事を重々承知だ」
私の言葉にパールが目を見開いて驚く。
「な、何故ですか?!彼にそのような価値があるとは思いません!」
自分と同じ普通の一国民が国に、しかもスパイ疑惑で追われる事に彼女は我慢ならないのだろう。彼女は些か正義感が強過ぎるところがある。
だからこの支部に飛ばされたのだ。
「確かな理由は私にも分からない…けど、私は彼の容姿に問題があるんじゃないかと思うんだ」
「……彼はアオイ教関係者ではないか、という事ですか」
アオイ教とは、ニルヴァーナ教と同じ位古い歴史を持つ、この世界でも最古参の宗教のうちの一つである。
しかしその実態は未だ不明な点が多い。
私達民衆が知っている事と言えば、信者は誰もが盲目的で、彼らが崇めるアオイ様が黒髪碧眼ということしか伝わっておらず、一体誰がアオイ教を興したのか、どれだけ信者がいるのか、一体何の神であるのかが全く分からないのである。
ただ昔からアオイ教という宗教が存在している、ということだけが皆知っている。
「彼らは危険だ。20年位前に王都内で黒髪碧眼の子供が生まれたことがあったが……数日後には家族諸共惨殺死体となって発見された」
「生まれた子も……ですか?」
「あぁ」
犯人は見つからないまま、調査は打ち切られた。
そこで我がホルストフ帝国は国民の容姿に対する大規模な調査を行った。
その調査で判明したことが2つ。
一つは国内に1人も黒髪碧眼の人間が存在していない事。
通常ならこのような事はあり得ない。黒髪と碧眼の確率を考えても、1人も生まれてこないという事は無理な話だ。
今回は偶々王都内での事件で騒がれたので公になったのに過ぎず、これまでもアオイ教は黒髪碧眼の人間を片っ端から排除していったのだろう。
そしてもう一つ。
アオイ教は偶像崇拝を許さない。
「彼の手配書はある意味彼を保護するものであり、アオイ教という名の怪物を紐解く鍵になるかもしれないものでもある……まぁ、今まで無事に生きてこれたんだからアオイ教関係者という線が強いと思うけどね」
ただし問題があった。
「スラムに逃げ込まれたならまだしも…地下街は些か厄介だ」
地下街、という言葉にパールの耳が微かに動く。
「地下街……ですか」
「そういえばパールは地下街出身なんだっけ?」
パールはコクリと頷いた。
「地下街は来る者拒まず、去る者追わずですから。この街には私の他にも沢山の地下街出身者がいますよ」
そう、このヴァンダスキン町には地下街出身者がやけに多く、他の町とは比べ物にならない。ギルド職員にもパールの他に数人いる。
「地下街と此方側では不干渉と言うのが暗黙の了解だしな、いやはや困ったもんだ」
わざとらしく困ったような表情をする。こういう演技をすればパールがどの様な行動をとるのか私は熟知していた。
「 ……わ、私が行きます!地下街へ!」
彼女が決心した様に私へと迫り顔を近づけてくる。
「しかし……良いのかい?君は地下街を去った者だろう?」
「大丈夫です!久しぶりに顔を出しに来たと思わせるのは簡単ですから!」
自信満々にパールは言った。
「じゃあ頼めるかな?上も煩いし、出来れば早めの方が良いのだけれど……」
「はい!明日の朝に出発する事にします!」
「そう、よろしく頼むよ。くれぐれも怪我はしない様に」
僕が申し訳なさそうに声を掛けらればパールは顔を赤くして蔓延の笑みで応える。
「はい!では早速明日の準備をするので今日はこれで失礼します」
「ご苦労様」
彼女は一礼して執務室を去っていく。
私はそれを確認した後、机の上の端に置いてある水晶へと魔力を込めた。淡く光り始めた水晶に老人の顔が浮かび上がる。
「ヴァンダスキン町支部のシリウス=アルガナルです。ご報告が遅れてしまい申し訳ありません、アルファルド様。」
『待ちくたびれおったわ。で? そっちは進展があったんだろうな?』
「はい。明日の朝、地下街へギルド職員を向かわせます」
『早く捕まえろ、そして私に引き渡せ。それで陛下に献上すればた〜んまり褒賞金が貰えるのだ。おぉ、お前の昇進も、考えてやらなくもないぞ』
そう言って私に下卑た笑みを見せる。
「ありがたいお言葉、感謝します」
『黒髪碧眼を捕らえたらまた連絡するように。よろしく頼むぞ』
「はっ!それでは失礼します」
短い会話が終わり、水晶の光りは収まって元に戻った。
私は数ヶ月前にギルドで会った人間を思い出す。
黒髪碧眼で、見た目の割には年齢が高く、見た事もない能力を自在に操る不思議な青年。
ーーギリ
拳を強く握り込み歯軋りをした。
「……トム=リド◯、必ず見つけ出して抹殺してやる」
最後、シリアスな台詞なのに名前の所為でシリアルにww
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