050 ④
お久しぶりです!約3ヶ月もの間音沙汰がなくて申し訳ありませんでした。
50話です。
〜翌朝〜
「…………ふざけん、な!!」
俺はそう言うと同時に部屋のど真ん中に置いてある卵を壁に向かって投げた。
ードン
力任せに壁に叩きつけた所為か、鈍い音を立てて落下する。
しかし卵は傷一つ付かずボトッ、と床に落ちて転がった。
レベル上げした筋力41の俺が投げたので卵が当たった木製の壁の部分が若干凹んでしまったがそれはどうでもいい。
「どんだけ固いんだよ」
(こんな卵見た事ねぇよ……)
一体何なんだこの卵は。
俺はジャパニーズホラーは得意じゃないんだ…
お願いだから呪わないでくれ。
俺は床に転がっている卵を手に取ってよく観察してみる。
「……普通の卵だ」
固さ以外は。
結構重さがあるあたり、中に何かが入っているのは間違いない。
俺は机まで歩いて行き、いつも通り卵を割る容量でコンコンと角に当てた。
やはり割れない。
(何でだ……?)
もし中に何か動物の子供がいるのだとしたら殺さない方が良いのか。
……その前に卵を壊せない以上殺せないが。
母親のように暖めたほうが良いのか、それとも放置しておけば勝手に孵化するのか。
「……放置しよう」
何をしても俺の所に戻ってくるのだとしたら一々捨てに行くだけ無駄だ。それに面倒くさい。
俺は卵について考える事を止め、今日の仕事の事を考えた。
(今日こそは魔物討伐だったな)
俺は思考を変えて愛刀を磨き始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「遅れて悪い」
レオナルドさんと寮の前で待ち合わせして約30分、急いだ様子でレオナルドさんが此方に駆け寄ってきた。
「大丈夫です。いつもは早いのに今日は何かあったんですか?」
「あぁ、それなんだがな……いや、何でもない」
いかにも疲労が見え隠れしているレオナルドさんに聞いてみるが、一度開き変えた口は何かを躊躇ったようにして閉じてしまう。
「気になりますから、教えて下さい」
「お前には全く関係ない事だ。つか俺にも関係ない」
それはどういう意味なのだろうか?
「レオナルドさん、尻拭い的なあれですか?」
レオナルドさんはカルロさんの右腕という結構重要なポジションなのだ。配下の喧嘩の仲裁だってやるし、侵入者の排除、自分達の領域の治安維持も努めなければならない。
権威としては高いがその実、雑用しか引き受けていない気がするのは何故だろう。
「……まぁ、そういう事だ。おら、行くぞ」
結局レオナルドさんは何も教えてくれないまま、仕事に行くことになった。
「レオナルドさん、こんな話聞いてないですよ」
俺はこの状況に少しだけ既視感を覚えながら言った。
「俺だって聞いてない」
「どうしますか、これ」
「今日の晩飯は野菜メインで決まりだな」
「現実逃避しないで下さい」
俺達はそんな軽口を交わしながらも敵の攻撃を避ける。
ーキャァァァァアアア
今俺達が対峙しているのは全長3m程の巨大なマンドラゴラ。
「マンドラゴラってこんなに大きさでしたっけ?!!」
奇声をあげるマンドラゴラの声に負けじと自然と声が大きくなる。
「馬鹿かお前!普通は俺達が片手で抜けるくらいのデカさだ!!!」
「じゃあどうやって抜いたんですか?!!」
「知るか!!」
投げやりにレオナルドさんは叫ぶと、背負っていた大剣を片手で引き抜きマンドラゴラの前に躍り出る。
「ォォオオ!」
ーザンッ
しかし大きさ故か、一度では深手を追わせることが出来ず少し傷をつけただけで終わってしまった。
「マジかよ、倒すのに時間掛かりそうだな」
レオナルドさんは後ろにバックステップで下がり、自分の攻撃が通用していない事に歯噛みした。
「いや、そうでもないかもしれませんよ?」
物理が効かないなら魔法あるのみ。
「……''天に舞い地を穿て''、カルニバル!」
俺の声と同時に龍の形を成した炎の渦がマンドラゴラの体を伝い、燃えていく。
「おー、よく燃えてんな」
マンドラゴラの悲鳴は段々と弱々しいものとなり、最後にはただの燃えカスだけが残った。
それを見届けて一息つく。
「はぁ……耳が痛いです」
マンドラゴラの悲鳴を間近で聞いたためか耳に多大なダメージ負った。
鼓膜が破れていないだけ良しとしよう。
「いつ見てもお前の魔法は凄いな。また腕をあげたんじゃないか?」
「そうですか?」
「あぁ、詠唱と行使の間に全くタイムラグが無かったからな」
そう言われればそうだったような気もする。
「そういえば、前までは無詠唱で魔法使ってなかったか?」
「はい、そうでしたよ。」
「なんでまた変えたんだ? 流石のお前も遂に魔力量を気にするようになったか?」
レオナルドさんの疑問は最もである。
一般的に無詠唱までいく魔法使いはなかなか居ないし、出来たら晴れて帝国直属の魔法士集団に仲間入り出来る。
俺が追われていてもいなくても賞賛される事であり憧れの対象になることは間違い無しだ。なので大概の人は周囲の名声を受けようと自己主張したがる傾向にある。
だが俺は無詠唱で魔法を行使できる事を地下街のひとたちに意図的に隠していた。勿論目立ちたくないからであるが、その他にも大きな理由がある。
「いえ、単に魔力を削られる感覚が嫌いなんですよ」
普通の魔法士なら戦闘は魔法のレベルと魔力残量を常に気にしなければならないが、俺にとってそれは必要のないことである。
魔力が無尽蔵にあるのでいくら魔法を使っても俺の魔力が底をつく事は無いと言っていいかもしれない。
しかし、それでも魔力が削られるという感覚はあるのだ。
俺は他の人よりもその感覚が殊更嫌いだった。
上級魔法までは地道な魔力の消費なのでしょうがない、と割り切れるが、無詠唱となると上級の倍近く魔力が持っていかれる。完全なるボッタクリだ。
だったら一言、鍵言葉を言った方が断然燃費も良いし俺も不快な思いをしなくても済む。
「いや、それは魔法使いとしてどうなんだ?」
「駄目だと思います」
低級な魔物のように知能が低ければきにする必要も無いが、ドラゴンや魔族といったものが出てくれば俺は躊躇わずに無詠唱で魔法行使をするだろう。
しかし効率と感情は別だ。
きっとこの感覚に慣れなければならないとは思うが、できるだけ無詠唱で魔法は使いたくない。
「……魔法使いも大変なんだな」
レオナルドさんは剣士だ。
一般的な剣士は基本魔法は使わないし、使えない。
多分レオナルドさんも精々中級魔法位までしか修得していないだろう。
その代わり、一般的な魔法使いは基本的に魔法しか使わず、個人の戦闘力は低いと認識されている。まず前線で戦う事はあり得ない。
きっと世間では回復役や後衛として仲間をサポートするのが役目とされているのだろう。
俺みたいに魔法を使いながら自ら武器を持って戦う魔法使いもいないわけではないが、少数派である。
「そういえば前回魔法を使った時は鍵言葉だけだったよな。何でまた詠唱法を変えたんだ?」
「あ、分かりましたか?少しでも詠唱した方が魔力を消耗せずに済むんですよ。なので最近は鍵言葉の前の一文も言うようにしてるんです。威力も変わりませんしね」
俺が今使った魔法の全文は
''我が体内に息衝く魔の黄金よ 体内を巡りて路と成し 力をあるべきところへと誘え 今ここに火の精霊との契約を交わし 全てのものに宣言する 歓喜の焔をあげ 神へと導く火を灯す 天に舞い地を穿て カルニバル''
これでも俺は詠唱の短い魔法を使ったつもりだ。
大抵の魔法は文の長さや形態も違う。
今使った魔法のように詠唱だけで行使できるものもあれば、魔法陣を描かなければ使えないものもある。
また、稀ではあるが特定の条件下出なければ発動出来ない魔法も存在する。
何故こんなにもバラバラなのかというと、それは地域差というものだ。
各国々での魔法の発展の仕方により独自の形態を持った魔法が幾つも生み出された。
今でも新しい魔法の研究は続けられており、常に競争状態だ。
「話は変わりますが……レオナルドさんすみません」
俺はそう言ってマンドラゴラだったものに目を向ける。
「ん? ああ………ぁあ?!」
漸く気付いたようだ。
マンドラゴラ 戦う
↓
倒す
↓
塵になる
↓
討伐証明部位残らない
Ⅱ
報酬0
(……勿体無いことした)
あんなビックサイズのマンドラゴラは見たことはない。
綺麗に殺せたらきっとかなり良い値だっただろう。
俺はつい数分前の自分を呪った。
「おい?! 折角苦労して倒したのにあり得ねぇよ?!もっと綺麗に殺せる方法あっただろ?! 」
(マンドラゴラ自体倒したのは殆ど俺だけどな)
流石にレオナルドさんは年上で上司でもあったので突っ込むことはなかった。
「すいません、ついうっかりしてて…」
「まぁ終わったことはしょうがねぇ。今日は他の魔物も結構倒せてるからな。でもお前に助けられたことは事実だ、ありがとな」
レオナルドさんはそう言って俺に良い笑顔を向けてくる。
イケメン眩しい。
「そう言って頂けると助かります……時間も時間なのでそろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
そうして俺たちは帰路に着いた。




